中高校生カーデザインコンテスト表彰式…大賞は福島高2年生

自動車技術会デザイン部門委員会は3月22日、“第9回カーデザインコンテスト”の表彰式をオンラインで開催した。中・高校生を対象とした将来のカーデザイナー育成活動の一環で、今年のテーマは“10年後の暮らしを楽しくする乗り物”とし、312件の応募があった。

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自動車技術会デザイン部門委員会は3月22日、“第9回カーデザインコンテスト”の表彰式をオンラインで開催した。中・高校生を対象とした将来のカーデザイナー育成活動の一環で、毎年行われている。今年のテーマは“10年後の暮らしを楽しくする乗り物”とし、312件の応募があった。第9回カーデザインコンテスト

◆人材をいかに発掘し育成するか

このカーデザインコンテストは日本の2輪4輪メーカー並びに関連業界各社のデザイナーやデザイン系の大学の教師などが将来のカーデザイナー育成のために、一致協力して実施している活動である。

公益社団法人自動車技術会教育会議議長、東京都市大学の伊東明美氏によると、「生徒から寄せられる作品レベルも大変高くなっており、多くの若い方々に乗り物の未来を描いてもらえるということは、これからの自動車産業の大きな力になると信じている」とコメント。

「現在、自動車産業やそれを取り巻く様々な社会環境が大きな変化をしている中、これからの自動車産業、学術研究に資する人材をいかに発掘し育成していくかのロードマップを作成し検討している。学会において技術者同士が切磋琢磨し専門性を高める取り組みも重要だが、このコンテストのように中高生がこれからの進路を考える時期に自動車技術の仕事を理解し、興味を持ってもらうための取り組みも大変重要だ」とこの制度の意義を説明し、「自動車技術会では将来の自動車産業を担う若者を育成するために今後もこのような活動を発展継続させていきたい」と語った。

また、このような状況下であることから、デザイン部門委員会人材育成ワーキンググループリーダーの日産自動車水野郁夫氏も、「クルマの使われ方、所有の仕方、そしてクルマ自体の形も含めて従来の常識が通用しなくなっている。つまり、いままでクルマに関わって同じ方向に向かっていた人たちが、いろいろの方向を探らなければならない」としたうえで、「まだ世の中にないものを創造出来る、まだない未来を創造出来るデザイナーという存在は大変重要になっている。デザイナーというのはそれを具現化することによって、皆が目標を共有出来るようにする存在である」とデザイナーの重要性を述べる。

◆10年後の暮らしを楽しくする乗り物

今回のテーマは“10年後の暮らしを楽しくする乗り物”とし、応募資格は中学生(A部門)と高校生・高専の1年から3年生(B部門)が対象とされた。応募期間は昨年11月から1月までの約3カ月で、スケッチと作品の説明をセットで提出。今回は312作品の応募があった。

賞は総合的に最も優れた作品であるカーデザイン大賞として全体から1名。次にイメージや機能が最も優れて絵に表現されているカーデザイン賞と、工学的な工夫に優れた作品であるダヴィンチ賞にはA部門B部門それぞれ1名ずつ各賞2名が選ばれる。最後は創造性に優れた審査員特別賞があり、その他に20名前後を佳作として選出している。

水野氏によると、佳作についても、「中学生部門では既成概念にとらわれない意欲的な作品が多数あり、高校生の部は構造的な工夫や、感心するようなアイディアがたくさん含まれていた」ことから、「受賞者と同様に後日ホームページ上で作者と学校名を合わせて紹介する予定だ。また佳作で終わらせるには勿体ない作品が多数あるので、デザイン部門委員会の委員から一人一人に向けて改善点やスケッチのテクニックなどを含めたアドバイスレターが送られ、さらにレベルアップした作品の応募につなげていきたい」と述べた。

◆大賞はOmni Mobile

今回の受賞作品は以下の通りで、デザイン部門委員会デザイン振興ワーキンググループリーダー、デンソーの生駒知樹氏の講評とともに、受賞者のスキルアップを目的としたアドバイス動画をそれぞれの作品に対して作成。それに出演した現役デザイナーの意見とともに紹介する。

●カーデザイン大賞:高橋洋平さん 福島県立福島高等学校2年…『Omni Mobile』
カーデザイン大賞:高橋洋平さん 福島県立福島高等学校2年…『Omni Mobile』
生駒氏は、「様々な災害に対して全方位に対応するアイディアが満載で、良く考え込まれた作品だ。アンダートレイといった専門的な知識を学んでいることが垣間見られるだけでなく、浮き輪に活用させるなどアイディアの発想力や、構造を考える設計力も素晴らしい」と話す。そして、「地面や水上をしっかりとらえて走破しそうなタイヤと、シェルターのように乗員を守ってくれそうな車体とが相まって、災害をものともしない力強さと安心感を両立して表現しているデザインだ」と講評した。

ダイハツデザイン部第2デザイン室の勝野玲於氏はこの作品について、「斬新なスタイリングで非常に格好良いと思った」という。「フロントクォーターとフロントビュー、そしてサイドビューと3ビューを合わせて描かれていて、非常に上手で格好良い」とその第一印象を語る。また、「コンセプトをしっかりと形に落とし込めていて非常に良い。さらに、使用シーンをイメージしながらしっかりとクルマの機能とスタイリングとが結びついていて、とても良い。実際のクルマの開発でも、スタイリングだけで考えるのではなく、機能とスタイリングの両立でそのクルマのオリジナリティを生み出していくので、そういった点でも非常に良く描けている」とプロの目から見ても高く評価出来る作品だと述べた。

高橋さんは受賞に際し、「この1年間目標にしてきた結果なのでとても嬉しい。この作品は高校で防災について考える組織に参加しており、そこで東日本大震災の時に実際に津波を体験した語り部の方からのお話を聞いて、そこから災害時には自助が一番大切、自分の身は自分で守るということが一番大切だと聞き、その学びをこのカーデザインコンテストで表現した」と作品に込めた思いを語った。

●カーデザイン賞 中学生の部:鵜殿正基さん 千葉市立高洲第一中学校2年…『Sedia』
カーデザイン賞 中学生の部:鵜殿正基さん 千葉市立高洲第一中学校2年…『Sedia』
「ユニバーサルデザインに取り組んだ作品だ。車椅子ユーザーにとって単に使いやすいというだけではなく、健常者から見ても欲しい、乗ってみたいと思わせる格好良いデザインになっているところが素晴らしい。白を基調としたカラーリングは清潔感と信頼感があり、スポーティなスタイリングと相まって、車椅子ユーザーをアウトドアへ誘うようなワクワク感がある。車椅子収納の構造なども良く考えられており、高いレベルでまとまっている作品だ」と生駒氏は講評。

トヨタMSカンパニーMSデザイン部の徳永簾氏はその印象について、「作品全体の完成度が非常に高いと感じた。クルマの形だけでなく、色や見せ方、ロゴまで気配りがしっかり出来ていて、形だけではないところまでデザイン出来るのは、これからのカーデザイナーにとってすごく大切なスキルだと思うので、どんどん伸ばしていって欲しい」と語る。また、「クルマとして格好良いビューで描けているという印象だ。それに加えてドアの開き方や車椅子をどのように収納するかといった機能も両立して考えられているところも素晴らしい」とコメント。そして、「次のステップに進むにあたっては、機能に沿い、かつ立体としても美しいものはどういう形なのかを考えられるようになると、より素敵な作品が作れると思う」と述べた。

受賞した鵜殿さんは、「このクルマで普通の人だけではなく、もっとたくさんの人にクルマの楽しみを知ってもらいたいと思ってデザインした」と語った。

●カーデザイン賞 高校生部門:早川千晴さん 栃木県立足利工業高等学校3年… 『UKIUKI MANTA』
カーデザイン賞 高校生部門:早川千晴さん 栃木県立足利工業高等学校3年… 『UKIUKI MANTA』
『タイトルにウキウキとあるように、これを一目見てウキウキ感が伝わってくる表現のまとめ方になっているところが素晴らしい。細かな部分まで描き込まれた各種備品類などからも、作者がウキウキと楽しく考えながら描いたという心情が伝わってくるようだ。楽しさだけでなく、水圧で水上を進む動力や、もしもの安全に配慮した緊急脱出の仕掛けなど、乗り物としての構造もしっかりと考えているところも評価のポイントだ』と話す。特に、「個人的にはこの柔らかな外観の素材に心惹かれた。すごく楽しそうで見ているほうも嬉しくなってくる提案だ」と述べた。

GKダイナミクスプロダクト動態デザイン部UNIT-1の市瀬更紗氏は、「とても良いと思った点は人とモビリティの生活がしっかりと想像出来ること」と評価する。「モビリティというのは人があってこそ。どのように使われるか、このモビリティに乗った時にどんな感情になるか。今回の場合はウキウキするようなことだと思うが、そういった人とモビリティの関係性が、モビリティをデザインするにあたってはとても大切な要素だ。この関係性というのは格好良いものを描きたいとなると、形ばかり追ってしまって忘れがちになってしまう。今後、もし描いていく際には誰のためのデザインなのかを忘れずに、今回の良さである、人とモビリティの生活が想像出来、それを周りに伝えていくような力を今後も早川さんの良さとして伸ばしていってもらいたい」とコメントした。

早川さんは、今回の作品について、「このクルマはマンタの背に乗ってみたいという発想から広げていった。非現実的なところから実現出来そうなクルマにデザインしていくことに苦労した。何度もスケッチをし、先生にアドバイスをもらいながら最後は可愛らしさと機能が両立している形に仕上げることが出来たと感じている。コンテストに参加してデザインの楽しさややりがいを改めて感じることが出来た」と感想を述べた。

●ダヴィンチ賞:長田琉吾さん 東村山市立東村山第二中学校3年…『Street Runner』
ダヴィンチ賞:長田琉吾さん 東村山市立東村山第二中学校3年…『Street Runner』
「これまでにない新たなジャンルのモータースポーツを生み出そうとしている意欲的な作品だ。空気圧を利用してフロントを浮かせる、左右のタイヤの大きさを変えるなどのアイディアは斬新で、これまでにない操舵感と乗り心地になりそうな期待感が膨らむ。クルマの先端から空気を取り入れ、内部各所へ行き渡らせる構造はエクステリアにも表れており、先進性と両立しているところも素晴らしい」と生駒氏。

一方、「マーカーのタッチが全体的に少しぼやけてしまっているところが惜しい。そのあたりの各種表現スキルが強くなれば、さらに魅力がアップする提案になるだろう」と講評。

日産デザイン本部第3プロダクトデザイン部の井登陽一氏は印象とアドバイスとして、「斬新なアイディアでありながらも技術的なバックボーンの考察がしっかりとなされており、どんなドライビング体験を与えてくれるかとワクワクするところが受賞につながった」とコメント。そして、「デザインのスケッチについて、持っているイメージは伝わってくるが、マーカーの使い方などがボケてしまって、このクルマが持つダイナミックなイメージが少し損なわれているように思われた。下書きで描くラインやマーカーの塗り込みなどの時に、ダイナミックに腕全体を使って大きな線で描いていくと、スピード感やダイナミックさが表現出来て、イメージがもっと伝わるようになり良い作品になるだろう」とアドバイスした。

受賞した長田さんは、「世界中で広がっているco2排出削減など、ここ1から2年で自動車を取り巻く環境は大きく変わっている。そんな中であってもいままで続いてきた運転を楽しむ文化をこのクルマを通じて残したり、進化させたりしたいという思いでデザインした」とそこに込めた思いを語る。そして、「昨年も応募したが結果は残せなかった。その反省を生かし今回、このような形でしょうを頂くことが出来とても嬉しい」と語った。

●審査員特別賞:中村柾太さん 大田区立大森第六中学校2年…『KAGYU』
審査員特別賞:中村柾太さん 大田区立大森第六中学校2年…『KAGYU』
生駒氏は、「都市に特化したモビリティに相応しく、丸みを帯びたスタイリングは外から見る人に安心感を与え、乗員を優しく安全に包み込んでくれるような安心感もある。光の反射に色の変化を持たせた表現など、丁寧な描き込みにも好感が持てる」という。また、「この作品のポイントは素材にカルシウムを想定した車体や、ゴミを動力として街中を綺麗にしながら走り回るという環境問題へのメッセージ性で、見る人が環境問題について改めて考えさせられる。だからこそどのようにしてゴミを食べるのかなどの表現をフォーカスして描き込んでもらえるともっと良い提案になったのではないか」と講評。

三菱ふそうトラック・バスデザイン部プロダクトデザインGの河田剛史氏は、この作品に対し、「良いところは、ゴミを食べながら走るというアイディアはすごく斬新。それから、ゴミを吸いながら走るという、その吸うという行為と口周りの形がマッチしたデザインで良く考えられている。また、特徴的なクォータービューを描くというのは難しい場合もあるが、このスケッチのクォータービューは上手に書けている。さらに2台並べ、かつ色を変えることで全体の絵としても上手く成り立っている」と高く評価。アドバイスとしては、「クォータービューとサイドビュー、フロントビューと何点かの絵があるが、その整合性を取れるような形で描いていけると、より立体というものがわかっていくように思う。また、丸い形はすごく面白いが、この丸さをより艶やかに、またリフレクションなどを表現すると、よりこの形を魅力的に見せる絵作りになっていくだろう」と述べた。

中村さんは受賞のコメントとして、「受賞が喜ばしかったのは確かだが、それ以上に自分が認められたことが嬉しかった」と語った。

●審査員特別賞:楢崎龍美さん 九州産業大学付属九州高等学校2年…『豆電球型足湯ロープウェイ SOCKET』
審査員特別賞:楢崎龍美さん 九州産業大学付属九州高等学校2年…『豆電球型足湯ロープウェイ SOCKET』
生駒氏は、「ロープウェイというモビリティが、一見するとそのモビリティに見えないような、なんとも不思議な感覚の作品で、審査員一同の心をつかんだ。温泉街、観光、シンボルといったキーワードにマッチした水彩画を用いた淡く優しい表現で、温泉街の良さが直球で伝わってくる。豆電球をモチーフにしたのも絶妙だ。こんな乗り物が温泉街にあったら絶対に乗りたくなるような魅力に溢れている」と語る。そして、「ぜひこの感性を大事に、独自の世界観を築いて、またカーデザインコンテストに応募してもらえたらと」期待を述べた。

いすゞデザインセンタープロダクト第2Gの田中篤郎氏は、この作品について、「とても素敵で、使われている世界観や、使っている人の情景、モチーフとなっているソケットへの形の落とし込みなどとても素晴らしく、リデザインすることやアドバイスにすごく悩んだくらい完成度が高い作品だった」と評価する。またスケッチも、「複雑な見下げビューや見上げているビューなど絵で描くのに苦労する難しい構図にトライしており、それが自然に見えるような絵でバランスが取れており、構図もすごく素敵だ。また、ソケットの構造みたいなところもしっかり考えられているので、単なるファンタジーにはならず、リアリティも考えていてとても素晴らしい」と印象を語った。

受賞した楢崎さんは、「自分のアイディアがとても良く評価されて嬉しかった。とてもこだわったので頑張りが認められたようで良かった」と述べた。

◆現役デザイナーも刺激される完成度

デザイン部門委員会委員長のヤマハ発動機の田中明彦氏は、「次世代を担う中高生にこのカーデザインコンテストへの応募をきっかけに、モビリティのデザインという仕事に興味を持ってもらい、皆さんの発想力やデザイン能力を成長させていってもらいたいと考えている。また、このことが世界をリードするモビリティデザイナーの誕生につながっていくだろうと期待している」と述べる。

そして、「今回のデザインテーマは10年後の暮らしを楽しくする乗り物としたが、応募された作品は皆さん独自の視点から様々な暮らしの楽しさを表現しており、選考する現役デザイナーにたくさんの刺激を与えてくれるものだった」と作品のレベルの高さを示唆する。

最近の傾向として、「地球環境、高齢者社会、安全機能などに焦点を当てたモビリティデザインの応募が増えていたが、今回は特に、自然災害に対するモビリティ、困窮地域への支援を行うモビリティなど、社会の課題を敏感に察知してその解決法としてのデザイン提案が多く見られた」という。

これは、「近年の世界的な気候変動や、今年、東日本大震災から10年目であること、国連の提唱するSDGs(持続可能な開発目標)が広く一般まで浸透してきていることなどがあってのことだが、応募された皆さんの、社会課題への意識の高さや、感受性の豊かさ、発想力に感心させられた」と印象を述べ、「皆さんがこれからの社会を担ってくれると思うと頼もしい限りだ。今回受賞された方々や、応募された方々の中から世界をリードするモビリティデザイナーが生まれてくるだろうと期待をしている」とその思いを語った。

中高校生カーデザインコンテスト表彰式…10年後の暮らしを楽しくする

《内田俊一@レスポンス》

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