IT企業としての教育への取り組み…インテル副社長デイビス氏

 日本青年会議所は12月18日、「たくましく生き抜く力を育むための教育フォーラム」を開催した。

教育ICT その他
フォーラム開会のあいさつをする日本青年会議所 会頭 相澤弥一郎氏
  • フォーラム開会のあいさつをする日本青年会議所 会頭 相澤弥一郎氏
  • インテル セールス&マーケティング統括本部 副社長/ワールド・アヘッド・プログラム部長 ジョン E. デイビス氏
  • ジョン E. デイビス氏
  • PISAの学力調査で日本は10位以内に入るも、けっして高いわけではない。上海など新興地域の学力向上がめざましい
  • 先進国では軒並み製造業の市場がシュリンクしている。反面、ICT市場が立ち上がりつつある
  • イノベーション・エコノミーを推進する3E
  • 教育スタイルの変化
  • 日本(葛飾区)の事例紹介
 日本青年会議所は12月18日、「たくましく生き抜く力を育むための教育フォーラム」を開催した。このフォーラムを主催した「たくましく生き抜く力実践委員会」は、子供たちに自分の意思で正しい選択を行う能力をつけてもらうべく、教育関係団体を連携させながら、社会全体で教育を支える基盤を確立することを目指して活動している。フォーラムでは、文部科学省 大臣官房の広報官による講演、IT関連企業や教科書の出版社、大学教授などによるパネルディスカッションが行われた。

■イノベーション・エコノミー時代の人材育成

 基調講演では、インテル セールス&マーケティング統括本部 副社長/ワールド・アヘッド・プログラム部長 ジョン E. デイビス氏が「イノベーション・エコノミー時代の人材育成」というタイトルで、IT企業としての教育への取り組みについて、グローバルな活動を紹介した。そのうえで、民間企業にできる教育支援やその目的・意義についても発表した。

 まず、インテルグループは、「ワールド・アヘッド・プログラム」として、グローバルな教育プログラム、人材育成プログラム、医療・健康プログラムなどを推進しており、単に技術者を育てるだけでなく、起業家の育成や学校の教師を対象としたITスキルの支援なども展開していると、デイビス氏は言う。また、このフォーラムに参加することで、日本の教育に関するグラスルーツ活動の存在を知り、そしてその活動に関わることができて光栄であると挨拶した。

■Intel Teach Program

 インテルは、コンピューターのCPUなどを開発しているメーカーだが、関連する技術は、教育にも活用可能であり、あらゆる可能性がある(Enable)と考え、ワールド・アヘッド・プログラムを実践しているという。具体的には、1億ドルの予算を確保し、65か国、1,000万人の教師にPCやITを使った教育プログラムを提供しているとした。「Intel Teach Program」と呼ばれるこの活動は、学校や子どもにPCを与えるだけで終わりとするのではなく、子供に勉強を教える教師に、ICTの活用や新しい技術を教えて、実際の勉強や指導に生かしてもらうという内容だそうだ。

 インテルがなぜこのようなプログラムを推進するのか。その背景として、世界的に先進国で縮小する傾向にある製造業のトレンドをあげた。先進国やGDPの高い国では、工場や拠点を海外に移すなどして、製造業で100万人規模の雇用が減少し市場にも影響を与えている。しかし、同時に新しいICT技術により新しい製品やサービスも増えている。これが縮小する市場による雇用減を補完する効果があると考えるので、イノベーションの促進が重要となるというわけだ。

 21世紀型の教育スキルを身に付けた教師が、児童や生徒を指導することで、新しいサービスや技術を開発したり起業したりする人材が増えていく。これが新しい市場や雇用を創出する。インテルでは、これをイノベーション・エコノミーと呼び、そのための教育改革や人材育成のプログラムを展開しているそうだ。

 デイビス氏は、21世紀型の教育は、学校による教師中心のモデルから、学校プラスコミュニティや社会、インターネットを活用した、児童・生徒中心の学習モデルにシフトすると述べる。そして、生徒が教師の元に集まって勉強するスタイルから、生徒がネットや図書館、コミュニティ、社会を利用して勉強するスタイルに変わってきているとも主張する。そのため、教師も、このような現実を踏まえた教育や指導をする必要があるとした。

■インテルの取り組みの事例

 続いてインテルの取り組みの事例をいくつか紹介した。まず、中国では、GDPに占める教育費の割合を2.5%から4%まで上げる政策にからんで、この10年で1,000万人の教師がIntel Teach Programを受けたことを紹介した。トルコでは65万人の教師がプログラムを受講したという。スペインでは、教育コンテンツの拡充を支援し、プログラムを導入して2年のポルトガルでは、Teach Programを実施した学校でのPC普及率が90%まで向上し、教材やコンテンツの共有にWikiのシステムを活用しているという。ちなみに、ポルトガルの学校で採用されたPCは、すべて自国で生産された製品だそうだ。

 日本では、受講実績が30万人とあまり高くないが、葛飾区の小学校の事例が紹介された。この小学校では、東芝製の教育用PCが導入され、児童のプレゼンテーションスキルと共同作業の効率が向上したと述べた。

■日本の取り組みは不十分

 しかし、デイビス氏は、日本の取り組みはまだ不十分だと考えている。PISA(OECD Programme for International Student Assessment)の学習到達度調査では、日本はトップ10に入っているものの、8位というポジションだそうだ。上位には中国、韓国、フィンランド、香港、シンガポールといった他のアジア諸国の名前が並ぶ。葛飾区の事例でも高い効果が得られているので、潜在的な能力では、日本はもっと上位に入れるだろうというのがデイビス氏の考えだ。

 このフォーラムでも、民間の参加企業は、インテル、マイクロソフト、シスコシステムズといった外国資本が多い。これらの企業は、教育事業を自身の市場拡大やビジネスチャンスを広げるために必要な戦略的投資と位置付けている。子どもたちや教える側の教師に、正しい情報リテラシーやICTスキルを身につけさせることで、長期的なICT市場の安定、および拡大させるという戦略が根付いている。日本企業や政府にも、さらなる取り組みを期待したい。
《中尾真二》

中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。エレクトロニクス、コンピュータの専門知識を活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアで取材・執筆活動を展開。ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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