世界の高校生が激論、NYの模擬国連国際大会に実践女子が参加

 全国の高校生たちがニューヨークでの国際大会の出場権を巡り競い合う「全日本模擬国連大会」。実践女子学園のペアが優秀賞を受賞し、ニューヨークの国際大会に出場した。優秀賞受賞の背景、国際大会の経験などについてインタビューを行った。

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国際模擬国連でのM.S.さんとY.S.さん
  • 国際模擬国連でのM.S.さんとY.S.さん
  • インタビュー時のM.S.さんとY.S.さん
  • 嶋野恵子校長
  • グローバル教育副部長の奥井雅久教諭
  • インタビュー時のM.S.さん
  • インタビュー時のY.S.さん
 高校生が一国の大使となって、与えられた議題について調査し、実際の国連の会議と同じように議論、交渉をし、決議を採択する。国際問題への理解や英語によるコミュニケーション力、交渉力などを深めることを目的として2007年にスタートした「全日本模擬国連大会」。この大会に実践女子学園(東京都渋谷区)の高校2年生の2名が出場し、みごと優秀賞を受賞。ニューヨークの国際大会への出場を果たした。

 そのいきさつを、嶋野恵子校長、グローバル教育副部長の奥井雅久教諭、そして3週間前にニューヨークの全米大会から帰国したばかりというM.S.さんとY.S.さんに聞いた。

◆女性として社会でどう活躍するか、将来を見越した教育を重視

--実践女子学園の教育方針についてお聞かせください。

嶋野校長:本校は、「品格高雅」にして「自立自営」しうる女性を育成するという建学の精神のもと中高6年間の一貫教育を行っています。生徒たちが、希望する大学に進学するための学力をつけることはもちろんですが、私たちはその先のことも見越した教育を行っています。

 社会に出て働くときに必要なのは、大学で学んだ知識だけではありません。コミュニケーション力や課題解決力、自己教育力、情報活用力、将来設計力といった力です。それらは、中高の6年間でこそ身につけるべきだと考えており、授業だけでなく、委員会活動や行事、部活動など、さまざまな活動を通じて、こうした力をはぐくむようプログラムされています。

--実践女子学園では、グローバルスタディーズクラス(GSC)という、国際教育に特化したクラスを作られたとのこと。今回模擬国連に参加されたM.S.さんとY.S.さんもGSCのクラスだそうですね。GSCとはどのようなクラスなのか教えてください。

嶋野校長:本校にはスタンダード実践クラス(SJC)と、GSCがあります。SJCは、開学以来一世紀にわたって培われてきた本校の正統派の教育に加え、時代のニーズに合わせた教育を行うクラスです。GSCもコアとなる教育方針はSJCと同じですが、海外経験があったりインターナショナルスクールで学んでいたりなど、日本の学校で学んできた学生とは教育歴の異なる生徒たちを対象として、世界で活躍できる真の国際人を育成することに、より力を入れた教育を行っています。

 GSCを作ったのは、教育歴が異なる生徒が無理に同じ環境で学ぶのではなく、分けることによって、それぞれの良さをより伸ばすことができると考えたからです。2008年にスタートし、M.S.さんとY.S.さんは、その一期生です。

◆模擬国連参加は生徒主導で行われた

--模擬国連へは、GSCとして参加されたのでしょうか。

奥井教諭:模擬国連で上位を占める学校は、部活動の一環として参加するなど、学校をあげての取組みを行っているところが多いのですが、本校では、有志の生徒が手を挙げての参加でした。ですから、優秀賞の受賞は思ってもいなかった快挙です。今では、後に続きたいという後輩たちも出てきたので、今は同好会活動として取り組んでいます。

--そもそも模擬国連に挑戦しようと思ったきっかけを教えてください。

M.S.:私はNYで生まれたということもあって、国際問題に漠然と興味がありました。中2のときに、卒業生の先輩から、模擬国連というのがあると聞き、近くの国連大学で全国大会が開催されるというので見に行ったのです。参加者たちが英語で激しい議論を戦わせるのを見て、すごく刺激になり、ぜひ出たいと思いました。でも、出場は高校生から。高校生になるのを待ちかねてようやくチャレンジしたのです。

Y.S.:私はM.S.さんに誘われました。一緒に組んでくれるパートナーがいないという電話をもらったので、そこまで言うのなら、と。

M.S.:そのときは助かったと思いました。Y.S.さんがペアになってくれなかったら長年の夢はかなわなかったのですから。

--全国大会に出るまでにはどんな審査があるのですか。

奥井教諭:1次審査では、課題に対して、英文エッセイと和文を提出します。103チームがエントリーし、52チームが本大会に進みました。1次審査の募集要項が出たとき、2人はオーストラリアに短期留学中でした。留学先で資料を集め、メールでやりとりしながらのエントリーでした。不利な環境で、よく1次審査を通過できたと思います。

◆全国大会では寝ずの作戦会議でリベンジ

--全国大会でのようすを教えてください。

M.S.:10月1日の1次の合格発表の後、本大会の議題が発表されます。今年の議題は「エネルギー安全保障」。私たちはオーストラリアの大使となることが決まりました。11月の本大会に向けて、オーストラリアについて、またエネルギー問題について資料を調べ、自分たちはどういう立場で何を主張するのか、綿密な準備をしました。

奥井教諭:その間も、通常の授業や定期テスト、文化祭などの行事もありますから、本当に2人とも大変だったと思います。

--本番のようすを教えてください。

M.S.:1日目は、強豪チームに押されっぱなしでリーダーシップが取れず、不利な展開のまま終わってしまいました。でも、10月にがんばったことを思い出し、夜寝ないで翌日の作戦を立てました。

Y.S.:くじけそうなときは、スキマスイッチの「ゴールデンライムラバー」を聞いて元気を出しました。

--どのような作戦をたてたのですか。

M.S.:実はどこのグループの決議案も似たり寄ったりだったので、リーダーシップをとっていたチームの決議案の矛盾点を見つけて、それに対して修正を求めるという作戦に打って出ました。強豪校が居並ぶ中、最後まであきらめずに交渉をし、少しずつ味方を増やしていきました。最終的には私たちの決議案が採択され、それが優秀賞につながったと思います。

◆NYの国際大会では、主張の異なる人との交渉の難しさを実感

--晴れてニューヨークの全米大会に出たわけですが、いかがでしたか。

M.S.:最終的には5チームが選ばれてNYに行き、国際大会ではジンバブエの大使として人道支援をテーマに議論しました。スピーチで存在感を示すために、国名を書いたプラカードを議長から見えやすく挙げるなど工夫しましが、なかなか指名してもらえず、不利な進行が続きました。

Y.S.:国際大会では、日本での大会と違って、論理を積み上げて説得するよりも、論理はしっかりしていなくても話が上手でパフォーマンスが目立つ人のほうが有利に展開する場面が多かったことが印象的でした。私たちは、スピーチよりも非公式の交渉のほうが得意だったので動き回って交渉しやすい席を取るなど、英語力や交渉力以外にもテクニックがいろいろ必要なのだなとわかりました。これは後輩に伝えたいスキルです。

--今回の経験で得たことは何ですか。

M.S.:模擬国連がなければ一生知ることもなかったであろう国際問題に関する知識、まったく主張の異なる人との交渉の難しさ、たくさんのすばらしい仲間たちとの出会いです。ただ、国際大会で私たちの決議案が可決されなかったことは心残りです。

--将来の進路にこの経験はどう活かされますか。

M.S.:中1くらいのころから国際的な仕事がしたいと思っていましたが、模擬国連に挑戦したことでより一層その思いが強くなりました。国際問題について学べる大学に進みたいと思います。

Y.S.:私は、普通の主婦になって家庭に入るのが理想と思っていたんです。でも、実践女子学園で学ぶうちに、資格を取得して人のためになる仕事がしたいと思うようになりました。また、今回の経験で、自分は交渉をすることが好きなんだと気づきました。漠然とですが、弁護士になって、人を助ける仕事ができればいいなと思っています。

--ありがとうございました。
《石井栄子》

石井栄子

子育てから、健康、食、教育、留学、政治まで幅広いジャンルで執筆・編集活動を行うフリーライター兼編集者。趣味は登山とヒップホップダンス、英語の勉強。「いつか英語がペラペラに!」を夢に、オンライン英会話で細々と勉強を続けている。最近編集を手掛けた本:『10歳からの図解でわかるSDGs「17の目標」と「自分にできること」』(平本督太郎著 メイツ出版)、『10代から知っておきたいメンタルケア しんどい時の自分の守り方』(増田史著 ナツメ社)『13歳からの著作権 正しく使う・作る・発信するための 「権利」とのつきあい方がわかる本』(久保田裕監修 メイツ出版)ほか多数

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