【私学訪問】仲間と支え合う成長を… 駒場東邦中学校・高等学校 平野勲校長

 駒場東邦中学校・高等学校は1957年、当時の東邦大学の理事長であった額田豊博士と都立日比谷高等学校の菊地龍道校長によって設立された。学校生活のようすや校風、大学入試改革への展望などについて、平野勲校長に話を聞いた。

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駒場東邦中学校・高等学校 平野勲校長に話を聞いた
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 駒場東邦中学校・高等学校は1957年、当時の東邦大学の理事長であった額田豊博士と都立日比谷高等学校の菊地龍道校長によって設立された。その教育理念は「資源のない日本では、頭脳の資源化こそ急務であるとの考えから、科学的精神に支えられた、合理的な考え方を持ち、自主独立の精神を持つ人物の育成が大切だ」というものである。

 この教育理念の実現のために、生徒・教員・保護者の三者相互の理解と信頼感を重んじつつ、大切な思春期の6年間に生徒ひとりひとりをしっかりと応援できる体制は、創立以来60年もの間、世間から高い評価を得続けている。

 駒場東邦中学校・高等学校における学校生活のようすや校風、大学入試改革への展望などについて、平野勲校長に話を聞いた。

◆分割授業やピアサポート、生徒の意欲と自由を育む取組み

--学校生活のようすについてお聞かせください。

 本校では、多くの生徒が学習以外の部活動や委員会活動にも積極的に参加しています。最近の活躍では、陸上部が第25回関東中学駅伝競走大会の関東大会に出場を決め、学校全体が湧きました。そのほか、囲碁部も全国大会の団体戦で準優勝、アーチェリー部も関東大会に出場するなど、生徒たちは多方面で活躍しています。

 また、本校には温水プールがあり、毎年文化祭で水泳部が行う「ウォーターボーイズ」という男子によるシンクロナイズドスイミングの公演は、今や名物のひとつとなっています。体育部、文化部、同好会とさまざまありますが、こういった部活動に憧れて入学してくる生徒は結構多いですね。これらの活動を通じて、さまざまなことを学び、仲間と切磋琢磨することで大きく成長していきます。

 また、学業面において特徴的なのは、1クラス40名の生徒を2分して実施する「分割授業」です。中学1・2年生の英語は、週1時間の外国人講師による英会話を含め、すべて分割授業で行なっています。理科実験では、毎週1時間の分割授業により、教員の指導が生徒ひとりひとりに行き届くよう密度の高い実験を行い、毎時間必ずその成果をレポートにまとめて提出します。

 数学は中学2年生では1クラスに2名の教員が付き、中学3年から高校2年の3学年では分割授業にしています。このほか、技術や武道、芸術の選択科目においても分割授業を行い、少人数で学習します。高校3年生の英作文のクラスでは、1クラス20名程度で毎時間添削指導をするなど、6年間にわたり手厚い指導が施せるカリキュラムとなっています。

--校風について、どのように表現できますか。

 生徒たちが皆、自由な学校だと言います。自由の定義はいろいろあると思いますが、駒場東邦の自由は、自由放任の自由ではなく、「何かやりたいと思ったことが、仲間と知恵を出し合って、協力して、実現できる」自由です。

 本校の生徒会活動は、生徒総会のほか、行政委員会と生徒議会があり、生徒ひとりひとりが責任を持って参画し活動しています。行政委員会は、選挙で選ばれた行政委員長をはじめ、各部、同好会などの代表者で構成し、各クラスから2名ずつ選出された議員で構成される生徒議会の議決を経て、生徒会の運営についての諸事項を企画、執行する機関です。

 最近、この行政委員会で生徒たちが新たに始めようとしているのが「ピアサポート」という取組みです。同じような課題に直面する人(=peer、ピア)同士が互いに支え合うという活動です。

 思春期という多感な時期である中学・高校の6年間に、さまざまな壁にぶつかることは誰しもに起こり得ます。そういった生徒を、教員や親ではなく、仲間同士だからこそ支え合える仕組みを作りたいと生徒たち自身が思い至りました。教員や親には言えないようなことでも、どんな些細なことでも、日常生活で何か困ったことがあったら先輩が相談に乗るよ、と。自分たちのことは自分たちで解決する力があるという、生徒たちの強い思いから生まれたのです。

 男子ばかりの集団ですが、父親的役割をする者、母親的な存在感を持つ者など、自然と役割分担ができています。彼らのこうした役割分担を生かしながら、学校という大きな集団を自分たちの力でより良くしたいと思ってくれているのは、本当に嬉しいことです。その思いは、先輩から後輩へと伝わり、中学生は高校生に憧れ、高校生は卒業生のようになりたいと願います。教員や親の一言より、先輩の一言の方が心に響きます。

 相談した生徒も相談を受けた生徒も守られなければならない面もあり、難しい取り組みではありますが、生徒同士が支え合っていこうとするこの意義深い取り組みを、できるところから形にしていくことが駒場東邦らしさであり、彼らの「自由」であると思っています。

◆色は何色? 卒業後も続く“縦のつながり”の秘密

--学校行事など伝統的な取り組みは何ですか。

 5月に行われる体育祭は、赤、白、青、黄のチームに分かれて競い合いますが、この色は中学1年生の時にクラスとは関係なく生徒ごとに割り振られ、6年間ずっと同じ色に所属します。色によって代々受け継がれている応援歌や競技の戦法などがあり、入学したての中学1年生はヒゲが生えた「5歳年上のおじさん」からそれらの指導を受け、5年後には「5歳年下の子ども」へと伝授します。こうして上下で11年間の繋がりが生まれるのです。卒業生同士が「色は何?」と挨拶代わりに質問したり、OB会名簿には所属した色の項目があったりするほど、体育祭の色の繋がりは非常に強く、本校の縦の仲間意識の強さと言えるでしょう。

 9月の文化祭は、生徒たちの研究発表の場です。毎年来てくださる多くのお客様に楽しんで頂こうと、全校あげて皆、張り切ってやっています。

 クラスや学年での友達づきあいなど横のつながりはもちろんですが、部活動や委員会活動、そして体育祭、文化祭といった行事などで、高校生が中学生の面倒を見るといった縦のつながりをとても大切にしています。これらが、協調性や思いやりの心の育成、多様な個性の尊重、リーダーシップの育成につながっていると思います。

 また、創立50周年に卒業生によって設立された「人材育成基金」を利用して、外部講師を招いて行う授業や、社会のさまざまな分野で活躍しているOBの講演会を実施しています。OBの講演会には保護者へも案内を出しており、自由に参加できます。

 在学中にどんな生活を送っていたか、学業成績はどうだったか、部活動や学校行事にどのように取り組んでいたかなど、自身の経験を大いに語ってくれるのですが、特に傾聴に値するのは、彼らの失敗談です。世間で活躍している大先輩も、たくさんの失敗を経たからこそ、今があるわけです。生徒にとっては、偉大な先輩方を身近に感じ、ならば自分も、と鼓舞される機会です。また、保護者にとっては、我が子のスランプや失敗も成長の糧であり、大人がすぐに手を貸すのではなく、子どもが自分の力で立ち上がることの大切さを実感として学べる貴重な場となっています。

◆渡航は全額無償 外で学ぶ機会を

--海外との交流について教えてください。

 駒場東邦では、卒業生の寄付金によって設けられた「交換留学生基金」を利用し、1983年からアメリカの私立スティーヴンソン校との間で、約1か月半の交換留学を実施しています。また、2012年より、台湾の名門校である国立台南第一高級中学との間でも交換留学が始まりました。

 おもに高校1・2年生を対象に内部選考会を行い、各1~2名が選抜され、派遣されます。費用は基金から出るため全額無償です。現地でホーム・ステイをし、代わりにパートナーを連れて帰ることになります。

 人数は少ないのですが、帰国後の報告会などを通して広くその体験を仲間に伝えて共有することで、そのほかの本校生徒にも国際的に広い視野と教養が波及することを期待しています。

--日本の大学入試の制度改革についてどのようにお考えですか。

 日本人はランキング好きですが、本来いろいろな尺度があるべきで、大学ごとの建学の精神や校風、研究内容などを充分に理解したうえで、目指す大学を決定できたら良いと思います。そのためには、いろいろなタイプの入試制度があっても良いのではないでしょうか。学歴や学閥は、以前よりは重視されなくなってはきているものの、まだ日本人は個人を評価することに慣れていないように感じますね。

 また、学習意欲の高い学生にはもっと海外で学べるように、奨学金制度のさらなる拡充にも期待したいです。今後、改革がどのような方向に振れても、本校の生徒たちには、すぐに動き出すことのできる土台をしっかりと作っておきたいと思っています。

◆辛い状況こそ見守って…自ら考え行動できる生徒へ

--先生の座右の銘を教えてください。

 「七転び八起き、人生に失敗はない」です。

 中学に入って間もない1・2年生のころは、自分のことだけで精一杯で、どうしても自我の衝突が起きます。しかし生徒たちは、その失敗から相手の気持ちを理解することを学んでいきます。そして高校生にもなると、お互いの良さを認め合えるようになります。

 また、中学3年生あたりから、「我が子が学校内で成績不振ではないか」とご心配される保護者が増えてきます。授業の難度が上がってくるころで、周囲も優秀ですから、平均点を取るのも大変です。子どもは精一杯努力しているし、一番悔しいのは本人です。そんな辛い状況の時こそ、じっと我慢して見守ってあげてほしいと思います。今、自分ができないことも、周囲の友人のやり方を真似してみたり、勉強の効率を上げる努力をしたり、試行錯誤しながら必ず乗り越えていきます。本校の生徒たちには、そのための観察力や集中力が十分に備わっています。

 確かに入学当初は保護者と教員が一緒になって、子どもに教えなければいけないこともありますが、徐々に距離感を変えていかなければなりません。彼らは、こうした失敗やスランプといった苦い経験を重ねながら、自分で再び立ち上がり、自立した大人へと成長していくのです。

--生徒には中高6年間でどのような成長を期待しますか。

 生徒にはできるだけ本物に触れてほしいと思います。林間学校で五感を研ぎ澄まして自然を観察するという経験も、企業などでの職業体験で仕事の現場を知るというのも、どちらも本物に触れる機会です。また、発達段階にふさわしい生活や活動を十分に経験することが重要です。特に、身体感覚を伴う多様な体験を積み重ねていくことが、子どもの発達には不可欠です。

 そのために、本校での6年間の前半にあたる、義務教育期間中の中学3年間は、生徒に対して保護者と教員が連携して基本的生活習慣や学習方法などを身に付けさせ、後半の高校3年間で「自ら考え行動できる」ように工夫しています。

 仲間の存在によって、自分の中の眠っていたものが目覚めていく。そんな経験をたくさんしてほしいと願っています。

--ありがとうございました。

 駒場東邦の「面倒見の良さ」。それは、教員や保護者という「大人」が手を差し伸べるというよりも、同じ学び舎に集う「仲間」同士が支え合う校風にこそ、その真髄があるのかもしれない。

 多感な思春期に、大人の言葉には耳を塞いでも、仲間の言葉だと聞こえてくることがある。その言葉に救われたなら、今度は自分が誰かの救いになれたらと願う。駒場東邦には、そんな思いが繋がった仲間たち、そしてその周りで、程よい距離感で静かに見守ってくれる大人たちの豊かな包容力がある。
《加藤紀子》

加藤紀子

京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。現在はリセマムで編集長を務める。

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