【OpenEd 2014(1)】オープン教科書(Open Textbook)の普及支援と効果検証

 11月19日~21日にワシントンDCにてOpen Education Conference 2014に参加しました。このカンファレンスでは、オープンエデュケーションやオープン教材の普及と活用に関する実践報告や情報共有が行われています。

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 Lumen Learningが支援する取り組みとして、Tidewater Community Collegeの"Z-degree"プログラムがあります。これは科学の準学士号(associate degree)を取得するための教科書を無償で提供し、学生が負担する年間1200ドルの教科書代をゼロにすることで、学習効果を高めようとする取り組みです。

 このような活動の前提には、米国において教科書代が高騰し(1冊数百ドルするものも)、多くの学生(2/3というデータもあるようです)が教科書を持たずに講義を受けたり、教科書を買えないために講義を取ることを諦めるという問題があります。学生が多額の借金を抱えて卒業することも社会問題化しており、この原因の一つが教科書代の高騰です。いくつかの発表では、オープン教科書を導入したことで学生の教科書の所持率が上がり、講義の修了率が上昇としたとのデータが示されていました。

 そもそも適正な価格で出版社の教科書が買えないという状況に、根本的な問題があるようには思いますが、少なくともいまの米国においては、オープン教科書の導入が教育コストの削減に大きく寄与していることは確かなようです。また、学習効果についても「学生が教科書を使えるようになった」→「成績が上がった」という遠因を見ているだけなので、本当にオープン教科書だけが学習効果の向上に寄与しているのか、慎重に検討する必要はあります。オープン教科書が市販の教科書と同様のクオリティを保っているのかについても同様です。

 ある発表では、市販の教科書をオープン教科書に変えたことで、これまで教科書に付属していた補助教材を使わずに、教員が自作の教材を別途用意するようになったことで、教え方が柔軟になり学習効果が上がったとの報告もありました。オープン教科書が学習効果に与える効果については、今後より詳細かつ慎重な分析が望まれます。

※重田勝介氏のブログ、The Shigeta Way「オープンエデュケーションと教育工学、と日々の回想」より許可を得て転載しています。

【筆者プロフィール】重田勝介
北海道大学情報基盤センター准教授ならびに高等教育推進機構教育支援部オープンエデュケーションセンター副センター長。大阪大学大学院卒(博士人間科学)。東京大学助教、UCバークレー客員研究員を経て現職。研究分野は教育工学・オープンエデュケーション。大学によるオープンエデュケーション事業に携わりながら、教育のオープン化と大学教育の関わりと可能性についての研究を進めている。著書に「ネットで学ぶ世界の大学MOOC入門」(実業之日本社)など。
《重田勝介》

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