新課程に移行して初の大学入学共通テスト(以下、共通テスト)が終了した。平均点や出題傾向にはどのような変化があったのだろうか。
2025年度の共通テストの分析とともに、新課程入試における「高得点のカギ」となる力について、駿台予備学校入試情報室長の城田高士氏に話を聞いた。
引き続き決め手となるのは「読解力」
--2025年度共通テストの志願者数と昨年からの推移を教えてください。
2025年度共通テストの志願者数は、49万5,171人と昨年から3,257人増加しました。いろいろなところで「7年ぶりの増加」と増えたことが強調されていますが、ずっと減り続けていたのがいったん底打ち状態になったと言える程度で、増加率は0.7%とごくわずかです。数年はこれくらいの志願者数で推移しながらも、その後は再び減ってくると予想しています。
志願者の内訳としては現役生が42万5,968人、既卒生が6万4,974人と現役生が増え、既卒生が減っています。これは2025年度から新課程に対応したテストに移行することを見越し、昨年は浪人回避の動きが見られたことの影響もあるかもしれません。
--大学入試センター試験から共通テストに変わって5回目、新課程への移行後初の共通テストでしたが、出題傾向に変化は見られましたか。
「情報」の新設、数学②が「数学II・B」から「数学II,数学B,数学C」に、国語と数学②で試験時間の延長など、試験自体や出題範囲の変更はありましたが、出題傾向は過去4年分を踏襲したものでした。全体的な傾向としては、どの教科でも問題文をしっかりと読んで、状況設定を確認するのに時間をとられる問題が増えており、求められる読解力や思考力が非常に高くなってきていると感じました。
読解力を求める傾向は、共通テストに変わった当初からですが、5回目となり、確実に強くなってきていますね。
--2025年度共通テストの平均点は昨年と比べ、どのように推移しましたか。
2025年度共通テストから新教科「情報」が新設され、国公立大学志願者の多くは6教科8科目(1,000点満点)の受験が必要となりました。予想平均点は文系620点(対前年+24点※)、理系633点(対前年+12点※)です。カリキュラムや制度に変更がある場合、変更初年度は平均が上がりやすい傾向があり、2025年度もその傾向が見られました。※前年差は2024年度の900点満点の得点を1000点満点に換算したうえで算出

個別の科目で見ると、「国語」の平均が約10点上がり、全体を引き上げる要因となっています。また「英語リーディング」の平均も約6点上がりました。反対に「数学II,数学B,数学C」や理科はマイナスとなっています。
--新課程対応の科目(以下、新課程科目)を受けた現役生と旧課程対応の科目(以下、旧課程科目)を受けた既卒生の間には有意な差が見られましたか。
旧課程科目の方が、平均点は高い傾向があります。そう聞くと、旧課程科目の方が易しかったのではないかと思われがちですが、模試で同じ問題を解いても現役生より既卒生の方が平均は高くなります。現役志向が強くなっている中で浪人を選んだ受験生は、それだけ勉強をする覚悟があるということ。プラス1年間しっかりと勉強した分が点差に現れていると言えるでしょう。
新課程移行後の各科目の平均や難易度の変化 文系でも数学的思考が必須の時代に
--各科目の平均点や難易度についてお聞かせください。まず、英語では「英語リーディング」の平均点が57.7点と昨年に比べ6.2点上がりました。
実は、今年の「英語リーディング」は正規分布ではありませんでした。このような分布の形はこれまで目にしたことがない珍しいもので、英語の学力差が如実に出る試験だったと言えます。自己採点で満点とした受験生が8,690人ととても多く、努力が報われやすい内容の試験でしたね。

--昨年は語数が多く、解ききれなかったという声がたくさんありました。
今年はそれを反映させたのでしょう。700語くらい語数が減って、少し解きやすかったようです。おそらく今年ぐらいの語数が今後も続くのではないでしょうか。
ただ、減ったとはいえ依然として語数は多く、決して時間に余裕がある試験ではありません。共通テストになってから、いわゆる文法問題は出題されなくなりましたが、だからと言って速読だけをやれば時間内に解けるかというとそうではありません。どんどん読み進められる速読力を身に付けるには、前提となる文法や構文をしっかりと叩き込んでおくことが必要です。
--リーディングの中で、ライティングの力を測っているという見方もあります。
過去には共通テストで記述式の問題を出そうとしたものの、結局は見送られたという経緯もあってなのか、マーク式ですが記述力も問える内容を努めて作っている印象はあります。文の構造をきちんと理解し、自分で答えが英文で書けるくらいの力がないと解けないようになってきていますね。
--「英語リスニング」の内容や難易度に変化はありましたか。
昨年に続き、音声情報とイラストや図表などの視覚情報を組み合わせて答える問題が出題され、場面に応じた聞き取りを要する実践的な英語力が問われる内容でした。第6問Bで話者が4人から3人に減るなどありましたが、全体としてやや難化しました。一度聞いただけで理解しなければいけない問題も多いので、事前にしっかりと準備しておくことが大事です。
--国語では、2025年度から近代以降の文章に第3問・新傾向の問題が新設されました。具体的にはどのような問題だったのでしょう。
いくつかの資料を読み解いていく複数テキストの問題です。日ごろから文章を読んだり書いたりしている生徒にとってはそれほど難しい問題ではなかったでしょう。今年は初年度ということで易しめでしたが、来年は少し難しくなるかもしれません。
第3問の新設に伴い、試験時間が80分から90分に延長されました。複数テキストの問題が第3問に独立したことで第1・2問の論説文と小説が単一テキストに戻り、国公立大学の二次試験や私立大学入試の対策をそのまま生かしやすかったのではないかと思います。選択肢が5択から4択になったことも含め、総合的に見ると今年は解きやすく、平均点も昨年に比べて10点上がりました。
--数学では、数学①「数学I,数学A」は全問必答になりましたね。
問題文から必要な情報を正確に把握していかないと、途中でわからなくなってしまう問題が多く、数学でも読解力が求められる内容となりました。問題文の誘導の流れに乗れたかどうかがポイントでしたが、誘導が丁寧な問題が多く、難易度は昨年並でした。
--数学②は解答大問数「数学II,数学B,数学C」が4問から6問(必答大問3題+選択大問3題)へ変更となり、それに伴い、試験時間も10分延長され70分となりました。
内容がやや難化し、時間が少し厳しかったようで、平均が51.6点と昨年に比べて少し下がりました。選択大問は「数列」「統計的な推測」「ベクトル」「平面上の曲線と複素数平面」の4題から3題の選択と変更されました。文系クラスでは複素数平面の授業をしない学校が多いので、文系だと「数列」「統計的な推測」「ベクトル」を選ばざるを得なかった生徒が多かったでしょう。
--これは文系でも大学で学ぶにあたって「統計的な推測」を学んでおかなければいけないというメッセージでもあるのでしょうか。
そうですね。「情報」が新設されたことも含め、文系でも数学的思考や統計的な視点が必要な時代になってきたということでしょう。経済学部はそもそも数学が必須の学問ですし、それ以外の学部でも統計的な考え方は重要になってきているので、大学入学後を見据えれば、文系であっても数学をしっかりと学んでおく必要はあります。
--理科は「化学」の平均点が昨年より10点近く下がりましたが、何が原因だと考えられますか。
おもな原因として、今年はとりわけ問題文が長く、化学の知識だけでなく、何を問うているかをしっかりと理解するための読解力を要する内容だったことがあげられるでしょう。以前から「生物」ではその傾向が見られていましたが、今回「化学」でも読解力がないと厳しく、共通テストで求められる力がより鮮明となった形です。

--「歴史総合・日本史探究」は「旧日本史B」に比べると平均点が10点以上、低くなりました。この原因にはどういったことが考えられますか。
先述したように既卒生にはアドバンテージがあることも大きな要因ですが、それ以外にも「歴史総合」で日本以外の国が関わる近現代の分野が出題されたことの影響も大きかったと思います。今後一層進むと思われる国際化を見据えて、日本国内の歴史だけでなく、日本と関連のある世界の動きを理解しておかなければいけないということでしょう。来年以降もこういう問題が当然出てくると思いますので、日本史選択でも「歴史総合」の世界史分野をしっかりやっておく必要があると言えます。
--それは「歴史総合」の教科書をしっかり読み込むことで対応できるのでしょうか。
そうですね。ただ、学校によっては「歴史総合」を高1・2で学ぶ場合があります。その後に学ぶ「日本史探究」「世界史探究」に集中しすぎてしまうと、「歴史総合」の内容を忘れてしまうことも考えられますので、2026年度受験生は、今回の過去問をもとにきちんと準備をすることが大切です。
--「地理総合・地理探究」の内容や難易度についてお聞かせください。
「地理総合・地理探究」は、生徒の仮説をもとにした探究場面に沿った大問が出題されました。全体としては基本的な知識と、資料を丁寧に読み取ることで判断できる問題が中心で、昨年の「地理B」に比べ少し難しくなったものの、難易度は標準でした。
--今年新設された「情報I」の出題内容や平均点、難易度はどうだったのでしょう。
2022年に公開された試作問題とほぼ同じ出題分野と大問4問による問題構成でした。第3問のプログラミングは難しく感じる受験生もいたようですが、全体的には難しい内容ではなかったと思います。平均点も69.3点と高めになりました。
--平均点が7割弱は高いですね。今年の受験生はどのような対策を取ったでしょうか。
まずは学校の勉強をしっかりとする。そして、試作問題や問題集、模試を活用するなどオーソドックスな対策ですね。ちなみに「情報I」を解いた既卒生・現役生、「旧情報」を解いた既卒生の3グループのうち、平均が一番高かったのは「情報I」を解いた既卒生でした。現役時代に「情報I」を受験で使っていない既卒生が点数を一番点数をとれていたということは、1年間きちんと勉強すれば解ける問題だったと言えます。来年は少し難しくなるかもしれませんが、今年の問題を参考にしながら準備をすれば大丈夫だと思います。
--どの教科も身近な事象を学問へと結びつける探究要素のある出題が多かったように感じます。
そうですね。新課程では「総合的な探究の時間」の授業が設定されていますが、受験科目としては「探究」を学んでいないと思います。しかし、今回の共通テストを見る限り「探究」を通して培える「自分で課題を設定する力」「資料を集め分析する力」「レポートにまとめる力」が問われています。これらは大学入学後に必要となる力であり、本格的に学問に取り組むための基礎となる力をきちんと身に付けてきてほしいという大学側からの要望だと受けとめて良いでしょう。
試験終了直後は「強気」も、安全志向に 準難関大への人気が上昇
--2025年度受験生の志望動向について教えてください。
大学入学共通テストが終わった直後、つまり自己採点集計サービスの結果が出る前の段階では強気の受験生が多かったですね。難関国立10大学(北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学、東京科学大学、一橋大学、神戸大学)では、前年の志望者数を100としたときの今年の指数が110を超えている大学がたくさんありました。ところが、文部科学省が2月19日に発表した確定志願状況によると、難関国立10大学の前期の合計指数は99にまで下がりました。
そんな中、難関国立10大学の前期で志願者が増えたのは、東北大、名古屋大、京大など、首都圏以外の大学です。首都圏では千葉大学や横浜国立大学、東京都立大学などの準難関国公立大学の志願者が増えています。共通テスト終了直後は高得点が取れたと強気の志望校を考えていても、平均点が高い状況がわかってくると、安全志向にシフトした受験生が多かったのかもしれません。
--学部ごとの志望動向についてはいかがでしょうか。
今年大きく伸びたのは、国際関係系統です。いわゆるデータサイエンス系の学部が含まれる総合科学系は、募集人員の増加に伴い、志願者数も伸びています。また、法、社会、理学部系の人気も、高くなっています。歯学部の人気も高まっています。
近年人気が高止まりしている医学部については、試験直後は少し志望者が増えていました。しかし、今年の共通テストは高得点勝負が見込まれるので、実際の志願者指数は95となりました。今年は、どの難関大学も第1志望者得点帯別分布の山が昨年より高い点数に寄っています。例年、データネットで B判定得点率を見てから最終出願校を決める受験生が一定数いるので、最終的にはやや安全な出願を考えた受験生が多かったようです。

探究活動も勉強も「学校をおろそかにしない」
--2026年度以降の受験生に向けて、共通テスト対策を進めるにあたってのアドバイスをお願いします。
今の共通テストは保護者世代のセンター試験と異なり、見たことのない問題が次々と出てきます。解くためには教科の力はもちろん、読解力と思考力が必要です。そういう意味では、一般的な受験勉強だけではなく、探究学習も含めて、学校で積極的に何に取組み何を身に付けてきたかが問われる試験とも言えます。高3になってからの付け焼刃の知識では、なかなか対応しづらいと思います。
ですから、共通テストで高得点をめざすうえで、まずは学校の勉強をおろそかにしないこと。そして、自分で関心をもったことに対して本を読むなど、受験に直結しないと思われがちなことも、共通テストで問われる力に通じてくるものなので、特に高校1・2年生のうちに自分の関心を突き詰めていくことをしっかりやってみてほしいですね。
また繰り返しになりますが、「英語リーディング」で文法をはじめとした知識問題が出なくなったことなどから、共通テストでは基礎知識がなくても問題文を読めばなんとかなるのではないか、と思わせる部分もあります。ですが、それは基礎知識と問題文を読む力の両方が備わって初めて解けるのであって、早く読めるだけで解けるわけでは決してありません。出題の傾向は変わりましたが、前提となる知識は必要なので、しっかり身に付けることが変わらず重要だということを忘れないでください。
--ありがとうございました。
以前実施されていたセンター試験では、直前の対策である程度得点が取れた人も多く、同様のイメージを共通テストにもつ保護者も多いだろう。しかし、共通テストでは、知識と共に読解力・思考力が求められる内容へと変わっている。さらに、新課程入試では「情報I」の新設や数学②の出題範囲拡大など、必要とされる勉強量が増えた。
こうした点を踏まえると、やはり早い段階から共通テストを見据えた学びを着実に進めることが高得点をねらううえで必須だと言わざるをえない。学校の勉強とあわせて、さまざまな情報をもつ駿台などのプロの指導を取り入れることも、効率的で抜けのない共通テスト対策を求めるなら有用だと感じる。
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