今回の実験を共同でおこなう丸井グループ、旭硝子とバカン、3社の代表にサービスの狙いをインタビューした。
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何階のトイレに向かうべき?トイレの混雑をリアルタイムに表示する
実験がおこなわれているのは有楽町マルイの2階から4階の女性トイレと、4・6・8階に配慮の必要な方向けに設置されている優先トイレの“みんなのトイレ”、および5階の授乳室だ。
2階のトイレのうち1箇所に、空き状況を知らせるデジタルサイネージ(情報ディスプレイ)が設置されている。デジタルサイネージには、ガラス面に直接薄型の液晶ディスプレイを貼り付けるという旭硝子の最先端技術「infoverre」を搭載。AGC旭硝子の宮川卓也氏は「ガラスに直接薄型の液晶ディスプレイを貼り付けて放熱する仕組みとしているので、通常のデジタルサイネージが必要とするファンを省けることから、省スペース設置が可能になります」とその技術の特徴を説く。同じ技術は都内を走る東急東横線の一部駅のホームドアなどにも採用されている。
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各階のトイレの個室には、ドア開閉センサーを設置して利用状況を判断。センサーが取得した情報はいったんクラウドに集められ、トイレの利用状況をリアルタイムに配信する。
優先トイレである“みんなのトイレ”の場合は、扉の開閉では利用状況を判断できない。ここでは、個室の中に人がいるか・いないか、複数のセンサーから取得した情報を統合的に処理したうえで使用状況を判別してクラウドにデータをあげている。たとえばよくある人感センサーだけに頼ってしまうと、個室の中にいる使用者が静止してしまった場合、判定に誤りが生じることもあるので、これを避けるための独自のロジックが組み込まれているのだという。この部分の状況解析にはAIが利用されている。
利用者は館内に設置されたデジタルサイネージ上で、またはサイネージの画面に表示されるQRコードをスマホやタブレットで読み込むとアクセスできるWebブラウザ上から混雑状況が確認できる。このフロアのトイレは個室が5つあり、そのうち、現在は2つが空いている。上の階には授乳室が2つあり、1つが空いている。といったことがリアルタイムに確認できるようになる。
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なお、トイレの混雑状況に応じて、空いている時間帯にはデジタルサイネージの表示を広告配信に切り替える。特定施設の混雑状況に合わせて、デジタルサイネージに最適な情報を表示したりクーポンを発行する独自の仕組みである「VDO(Vacant-drivenDisplayOptimization)」はスタートアップのバカンが開発した特許技術だ。今回の実験では混雑状況を常時分析して、空室情報と広告配信を切り替えるというシンプルな処理をおこなっている。今後は、その時間帯やフロアに最適な、もっとも効果のある広告を状況に応じて表示するといった応用もAIを活用すれば考えられるとのこと。
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丸井グループの新規事業推進部 チーフリーダーである根本綾子氏は、あるイベントでバカンが出展していた技術を目にして、マルイ店舗のサービス改善に活用したいと考えたことが、今回の実証実験がはじまったそもそもの経緯であると振り返る。
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バカンの河野剛進氏は「この技術は元々レストランの空席状況を参照するためのシステムとして開発したものですが、トイレの空き状況がリアルタイムに反映されるのが特徴です」と話す。今回はトイレの個室の使用状況を確認することが目的なので、主にはドアに開閉センサーを設置しているが、レストランの空席確認についてはカメラや人感センサーなど複数のセンサーから取得したデータを統合・解析しながら、推定待ち時間などの情報も合わせて導き出せるという。
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丸井の積木麻美氏は、オープンから11年を迎えた有楽町マルイの店舗サービスをプロデュースしてきたキーパーソンだ。「これまでにもお客様の声に耳を傾けながらサービスの改善に努めてきましたが、トイレの待ち時間を解消してほしいというご要望は常にいただいていました」と語る。
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積木氏は国内外の商業施設を自らの足で巡りながら、より快適に利用できる洗面所施設の研究に時間を費やしてきた。実際に有楽町マルイでも、過去に大規模な改修工事を実施して個室トイレの配置を増やしたこともある。それでもやはり多くの来店客で混み合う時期などにはニーズを満たしきることは難しい。配管工事を伴うトイレの改修は売り場のリノベーションよりも思い切った投資が必要になるため、頻繁に実施できるものではないという。「トイレをより快適にご利用いただくために、AIやIoTの技術が有効に使えるのでは」と考えたことから、今回の実証実験に踏み切ったと積木氏は振り返る。今回の取材は実証実験がスタートしてまだ間もない時期におこなったが、積木氏、根本氏ともに確かな手応えを感じているようだった。
シニア世代や観光客にも嬉しい!安心なトイレに人が集まる?
デジタルサイネージであれば、スマホが使えない年配の方々にもトイレの空き状況が一目でわかる。またモバイル端末による確認も専用アプリを必要としないので、日本語がわからない海外からの観光客にも活用のチャンスが広がるだろう。
Webアプリ版のサービスではユーザーからのアンケートも募集している。丸井グループの根本氏は実証実験について「今後はお客様へのインタビューも実施しながら実験への認知度や使ってみた手応えなど、詳しい声を集めたい」と述べている。反響の是非によっては、今後も定期的に内容をアップデートした実験がおこなわれたり、あるいは店舗の本サービスとして導入される可能性も有り得る。
また、実証実験から得たデータを元にバカンが開発した技術を活用してデジタルサイネージの広告表示の有効な活用方法に新たな道筋が見えてくるかもしれない。何より「有楽町でのトイレの利用はマルイが安心」という情報は、街に足を運ぶすべての人々にとって有益なものになるはずだ。
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