中学受験塾では、すでに新しい年度のカリキュラムが始まって2か月が経とうとしている。新小6のご家庭ではこれから夏ごろにかけて志望校を決定し、併願校も含め受験スケジュールを検討していくことになるだろう。
2025年はどのような学校に人気が集まったのだろうか。ここで、2025年度の首都圏の中学受験動向を振り返り、受験者数が前年度と比較して増加した学校を紹介する。志願者が増えた背景については、過去問でおなじみの声の教育社・三谷潤一氏に分析してもらった。
なお、データは首都圏模試センターより提供いただいたもので、2025年3月3日現在の集計値。昨年、今年と2年連続で受験者数の増えた学校は青字となっている。
埼玉県
首都圏の中学入試の先陣を切る埼玉県は、2月1日から始まる東京・神奈川の学校を本命とする小学生が、「前受け」や「お試し」で受験するケースも多い。そのため、数千人規模の受験生が集まる試験も少なくない。そんな埼玉の2025年の動向はどうだったのだろうか。

三谷氏による分析
今年一番注目を集めたのは昨年開校した開智所沢です。「一緒に学校を創っていきましょう」という熱いメッセージに加えて、同じ法人で岩槻にある開智の進学実績から得られる期待感・安心感、さらに都内からも近い最寄駅から歩いて行けるアクセスの良さを魅力に感じるご家庭も多かったと思います。また、開智グループの他の学校とのW判定や、1回分の受験料で複数回試験を受けられ、さらに受験回数によって加点が付く※注といったあたりも、出願数を伸ばした要因のひとつでしょう。
一方で、受験者数が多かったのは栄東。出願数では開智所沢、開智に抜かれましたが、受験者数では首都圏トップを維持しています。栄東も出願数を伸ばし続けており、熱望する受験生も多いです。コロナ禍以降昨年までは、感染症対策としてA日程の入試を1月10日と11日のどちらかで選択する形でしたが、2025年度からは両日とも受けられるようになりました。また、大学受験に向けた面倒見の良さや進学実績、クイズ研究部の活躍、在学中に最年少で行政書士に合格した生徒がいるなど、優秀な生徒を数多く輩出していることも人気につながっています。
女子校では淑徳与野が昨年に続き出願者数を伸ばしています。昨年設置された「医進コース」が牽引しています。以前から理系に進む生徒が多い女子校で、この「医進コース」は、医学部進学に特化した教育を行うだけでなく、理系のさまざまな分野への進路実現をサポートするということで、新たな受験者が掘り起こされました。
※注 開智所沢をはじめとした開智グループは、姉妹校の併願のダブルカウントや複数回受験の加点措置などによって、見た目の志願者(受験者)数が実態よりも増えて見える点に注意
千葉県
埼玉同様、2月1日以降の受験の前哨戦として受験する家庭も多い千葉入試。埼玉入試の後、受験のリズムを崩さないよう、千葉入試を勧める塾も多いかもしれない。

三谷氏による分析
この表を見ると柏市の学校が増加傾向にあることがわかります。おもな要因としては、子育て人口が増加している流山市からのアクセスの良さがあげられます。「流山おおたかの森」に試験会場を設けた西武台千葉の応募者が増えるなど、中学入試の動向にも影響を与えています。
上位校の渋谷幕張と市川は出願者数を減らしましたが、実は両校とも1月入試の合格者数は増やしています。おそらく県外の生徒が多かったのでしょう。千葉県ローカルではなく、首都圏全体から名門校として認識された表れです。
昭和学院秀英は出願者数を増やしたものの、合格者数を絞っています。この表にある芝浦工大柏、流経大柏、和洋国府台女子も、「合格したら入学する」という、地元を中心とした支持を集めたがゆえの結果だと思います。
日出学園は、広報戦略がユニークでした。新1年生の担任が入試広報を担い、「入学してほしい」と教員自身が望む子供たちに対して、「私たちが教えます」と熱心にアピールしてきた結果、保護者やそのお子さんにリアルな学校生活を思い描かせることに成功したのでしょう。これは面白い試みでしたね。
東京都
2月1日から解禁となる東京。男子校、女子校、共学校でそれぞれ見ていく。

三谷氏による分析
まずは男子校ですが、2026年4月1日から明治大学の系列校となる日本学園。今年の増加は隔年現象ですが、来年からは共学になりますので、男子にとっては狭き門となるでしょう。
立教池袋は隔年現象による反動で増えました。ここ数年の傾向として男子校が軒並み難化しており、男子の出願戦略を立てる際には安全志向に傾きがちです。出願数も受験者数も、目立って増えている男子校は少ないのです。男子校難化の背景には、少子化の影響で共学化が進み、もともと少ない男子校の数がさらに減ってきていることがあげられます。今年は明法も共学化したので、東京都内でまた1つ男子校が減っています。
そんな中で「国際」を打ち出している学校の人気はますます高くなると考えられます。海城、佼成学園あたりは今後ますます人気が高くなり、難化するのではないかと予想しています。
次に女子です。こちらは伝統校人気が目立ちます。たとえば十文字や跡見学園です。このような伝統校は、親世代のイメージが良いうえに、同じ伝統校の三輪田学園、山脇学園、普連土学園が難化していることから敬遠した層が流れてきている可能性があります。もうひとつはアクセスの良さ。受験人口の多い豊洲・有明あたりから通いやすい沿線の学校ということも、影響しているかもしれません。実践女子学園、東京女学館の応募者増加にもアクセスの良さは影響しています。
文京学院の伸びも目を惹きますが、昨年、東京ガールズフェスタの会場になったことが要因のひとつです。生徒たちが主体となるイベントでしたが、閑静な住宅地の中にあり、敷地内にインターナショナルスクールもあって、実際に足を運ぶことで学校の良さに気づいた人も多かったのではないでしょうか。
女子聖学院や東京家政学院も、面倒見の良い学校として定評のある学校です。東京家政学院は英検に力を入れていて、中学生のうちに準2級、2級合格を取得している子が増えています。大学合格実績も今後、期待できそうです。
続いて共学校です。芝国際は昨年の大幅減少の反動でしょう。開校当初は新校舎や、同じ建物に理系に強いインターナショナルスクールが入り交流していくことが注目されましたが、教育の中身が改めて再評価されたと考えられます。
日本工業大学駒場は立地も良く、ここ数年改めて注目をされた学校です。新しく充実した図書館、校内に自習室もあって宿題も学校で終わらせるなど、面倒見が良く、入学後の保護者の負担の少ない学校として人気です。在校生のみが通える「光風塾」という塾が校門を出て数分のところにあり、大学合格実績が上がっています。この塾に通っていない生徒も学内で大学入試対策を進めていて、生徒同士が校内で切磋琢磨している結果、進学実績も上昇しています。
最近は、この日本工業大学駒場をはじめ、桜丘、文教大学附属、淑徳、淑徳巣鴨、多摩大学目黒、文化学園大学杉並、目白研心、成立学園、東京成徳大学、駒込といった非常に面倒見が良く、保護者が「安心して任せられる」と感じられる学校に人気が集まっています。この傾向には、これまで新小4からのスタートが一般的だった中学受験で通塾開始時期が早期化・長期化し、保護者が伴走に疲れてしまっていることも影響しているのかもしれません。これまでは偏差値重視の学校選びが主流でしたが、こうした学校は人気が集まらなかった期間もあらゆる努力をし、手厚いサポート体制を地道に築き上げてきました。こうした姿勢が今ようやく支持されるようになってきたのではないか、と考えます。
神奈川県
同じく2月1日より試験の始まる神奈川だ。2025年はどのような傾向があるのだろうか。

三谷氏による分析
まずは女子校です。神奈川に顕著な傾向が、共学人気が高く女子校の人気が下がり気味である点です。
そんな中で、神奈川学園が受験者数を増やしました。横浜女学院が減った分、神奈川学園に流れたように見えますね。昔からフィールドワークを大切にしながら地道に探究型の授業を行ってきた学校ですが、そうした教育の中身に加えて、横浜駅から歩いて行けるという地の利も味方したと考えられます。
日本女子大学附属は、算数1科目入試の導入が受験者数増につながったのでしょう。鎌倉女子大学は2026年から鎌倉国際文理に校名を変更し、共学化します。学校改革を積極的に進めていますので、そのあたりの評価が寄与したのかもしれません。
共学では、日大藤沢がかなり増えました。ここは附属の小学校がありますが、中学にそのまま上がってくる子がやや減っているせいか一番最後の入試(2月4日実施)でも20名の定員を設けています。2年前に一度定員を絞ったのですが、相対的に定員を増やしたように見えるということと、大学の不祥事の影響が落ち着いたことが今年の数字に表れたのではないかとみています。
湘南学園は東京でも触れた面倒見の良さが評価されたようです。関東学院は、昨年大幅に増加した学校で、さらに今年も増加し、難度も上がっています。ICT教育に力を入れている神奈川大学附属は進学実績も評価され、堅調な人気が続いています。出願数は今年県内最多でした。
一方で男子校については、ほとんど変わっていません。今年は御三家受験を敬遠したご家庭が多かったと言われていますが、それを象徴するのが、慶應普通部の増加です。
聖光学院に関しては、昨年(2024年)の東大合格者数100名の報が大きかったと思います。鎌倉学園が増えているのは、難化した逗子開成を避ける層が流れているように見えます。藤嶺藤沢や武相が増えているのも、男子校人気が高い中、「全滅」を避けるべく、こうした学校で何とか合格を手にしたいと考えるご家庭が増えている可能性があります。
人気を左右する要因として交通の便、地の利の影響は小さくない。だからこそ三谷氏は、これを逆手に取るべきだと言う。「多少交通の便が悪くても、良い学校はまだまだある。これから受験を控えているご家庭には、条件に縛られず、通える範囲でできる限り多くの学校に足を運び、中のようすをしっかり見てほしい」とアドバイスをくれた。来年以降中学受験を控えているご家庭はこうした分析も参考に、お子さんにベストフィットな学校を見つけてほしい。