SAPIX玉井滋雄先生に聞く、親子旅での学びと生かし方

 生きた歴史を感じ・体験する旅での学びについて、多くの中学受験生を指導されてきたSAPIX小学部 社会科の玉井滋雄先生に、専門家の視点でお話をいただいた。

教育・受験 小学生
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SAPIX小学部 社会科の玉井滋雄先生
  • SAPIX小学部 社会科の玉井滋雄先生
  • 親子での体験が、子どもの学びに大切(写真は2018年の奈良ツアーのようすです。ツアー行程は時期によって異なります)
  • 実物に触れることで、考え方や視点が変わってくることもある(写真は2018年の奈良ツアーのようすです。ツアー行程は時期によって異なります)
  • インタビューに応えるSAPIX小学部 社会科の玉井滋雄先生
 2013年にスタートしたJR東海ツアーズの「親子で行く修学旅行」。その人気は回を重ねるごとに高まり、リピーターも増えているという。生きた歴史を感じ・体験する旅での学びについて、多くの中学受験生を指導されてきたSAPIX小学部 社会科の玉井滋雄先生に、専門家の視点でお話をいただいた。

親の知見を子どもへ伝える機会に



--JR東海ツアーズでは季節ごとに、歴史・伝統文化を見て・聞いて・体験する「親子で行く修学旅行」(京都・奈良・伊勢志摩の各コース)を実施しています。こうした親子で学ぶ旅について、どう思われますか。

 “子どもの教育”を考えたときに、まずは学校教育、受験なら学習塾とありますが、やはり基本となるのは家庭での教育。そのひとつとして、親がもっている知見を子どもに伝えていくことがあります。知見を伝えるといっても、歴史や文化に詳しくなくても問題ありません。親御さんたちも、かつては学校で歴史や地理を勉強し、修学旅行で奈良・京都を訪れたことのある方も多いでしょう。子どもと一緒に改めて修学旅行を再体験することで、当時こんなことを習ったな、と思い出したことを語ってあげるだけでも楽しいもの

 中学生くらいになると、話すほうにもある程度の知識が求められるでしょうけど、小学生のうちは純粋な好奇心からくる疑問も多い。お子さんに質問されて、たとえわからなかったとしても、帰って一緒に調べたり資料で確認したり、何かを一緒にやってみることが、新たな学びにつながるのではないでしょうか。

特別な体験を共有することで会話も生まれる



--親子での体験が、子どもの学びに大切ということですね。

 歴史的な名所や建造物だったり、美しい景色だったり、実物を目の前にして心にせまるものがあると思いますが、その感動や体験を身近な人と共有することが大事です。しばらくたってからも、あのときああだったよねって話をしたり、後から思い返したりする追体験にもなります。一緒に体験をしているからこそ、会話が広がって、良好な親子関係にもつながるのではないでしょうか。せっかく親子で旅行をするので、学ぶことを目的にするだけでなく、他愛のない話をしたり、思ったことをいろいろ話し合ったりする機会になればいいですね。

親子での体験が、子どもの学びに大切(写真は2018年の奈良ツアーのようすです。ツアー行程は時期によって異なります)
親子での体験が、子どもの学びに大切
※ 写真は2018年の奈良ツアーのようすです。ツアー行程は時期によって異なります。

--旅行前にはどんな準備をしたらいいでしょうか。アドバイスをお願いします。

 せっかくこういう旅なので、多少なりとも下調べをして新しい知識をもって行くのがいいと思います。予備知識があると、現地で話を聞いたり、観光名所にある案内板などをみたりしても理解がしやすく、頭への入り方も違ってくると思います。とはいえ、勉強の予習になってはおもしろくないですから、あくまで楽しみながら準備ができるといいですね。

 たとえば、目的地の地図を用意して、どこを見てまわるのか確認して、訪れる場所を書き込むだけでもいい。旅のしおりを作るのもお勧めです。行き先について調べたことを書き込んだり、現地で質問したいこと、実際に見て確かめたいことなどを書いておいたりすると、よりいっそうの理解につながると思います。

地図で下調べ


旅のしおりを作る


質問や確認したいことを書き出す



新幹線の移動には、必ず地図帳を持って



--新幹線での移動も含め、中学受験生の社会科の学習に役立つポイントがあったら教えてください。

 中学入試では新幹線にまつわる問題も頻出です。東海道新幹線であれば、東京を出発してどの都道府県を通過するか順番に並べ替える問題や、車窓から見える景色から、どこを通過しているかを問うといった問題が出題されます。海側の座席であれば海岸線の特徴が見えたり、陸側であれば富士山が見えたり。牧ノ原あたりでは茶畑が見えてくるので、静岡がお茶の産地であるという教科書の知識を実感できますよね。また、「一級河川・〇〇川」などと書いてある看板を見て「今、〇〇川を渡ったね」と地図帳を見ながら確認するのもいいでしょう。

 車窓から見える景色から今どのあたりを通過しているのかをイメージできるのも新幹線の楽しみです。親も子も、スマホやゲームをしている暇はありません(笑)。

奈良・京都には中学入試頻出テーマが盛りだくさん



--ツアー行程(※1)についていかがですか。

 平城宮跡歴史公園や法隆寺など、奈良を代表する世界遺産として知っておきたい項目ですね。飛鳥時代の文化に目を向けたり、万葉文化館で「令和」の出典元となった万葉集について学んだりするのもよいでしょう。たとえ教科書に出てこないお寺でも、川原寺(弘福寺)でお坊さんの話を聞いたり写経体験をしたりするなかで、「大化の改新」の中心となった中大兄皇子に関するお話が出てくるかもしれない。自分が習った歴史と、現地で見たり聞いたりしたものが、思わぬリンクをしたときの驚きや感動が必ずあると思います。そこで「おもしろいな」と感じ、さらに学びが深まることもあるでしょう。

 京都についても、名立たる世界遺産をはじめ、東山文化と中学受験的にも重要なところを盛りだくさん回っていますね。十円玉の図柄である平等院や清水寺(※2)など、写真で知っているものを実際に見られるというのは感動があると思います。やはり写真と実物とでは、はスケール感や受け取る迫力が全然違いますから。

 文学史と関連付けて知っておきたい、源氏物語の華やかな世界に触れる経験も楽しいでしょう。また、ここ10年ほどは、出題側において日本の伝統への関心が高まっている傾向があり、それが入試問題にも反映されています。過去には、和食の配膳や伝統工芸について問う出題もありました。京懐石や京菓子作りなどの体験は、日本の伝統文化への興味の入口としてもいいですね。

※1 ツアー行程は時期によって異なります。
※2 2019年10月現在、清水寺は改修工事中です。

「親子で行く修学旅行」秋のツアーの詳細ページへ

暗記ではない、知識を結び付けて解くような出題に注目



--まさに、歴史が展開された舞台に身を置きながら、生きた歴史や文化を学ぶことができる旅ですね。旅で得たリアルな学びは、中学入試にどのように生きてくるのでしょうか。

 昨今の入試傾向としては、建物の写真を見て単純にその名前を聞くとか、単に暗記したものをそのまま吐き出すような問題から、写真や資料、問題文を読み解いて、どんなことに気付いたかを問うといった内容に変わりつつあります。たとえば、銀閣寺には東求堂という書院造の代表的な建造物があるのですが、そのビジュアルを見せて「書院造とはどういう特徴があるのか記述しなさい」といった、説明を書かせるようなもの。歴史的背景について深く問うたり、一方向ではない知識を結び付けて考えさせたりする問題が増えてきています。

 もちろん、旅行で見学できる場所は、試験に出題される範囲の一部かもしれません。ですが、五感も、頭も使いながら実物を見た経験があると、ほかの項目を机上で学ぶときにも考え方や視点が変わってくるという相乗効果があると思います。

実物に触れることで、考え方や視点が変わってくることもある(写真は2018年の奈良ツアーのようすです。ツアー行程は時期によって異なります)
実物に触れることで、考え方や視点が変わってくることもある
※ 写真は2018年の奈良ツアーのようすです。ツアー行程は時期によって異なります。

旅を楽しむなかで、結果的に学びになればいい



--「現地で見聞きしたことが、今後の学びにつながる」ということですね。では、歴史や地理について、苦手意識を感じている子どもはどうでしょうか。

 社会科が苦手に感じている子と旅行するのであれば、あえて下調べをしないでいきなり実物に触れるのもいいかもしれません。少しでも自分が知っていたものと、目の前の実物が結び付く経験をすること、親子で楽しく話しながら旅をすることで、苦手意識が払しょくされるきっかけになればいいですね。親御さんも、「大仏って大きいね!」でもなんでもいいんです。大人と子どもの見方は違うので、思ったことを素直に口に出すことに意義があります。親御さんが興味をもつと、子どもも興味をもつきっかけになりますから。

 ただ、「せっかく費用を払うのだから、しっかり学んで!」と、親が欲張るのもよくないです。何より、親子で楽しんだ経験そのものが思い出としても色濃く残っていくもの。楽しく旅行をするなかで、結果的に学びになったり、好きになったりするきっかけになればいい、くらいの気持ちでいることが大切です。

知れば知るほどおもしろい、それが社会科!



--「子どもに学びを押しつけない」耳の痛い保護者も多そうです。最後にお聞きしますが、先生にとって、社会科の楽しさとはどんなところでしょうか。

 社会科を受け持つようになってから20年以上経ちますが、人に教えるということは、自分の理解も深くないといけないので、日々勉強している意識があります。社会という科目は、歴史でも地理でも「知れば知るほどおもしろい」という面がありますね。僕自身、若いときと同じ旅先に行っても、より深い知識を得た今のほうが「ああ、これはそういうことか」と納得し、さらなる知見が広がっていると感じます。親御さん世代も、大人になった今だからこそ、旅先で得られるものや感動も大きいと思います。

--まだまだ見識の少ない子どもたちに、社会科の楽しさを伝えるにはどんな工夫があるのでしょうか。

 子どもたちに教えるときには、子ども目線に立って身近なものに例えて説明したり、歴史であればストーリーに沿って話したり、歴史上の人物の魅力をいかにいきいきと伝えるかということを心がけています。学校や、僕の授業で見聞きしたことが、テレビを見てわかったり旅行でわかったり、いろいろなところでつながる経験が大切。それが記憶に深く焼き付いていくことにつながります。そのチャンネルのひとつとして、「親子で行く修学旅行」はとても有意義な経験になると思います。僕も、我が子が大きくなったらぜひ行ってみたいと思っています。

インタビューに応えるSAPIX小学部 社会科の玉井滋雄先生
インタビューに応えるSAPIX小学部 社会科の玉井滋雄先生         

「親子で行く修学旅行」秋のツアーの詳細ページへ
--ありがとうございました。

 子どもの学びと知的好奇心を存分に満たしてくれて、親は修学旅行を再体験できるという「親子で行く修学旅行」。普段あまり話すことのないお寺の方によるご案内や食事マナー、作務体験といった実生活に結び付く体験もすることができる。観光名所を巡るだけではなく、貴重な体験も盛り込まれていることで、その記憶は参加者の胸に深く刻まれることだろう。日々忙しい親御さんと小学生にこそお勧めしたい、魅力が詰まった旅をぜひ体験していただきたい。

2019年9月~11月の親子で行く修学旅行 <京都>・<奈良>・<伊勢志摩>


 JR東海ツアーズでは文部科学省、文化庁、国土交通省、観光庁、京都市、京都市観光協会、奈良県・三重県協力のもと、2019年9月~11月に「親子で行く修学旅行 <京都>・<奈良>・<伊勢志摩>」を実施。世界遺産あり、貴重な体験ありと教科書だけではわからない「生きた歴史」を学ぶコースとなっている。いずれの行程も、JR東海ツアーズ各支店、Webサイト、電話にて出発14日前まで申し込みを受け付けている。
《吉野清美》

吉野清美

出版社、編集プロダクション勤務を経て、子育てとの両立を目指しフリーに。リセマムほかペット雑誌、不動産会報誌など幅広いジャンルで執筆中。受験や育児を通じて得る経験を記事に還元している。

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