【中学受験】こんなお父さんは要注意、望ましい親のスタンス・陥りやすい失敗…西村則康氏インタビュー<前編>

 「中学受験!合格する子のお父さん、受からない子のお父さん」の著者・西村則康氏に、中学受験という高い目標に挑む子どもを親はどのように見守り、サポートしたら良いか話を聞いた。

教育・受験 小学生
 プロ家庭教師名門指導会代表であり、中学受験のすべてを知り尽くした「塾ソムリエ」として活躍している西村則康氏。近著「中学受験!合格する子のお父さん、受からない子のお父さん」には、父親を中心とした家族がわが子の中学受験へどのようにかかわったらいいかのヒントが満載だ。

 中学受験という高い目標に挑む子供を、親はどのように見守りサポートしたら良いか。また、この夏の学習はどう進めたら良いか。西村氏に話を聞いた。前編となる今回は、望ましい親のスタンスと気を付けたい「陥りやすい失敗」についてをお届けする。

受験の本質は「第1志望合格」ではない



--本書のご執筆に至った背景についてお聞かせください。

 どうしても親の関わりが必要になる中学受験において、同じポテンシャルをもつ子でも親の関わり方によって伸び方がまったく違うんです。そこで、親がどのように関わることが子供にとって良いのか、指針を示せたらと考えていました。

 中学受験をするうえで受験塾の存在は欠かせませんが、塾というのは、勝つための力をつけてくれる場ではあっても、ある意味、子供の「育ち」という視点で子供のことを考えてくれる場所ではありません。子供の教育に関われるのは家庭しかないんです。

 ですが、「第1志望合格」という1点だけを目指して、それ以外は価値がないという考え方に陥っている家庭も非常に多い。実倍率3倍の合格率であれば受験者のうち2人は別の学校へ進学することになります。では第2、第3志望に行くことになった2人の受験は失敗なのかといったら、そうではないですよね。たとえ第1志望ではなくても、受験勉強の過程でたくさんの知識や考え方を身に付け、精神的にも大人になって、中学以降で伸びるための素地を身に付けられる。受験の本質はそちらではないかな、と。

 ところが父親というのは、勝ち負けで物事を考えたり、今やっていることの成果をすぐに求めたり、物事を「一本道」で考えがち。子供が今やっていることの結果なんて、出ないこともあれば、数年後に出ることも、まったく別のことで出ることもあります。「教育はそう単純ではない」ということを、世のお父さんたちに伝えたいという思いが根本にあります。

--中学受験における「父親」「母親」それぞれの取るべきスタンスとはどういったものでしょうか。

 一般論ですが、子供に対しての共感力というのは母親のほうが高いんですよね。特に、子供が気持ちよく勉強できる条件というのは、お母さんの気持ちが安定して穏やかであるか否かに左右されます。学校から帰ってきて「おかえり」と迎えるお母さんの口調と動きだけで、お母さんの機嫌が良いのか悪いのか子供はわかりますからね(笑)。そういう関係性が母と子にはあるので、基本的には母子での取組みを主体にやっていくのが良いと思います。

--父親はどうでしょう。コロナ禍でリモートワークを導入する企業が増えたことで、父親の関与する場面がますます増えてきたのではないかと推察しています。

 中学受験においてお父さんがすべきことというのは、勉強を教えるのではなくて「一緒にやること」。自分が習ってきた国語や算数と今の受験内容はこんなに違うんだということを、子供と一緒に勉強する。その役割ができれば素晴らしいです。それから、イライラして眉間にシワを寄せるお母さんをねぎらうのがお父さんの役割です。

画像はイメージです

父親の「こうあるべき」論には要注意



--先生の所感では、「子供の勉強に関わりたいと思っているお父さんが半分、そのうちの半数が実際にかなり熱心に関与しているのでは」とのこと。では、父親が子供の受験に関わるうえで陥りがちな失敗はありますか。

 共感がベースにある母と子の関係性の一方で、父親は子供に対しても「こうすべき」「こうでなくてはいけない」というふうに一本調子になりがちな面があります。勉強についても、「お前は普段ここができてないから」とまず欠点を指摘して「だからこうしなさい」とやりがち。そう言われた子供は身構えてしまいます。「そんなこと言われなくてもわかってるよ」と反抗的な気持ちになってしまうのです。

 同様に、ビジネスの場でご自身にとって成功体験のあるPDCAサイクルを子供に適用してしまうお父さんも多い。特に気を付けなければならないのは「チェック」です。チェックするときは良くないこと、改善点を分析するだけではなく「良かったこと、できていたこと」もみて、そのうえで「こうすればもっと良くなるよ」というふうにプラス思考に言い方を変えることが大切。それができないのなら、何も言わない方が余程良いです。

 もし子供に「こうしなさい」と伝える必要があるならば、短く言うこともポイント。厳格なうえ、くどくど何度も同じことを言うのは最悪です。意外と多いのが「なんでこんなのがわからないんだ!」「この前やったのに」と怒鳴りつけるお父さん。声を荒げることがあったら母親は即座に止めてください。怒鳴りつけられた子供は萎縮して、わからないことをわからないと言えない子供になってしまいます。

--父親、母親問わず、親が勉強をみてあげるときはどのようなことに注意したら良いでしょうか。

 親の一番の役目は、子供が勉強しやすい環境をつくってあげること。スケジュール管理などはサポートしても、学習内容に関わらないという選択も大いに有りです。それでも勉強そのものをみてあげたいというなら、4教科すべてではなく、1、2教科だけで良いと思います。

 親が子供に勉強を丁寧に教えるのは、6年生にもなるとまず不可能でしょう。その頃には内容が格段に難しくなっていますから。4年生なら一部は可能かもしれませんが、それをやり始めてしまうと親が関われないレベルの問題になったときに困ってしまいます。

 親が学習内容に関わるときは、塾でどういう教わり方をしているのか知っておくことも大切です。テストの直しなどをするにしても、テストの前半の計算問題を間違えているとすれば、逆算ができてない可能性が高いですよね。ですが、塾で逆算の方法を習っているか、習っていないかによって親がかける言葉やアプローチの方法も変わってきます。

--わからない・解けない問題があったときに頼れるのは塾の先生ですよね。わが子と先生との橋渡し役として、親はどのような働きかけをするべきでしょうか。

 先生に質問に行くのをハードルに感じて「塾で先生に質問してきなさい」といって聞いてこれる子は本当に少ない。私がおすすめの方法は、子供が横にいるところで塾に電話をすることです。「次の授業の前に、子供がわからない問題があるので教えてもらえませんか?」と前もって親から言っておくだけで、子供は安心して質問に行けるようになります。

 また、質問するだけではなく家に帰ってきてからが大事。本当に理解できたのかどうかという疑いの気持ちは置いておいて、「どういう解き方だったのかお母さんに教えて」と声をかけるのが良いと思います。聞いたことを誰かに説明することで、頭の中で曖昧な部分が整理されてスッと腹落ちすることがありますよね。塾でわからなかったことが、お母さんやお父さんに説明することで初めて理解できる子も多い。子供に表現させるメリットは大きいです。

 また、質問する相手となる先生が励まし上手な先生なのかどうか見極めることも親の役割かもしれません。間違っていたとしても「ここまで出来ているね、あと少しで解けたね」と認めて、ほめてくれたりする先生かどうか。それを見極めるためにも、電話などで接点をもつことは大切です。送迎時にちょっとした挨拶を交わすだけでも、その表情や口調などから先生の印象がわかりますよね。子供がどんな先生に習っているのか、可能な限り知っておくのがベストです。

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受験経験の有無で偏差値のとらえ方に差が



--親の中学受験経験のあるなしで「親の陥りやすい失敗」に違いはあるのでしょうか。

 親が中学受験を経験していない場合、偏差値の見方を頭でわかっていても感覚が伴わないということがあるでしょう。「偏差値50」というと大したことないと思われるかもしれません。ところが「サピックス偏差値50」の学校を高校受験で受けようとするとだいたい偏差値70はありますから。中学と高校の偏差値の違いをわかっていないといけませんね。

 また、塾によっても偏差値に差があります。同じ学校でも、早稲田アカデミー・四谷大塚の偏差値が60だと、サピックスでは50~54くらい。早稲アカ・四谷大塚の偏差値は、サピックス+6~+10と認識しておくと良いでしょう。塾によって規準が違うので難しいところですね。

--両親ともに地方出身で中学受験未経験など、中学受験についての基本知識やベースがまったくない家庭もあります。

 地方の有名高校やトップ校出身の人に多いケースは、中学である程度勉強ができて、高校受験時の模試の偏差値が70を越えていたような方の場合、「うちの子も70くらい超えてほしい」と思いがちのようです。でも、中学受験の70というと最難関の筑波大学附属駒場(筑駒)です。また、今や首都圏の偏差値50近辺の中高一貫校の進学実績は、だいたい地方のトップ校と同レベルです。地域差や偏差値のとらえ方をアップデートする必要があるといえます。

 私自身もそうなのですが地方出身者の場合、勉強を本格的に始めたのは高校2年生からという人も多い。そして早稲田・慶應を第一志望とする場合でも、高3で部活を引退してから、頑張って英単語や日本史を覚えれば合格できたという時代もありました。しかし当時の受験勉強というのは「考える」のではなく「覚える」だけなんです。30年前の成功体験を子供に押し付けようとしてはいけません。

 中学受験経験のない方へのアドバイスとしては、どれほど入試問題で難しいものが出るのかを知るために、中学受験の良問といわれる桜蔭の国語、麻布の理科あたりのレベルの高い問題をみておくことをおすすめします。とにかく「丸暗記では解けない」という感覚をもってほしいですね。

 考えて、理解し、納得することを何度か繰り返すことで自然に定着することが中学受験の理想です。繰り返しますが、そうして得られる「考え方」や「教養」こそが中学受験の財産です。

30年前とは入試のレベルも傾向も違う



--では、中学受験の経験がある親はどうでしょう。

 ご自身の経験から、中学受験が大変なのはわかっていると思います。ただ、30年前と今では入試問題のレベルと傾向がまったく違います。30年前の開成の難問は、いまや偏差値50の学校の標準問題以下です。昔は、塾に行かず参考書を繰り返し勉強して麻布に入ったという人もいらっしゃる。けれど、その感覚のままで、なかなか成績が上がらない子供に対して「こんなに時間をかけて何やってるんだ」という見方になってしまうのは要注意です。

 父親の関わりのところでも述べましたが、親が勉強に関わる=教えてあげようではなく、一緒に楽しもうという気持ちで付き合ってあげられたら理想ですね。たとえば、食塩水の濃度を求める問題。お父さんが中学で習った方程式で解くとおそらく3~4分かかるでしょう。しかし、子供が受験算数で習う面積図を使えば、30秒でさらっと解けるんです。一緒にいる父親の「こんな解き方あるんだ!すごい」という驚きのひと言が、子供への励ましになります。大人ならば方程式や数学の知識で解くところを、子供たちは少ない道具を工夫して解く。そうしないと入試問題は解けないし、それこそが醍醐味でもあるんです。

後編に続く

中学受験! 合格する子のお父さん、受からない子のお父さん


出版社:ウェッジ
著者:西村則康
価格:1,650円(税込)

《編集部》

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