大学生が考える21世紀型教育プログラム…慶應大学の矢部椋さん、天利朱さん

 慶應義塾大学経済学部の武山研究会は、企業との産学協同でサービスデザインを手がける学部生ゼミ。2014年はベネッセと連携し、小学生を対象に実証実験を行いながら、大学生が教育の新規サービス開発に取り組んだ。

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武山研究会で教育サービスの開発に携わったメンバー
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 慶應義塾大学経済学部の武山研究会は、企業との産学協同でサービスデザインを手がける学部生ゼミ。2014年はベネッセと連携し、小学生を対象に実証実験を行いながら、大学生が教育の新規サービス開発に取り組んだ。

 サービスデザインとは、インタビューなどを通じて人々の体験に関する情報を収集し、商品やサービス開発につなげていくマーケティング調査のひとつの手法。21世紀型スキルの育成をテーマに掲げ、実践力、思考力、基礎力を小学生たちが身につける方法を模索しながら、実証実験を繰り返し、ひとつのプログラムとして世に提供する。

 そんなプロジェクトに取り組んだ慶應大学の大学生たちが、教育のあり方と教育方法を模索する中で、何を発見し、どのような教育サービスを目指したのか、武山研究会4年生の矢部椋さんと3年生の天利朱さんに話を聞いた。

◆サービスデザインと21世紀型スキル

--まず、「サービスデザイン」の研究テーマを教育サービスの開発に設定した理由を教えてください。

矢部さん:私たちのゼミ「武山研究会」では、サービスデザインを使った商品開発やサービス開発を毎年企業と一緒に行ってきました。今年は、ベネッセさんとともに研究を進めていくことが決まったので、教育の分野で新規サービスの開発に携わることになりました。

天利さん:ベネッセさんからの要望を伺いながら研究を進めていく中で、私たちは今注目されている「21世紀型スキル」を大学のゼミを通じて培ってきたと感じていました。そこで、それを体現できる教育プログラムの開発はできないかと考え、他者とコミュニケーションをとりながら新しいアイデアを出したり、問題点を洗い出したりするプロセスを楽しく体験するためのプログラム開発に取り組みました。

◆アイデア豊富な小学生とのワークショップ

--実証実験の場となったワークショップの多くは、小学生を対象に行われました。小学生を対象に選んだ理由を教えてください。

矢部さん:メインの対象を小学生に絞った理由は、21世紀型スキルを育成するうえで、アイデアを共有する力やすぐに実験する力を重要視したことにあります。アイデアを出すことの大切さ、そのアイデアをすぐ実践に移して試してみる行動力を引き出せる年代を考えました。

 私たちの経験も影響しているのですが、中学生や高校生になると正解を探すことに注力する傾向があり、だんだんと確信のもてる正解しか発言しなくなってしまいます。大学生にもなると、正解のみを発言することが当たり前になってしまい、自分の考えに対し自信がもてない場合は発言しないという引っ込み思案になってしまう。

 小学生は、まだそこまでいっていないのではないか。小学生に、恐れずアイデアを出すことの大切さや、すぐ試してみることの意義を伝えることができないかと思い対象を絞りました。

--実際に行ったワークショップ(実証実験)の内容を教えてください。

天利さん:教育プログラムを考えるうえで、何より大切にしたのが「楽しい」というキーワードでした。まずは、「学び」ということよりも、子どもたちが「楽しい」と感じることはどういうことなのかを考え、当初は脱出ゲームのような企画を実施し、小学生を招いていました。

矢部さん:2014年6月から計6回のワークショップを開いて、内容は各回それぞれでした。直近でいうと、4~5人の小学生グループを2つ作り、それぞれのグループに大学生をファシリテーターとして付け、「だるまさんがころんだ」という誰もが知っている遊びをより楽しくするためのワークショップを行いました。

 遊びのどの部分を楽しんでいて、どの部分で楽しみの度合いが下がるのかをグラフで可視化し、楽しんでいない時間をどのように補うかを小学生に考えてもらう。そのアイデアをもってもう一度ゲームを行い、また振り返りと再提案を行ったうえで、再度ゲームをして試してみるというサイクルを回しました。

天利さん:一つの例ですが、「尻尾取りゲーム」を行ったワークショップでは、グラフを通じて、尻尾をとった後の盛り上がりが欠けていることが明らかになりました。そこで、ワークショップに参加した小学生たちは、尻尾にポイントを付けるアイデアを出し、再度ゲームを行った結果、楽しみが増えたことが明らかになりました。

--参加者の反応はいかがでしたか。

矢部さん:「遊び」をテーマにワークショップを行っていたこともありますし、内容的にも既存の遊びをより楽しいものに変えていくことが目的でしたので、楽しみが増えていくことの実感を参加者たちは素直に喜んでくれました。可視化されたグラフをもとに、自分たちのアイデアが遊びの楽しみを増加させたことに満足感を得る小学生もいました。

天利さん:参加者の親御さんが、子どもの変化を感じてくださったのも大きな点です。ワークショップでの体験を、ほかのことにも応用する子どもも現れ、「楽しい」だけのワークショップではなく、ほかの創作活動に着手する参加者が出てきたことは嬉しい報告です。

 ワークショップをまた実施してほしいという保護者の声も多く、ゼミとしての活動がもうすぐ終わってしまうことに心苦しさも感じています。

◆誰でも実践できる教育プログラムの構築

--開発したこのプログラムをどのようにアウトプットしていく予定ですか。

矢部さん:ワークショップを開催するうえで、アフタースクールの関係者やたくさんの保護者にご協力いただきました。そのうえで、またワークショップを開催してほしい、学童保育でも展開してもらえないかという声をいただきました。

 現在は、誰でもこのプログラムを実施できるようサポートするファシリテーションブックの制作、研究の基本となった教育に対する考え方やファシリテーションブックを共有するためのWebサイトの構築、考え方に賛同する仲間を集めるFacebookグループの作成などに注力しています。

 Webサイトからファシリテーションブックをダウンロードしていただき、学童保育などで活用していただけるとよいと考えています。

--ありがとうございました。
《湯浅大資》

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