森下みさ子先生に聞く「おもちゃとの出会いと別れ」が育む人間力

 子どもの成長とともに増えていくおもちゃを前に片付けに頭を抱える親と、大切な存在を手放すことへの幼心の大きな葛藤。おもちゃとはどう出会い、どう付き合い、どう別れるべきか。児童文化・玩具文化が専門の白百合女子大学人間総合学部教授の森下みさ子先生に聞いた。

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児童文化・玩具文化について研究する白百合女子大学・森下みさ子先生
  • 児童文化・玩具文化について研究する白百合女子大学・森下みさ子先生
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  • 「マックでおもちゃリサイクル」で再生されるリサイクルトレイ
  • 「マックでおもちゃリサイクル」回収ボックスイメージ
  • 日本マクドナルド「子供のおもちゃお片づけに関する母親意識調査」2018年2月
 子どもの成長とともに増えていくおもちゃ。大量のおもちゃを前に片付けに頭を抱える親と、大切な存在を手放すことへの幼心の大きな葛藤。経験のあるご家庭が多いのではないだろうか。

 2018年2月に日本マクドナルドが発表した調査結果によれば「子どものおもちゃの片付けの状態に満足しているか」という質問に対し、8割を超える保護者が「不満」と回答している。さらに「おもちゃを手放すときには、子どもに納得した上で手放してほしい」と9割以上が回答したものの、「部屋にスペースがない」などの現実的な理由で納得させていることが大半で、モノの大切さ自体を教えることに関してはほとんどの保護者が悩んでいることがわかった。



 新年度を迎えるにあたって、自宅の大掃除を計画しているご家庭も多いだろう。おもちゃとはどう出会い、どう別れるべきか。おもちゃとの上手な付き合い方について、児童文化・玩具文化が専門の白百合女子大学人間総合学部教授の森下みさ子先生に聞いた。

子どもにとっての「良いおもちゃ」は大人にとって「悪いおもちゃ」?



--一言で「おもちゃ」といってもその種類はさまざまで、保護者としてはおもちゃ選びの段階から悩んでしまいます。子どものために「良いおもちゃ」を選びたいと考える保護者は多いと思いますが、はたして「良いおもちゃ」とはどのようなものなのでしょうか。

 大学で「おもちゃ論」という講義を担当しています。初めに学生たちに「あなたが考える良いおもちゃ・悪いおもちゃ」について聞くんです。すると判を押したように、良いおもちゃは「木製・ブロック・積み木」、悪いおもちゃは「テレビゲーム・攻撃性の高いもの」という答えが返ってきます。しばらくおいてから「楽しくて思い出に残っているおもちゃは?」と聞くと、回答はガラリと変わってリカちゃん人形やポケモン、ベーブレードなど、当時の流行玩具やゲームの名前がどんどん出てきます。学生たちの表情も途端に生き生きして「それ懐かしい」「よく遊んだよね」と盛り上がります。一般的に大人が考える「良いおもちゃ」が、子どもにとって「楽しい思い出とともに記憶に残る良いおもちゃ」とは限らないと、学生を通していつも実感しています。

インタビューに応える白百合女子大学・森下みさ子先生

 おもちゃは「持ち遊び(玩び)」が語源と言われています。つまり「手に持って遊ぶもの」です。いくら大人が教育的な効果のある良いおもちゃだと思って与えても、子どもが持って遊んだり、遊んで楽しいと思わなければ、おもちゃの存在価値はありません。教育的意義の高いものでなくても、一般的に「俗悪的」と考えられがちな流行玩具でも、子どもが生き生きと遊べるのであれば、それこそが「良いおもちゃ」なのです。おもちゃは子どもにとって相棒であり、友達とも言える存在です。やり取りすること自体が楽しい、それができるものが「良いおもちゃ」だと考えます。

 素材の観点でいうと、大人は木製を良いと考える傾向が強いのですが、プラスチックのおもちゃであれば、鮮やかな発色・軽さ・ツルツルしたなめらかな手触りなど、その素材でしか味わえない良さがあります。その点、ハッピーセットのおもちゃは「持ち遊び」ができるものが多いですよね。つまり、対話能力があるおもちゃが多いと思います。軽量で、手のひらサイズで動く要素が多く、手軽に遊べる。素材や機能を大人の価値観で判断するよりも「子どもがそのおもちゃをどう扱い、どう対話して、どのような楽しい体験ができるか」で想像しながら、選んでみるのが良いのではないでしょうか。

大切なのは「おもちゃとの対話」



--まさに、親として「こんな力が伸びる」というキラーワードに左右されて、おもちゃを選びがちな自分に気づきました。教育的意義だけに捉われないおもちゃの奥深さとはどのようなものでしょうか。

 おもちゃで遊ぶ際の重要な要素は「対話」です。ただそこに置いてあるだけでは、ただのモノでしかないおもちゃと「対話」する。これは子どもにとってすごい経験です。初めてのおもちゃを手にしたとき、遊び方がわからない、うまく遊べないなど、おもちゃとの対話が成立しない場面もありますよね。でも、初めはうまく回せなかったコマが上手に回せるようになると、まるで自分の意思が通じたかのような気持ちになり、さらにうまく回すために工夫をし始めます。可愛いだけの人形が、着せ替えをすることで世界がどんどん広がり、お世話をしたり、一緒にままごとで遊ぶようになる。知識を得るのとは違う「意思のない相手(=おもちゃ)と付き合う」という体験は子どもにとって、ほかには得難い貴重な体験です。

 「意思がない相手」とは言え、おもちゃと対話するには、自分を押し付けるだけではうまくいきません。そのモノをうまく生かしながら遊ぶことに人間力を高める教育的な効果があります。親が高価なおもちゃを与えて「壊しちゃダメ」とハラハラしながら遊ばせていては、子どもとモノとの対話が成り立たず、おもちゃのもつ力も生きません。子どもが真剣に、思い切り触れ合うことで、おもちゃは相棒になります。相棒になると愛情が湧き、子どもはおもちゃを大事にします。 大事に思うからこそ、自然と片付け方も自分で考えるようになるのです。おもちゃの教育的意義は、モノ単体としてではなく、おもちゃとの間に築かれる関係性の中にあります。

自己・他者・モノ=おもちゃの三角形



--子どもがおもちゃと対話することにおもちゃの奥深さがあるのですね。親として子どもがおもちゃで遊んでいるときの声のかけ方や、見守り方を変えてみようと感じました。子どもとおもちゃのより良い付き合い方について先生のご意見を聞かせください。

 おもちゃとの関係性を考える際に「おもちゃの三角形」という言葉をよく使います。自己・他者・モノからなる三角形、この三者の関係が重要です。先ほどのお話は「自己とモノ」の二者関係でしたが、そこにもうひとり、親や友達が加わると三角形になります。大人であれば言葉で交流できますが、子どもの場合は言葉が拙いために人と関わるには難しさが生じます。そこに、おもちゃが入ることで、やり取りやお互いをつなぐものが生まれます。自己・他者・モノ=おもちゃ、その関係性のなかで思い切り遊ぶことで「自分と他者とは同じ」「一緒」と感じる体験、いわば「溶け合う体験」ができるのです。この体験はその先の成長の大きな土台になります。

「おもちゃを通して『一緒にいることの心地よさ』を学ぶことで人間力を養える」と話す森下先生

 一緒に遊ぶ際に、うまくいかずにケンカすることもあるでしょう。おもちゃが壊れたり、取られたり、そこで遊びが中断してしまうことで、子どもは「どうしたら良いだろう」と考えます。そして「あのとき、おもちゃを投げてはいけなかったな」と反省したり「今度は友達に貸してと言おう」と困難の乗り越え方を学んだり、実体験を通して知ります。はじめは、なかなか意思の通じ合わなかった相手であっても「今日はすごく楽しかった」という気持ちを共有したとき、その場にいる他者やモノと「一緒にいることの心地良さ」を味わうことができます。その心地良さが体験として蓄積されることで「他者を傷つけてはいけない」「モノを大事に扱う」という、生きていく上でのベースが育っていくのです。

おもちゃとのお別れ、タイミングはどう見極める?



--おもちゃとの付き合いの途中でも、借りていたおもちゃを友達に返す、壊れて修理に出すなどおもちゃを手放すシーンがあると思います。そうした段階を経ながら「もう遊ばない」おもちゃとお別れするタイミングはどう見極めるべきでしょうか。

 人間もそうですが、別れ方は、出会い方、付き合い方とセットです。どう出会って、どう過ごしたか、そのプロセスはおもちゃひとつひとつで違うはずです。なので、別れ方も「こうするべき」と一概に決めることはできません。耐久性があり、長く使えるおもちゃは自分の子どもや孫まで受け継ぐ、思いのこもった人形はたとえ遊ばなくてもそばに置いておきたい、というように別れなくても良いおもちゃもあるはずです。

 一方で、流行玩具などは一時期夢中になって遊び、子どもが「もう十分遊んだ」「もういいや」という気持ちになったら、それが別れどきです。短いスパンでも「楽しかった」「満足した」と子ども自身が思えればそれで良い。子どもの気持ちに寄り添い、きちんと汲み上げることで良い別れのタイミングがつかめるはずです。

 お別れするときも、出会ってから今までのおもちゃとの関係はどうだったか、そして今の関係はどうかを含めて判断するのが良いですね。その結果、「普段は使わないけれど思い出としてとっておきたい」という理由で、捨てずにとっておくことも間違いではないと思っています。ただ「高かったから」とか「いつか使うかもしれないから」という値段やいつ実現するかわからない今後の予定を加味することはお勧めしません。

児童文化・玩具文化について研究する白百合女子大学・森下みさ子先生
「まずは大人が、出会いから別れまでを『物語』として大切にする心をもつことが大事」と話す森下先生

おもちゃに「ありがとう、またね」…家族がすべきサポートとは



--おっしゃる通りですね。出会わせるときも、お別れのときも、つい親が先行して判断してしまいがちです。子どもの気持ちを置き去りにしないように、子どもの気持ちを感じ取りながら「お別れ」するために家族ができるサポートはありますか。

 保護者の方から「片付けることを考えながらおもちゃを買っている」というお話をよく聞きます。子どもが成長したり、おもちゃが増えたりすると、親は捨てること・整理することを考えがちですよね。私は、捨てる・片付けるという枠組みではなく「感謝してお別れできる仕組み」を各家庭でもってほしいと考えます。

 子どもは「物語」を経て育ちます。おもちゃとどのように付き合って別れたか。お別れするとモノ自体はなくなるけれど、体験で得た「物語」は自分の中に残ります。それを積み重ねることで自己を形成していくのです。家族がすべきサポートは、こうした体験が大事だということをきちんと子どもに伝えることではないでしょうか。「もう要らないよね?」と言って親主導でおもちゃを手放させるのではなく、「このおもちゃとたくさん遊んだね。こんな遊びが好きだったよね。一緒にいっぱい遊べて嬉しかったね」とストーリーを作ってあげることです。単なるモノとして見るのでなく、子どもと付き合ってくれた相棒として、子どものひとつの物語の中に入れてあげる。今まで思う存分遊んだからこそ「ありがとう」とお別れできるという気持ちを、まずは大人がもち、子どもに伝えてあげることです。そうすることで、出会いから別れまでおもちゃを通して得た一連の体験によって、子どもたちの人間力が育っていくのです。

--大人の都合を押し付けるのではなく、同じ目線でおもちゃに感謝の気持ちを伝える。なんだか温かい気持ちでお別れができそうです。子どもがおもちゃとお別れするためのサポートのひとつとして、日本マクドナルドでは2019年3月15日より「マックでおもちゃリサイクル」というプロジェクトを実施しています。ハッピーセットのおもちゃを店舗に持参し、店内に設置された「おもちゃ回収ボックス」に入れると、リサイクルの工程を経て、おもちゃが緑のトレイに生まれ変わるという取組みです。おもちゃとのお別れの仕方として、このプロジェクトの上手な活用法を教えてください。

変身したおもちゃは、緑の「リサイクルトレイ」になって、再びマクドナルドで出会える

 子どもにはリサイクルの概念がなかなか理解しにくいものです。ですので、大事に遊んだおもちゃがゴミのように消えるのではなく「たくさん遊んだおもちゃがカッコよく変身するんだよ」「トレイに変身してみんなの役に立つんだよ」と子どもに伝えていくと良いと思います。男の子はもちろん、女の子も「変身」が大好きですから。自分がおもちゃとお別れすることで、おもちゃは新しい命をもらって変身し、みんなの役に立つというストーリーは、子どもにとっても素敵な体験になるはずです。

--本日はありがとうございました。

 日本マクドナルドが展開するプロジェクト「マックでおもちゃリサイクル」は、2018年に初めて実施された取組みだ。日本全国約2,900店舗という規模を生かして社会貢献をする「Scale for Good」の一環として行われている。「健やかな子どもを育む」というスローガンのもと、ただおもちゃを回収するだけでなく、リサイクルすることで子どもたちの心も成長するよう、子どもたちの気持ちに寄り添ったキャンペーンとして実施される。2年目となる2019年は、実施回数を春・夏・冬の年3回に増やして展開、春の回収期間は3月15日から5月9日まで。たくさん遊んだあとにお別れすることにしたハッピーセットのおもちゃを店舗に設置してある回収ボックスに入れることで参加でき、回収されたおもちゃは通常のトレイとは異なる、緑の「リサイクルトレイ」に変身して店舗に帰ってくる。

「マックでおもちゃリサイクル」回収ボックスイメージ
おもちゃの出会いと別れの機会を提供することで、モノが社会の中で循環していく仕組みを体験できる

 学生たちから話を聞くと、マクドナルドでの思い出話が本当にたくさん出てくるそうだ。普段は仕事で忙しいお父さんや、家事に追われているお母さんも、それぞれ好きなものをオーダーして、ニコニコごはんを食べる。森下先生曰く、その上おもちゃまでもらえるという喜びは、大人が考える以上に子どもの中で楽しい体験になっているとのこと。家族の楽しい時間に付いてくるハッピーセットのおもちゃとの出会いは、そこでしか体験できないおもちゃとの対話の始まりだ。おもちゃとの出会いと別れの場、モノが社会の中で循環していくリサイクル体験を子どもたちに提供する良い場になるのではないだろうか。
《畑山望》

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