筆記試験だけでなく、面接や小論文対策も求められる医学部受験。正解・不正解のない面接や小論文に関しては、どのような対策をすべきかと悩む受験生も多いのではないだろうか。
駿台予備学校の医学部専門校舎・市谷校舎の責任者である重藤賢次氏に、医学部合格を目指すための面接・小論文対策について聞いた。
医学部入試は面接で合否が逆転する
--難関というイメージの強い医学部ですが、今年度の志願者の動向はいかがでしょうか。
模擬試験の状況を見ていると、今の段階では志願者数は去年と同じくらい、もしくは微増といったところです。医学部は依然として狭き門といえるでしょう。
--医学部入試では、なぜ、学科試験に加えて面接や小論文試験を行うのでしょうか。
医学部は、医師という人の命に関わる職業に直結する学部です。そのため、高い学力だけでなく、学力試験だけでは測れない医師という職業を担うにふさわしい能力や適性も確認しなければなりません。
では、学力試験では測れない能力や適性とは何か。それは、コミュニケーション力や医学・医療への関心と目的意識に加え、幅広い教養や倫理観、使命感です。
中でもコミュニケーション力は、患者さんとの会話やチーム医療におけるほかの職員との関わりにおいて非常に重要な能力です。つまり、面接や小論文は、相手に分かりやすく伝えられるかどうか、さまざまな人々との対話を通じて物事を円滑に進められるかを測るために実施されているのです。
さらに、大学側としては「本当に医学部に入りたいのか」「『良き医療人』になり得るか」、地方であれば「地域医療に本気で貢献したいのか」といった目的意識や使命感を見極めようとします。医学部受験生の中には、学校の成績が良いからという理由だけで医学部を受験したり、あるいは東大・京大を目指していたものの共通テストの結果が芳しくなく、地方の国公立大学医学部へ路線変更したりする人もいます。医師の養成には高額な国費も注入されているだけに、こうしたなおざりな動機で入学後にやる気を無くして辞めてしまうようなことがないよう、特に面接ではミスマッチを防ぐ狙いがあります。
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--実際に面接や小論文はどの程度合否に関わってくるのでしょうか。
面接や小論文を明確に点数化している大学もあります。点数化していない大学でも、募集要項には「総合的に判断する」などと書かれています。
特に面接に関してはいくつかの大学で「その評価が著しく低い場合には合計得点に関わらず不合格とする」と明記されています。倫理上許されない発言をすれば、医師としての適性がないと即断されますし、各大学のアドミッションポリシーから大きく外れている場合にも縁がないと見なされるでしょう。
ちなみに、実際に面接がどの程度合否に関わるかですが、駿台の卒業生による得点開示によると、面接だけで30点近くも差がつくケースがあることがわかっています。これは学力試験での数学大問1問分の点数に匹敵するもので、面接で合否の逆転が起こり得るわけです。受験する予定の大学で面接や小論文がどのような配点になっているかを確かめるとともに、学力試験と同様に重要であることをしっかりと認識しておきましょう。
医学部の面接には入念な準備が必要
--医学部入試ではすべての大学で実施されている面接について詳しく教えてください。まず、面接ではどのようなことを聞かれるのでしょうか。
一般的にどの大学でも聞かれる項目としては、志望理由とその大学を志望する理由、自分の長所や短所、高校生活で力を入れていたこと、自己PR、理想の医師像といった質問です。そのほか、医療ニュースや医療以外の時事問題も題材になります。地域枠を採用している大学では、その地域の医療問題や、地元に残る意志などを問われることもあります。
--面接にはどんな形態がありますか。
医学部の面接は大きく分けると次の4種類で、大学によってその形態は異なります。
1.個人面接
受験生1人に対して複数名の面接官が付く形式です。面接官としては受験生1人をじっくり見ることができ、受験生側としてはほかの受験生を気にせず集中して話をすることができます。医学部の面接は多くの大学がこの形式で行われています。
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例1-a)順天堂大学(私立)
一般的な質問のほか、小論文試験についての感想や、面接会場に持参した私物*(その受験生が頑張ってきたことを示す資料や賞、動画、作品など)について質問される。
*面接会場には持参した私物を並べるためのテーブルが設置されている
例1-b)浜松医科大学(国立)
一般的な質問のほか、臨床医・研究医どちらを志すか、静岡県の中には医師がいない僻地もあるがどうすれば良いか、アドミッションポリシーの中で自分に合致・不合致しているところといった質問をされたこともある。
2.集団面接
受験生、面接官ともに複数で行う形式。質問事項は全員に同じ質問をすることもあれば、調査書や面接シートの内容によって変わることもあります。ほかの受験生の回答を聞くことができてしまうため、ほかの受験生と比べられることに気おくれしたり、自分の回答がほかの受験生と被って困惑したりすることもありますが、周りの状況に怯まないよう心がけましょう。
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例2)福岡大学(私立)
自己紹介など一般的な質問に1人ずつ答える。③の討論面接と融合して行う場合もある。
3.討論面接
複数名の受験生に対してテーマを与えて討論させ、面接官がその過程を評価する形式です。
討論の形式は、賛成派と反対派に分かれてディベート形式で行うものや、グループで議論することによって自分たちなりの結論を発表させるものなど、大学によってさまざまです。討論での発言内容や態度から、協調性や共感力、コミュニケーション力、表現力、客観的に物事を捉える力などを測ります。
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例3-a)日本医科大学(私立)
診療科の偏在や多死社会、障害や病気による差別が起こる原因と解決策、20年後の医療についてなど、医療を取り巻くさまざまなテーマが示され、自分の意見を述べていく。
例3-b)滋賀医科大学(国立)
遺伝子治療に賛成かどうか、喫煙や高齢化による介護問題についてどう思うか、今後医師に求められる能力とはといった医療を取り巻くテーマのほか、科学技術の恩恵にはどんなものがあるかなど、視野の広さを問われるテーマもある。自分の考えを論理的に伝える力が問われる。
4.MMI(マルチプル・ミニ・インタビュー)
文字どおり「複数の短い面接」。受験生は複数の面接室(ブース)をめぐり、そこにいる面接官からそれぞれ異なる課題に対しての質問を受ける形式です。一定の時間で次の面接室(ブース)に移動し、これを何回か繰り返します。大学によって実施の形態は異なるものの、あらゆる場面に臨機応変に対処し、速やかにアウトプットする力が求められます。
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例4-a)慈恵会医科大学(私立)
複数の面接室毎に問題が配布され、1~2分ほど文章を読んだり、考えたりする時間が与えられたあとに自分の意見を述べる。昨年度は、折り紙を折りながら面接官と対話するというユニークな出題も。文学作品の一部を読んで質問に答えるという医学以外のトピックもあり、幅広い教養が求められる。
例4-b)千葉大学(国立)
たとえば「小児白血病の患者が治療のために輸血を必要としているが、両親が宗教上の理由で輸血を拒否」といったケースを提示し、「あなたが医師だったら…」と問う難題が頻出。正解のない問いだけに、医師を目指すにあたって普段からこのような問題意識をもっているかが浮き彫りになる。
--いつから、どのような準備が必要ですか。
年明けからだと、特に医学部は共通テスト直後から私立の入試がスタートし、目まぐるしく忙しいスケジュールになるため、できれば年内には対策を終わらせておきたいところです。年内のうちに、第一志望だけでなく受験する可能性があるすべての大学において、アドミッションポリシーと大学案内のほか、学長または医学部長からのメッセージにも目を通しておくと、大学が目指す方向性や校風などがよくわかるでしょう。過去の出題傾向については、駿台の校内生であれば、全国の医学部受験生のアンケート結果をまとめた「サクセスレポート」が閲覧できますので、そちらをおおいに活用してください。
さらに駿台では模擬面接を実施しており、毎年受付開始直後すぐに満席となってしまう状況です。面接の練習相手としては、学校の先生やご両親にお願いするのも一案です。
面接では、たとえば志望理由に関して「それなら他大学でもできるよね」「どこの大学と比較して良いと思ったの」といった厳しい質問が飛んでくることもあるので、志望理由書と発言内容に矛盾がないよう、伝えたいことを書き出し、しっかり練習しておくことをお勧めします。
--アドミッションポリシーだけでなく学長・医学部長からのメッセージも読んでみると、確かにその大学に対する理解が深まりますね。そしてそれが自分の進みたい方向性と合致しているかを確認しておくことが重要だと。
同じ大学でも、一般枠のほかに地域枠や研究者枠など、選抜内容によってアドミッションポリシーを分けているケースがあります。受験の際には、自分がどの枠で受験するのかを含めて、その内容を正しく理解しておきましょう。
駿台の医学部受験専門の市谷校舎では、全国の医学部82大学すべてについて、その特徴や入試形態など多様な視点から捉えたレクチャーを実施しています。たとえば、福井大学医学部では、アレルギー専門医リーダー養成コースや北陸高度アレルギー専門医療人育成プランなどの教育プログラムを設けているといったことは、入試の段階でほとんどの受験生が知らない情報です。面接では、自分の言葉で明確な志望理由を語れることが求められるので、我々はそのための情報提供や選択肢の提示という役割を担っています。
医学部が小論文で見極めたい力とは
--次に小論文について伺います。小論文にはどのような形態がありますか。
小論文は面接と違い、すべての医学部で実施されているわけではありませんが、出題形式は大きく2パターンあります。
1つ目は要約記述型。あるテーマと文章が与えられ、その大意を理解し、要約できるかを測りますが、それに加えて個人的な意見を書かせるものがあります。
2つ目は単純記述型。与えられたテーマに対して「〇字以内で述べなさい」といったもので、医学部の小論文で多いのは後者の単純記述型です。
要約記述型
例)北里大学(私立)
抜粋された文章を読み、文章にタイトルを付けたり、傍線部の内容を説明させたりするとともに、最後には自分の考えを800字程度でまとめる問題もある。
単純記述型
例)京都府立医科大学(公立)
文章を読み、自分の考えを600字でまとめる。たとえば2023年は、順天堂大学医学部附属順天堂医院で上皇の心臓手術を執刀したことで知られる天野篤特任教授が書いた新聞記事を読み、医師に相応しい「傑出した人物」とはどのような人物であると思うかが問われている。
--小論文では、受験生のどのような力や資質を見ているのでしょうか。
医学部では個別学力試験で国語を必須とする大学は東大と京大だけです。しかし、医師になるにあたっては診断書を書いたり、論文をまとめたりするうえで国語力は必須です。ですから、小論文を通じて受験生の読解力や表現力、論理的に文章を構成できる力を見ているわけです。加えて、面接では小論文に書いた内容について聞かれることもあります。
--小論文を書くうえで気を付けたほうが良いことはありますか。
まず、設問を読み違えないこと。闇雲に医療と結びつけて書く必要はありません。与えられた設問と文章の中には必ずヒントが隠されていますので、何が求められているのかをしっかりと把握しましょう。
小論文は単なる感想文では評価されません。一見自分からは遠い出来事のようであっても、客観的視点を盛り込みつつ、与えられたテーマを「自分ゴト」として据える姿勢を常に心がけてください。
いうまでもないことですが、採点者が読みやすいよう丁寧に大きく、濃く書くこと。そして、難解な表現や俗語は避け、分かりやすい言葉を使うことも重要です。
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--小論文についてはどのような対策が必要ですか。
入試を目前にした受験生であれば、実際に書いたものを学校や塾の先生に添削してもらいましょう。駿台には医学部入試に精通したプロ講師がおり、小論文の対策講座を設置しています。
高2以下の方は、まずは知識を蓄えましょう。興味のある医療系の本を読むほか、医療を含めて社会で問題になっているトピックにも幅広く触れ、それについて自分がどう感じたのか、どうすれば良いと考えるかなど、自分の意見をメモにまとめておくと良いでしょう。ネットのニュースだけだと自分の興味に偏りがちなので、新聞を読むこともお勧めします。
--小論文の対策は1人では難しいので、講座を受講してプロの力に頼ると効率的ですね。
そう思います。小論文講座の受講生を見ていると、受講前後で書く内容も書き方も大きく変わってきます。医療関連のことを含めさまざまなトピックに触れ、専門知識を増やすだけでなく、自分はどう考えるか、自分ならどうするかを論理的にまとめる力が鍛えられるからです。すると、小論文だけでなく、面接でも自分の言葉で語れるようになりますし、記述力という点では英語や数学など教科の学力にも良い影響があります。小論文対策は、医学部入試で求められる力を複合的に育める、医学部を目指すうえで非常に有意義な勉強だといえるのではないでしょうか。
志望理由を語れることで合格が近づく
--いよいよ出願シーズンに入りますが、市谷校舎では2学期が始まるころまでに志望理由書の添削を行うことで、合格実績が大きく伸びたそうですね。
市谷校舎では授業の一環として志望理由書の添削も行っています。早い段階で志望理由書を仕上げておけば、直前期に慌てることなく勉強に集中できますし、何より自分がなぜ医師を志すのか、どんな医師になりたいかなどをあらためて自分に問い直すことで決意を固め、勉強に向かうモチベーションが大きく高まるのです。
志望理由書の作成を代行するサービスもあるようですが、他人が書いた内容だと面接では自分の言葉で答えられるはずはなく、簡単にメッキは剥がれます。ですから我々は、受験生が自分で書いたものをベースに、アドミッションポリシーと本人が目指すビジョンが合っているかなどを確認しながら、対話を通じて仕上げていくというプロセスを大切にしています。
--医学部受験生たちは非常に多忙な日々を送っていることと思います。学科試験の勉強と面接・小論文対策をどのように両立すると良いでしょうか。
まずは学科試験で確実に高得点を取ることが最優先です。そのうえで、週に1日程度のペースで、定期的に面接や小論文対策にあてる時間を作ると良いと思います。実際に市谷校舎のカリキュラムでも面接と小論文対策の授業は毎週1日、1回2時間で設定されています。
医学部に合格した先輩たちは、小論文や面接の準備が教科の勉強の良い息抜きになるとともに、医師を目指すモチベーションが上がったと言っています。医学部はほかの学部に比べて負担が大きく大変な受験ですが、将来、医療現場で活躍している姿をイメージしながら自分を奮い立たせ、難関を突破していただきたいですね。
--ありがとうございました。
面接・小論文対策は、医師への夢を具体化するプロセス
昨今の医学部入試における面接・小論文の特徴や対策について詳しく話を聞いた。学科試験の勉強に加えて面接や小論文の準備をすることが大変であることは間違いない。ただ、今回聞いたお話を通して、医師を志すに至った思いや目標などをあらためて自分自身に問いかけて深掘りすることや、興味関心のある領域で周辺知識を身に付けること、それらを表現する練習をすることが、面接や小論文の準備になり、ひいては学科試験にも良い影響も及ぼし得ることもわかった。
医師を志す受験生なら、関心のある大学について調べることは、将来の可能性を広げていくことと同義だ。単なる情報収集として取り組むのではなく、自分の思いと結びつけることで、きっと夢を膨らませながら準備することができるのではないだろうか。準備が大変だと頭をかかえる受験生には、一度机から頭を上げて、医師を志した理由や理想の医師像などにあらためて思いを馳せ、言語化してみてほしい。
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