ル・ロゼ元校長が語る「ボーディングスクールの魅力」とは

 2023年3月21日、同校で17年間にもわたり校長を務めたロブ・グレイ氏が来日。日本の保護者に向けた講演を行った。グレイ氏は現在、2020年4月に開校した日本初の全寮制小学校、神石インターナショナルスクール(JINIS)のアドバイザーを務めている。

教育・受験 未就学児
ル・ロゼ元校長のロブ・グレイ氏
  • ル・ロゼ元校長のロブ・グレイ氏
  • ル・ロゼ元校長のロブ・グレイ氏
  • 神石インターナショナルスクール(JINIS)理事長の末松弥奈子氏

 世界の王侯貴族や名家の子女が多く在籍することでも知られる、スイス最古の名門ボーディングスクール(全寮制学校)「Le Rosey(ル・ロゼ)」。

 去る2023年3月21日、同校で17年間にもわたり校長を務めたロブ・グレイ氏が来日。日本の保護者に向けた講演を行った。グレイ氏は現在、2020年4月に開校した日本初の全寮制小学校、神石インターナショナルスクール(JINIS)のアドバイザーを務めている。

 世界でもっともボーティングスクールを良く知る1人、グレイ氏が語る「ボーティングスクールの魅力」とは。

ボーディングスクール人気の火付け役は『ハリー・ポッター』

 ボーディングスクール発祥の地はイギリスで、15世紀ごろから始まったと言われている。グレイ氏が「世界のボーディングスクールはイギリス文化の輸出」と語るこの教育スタイルは、イギリスと歴史的にゆかりのあるアメリカ、オーストラリア、インドなどにも広まった。

 たとえば1890年に設立されたアメリカの名門ボーディングスクールのひとつ、「Choate Rosemary Hall(チョート・ローズマリー・ホール)」はジョン・F・ケネディ元大統領の母校として有名だ。また、オーストラリアで1855年に開校した「Geelong Grammar School(ジーロング・グラマー・スクール)」はイギリスのチャールズ国王が留学し、かつて経験したことのない最高の学校と言わしめた。中学時代に1年間、一切のテクノロジーから離れ、山の中で過ごすユニークなプログラムにも評価が高く、世界中から志願者が集まる。インドでは、1854年に設立された「Woodstock School(ウッドストック・スクール)」がTED Talksの代表者で実業家のクリス・アンダーソンなどを輩出している。

 グレイ氏が長年校長を務めた「Le Rosey」は、1880年に設立されたスイスでもっとも古いボーディングスクールだ。世界の王侯貴族が子女の教育機関として選ぶことから、“The School of Kings”(「王様たちの学校」)との異名をもつ。多くの卒業生が欧米のトップ大学に進学し、名実ともにその教育は世界最高峰として認められている。

 こうしてイギリスから世界へと波及していったボーディングスクールは、アジアにも広がりつつある。日本でも、日本初の全寮制インターナショナルスクール「UWC ISAK JAPAN」を筆頭に、ウィンストン・チャーチルが卒業したイギリスの名門校である「ハロウ校」(2022年)、続いて「ラグビー校」(2023年)が分校を開校するなど、グローバルな教育に関心をもつ保護者の間で存在感が高まってきている。

 ボーディングスクールをめぐる昨今の変化について、グレイ氏は次のように語る。「これまではボーディングスクールという選択肢について、どちらかと言うと親のほうに決定権がありました。ところが最近は、子供が行きたいと言い出すケースが増えてきています。その理由として侮れないのが『ハリー・ポッター』の影響です。世界中の子供たちがあの本や映画を通じて、ハリーたちのような生活に憧れ、自ら志願するようになっているのです」

ル・ロゼ元校長のロブ・グレイ氏

なぜアジアでボーディングスクールが増えているのか

 日本を含め、アジアでも増えつつあるボーディングスクール。増えているのは、そこに需要があるからだ。ではなぜ今、ボーディングスクールの需要が高まっているのか、その理由としてグレイ氏は次の8つの強みをあげた。

(1)実用性 - Practicality -

 ボーディングスクールは実用的な教育方法である。学校での勉強以外にも、子供の興味・関心に合わせて学校が指導者や練習の場を確保してくれ、スポーツや楽器などさまざまなアクティビティを豊富に体験できる環境にある。

(2)設備のクオリティ - The quality of the facilities -

 豊かな自然に囲まれた広大な敷地にあらゆる設備が揃う。

(3)教育のスタイルと質 -The style and quality of education -

 少人数教育の利点を生かし、共同で探究したり、ラウンドテーブルで互いに向き合ってディスカッションしたり、一緒に国内外の各地に旅に出たりと、きめ細やかな指導とさまざまな学びの機会が得られる。

(4)進学先 - The results: Universities and Colleges -

 世界有数の学校に進学できる。中等教育のボーディングスクールからは、多くの卒業生が欧米の名門大学に進学している。

(5)コネクション - Connections -

 寝食を共にする中で強い絆が生まれ、生涯の友ができる。グローバルに人脈を作ることができ、卒業後も卒業生同士の交流が活発で、助け合う文化がある。

(6)包括性 - Holistic -

 机上の勉強だけに偏らず、文化や芸術、スポーツなど、あらゆる分野で経験が積めることで、自分の得意を見つけて自信を付けられるとともに、多種多様な価値観や考え方を認め、生かす力を育める。

(7)人格形成 - Personal development -

 集団生活の中でリーダーシップが育成されるとともに、人格形成に必要な自己決定力や、お互いの強み・弱みを生かし合いながら、誠実であることや尊敬、感謝の大切さなどを知ることができる。

(8)経験 - The Experience -

 成長には自分の内側から湧き出るさまざまな感情と向き合う体験が重要である。集団生活を通じた密接な人間関係の中では、そうした感情と向き合える機会が多い。

 中でもグレイ氏は、(8)にあげた「経験」について、キング牧師とともに公民権運動に参加したアメリカの社会活動家マヤ・アンジェロウ(1928~2014)の「人はあなたが言ったことも、あなたがしたことも忘れてしまう。だけど、あなたに対して抱いた感情を忘れることはない」という言葉を紹介。ボーディングスクールは単なる「寮が付いた学校」ではなく、子供ひとりひとりが仲間や教育者らと過ごす日々の体験を通じ、自らの感情を揺さぶられるような深い体験ができる場所。そんな体験を通じた学びにこそ、その真価があると強調した。

ボーディングスクール入学に最適な時期とは

 ところで、ボーティングスクールの入学に最適な時期とはいつなのだろうか。グレイ氏は、「その子供次第」であるとし、子供の適性を見るための4つのチェックポイントを示した。

 1つ目は、寮というコミュニティで生活できる準備はできているかどうか。2つ目は、学力、特に算数(数学)と英語は授業についていけるレベルにあるか。3つ目は家族から精神的に自立てきているか。そして4つ目はその学校のアクティビティを楽しめるかどうかだ。「たとえばスキーの嫌いな子がハロウ安比校に入ってもハッピーではない」とグレイ氏。

 「5歳でも向いている子はいるし、15歳を過ぎても向いていない子もいる。そして子供自身が『ここだ!』と思えるような、その子にフィットする学校とそうでない学校があります。こうしたポイントをよく見極めて慎重に判断することが重要です」

幼少期に大切な「母国語」による教育

 わが子の進路としてボーディングスクールを考えている日本の保護者には、そこで高い英語力を身に付けられることに大きな魅力を感じている人が多いのではないだろうか。24時間英語漬けの環境ならグローバルに活躍できる人材に成長できるはず。親としてはついそんな期待をしてしまうものだ。

 この点についてグレイ氏は、子供をインターナショナルな環境で学ばせる前には母国語で学ぶことがとても大切だと言う。「子供たちにとって母国語はとても大事です。『Le Rosey』でも英語とフランス語(スイスの公用語のひとつ)で教育しています。母国語は外国語や異文化に対する理解を深めるとともに、認知の発達にも役立つからです」

 2020年に日本で初めて開校した全寮制の国際小学校「神石インターナショナルスクール(JINIS)」でも日本語と英語の2言語教育を実施している。理事長の末松弥奈子氏は、自身の子を小学校から海外のボーディングスクールに預けた経験からも、「小学校は日本のハートをもった教育をしなければいけない」と語る。

神石インターナショナルスクール(JINIS)理事長の末松弥奈子氏

 同校では、文科省の学習指導要領とIPC(インターナショナル・プライマリー・カリキュラム)を統合したカリキュラムを実施し、日英両言語でさまざまな教科を学ぶと同時に、日本の伝統文化や芸術、歴史を体験したり、食事や豊かな自然を通じて四季を五感で感じたりと、日本でしか実現できないプログラムを数多く盛り込んでいる。こうした母国語の力と日本人としてのアイデンティティをしっかりと根付かせた同校の教育は早くも世界で評価され、最初の卒業生がLe Rosey、Dragon、Geelongをはじめとする名門ボーディングスクールに巣立って行ったそうだ。
※ IPC:2000年にイギリスのナショナルカリキュラムをベースに、世界中にあるインターナショナルスクール向けに開発され、世界98か国、2,000以上の学校に導入されている。

 ボーディングスクールへの注目度は高まってきているものの、日本でその進路をどれだけの家庭が選択するかは未知数だ。だが、グレイ氏の講演を通してボーディングスクールの真の魅力に触れた保護者からは、「予測できない未来を生き抜いていける突破力を身に付けてくれたら」といった期待の声が聞かれた。

 「ボーディングスクールとは、単なる『寮が付いた学校』ではない」とグレイ氏が再三強調していたのが印象的だった。そもそも今や、勉強だけであれば世界中のプログラムがオンラインで受講できる時代だ。そんな時代にあってボーディングスクールは、グレイ氏が語るいくつもの強みが詰まった「全人教育」だからこそ、そこに身を置く価値がある。グレイ氏は、学校の存在価値とは何か、子供たちは何をそこで学ぶのかという問いを改めて考え直す機会を投げかけてくれた。

《加藤紀子》

加藤紀子

京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。現在はリセマムで編集長を務める。

+ 続きを読む

【注目の記事】

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top