続く難関大敬遠の傾向
--今年度の大学入試では受験生にどのような傾向が見られますか。
文系では、最近の傾向として、たとえば、早稲田大学国際教養学部、明治大学国際日本学部、法政大学グローバル教養学部、同志社大学グローバル・コミュニケーション学部といった国際系・グローバル系の学部が人気を牽引しており、今年度以降も新設ラッシュが続きます。また、経済・経営・商学部系学部が、近年右肩上がりで人気が高まってきていましたが、現在は高止まりで落ち着いている状況です。
理系も引き続き、情報系の学部に人気が集まっています。たとえば、データサイエンス学部のある横浜市立大学(公立)、滋賀大学(国立)、武蔵野大学(私立)などが注目されています。情報系学部・学科は時代の要請に応えて、今後も新設・改組がどんどん進んでいきます。
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また、私立大学における定員の厳格化により、難関大を敬遠する傾向は続いています(※)。入試結果から見ると関東の上位校では早稲田大学、慶應義塾大学、上智大学、明治大学、青山学院大学、立教大学、法政大学、中央大学、東京理科大学の中で、昨年比で志願者が伸びたところは、中央大学と東京理科大学のみです。
※ 文部科学省はおもに三大都市圏の大・中規模大学の入学定員超過を抑制することを目的に、2016年度から入学定員充足率が一定の基準を超えた場合に私学助成を全額不交付とする措置を実施している。これにより人気大学の合格者数が減少し難化したことから、敬遠する受験生が増えた。
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--中央大学と東京理科大学が志願者を伸ばしているのはなぜですか。
中央大学が伸びている要因は、2019年度に新たに国際経営学部と国際情報学部という2つの学部が設置されたためで、合わせて1万2千人以上が志願しました。これらの新設学部は、グローバルビジネスリーダーの育成を目的に、グローバルに通用する教養とICTの活用を織り込んだカリキュラムを特徴としています。先にあげた「グローバル」と「情報」という2つの人気のキーワードを両方もち合わせていることもあり、高い人気となっています。
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東京理科大学は、難関大学の理系としては唯一理科1科目で受けられる大学ということで、この3年間でも毎年3~4千人ずつ連続して志願者を伸ばしています。
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安全志向がさらに顕著な関西
--関西の動向はどうなっていますか。
関西でも関東と同じく、私立大学における定員厳格化の影響が強く現れています。関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学の4つの中で志願者を伸ばしているのは関西大学だけです。関西大学は、文理融合型で就職がよいと評判の総合情報学部の人気が高まっており、センター試験型の入試でも3千人ほど志願者を増やしていますが、関西大学以外の3大学では軒並み志願者は減っています。
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--そうなると、受験生はどこに向かうのでしょうか。
定員の厳格化の影響を避ける安全志向のため、関東の場合は明治大学や青山学院大学、立教大学、法政大学あたりを狙える層が、日本大学、東洋大学、駒澤大学、専修大学へシフトしています。たとえば東洋大学では、2年前の2017年の志願者は約98,000人でしたが、今年は約116,000人と18%以上も増やしています。合格者の数はこの3年間2万人程度と横ばいなので、確実に合格しづらくなっているといえます。直近の8月の模試では、さらに下位レベルの大学でも志願者が増えている傾向があります。
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関西では、この安全志向がさらに顕著です。関西大学、関西学院大学、同志社大学や立命館大学の次のランクの京都産業大学、近畿大学、甲南大学、龍谷大学だけでなく、さらにその次に位置付けられてきた摂南大学、神戸学院大学、追手門学院大学、桃山学院大学レベルまでかなり難化しています。
摂南大学は志願者が2017年には26,000人ほどだったのが、2019年には38,000人を超え、1万3千人近くも増えています。倍率も、4.2倍→7.5倍で、こちらも相当難度が上がっているといえます。直近の8月の模試でも、この層の志願者が爆発的に増えています。いわゆる摂神追桃グループは、上記の摂南大学をはじめ、神戸学院大学、追手門学院大学、桃山学院大学もすべて志願者が大幅に増加しています。
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センター試験最後の年
--私立の難関大学では2016年以降、定員の厳格化により模試でA判定を取っていても合格できないくらい厳しい入試となっていますが、この厳しさも続くのでしょうか。
当初、文科省は毎年段階的に入学定員を厳格化していく方針でしたが、受験生を不用意に動揺させてしまったこともあり、今年度はまだ昨年度と同様に1.1倍でいくという方針です。これにより、厳格化が一層進むということはありませんが、昨年並みの厳しさは続くといえるでしょう。
さらに、今年はセンター試験最後の年になるため、多くの受験生の間には浪人できないという意識が働くこともあって、受験生がさらに安全志向になることは否めないと思います。
ただし、皆が安全志向だからといって、自分も早々に上位の大学をあきらめる必要はありません。我々は受験生に対し、第一志望を強気で受ける人が減っていることをチャンスと捉え、第一志望を貫くとともに、しっかりと併願対策を行うことも指導しています。
公立大の人気高まる
--センター試験最後の年ですが、国公立大の動向はどうなっていますか。
東大のような最上位層にはほとんど影響はなく、旧帝大クラスも志願者の数にはさほど影響は見られませんが、国公立全体で見ると、1ランク落として志願する人が増えている傾向は見られます。実はこれも、私立の定員厳格化の延長線上に起こっています。
たとえば関西だと、併願先の関関同立が難化し、確実に合格できるかどうかわからないという理由で、神戸大学を避け、広島大学を押さえにいくといった動きが見られます。
国公立でもうひとつ注目すべきは、公立大の人気が高まっていることです。公立大には中期の入試があるため、国立と併願が可能です。中でも首都大学東京は国公立全体の中でも非常に高い人気があり、「東京都立大学」に名称を戻す発表もされたので、さらに人気に拍車がかかると見込まれています。関西でも、大阪府立大学と大阪市立大学が合併することになり、今後人気が高まることが予想されます。
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--併願のコツがあれば教えてください。
同じ大学を受けるにしても、入試が複数の形態に分かれていることが多いので、自分の得意科目を生かせる方式はどれかをよく見極めることが大切です。国公立と併願する場合には必ずセンター試験を受けるので、センター試験の成績だけで入れる方式に出願するのも一手です。ただし、上位になるほど求められる得点率が跳ね上がるので、定員数の多い一般入試も組み合わせてチャレンジするなど、受験方式を複数組み合わせるとよいでしょう。また、中期日程の公立大学も併願先としては組み入れやすいですね。
--あらためて、今年の受験生にアドバイスをお願いします。
引き続き私立の定員厳格化に加え、センター試験最後の年ということで安全志向に流れる向きはありますが、だからといって第一志望について過度に及び腰になる必要はありません。自分の力を発揮しやすい併願先を押さえることで、後悔なく受験に臨んでください。
そのためにも情報収集は大切です。特に国際・グローバル系や情報系の学部をはじめ、人気のある新しい学部については、どのような学問かという一般的な定義もなく、大学によっては文系か理系か、そして4年間で学べる内容も異なります。また、経済学部が理系人材を求めるなど、文理をまたぐ形で受験できる選択肢も増えています。少しでもチャンスを増やせるよう、納得がいくまで調べるようにしてください。
--ありがとうございました。
私立大学の定員厳格化による安全志向は今年度も継続しており、関西ではより顕著に現れているという。またこの影響が国立大学にも及んでいる。センター試験最終年になることから浪人回避の意識も働き、志望校選択は例年以上に難しくなっているのではないだろうか。受験生はしっかりと情報を収集し、悔いのない受験にしていただきたい。