東大、幼若期ストレスが社会性に与える影響を証明

 東京大学は8月20日、幼若期のストレスが脳発達に与える影響を明らかにしたと発表した。マウスを用いた実験から、幼若期の社会的隔離経験が、成熟後の集団生活行動に及ぼす影響を調べた。社会性障害の治療法や介入法への寄与が期待される。

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いす取りゲームのような「社会的競争状態」を作り出すと、幼若期社会隔離ストレスマウスは参加したがらなかった
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 東京大学は8月20日、幼若期のストレスが脳発達に与える影響を明らかにしたと発表した。マウスを用いた実験から、幼若期の社会的隔離経験が、成熟後の集団生活行動に及ぼす影響を調べた。社会性障害の治療法や介入法への寄与が期待される。

 発表したのは、同大大学院医学系研究科附属疾患生命工学センター健康環境医工学部門のベナー聖子大学院生、遠山千春教授らの研究グループ。文部科学省による脳科学研究戦略推進プログラムの一環として研究した。

 生後2週間の間、1日あたり数時間だけ母親と兄弟から引き離し、社会的隔離ストレスを与えたマウスを作出。生後3週目以降は、普通のマウスと同様に飼育し、成熟後は14匹の同性マウスと集団生活させ、行動を解析。幼若期の社会的隔離経験が、成熟後の集団生活における行動様式に及ぼす影響を調べた。

 その結果、新奇な状況に置かれたときの探索行動は、社会的隔離経験がある雄マウスで増加した一方、社会的隔離経験がある雌マウスは減少傾向にとどまったままだった。

 また、飼育装置の水が飲める時間帯を制限し、マウスが水飲み場に殺到して奪い合う「社会的競争状態」を一時的に発生させたところ、社会的隔離経験のある雄マウスでは水飲み場の占有率が大きく低下。「競争環境下における劣位性」を引き起こすことを示した。同様の影響は、雌マウスには認められず、幼若期の社会的隔離ストレスの影響は雄の方が受けやすいこともわかった。

 影響が確認された雄マウスの脳組織について解析したところ、幼若期社会的隔離経験マウスでは海馬の神経活動の低下、扁桃体の神経活動の増加が示された。前頭前皮質では、神経形態制御に関わるとされるMap2、ストレス情報伝達に関わる酵素であるHSD11β2も低下。脳内分子の発現量と、競争優位性の順位にも相関が認められた。

 海馬や前頭前皮質はストレス応答の制御に関わり、扁桃体は恐怖や不安といった情動反応をつかさどる脳領域として知られている。調査の結果からは、競争環境下における劣位性という行動は、他者との接触に伴うストレスを避けたがるために生じていると示唆され、社会性の障害の中でも自閉スペクトラム症(ASD)や不安症を有する人の一部にみられるような、他者との接触を避けたがることに類似している可能性が推察されるという。

 これらの研究成果は、幼若期の一時的な生育環境上のストレスが、将来の社会性を変容させることを示す初めての科学的根拠であり、生育環境が社会性障害の発症や重症化の要因となる可能性を強く示唆するものだという。

 幼若期の虐待やネグレクト(育児放棄)については、人格形成に大きな影響を及ぼすことが知られているほか、ASDや注意欠陥・多動症(ADHD)でもみられる社会性障害の要因となっている可能性が指摘されている。研究グループでは、「社会性の障害の治療法・介入法開発の加速が期待される」としている。

 今回の研究成果は、「Physiology& Behavior」2014年8月18日オンライン版に掲載された。
《奥山直美》

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