【私学訪問】超一流になれ…「ぶれない基準」を作る教育 麻布中学校・高等学校 平秀明校長

 麻布学園は1895年、教育者・江原素六氏によって設立された。卒業生は、総理大臣から音楽家、脚本家に至るまで、多彩な分野で活躍している。同校の平秀明校長に、学校生活や校風、大学入試改革に向けた展望を聞いた。

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 麻布学園は1895年、教育者・江原素六氏によって設立された。江原氏は「青年即未来」を教育理念として掲げ、青年こそが未来の扉を開く担い手であり、未来そのものであるという信念に基づき、中等教育に全力を傾注したという。自由闊達な校風で、勉学においても諸活動においても生徒の自主性を育む教育方針だが、東京大学への合格者数で全国ベスト10を半世紀以上もの間キープし続けている存在でもある。卒業生は、総理大臣から音楽家、脚本家に至るまで、多彩な分野で活躍している。同校の平秀明校長に、学校生活や校風、大学入試改革に向けた展望を聞いた。

--学校生活のようすについてお聞かせください。

 学外の方からは、生徒の外見でまず驚かれますね。私服ですし、文化祭や運動会が近づくと、髪の色がカラフルになったり、ユニークな髪型になったりする生徒も現れます。

 本校には校則がありません。入学したての中学1年生から、ひとりの大人として扱います。それは、生徒への全面的な信頼の上に成り立っています。「昼休みは昼食の時間」という決まりはないので、午前中に早弁し、昼休みは部活や自治活動に打ち込んだり、友達と遊んだり、近所のコンビニなどへ出かけることも、奨励はしていませんが、認めています。この自由な雰囲気に戸惑う子もいれば、自由を履き違えて自分勝手なことをし、周りに迷惑をかけてしまう子もいます。けれども2、3年経てば自然と自分がどのように振る舞うべきかわかってきます。生徒を自由にすることで、弊害より得られるもののほうが多いと私は思っています。

 本校の授業は昔からずっと、アクティブラーニングの形態です。「自ら調べ、考える」が学びの根本だと考えているからです。中学の入試問題を見ていただければわかるのですが、「書く」ことを重要視しています。たくさんの資料を読み、自分の考えをまとめ、それを論理的に伝えられる力を身に付けてほしい。麻布では、単なる知識のインプットという一方通行な授業は行いません。検定教科書に頼るのではなく、教師が腐心して準備したオリジナルのテキストやプリント教材などを使っています。

 たとえば現代文の授業では、教師が厳選した作品を読み、それに対して与えられたさまざまな「問い」に対し、生徒たちが数名のグループになって議論します。答えはひとつではありません。議論の結果をクラス全体で共有することにより、生徒たちは多くの視点を得ます。一読しただけではまったく理解できなかった文章を、こうして互いに掘り下げていくことで、作者の深遠なメッセージや時代背景など、その作品の奥行きに気づくことができるのです。

 中学3年生では、指定された近現代の文学作品の中から1作を選び、原稿用紙100枚にもおよぶ卒業共同論文を課しています。高校1年生には、社会科基礎課程修了論文(通称、修論)を課します。テーマは政治・経済から歴史、哲学まで多岐にわたります。毎年、本当に高校生が書いたのかとその道の専門家を唸らせるような論文もあります。

 このように本校では、主体的な学習姿勢を形成し、幅広い人間理解、豊かな感性や論理的思考力の育成を目指しています。

 答えがひとつではない学びが中心となっているからか、学校全体として、たとえ相手が教師であっても、その意見を鵜呑みにすることを良しとしない文化があります。創立者が「江原さん」と呼び親しまれたように、麻布では伝統的に教師のことを「先生」ではなく「さん」づけで呼びます。ニックネームで呼ばれる教師もいます。教師と生徒との距離が近いのです。

 友達同士でも、互いの個性をぶつけ合い、認め合う雰囲気があります。自分の中に「ぶれない基準」があれば、相手に流されることもありません。校則がないのは、外から縛るのではなく、この「ぶれない基準」を自らの中に作ることが目的なのです。麻布の教育は「自分が進むべき道は自分で決める」というマインドを作るための教育です。「人に言われて動くなんてカッコ悪い」と思うようになる。そんな空気が流れているような気がします。

--校風について、どのように表現できますか。

 自由闊達・自主自立が校風です。「自由」を唱える学校は全国にいくつもありますが、本校の自由は「掛け値なし」の自由です。麻布の自由は、生徒の外見のことを指すかのように捉えられがちですが、決してそのような表面的なものではありません。「生徒ひとりひとりの内面的精神的な自由が保障されている」ということです。

 「麻布は柵のない放牧地のようなものだ」と表現されることがあります。柵がないので自由に動き回るのですが、時には崖から落ちてしまう生徒がいます。無論、犯罪行為やいじめ、暴力は絶対に許されません。ただ、そのほかの失敗については、1,800名もの少年たちが、それぞれ自己主張しながら集団で生活を行うわけですから、どうしても色々な問題が起きてしまうものです。校則が厳しい学校なら即退学という事例もないわけではありません。

 しかし、本校では、そこが「教育の始まるところ」だと考えています。受け入れた生徒が、自分たちの教育のなかで悪いことを起こしたら、それは学校の責任ですから。生徒が失敗したからといって放り出すことは絶対にしません。

 麻布には1学年7クラスに正・副担任がおり、14名の教師で構成される学年会が生徒たちを支えています。生徒同士の諍いも起こりますし、怪我や病気、不登校、テストの出来不出来など、あらゆる問題を学年会で共有します。毎週開かれる会議は、数時間に及ぶこともあります。

 問題を起こした生徒については、学年会の教師達と話をしたり、思っていることを書かせたり、保護者の方にはご家庭でのようすを知らせてもらったりしながら、この子はもう大丈夫だというところまで這い上がらせてやります。将来、社会に出ても、二度と同じ過ちはしないだろうと確信を持てるところまで、教師達は手を尽くすのです。

 本校は面倒見が悪い学校とよく言われるのですが、本当はとても面倒見が良い学校なのです。ほとんどの生徒は問題なく卒業していくので、実は水面下で教師達が一生懸命に支えていることに気づかないまま卒業してしまいます。しかし、学習や生活の面で教師から指導されたことのある生徒にとっては、麻布の面倒見の良さが身にしみてわかるでしょう。
《加藤紀子》

加藤紀子

京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。現在はリセマムで編集長を務める。

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