9月に入ると、大学受験ではいよいよ年明けの共通テストが視界に入り始める。受験本番が近づくにつれ、過去問をうまく活用していきたいところだが、いつから、どのように、どんな頻度で取り組めば良いのだろう。
そこで、合格実績に定評のある駿台予備学校が難関大学への合格者50人を対象にアンケートを実施。その結果をもとに、難関大合格者に共通する過去問の取り組み方について、駿台予備学校の担当者に分析してもらった。
これから過去問に取り組もうと考えている受験生も、難関大を目指す中高生やその保護者も参考にしてほしい。
目次
・共テの過去問に取り組み始めるのは秋以降が7割
・演習と実践とで分けて対策を
・早めに取り組む既卒生、現役生は基礎を固めてから
・共通テスト対策で失敗だったこと
・過去問を解くことで得られる成果とは
・過去問の有効活用、3つのカギ
共テの過去問に取り組み始めるのは秋以降が7割
--今回のアンケートでは、難関大学への合格者がどうやって過去問に取り組んでいたのかについて、一段と解像度があがる結果が得られたと思います。まず、共通テストの過去問を始める時期については、どのような傾向が見られましたか。
アンケート結果をみると、実際に共通テストの過去問演習を始めた時期は「秋(10~11月)」が38.3%でもっとも多く、ついで「直前期(12月以降)」31.9%となっています。
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--7割がまさにこの秋以降から着手したという結果ですね。何をきっかけに取り組み始めるものなのでしょうか。
きっかけとしては、「入試本番が迫ってきたから」56.3%、「模試を受験するから」21.9%、「基礎が固まったと思ったから」17.2%などとなっています。
ところが、コメントの中には、以下のように「早めに取り組むことで傾向がつかめる」「傾向と対策を知れば準備ができる」といった意見をあげている人もいました。
● 夏休みが明けるまでずっと過去問はまだ早いからと考えて後回しにしていたが、早めに解くことで傾向を掴めたと思う。(横浜国立大学理工学部)
● 早めに過去問に取り組み、どのようにしてこれらの問題を解けるようになるかの道筋を考えてから勉強をしたほうが効率が良かった。(東京大学理学部)
実状としては秋以降に取り組み始めれば十分間に合うものの、こうしたコメントからもわかるように、「相手を知る」ことでそのあとの学習計画が立てやすくなるようです。できればもう少し早い段階で軽く触れておくと効果的かもしれません。
演習と実践とで分けて対策を
--共通テストの過去問演習では、皆さんどのような教材を活用されていたのでしょうか。
アンケートからは、共通テストの過去問と市販の予想問題集をそれぞれうまく活用していることがわかりました。市販のものでは、短時間で集中して取り組めるタイプの参考書を使っていた人もいました。
ひとつの傾向として、市販の予想問題集、過去問という括りにとらわれず、きちんと時間を計り、本番と同じ想定で取り組むという結果が見られました。
--過去問は何年分解くのでしょうか。
約75%が「4年分以上」と回答しています。2021年に共通テストに切り替わり、今年は過去問がちょうど4年分ある状態なので、今年の受験生は、まずこの4年分を解くこと。ただ、2025年度の共通テストは新課程になります。過去問だけではなく各予備校で実施する模試や予想問題などをこなすことも重要です。また、旧センター試験の過去問は、共通テストとは出題範囲が異なるものもあるため注意が必要です。
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--過去問を解くのは一度で良いのか、それとも何度か解き直すものなのでしょうか。
今回、過去問を何周したかも聞いているのですが、1周が75%と最多です。ただし、1周といっても、アンケートのコメントを見ると、できなかった問題はできるようになるまで解き直しをしています。できるところはそれ以上触れず、できなかったところは繰り返し復習する。限られた時間を効率的に使っています。
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早めに取り組む既卒生、現役生は基礎を固めてから
--過去問に取り組む時期は、現役生と既卒生で違いは見られましたか。
現役生だと、そもそも出題範囲を学習し終えるまで過去問に手が付けにくく、どうしても着手が遅れがちです。それに比べて既卒生はすでに一通り終えているので、いつでも取り組める状態です。駿台でも「夏が明けたら少しずつ始めるように」と促しているのですが、実際にそう言われてすぐに取り組める学生ほど本番では得点力が高い傾向にあります。
ただし、ここで留意しておきたいのは、「早ければ良いというわけではない」との意見もあったことです。
● そんなに早くから始めなくてもよかった。(東京大学文科一類)
● 現役のとき、基礎が固まっていない状態で手を出したので、何年分か無駄にしたかなと思う。(東京大学理学部)
つまり大事なのは、自分は今、何のために過去問を解くのか、その目的をきちんともったうえで始めることです。早いうちにと焦って闇雲に解いても、明確な目的がなければ貴重な時間を無駄にするだけ。早めに取り組むのは、自分の現在地をしっかりと把握し、自分が補強すべきところを洗い出して、ゴールまでの距離感をつかむことが重要だと考えるからです。
共通テスト対策で失敗だったこと
--難関大の合格者であっても、過去問を進めていく中ではいろいろと試行錯誤があったのですね。
今回のアンケートでは、失敗談も詳しく聞いています。人によってさまざまですが、特徴的なものとしては次の5つにまとめられます。
「時間」を意識しなかったこと
● 過去問演習を始めたころ、問題を解く際に時間制限を設けなかったこと。時間を気にせず解答することで、本番の試験での時間管理がうまくできず、焦りからミスを連発したため、最初から試験と同じ時間制限を設け、時間内に解答する訓練を積むべきだった。(東京大学理科二類)
● 初めのほうは時間を計らず解いていたので、初めから感覚を鍛えるために計ればよかった。(和歌山県立医科大学医学部)
● 本番と同じ時間割で全科目通して解かなかったこと。一度同じ時間割で解いてみることで、疲労感を味わうことができて良いと感じた。(東京工業大学工学院経営工学系)
嫌いな科目や苦手科目への取り組みが不十分だったこと
● 苦手科目に関してはもう少し早めから取り組んでも良かった。(大阪大学理学部)
● とても苦手で、嫌いだった世界史を始める時期を先延ばしにしすぎてしまった。苦手なものこそ得点源になりやすいので早めに潰すべき。(立教大学経営学部)
● 二次試験で使わない科目の対策に、もっと時間をあてるべきだった。「学校でやるから大丈夫だろう」という考えで日本史と国語の対策の時期が遅れてしまい十分にできず、不安を残すまま本番を迎えてしまった。(東京医科歯科大学医学部)
古い年度の過去問を適切に使えなかったこと
● 古い過去問をやり過ぎたこと。古過ぎると、当時の教育課程は今とは違い、大きく出題傾向も異なるので、それよりは近年の問題をもう一周したほうが良いと思った。(横浜市立大学医学部)
● 最新年度の過去問を入試本番の直前まであえて解かずにおいていたこと。早い段階で新しい過去問に触れておくことで、今年に近い問題傾向をあらかじめ理解しておくことができるし、何度も復習する時間が生まれるので、もったいぶらずに早く解いておくべきだったと思う。(大阪大学文学部)
● 最新年度から順番に過去問を解いていっていたので、直前に解く問題が古く、出題傾向が少し変わっていたりしたので、ある程度最新年度の分は何年か解かずに残しておき、直前に初めて解いてみてもよかったかなと思った。(滋賀医科大学医学部)
復習が後回しになったこと
● 解き直しを十分満足するほどおこなえなかったこと。やはり過去問は合格するための最適な材料であり、徹底的な復習をしたうえで傾向や必要な力を分析して理解し、そのうえで勉強の計画を立てていくのが最適で効率の良い戦略ではないか。(慶應義塾大学経済学部)
● 最初は復習が追いつかず、次に解いても同じ間違いをすることが多かったので、しっかり復習することが大切だと思った。(大阪大学経済学部)
● 過去問の復習を面倒くさがって後回しにしてしまった。復習を早めにしっかりとするべきだった。(お茶の水女子大学理学部)
● 年数を重ねることに気を取られすぎて、一年一年を密度濃く復習できなかった。(日本医科大学医学部)
● 解答解説を十分に読まず、同じミスを繰り返していたが、後々、誤答の原因を分析しノートにまとめ、計画的な復習を行う重要性に気がついた。(大阪公立大学工学研究科)
着手のタイミングを間違えたこと
● まだ完全にインプットができていない高3の春の段階で過去問を解き始めてしまったこと。基礎がきちんと身についた夏以降に過去問を解いても間に合ったと思う。(神戸大学法学部)
● 早めに過去問に取り組み、どのようにしてこれらの問題を解けるようになるかの道筋を考えてから勉強をしたほうが効率が良かった。(東京大学理学部)
● 基礎が固まってから過去問に取り組もうと思っていたので結局取り掛かるのが遅くなってしまったが、とりあえず1年分くらいは過去問をやってみてどんな雰囲気かみるのは大事だと思う。どこが重点的にきかれやすいか、詳しい知識が求められるのか否か、などを把握して基礎を固めるのは大事。(東京大学文科一類)
このように、失敗談にもセオリーがあります。こうしたセオリーを知ることで、勉強の効果を高めるコツが見えてくるのではないでしょうか。
過去問を解くことで得られる成果とは
--反対に、共通テストの過去問に取り組むことでどのような成果が得られたといっていますか。
時間を計り、マークシート転記まで本番を想定してトレーニングを重ねることで、「試験形式に慣れることができた」という声が非常に多かったです。数をこなすことで慣れてくると、本番での緊張が和らぐという効果があるようです。やはり過去問というのは、受験生が受験本番でベストのパフォーマンスを発揮するうえでは避けることのできない、大切なプロセスであることがわかります。
● 時間配分を事前に決めておくことができて良かった。模試でも同様の経験ができるが、実際の過去問を使うことで、メモする部分が少ないことや、工夫しないと時間オーバーになってしまうことなどを確認できた。また、マークシートに解答するタイミングを決めることで、塗り忘れ、塗り漏れを防ぐこともできた。マークシートに解答する時間もある程度かかるため、過去問演習では実際にマークシートに解答することが重要であると感じた。(東京工業大学工学院経営工学系)
● 試験時間の短さを体感できた。私は国語で時間が足りなくなってしまうことが多く、共通テスト模試で解き終わらないことも多々あった。そのため、国語に関してはほかの科目よりも多く過去問を解き、自分の中で時間の感覚をつかめるようにした。(東京医科歯科大学医学部)
● 本番に焦らなくなった点が良かったなと思う。どんなペースで問題を解けば良いか、どの問題は捨て問になるかを練習できて良かった。(大阪公立大学現代システム科学域)
● 時間配分や問題形式に慣れる練習ができた。また、一題丸ごと解けずに焦ることがあっても、他の問題でカバー出来るような精神の立て直し方も身に付けることができたと思う。(京都大学工学研究科)
● 共通テストにおいては出る問題のパターンがある程度決まりきっているため、それを理解することで、「この問題が出たらこの手法で問題を解く」というように対応付けをしておくことができ、本番でも焦らずスムーズに問題を解けた。(東京大学理学部)
そしてもうひとつ、多くの人が「自分の弱点を発見できた」と答えていました。繰り返しになりますが、大事なのはそこからPDCA*を回していくことです。そのプロセスから、出題者の意図もわかるようになり、本番での成果につながるのです。
*PDCA:Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)のこと。このサイクルを循環させることで改善を重ねていくという概念
● 共通テストは基礎となる難易度のものが多いため、基礎の足りない要注意分野をあぶり出せた。(東京医科歯科大学医学部)
● 過去問を通じて、自分の弱点を明確にすることができ、それに対して具体的な対策を講じることができた。これにより、試験本番ではミスを減らし、より高得点を狙えるようになった。(東京大学理科二類)
● テスト形式で解くことで、自分の勉強の理解度を確かめることができた。間違えたところはしっかり復習することで新しい知識を得ることができたり、出てきていないところも気になって調べて覚え直せたりしたこともよかった。(大阪大学経済学部)
こうしてアンケートの結果を見ていくと、50人に共通するのは、自分に何が足りないか、何が課題なのかを考える「主体性」と、それを克服しようと努力できる「行動力」です。この2つが、難関大に合格するために重要な資質なのではないかと思いますね。
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過去問の有効活用、3つのカギ
--今回の結果をまとめると、共通テストの過去問はどのようにすればもっとも有効に活用できるといえますか。
先ほどの失敗談からの改善策ということにもなりますが、次の3つが重要なカギになるといえるでしょう。
時間配分など解答時間を意識する
センター試験と比較すると共通テストは文章量が多くなりました。その結果、時間をいかに効率良く使うかが重要なカギとなっています。
環境を整える
また、多くの人が時間への意識に加え、過去問に取り組む際の環境をなるべく本番と同様に近づける工夫をしています。
● 過去問を初めて解くときはできるだけ本番と同じような設定で解くようにしていた。身の回りの環境や時間配分も事前に決めて本番のように緊張感をもって取り組んだ。たとえば数IAであれば第1問には何分以上はかけないなど決めて取り組んだ。(横浜市立大学医学部)
● 本番を意識し、本番と同じように2日で1セット解くようにした。私はとにかく緊張するタイプだったので、時間が無くなったり、時間が無くなりそうで焦ってミスが増えることが怖くて、時間は本来の試験時間の8割位の時間でやっていた。(東京大学文科一類)
● 過去問演習に臨む際に私が重視していたのは、時間管理と本番通りの環境作りだった。 時間管理については、タイマーで時間を計って試験時間通りに切り上げることを徹底した。このように意識したことで、1秒1秒の大切さを体感できたうえに、本番は時間配分で失敗しないようにしようと強く思えた。 また、共通テストであと1問正解なら合格点に届いていたという話を聞いたことがあったので、マークを塗る練習も兼ねて、本番と同じようにマークシートを使って鉛筆でマークを塗るようにしていた。(大阪大学薬学部)
● なるべく本番に近い環境を用意するため、筆記用具は本番と同じく鉛筆と消しゴムを用意し、机の上を整理してから、時間を計って過去問を解いた。制限時間よりも早く解き終えることを意識し、本番で何かあっても余裕をもつことができるようにした。(山形大学医学部)
● 自分がもっとも本来の実力を発揮できる環境とはどのようなものなのかを意識しながら問題を解いた。たとえば、私は削った直後のとがった鉛筆よりも少し使って丸くなった鉛筆のほうが書きやすいことを見つけた。(京都大学工学部)
復習にしっかり取り組む
もうひとつ、今回のアンケートであらためて「これも合否の分かれ目か」と痛感するのは、復習への取り組む姿勢です。
二次試験の過去問にも共通することですが、難関大に合格している人たちは、決して「解いて採点して終わり」ではありません。その日のうちに採点と復習を行い、間違えたり、解けなかったりした問題についてはその理由を詳しく分析して自分の弱点をつかみ、念入りに補強して次は確実に得点できるように力を付けていく。結果に一喜一憂せず、必ず課題をあぶり出し、次の学習計画に向けたPDCAを着々と回しているのです。
● 解答を確認する際には、単に正誤をチェックするだけでなく、解答プロセスを細かく見直した。特に、誤答した問題については、なぜ間違えたのか、どの知識や思考プロセスが不足していたのかを徹底的に分析した。この分析を通じて、自分の弱点や理解が不十分な個所を明確にし、次回の学習に役立てた。 また、解答・解説を丁寧に読むことも重要視した。解説を読むことで、問題の出題意図や解答のポイントを深く理解することができる。特に、解説に記載されている関連知識や補足情報を活用し、自分の知識の幅を広げるよう努めた。(東京大学理科二類)
● 共通テストの過去問を解いていくうえで、間違えた問題をノートにまとめ、本番に持っていけるようにしていた。(京都大学農学部)
● 解けなかった問題は解けなかった原因とともに解答を書き溜めたノートを作っていた。(日本医科大学)
● 共通テストの場合、計算ミスやマークミスなどといった、うっかりミスを防ぐことが重要なポイントとなってくる。そのため、自分がどのような形でミスをしてしまったのかをリスト化し、自分が共通テスト問題を解く際にどのようなことを意識するべきなのかをまとめ、うっかりミスを防ぐようにした。知識の抜け落ちのために失点してしまった個所については、該当範囲の周辺も含めて重点的に暗記を繰り返すようにしていた。(東京医科歯科大学医学部)
--「時間」「環境」「復習」ですね。
はい。この3つは受験対策の王道であり、実は昔も今も変わらない合格への定石ですが、これまで見てきたように、いずれも「おざなりにしない」ことが極めて重要であるといえるでしょう。
--最後に、これから共通テスト対策を始める受験生に向けてアドバイスをお願いします。
共通テストは難関大ほど配点比率が低いため、あまり重視しなくて良いという人もいます。ですが実際には、入試後の得点開示を見て、「共テの問題を1つ落としていたら落ちていた」と肝を冷やす人が毎年後を絶ちません。共通テストが課される以上、そのたった1問が合否を分けうるのです。
だからこそ、まずは出題の仕方や時間配分、問題文の長さなど、ひとつひとつのパーツを理解し、戦う相手を知ること。そして、志望校合格にはあと何点必要で、今の自分がここからどの科目でどれだけ点数を積みあげていくべきか、そのためには何をすればよいかのロードマップを描くこと。今回の先輩たちの声を参考に、しっかりと目的意識をもって取り組んでください。
--ありがとうございました。
難関大学に在籍する50人の先輩たちが答えた過去問についてのアンケート。住んでいる地域も、出身高校も、受験・合格した大学もそれぞれ違うものの、合格に至るプロセスの共通点は、過去から語られている受験勉強の定石だった。
センター試験から共通テストに変わっても、合格への道のりは大きく変わらず、合格した先人たちは皆、サイの角のように着実に一歩一歩努力を重ねてきたことがアンケートで示された。
この記事を参考に、目的意識をもって過去問に取り組んでほしい。
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