最高倍率88.1倍、医学部の実質倍率と難易度の関係

 「大学全入時代」と呼ばれる状況で、「医学部」の人気が上昇し続ける理由とはなんだろうか。医歯専門予備校の学院長がその理由を解説し、医学部合格のための戦略を伝授する。

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 「大学全入時代」と呼ばれる状況で、「医学部」の人気が上昇し続ける理由とはなんだろうか。医歯専門予備校の学院長がその理由を解説し、医学部合格のための戦略を伝授する。

医学部の「難易度」は倍率だけではわからない



 そもそも「医学部」は全国にいくつあるのかご存じでしょうか。

 2016年4月に東北薬科大学に医学部が新設され、東北医科薬科大学となりました。これで現在、日本の医科大学、医学部を持つ大学は国公立・私立を合わせて80大学になりました。内訳は国立42、公立8、私立30校です。

 さらに厳密には大学ではありませんが、防衛医科大学校もあり、これを加えると医学部は全国に81あることになります。

 また、千葉県成田市に国際医療福祉大学医学部の設置が「国家戦略特区」の事業として目指され、2017年4月に開設を目標としています。ここが開設されると医学部は82大学(防衛医科大学校を含む)になります。

 この大学の設置は、「医療は成長産業」とするアベノミクスの「成長戦略の具体化プラン」と言ってもいいかもしれません。

 紆余曲折はあったようですが、成田空港が近い地の利を特徴として活かし、海外から教授、留学生を20名程度受け入れ、日本人教員も海外医療経験が豊富な人材を採用するとしています。外国人患者も積極的に受け入れ、「医療ツーリズム」の拠点ともしたいといったことです。

 思惑はともあれ、同大学の計画では6年次に全員が1カ月の海外臨床実習、英語での授業の実施、成田市内に600床の附属病院開設などが予定されています。

 次に、医学部の「倍率」を見てみましょう。

 倍率には「志願倍率」と「実質倍率」があります。

 「志願倍率」は、志願者数÷募集定員のことです。「見かけの倍率」とも言われることもありますが、これは、志願者数=受験者数ではないこと、募集定員=合格者数ではないことによります。

 志願者全員が受験するとは限らず、また大学側も入学辞退者が出ることを見越して募集定員を超えて合格させたり、辞退者が出た場合、追加で合格者を出すこともあるため、実際の「倍率」(実質倍率)は志願倍率と変わってきます。

 それが、志願倍率を「見かけの倍率」と言う理由です。

 一方、「実質倍率」は、受験者数÷合格者数で求めます。

 私立大学医学部では繰り上げ(追加)合格者数を公表しない大学が少なくありません。実質倍率がわからない大学もありますが、わかっている大学では2016年度、一般入試で最も実質倍率が高かったのは藤田保健衛生大学(後期)の88.1倍、次いで近畿大学医学部(後期)の73.8倍です。

 センター試験利用入試では、東海大学医学部(神奈川県地域枠)が34・9倍、藤田保健衛生大学が32.7倍と続きます。

 同じく2016年度で理工系と比べると、早稲田大学基幹理工学部は3・9倍、創造理工学部は4.4倍、先進理工学部は3.4倍ですから、医学部の倍率が非常に高いことがわかります。

 同じ大学で比べても慶應義塾大学についてみると、医学部は8.6倍、理工学部は3.6倍で、医学部が最も高倍率です。近畿大学でも理工学部は4.3倍ですが、医学部は前期10.6倍、後期73.8倍でした。

 しかし、倍率が高い大学=入試難易度が高い大学とは言えません。

 東京大学理科3類、京都大学医学部とともに、すべての大学入試で最難関と言われる慶應義塾大学医学部も、倍率だけで言えば、私立大学医学部の中では下位に位置します。だからと言って入りやすいかと言えば違います。

 たとえば、2015年度入試で定員108名に対して7,095人が受験し、実質倍率29.0倍だった帝京大学医学部、定員70名に対して4,864人が受験し、実質倍率33.1倍だった東海大学医学部が、入試難易度が最も高いかと言えば、そうではありません。

 入学試験は定員が100人ならば、何人受験しようが上位100人が合格です。自分よりも成績上位者が99人いても、自分が100番であれば合格できるのです。自分より成績下位の受験生は1万人いようが、自分の合否にはまったく関係ないのです。

 大切なのは、倍率よりも「受験者層」を見ることです。

 受験の合否は「受けた受験生同士の比較」で決まるのですから、「この大学にはどの程度の学力の受験生が受けに来ているのか」をきちんと見ることが欠かせません。

 A大学の受験者の中では1,000人中100位、B大学の受験者の中では300人中200位になることもあります。

 A大学もB大学も募集定員が100人だったとしたら、志願倍率10倍のA大学は合格ですが、志願倍率3倍のB大学は合格することができません。

 B大学を受けた300人は、A大学を受けた1,000人よりもかなり学力レベルが高かったということです。

 東大志望者の中では苦戦しても、人気がなく定員割れの大学の志望者の中ではトップになれる可能性があるということです。

 つまり、「倍率が高いというだけで諦める必要はない」とも言えます。同時に、もうおわかりのとおり、「倍率が低いから入りやすいとは限らない」ということでもあります。

 実は、なかなかこの部分を理解していただけないことが多いのです。

 2015年度入試の東京慈恵会医科大学の実質倍率は6.4倍です。倍率は医学部の中では極めて低いと言えます。

 この倍率だけを見て、「倍率が低いところを受ければ、合格する確率は高いわけですね」と考える受験生や親御さんもいます。しかし、東京慈恵会医科大学は、私立の中では慶應義塾大学と肩を並べるくらい難易度の高い大学です。

 なぜ実質倍率が低く出ているのかと言うと、「難しすぎて無理」と諦める受験生が多いからです。さらに国公立大学医学部と併願する受験生が多いため、国公立医学部に合格すると、入学を辞退する受験生が多くなります。そのため、繰り上げ合格者数も多くなります。

 受験者数が少ない上に、繰り上げ合格者が多いため総合格者数も多くなるので実質倍率は低くなります。

 このように、倍率を見ても入試難易度はわかりません。

 しかも、倍率は日程などによって受験者数が変わるので、それに伴い変化します

 また「隔年現象」と言われるものですが、前年度の倍率が高いと翌年は敬遠する受験生が増えるために、倍率が下がることがあります。いったん下がると、今度は志願者が増えて再び倍率上昇に転じます。これは特に地方の国公立大学で顕著です。

 倍率の高低と「入りやすさ」はまったく別物と考えてください。

(※本記事内の情報は2016年6月時のものです)

医学部合格完全読本(田尻 友久 著/かんき出版)より「医学部入試の最新情報」

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<著者プロフィール:田尻 友久(たじり ともひさ)>

医歯専門予備校メルリックス学院 学院長。大阪府出身。同志社大学法学部卒。銀行に入行後、複数の上場企業を中心とした企業グループの統括部門を経て、1996年から医学部受験にかかわり、2000年に私立医学部・歯学部受験を専門とするメルリックス学院を創立、学院長に就任し、現在に至る。予備校関係者でさえも想像に頼る部分が多い医学部入試について、全国の大学医学部から直接話を聞き、正確かつ最新の入試情報を得ている。毎年メルリックス学院から発行される「私立医歯学部受験攻略ガイド」は今や、受験生やその家族はもちろん、高校、塾、予備校でも医学部受験指導の必需品となっており、大学関係者からも高い評価を得ている。

《リセマム》

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