混迷する社会で人生を切り拓く本物の「教養」…思考の文法を身に付ける

 英語教育本のベストセラーの著者で、最新刊の著書「アメリカの大学生が学んでいる本物の教養」を出版したばかりの人気英語塾「J PREP」代表 斉藤淳氏に、本物の教養とは何かを聞いた。

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入塾待ち多数の人気英語塾「J PREP」代表で塾長を務める斉藤淳氏
  • 入塾待ち多数の人気英語塾「J PREP」代表で塾長を務める斉藤淳氏
  • 「教養とは生涯学び続けるスキル」と語る斉藤淳氏
  • 斉藤淳氏
  • J PREPの自習室にて

 2022年を振り返ると、年頭からロシアによるウクライナ侵攻が勃発し、欧米の夏の大干ばつ、国内では元首相が暗殺されるなど、さまざまな出来事が沸き起こり、国内外情勢は混迷を極めた。現代は先行きが不透明で将来の見通しが困難なVUCA時代と言われるが、そうした一寸先は闇の時代を生き抜くために求められる能力とは、どんなものなのだろうか。大人が教わってきた常識が子供の将来には通用しそうにない今後、子供は何を身に付け、親は何を意識すれば良いのか。

 そのひとつの解として、「教養」がある。本物の教養とは、いわゆる「常識」や大学で学ぶ「一般教養」ではない。一生学び続けて知識をアップデートする、学び続ける・考える・行動する「思考の文法」を身に付けることであり、そうした知性に基づいて他者に敬意を払いつつ、自ら問いを発見し、思考して表現する総合力こそが生き抜くための土台となる「教養」であると、斉藤淳氏は説く。教養は陳腐化しない汎用的なスキルであり、その一端として英語や数学があるというのだ。

 英語教育本のベストセラーである「世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法」や「10歳から身につく 問い、考え、表現する力 ぼくがイェール大で学び、教えたいこと」「ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語」の著者であり、イェール大学助教授を経て、現在は入塾待ち多数の人気英語塾「J PREP」代表で塾長を務める斉藤淳氏に、本物の教養とは何かを聞いた。斉藤氏は最新刊の著書「アメリカの大学生が学んでいる本物の教養」(SB新書より2023年1月6日発売)を踏まえ、「大人も学び続けていくべき」と語った。

教養とは生涯学び続けるスキル

--「アメリカの大学生が学んでいる本物の教養」で、先生がもっとも伝えたいテーマは何でしょうか。

 一言でいえば「教養ってなんだろう」ということです。書店には教養や教養の身に付け方について書かれた本がたくさん並んでいますが、「就職対策で知っておかなければならない常識」というニュアンスで教養を捉えるのはナンセンスだと思います。役に立つ実用的なスキルとか、大学の一般教養科目のようなニュアンスで教養を考えがちですが、本物の教養とはそういうものではない。「一生学び続けて、知識をアップデートするためのスキルや態度、心構えを社会に出るまでに身に付けておき、社会に出てからも学び続ける態度を大切にしましょう」というのが新著の大きなテーマです。お子さんはもちろん、大人にも読んでいただきたいと思っています。

アメリカの大学生が学んでいる本物の教養(Amazon)

--そうした自学の力や態度を、社会に出るまでに身に付けておくべきであるということですか。

 そのとおりです。以前の著書にも書きましたが、「正しく学ぶ方法と自ら問うことを忘れなければ、君は何にだってなれるんだよ」ということをすべての日本の子供たちに伝えたい。

 そもそも教養とは、英語ではリベラル・アーツ(Liberal Arts)と言いますが、これはエリートになるための素養でも、特定の目的のために身に付けるものでもなく、人間が自由に豊かに生きることを助けるものです。よくイメージされる「一般教養」は、この社会で知っておくべき最低限の知識と捉えられますが、それは教養ではなく、時事性の強い知識です。

 一過性の知識や一般的な専門知識は世の変化に伴って、いずれ陳腐化していきますが、学び続ける・考える・判断する・行動するといった「思考の文法」を身に付ける教養は陳腐化しにくい。将来どんな道を進むにしても、必要になるのは自ら課題を発見し、自分の頭で考え、判断し、それを解決する力であり、それが学問の本質に通じる教養です。自ら問を立て、よく考えて、新しい価値を生み出す思考力や判断力を身に付けることで、創意工夫に溢れた豊かな人生を送ることができると考えています。

「教養とは生涯学び続けるスキル」と語る斉藤淳氏

英語を学ぶ意味と、相手に敬意をもつこと

--そうした教養の重要さを踏まえて、今英語を学ぶ意味とはどういうところにあるとお考えですか。

 英語は教養の一部で、現代を生き抜くスキルのひとつとして身に付けておくのは当然ですが、世界情勢が混迷を続ける現代において英語を学ぶ意味をぜひ考えてほしいと思います。

 現代において英語を学ぶことの意味のひとつは、自分が育った環境やキャリアを相対化し、俯瞰して考え、相手に敬意をもって接するようになること。

 社会に出ると、鳥が高い視座から見下ろすようなマクロの鳥瞰・俯瞰と、虫が見る低い視座からミクロで大きなものを見上げる虫瞰の2つの視点が求められます。書店の仕事術の本を集めたコーナーには、“外資系コンサルの仕事術から学ぶ”のようなタイトルが目立ちますよね。外資系コンサルがなぜもてはやされるかというと、彼らの仕事は、抽象的なモデルと具体的なエビデンスを行き来しながら、事業を分析し総合する、俯瞰と虫瞰の合わせ技をやっている。そうした能力が社会から求められる分析力であり、マネジメント力だからなのです。

 生徒たちにはぜひそうした両方の力を身に付けてほしいと思いますが、そこで重要になるのが他者に対する敬意。敬意がないところでマネジメントは成立しない。人それぞれに生活があって、海外にも固有の文化やアイデンティティ、価値観があり、お互いに敬意をもって接することが求められる。そこで英語が重要になる。無論、自らが寄って立つ基盤や価値観を言語化して把握しておく作業も重要。他者だけでなく、自分も大切にするのが教養に根ざした生き方です。

 教養というのは、俯瞰・虫瞰の両方の視点に立つことと、他者への敬意をもち、自分の価値観を言語化しておくような総合的な力であり、これを学びのスタート地点として意識してほしい

 そして、現代で英語を学ぶもうひとつの意味は、英語は世界中で使われる共通語というだけではなく、「世界で近代民主主義が最初に根付いた国で話されていた言語」だということです。英語教育に携わる人々は、開かれた社会を守るためのインフラとして英語を教えている意識があります。将来的に「英語を使って政策を議論して、暴力に訴えずに合意を形成して問題を解決していく態度を身に付けてほしい」という希望をもって英語を教えている人が世界にたくさんいる。そういう現代的な文脈の中で英語を学ぶことを生徒に考えてほしいと、強く意識するようになりました。

試験対策より自発的に学ぶ基礎力が重要

--J PREPでは小学生から高校生までを指導されていますが、入塾時期の違いによって英語や教養の身に付き方に違いはありますか。

 言葉を学び始めたタイミングと年齢によって、身に付きやすいスキルは異なります。音声・発音については早く始めたほうが吸収力が高い一方で、文法を中心とした分析的な理解力は遅く始めても身に付きます。

 後から始めた人は音声面の習得で不利ではありますが、発音を意識して学ぶと、それ以外のスキルを効率的に身に付けることができます。一方で、早く始めた人はそのアドバンテージはあるものの、分析的な理解力や英語の正確な表現、社会人として英語を使いこなすにふさわしい語彙をどのように身に付けるかが問われます。小学校高学年から高校生くらいにかけて、継続して学び続ける努力を怠ると、あっという間に後から学び始めた人にその他のスキルで追い付かれてしまう。今できることに安住しないこと、その点でも教養として学び続ける姿勢が重要です。

--先日、J PREP卒業生に話を聞く機会がありましたが、個別の「志望校対策」をしていないというお話が印象的でした。

 以前大学教員だった立場から申し上げると、大学は自発的に学ぶ学生に入学してほしいのです。受験対策といった一過性の知識をもっていることよりも、学ぶ準備や心構え、基礎力があることのほうが重要で、自分で応用できるような自力を蓄え、ライフステージ全般で役に立つスキルを身に付けておくほうが、本人の人生を豊かにすることにつながり、利にかなうことになります。

 J PREPでは、そういった自発性も考えて、受験の志望校対策をあえて行っていません。その分、余裕をもって、各自が受験準備に入れるようなスピードで英語の基礎力を身に付けさせます。それが私どもの考え方です。入試が迫ってから必死に勉強するよりも、余裕をもって十分な実力を身に付けて、入試が迫る中で、大学で何を学ぶか考える。そんな余裕があるくらいがちょうど良いと思います。

 逆説的ですけれど、「試験対策をしないほうが試験に受かる」。試験対策といった誰かに学ばされている感のある勉強は楽しくないけれど、私どもは「取り組むこと自体を楽しむコンテンツ」として学びを提供しています。

J PREPの英語教育とは

多様なニーズに合わせて「使える」教材を内製

--J PREPでは英語教育を主軸としてカリキュラムを展開されていますが、教材選定や授業づくりのこだわりについてお聞かせください。

 私どもは読解教材やビデオ教材等にまんべんなく触れることで、話す力・聞く力・読む力を習得できるようにしていますが、現在は、ここ数年の多様なニーズに応えるため、カリキュラムやコンテンツの内製化を進めています。たとえば、今取り組んでいるのは、生徒が海外に出かけて、日本のことを語れるようになる教材です。

 多くの生徒は日本についての知識が乏しく、日本について語れる語彙が少ない。そこでたとえば、世界遺産である白川郷をテーマにしたビデオ等、生徒が日本について英語で学べる教材を作っています。

 海外の出版社には、日本文化に関する英語教材が乏しい。そこで、ビデオも読解教材もすべて内製しています。武士道や震災復興等、日本の歴史やさまざまな課題をテーマに教材を制作するつもりです。そのために取材に行ったり、作曲家からアニメーターまでスタッフを揃えたりして、本格的かつ良質なコンテンツ作りに取り組んでいます。今は小中高生向けが中心ながら、将来的には社会人向けコースを新設することも意識して教材を作っております。

 そのうえで、教材を使った授業づくりのポイントというのは、「応用言語学の学術的な知見を尊重すること」「生徒の学習動線を見守りながら、生徒に使いやすいニーズにかなった教材を提供すること」等を心掛けています。

 J PREPはそうした丁寧な姿勢が評価され、毎年2割ほどのペースで生徒が増え、生徒数は6,300人程となりました。社会的な大義があって、理にかなっていることを当たり前に実践することで、J PREPは信頼され、今に至っているように思います。

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学ぶことには謙虚な姿勢が必要

--最後に、保護者へメッセージをお願いします。

 子供にだけ「学べ」と命じるのではなく、親子で共に学ぶことを考え、伴走することをぜひ実践してほしいと思います。親が「学ぶことは楽しい」という姿勢で生活を送っていれば、子供も自然に学ぶようになります。下手でも良いから保護者自身が英語を楽しんで使っている姿を見せると、特に小さい子供ほど真似をするものです。

 私は大学院生のときに学部生に混ざって数学を学び直す経験をしましたが、必要になったらいつでもやり直す、わからなくなったら戻ることが大事で、学ぶことにはそうした謙虚な姿勢が必要です。ただ、やり直したくなったときに効果的に学べるような汎用的な基礎は培っておいたほうが良いでしょう。そのためにも、社会に出るまでに自分が好きなものを追い求める知的な態度を大切にして、「一生涯学び続けるスキル」としての教養を磨いておくことをお勧めします

J PREPの自習室にて

--ありがとうございました。

親子ともに生涯役立つ教養を身に付け「生きる力」を培う

 巷に教養本が溢れ、「教養」ニーズが高まっている昨今だが、斉藤氏いわく本来の教養はそうした1冊のマニュアルから簡単に得られるものではなく、常に謙虚に、相手に敬意を払って生涯学ぶことを楽しむ「一生涯学び続けるスキル」。時代や社会がいかに変化しようとも、柔軟に学び続け、自ら考え判断し、新しい価値を生み出していく「学びのPDCAサイクル」ともよべる本物の教養が自らの基盤として構築されていれば、変化すら楽しみながら生き抜くことができるのだろう。国内外ともに混迷する今だからこそ、英語をはじめとした教養を身に付け、親子でともに学び続けることで、自由で豊かな人生を切り拓く「生きる力」を培っていきたい。

《羽田美里》

羽田美里

執筆歴約20年。様々な媒体で旅行や住宅、金融など幅広く執筆してきましたが、現在は農業をメインに、時々教育について書いています。農も教育も国の基であり、携わる人々に心からの敬意と感謝を抱きつつ、人々の思いが伝わる記事を届けたいと思っています。趣味は保・小・中・高と15年目のPTAと、哲学対話。

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