そこで、中学受験指導のカリスマ講師にして子育ての専門家である小川大介先生に、これからの世の中で子どもが身に付けるべきPCスキルや、保護者が使いこなすと受験のサポートが楽になるであろうデジタルツールについて聞いた。
オンライン学習は
スマホ画面では「事足りない」
--オンライン授業について、どれくらい浸透しているとお感じになっているでしょうか。
3月から5月にかけての休校期間中に、全国のご家庭において、オンラインで授業を受けること、学ぶことについて、受け入れ度合いが一気に進んだと実感しています。特に中学受験生家庭では、オンライン授業を一度も体験していないお子さん、親御さんはほぼ皆無ではないでしょうか。
ただし、オンラインでの学習をうまく使えているご家庭と、そうでないご家庭とに大きく分かれているのが現実です。
--今年は中学校の情報を得る場としても「オンライン」が注目されており、オンライン入試実施の情報も出始めています。中学受験当事者にとってのPCスキルの必要性を、先生はどのようにお感じになっているでしょうか。
「PCスキル」という言葉の中には、さまざまな要素が含まれていますね。整理をすると、
(1)パソコンやスマートフォン、タブレットなどの基本操作ができる
(2)情報を得る
(3)情報を整理する
(4)情報を分析する
(5)自分の考えやアイデアを表現する・発信する
などがあります。
中学受験当事者に限った話ではありませんが、(1)と(2)のスキルは今の小学生全員に必要な力だと思います。また、(3)(4)(5)は一律に身に付けるべきスキルというよりは、子どもそれぞれの個性、特性によって使い分けさせてあげれば、子どもの才能を自由に引き出し伸ばすのに役立つと思います。
中学受験生の保護者にとっては、(1)(2)(3)が必要ですね。学校の説明会もオンライン開催が増えていますし、変動要因の多い今年はインターネットを介した情報収集が重要になります。
このほか、大人も子どもも、必要な情報を探し出す「検索スキル」と、信用性の低い情報を排除する「情報リテラシー」を高めていく必要があります。
そして何より、この休校期間で明らかになった重要な点は、「なんでもスマホで事足りる」と考えていた人の多くが、休校およびテレワーク環境になったときに、画面サイズの大きいタブレットやパソコンがないと困るという体験をしたことでしょう。
画面が小さいスマホでは情報の一覧性が低く、ブラウザとアプリを同時操作することにも向いていません。まとまった分量の文章を書くことにも向いておらず、こと学習においては制約の大きいデバイスだと気付いたのではないでしょうか。そして、スマホしか使っていない家庭の場合、Wi-Fiなどの通信環境が整っていないことも、今回浮き彫りになりました。
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親子でのルール決めが必要
--ご指導されている生徒さんや先生ご自身のお子さまをご覧になっている中で、子どもたちのPCスキルはこれだけ優れている、あるいはこういった点が必要なのではないかと思われる点はありますか。
子どもたちは、先に述べた「デバイスの基本操作」に関しては大人以上に習熟が早いので、とりあえず使わせてあげさえすればすぐに使えるようになっています。彼らにとっては、スマホ、タブレット、パソコンの垣根がないようすも、さすがデジタルネイティブという感じですね。中学生のわが子のようすを見ていても、友だちや先輩から教えてもらってアプリをどんどん使っていますし、SNSを活用して子どもたちの間で学び合いが進んでいます。
小学生でも、デジタルゲームに親しんでいる子は使い慣れていますね。オンラインでつながっている場合、チャットを使いこなしてコミュニケーションを取ることも当たり前のように行えているようです。
それだけに、子どもたちにPCを扱わせるにあたっては、親子でのルール決めが重要だと思います。何のために使うのか、していいことといけないことは何かを親子で話しておく、使ってみたい機能や試してみたい使い方が出てきたら、まず親に相談して許可をもらうといった、親子の関わりが大切です。新しくアプリをインストールしたいときも、親の許可が必要な設定にしておくといったペアレンタルコントロールは必須です。
ただし、ここで親が気を付けたいのは、子どものほうが自分よりもPCについて詳しいかもしれないと思っておくことです。自分が知らないから、わからないからといって頭ごなしに否定するのではなく、子どもの要望、興味に耳を傾け、一緒に考える姿勢をもつようにしたいですね。
一方で、子どもがPCをある程度使い慣れるまでは、丁寧に使い方を教えてあげることも大事です。仕事でPCをよく使う親御さんがやってしまいがちですが、「ドラッグ」やら「クリック」やらパソコン用語を当たり前に使って、口だけで説明しようとすることがあります。
子どもは「これなら自分でもできそう」と思えることは喜んでやりますが、「なんだか難しそう」「できる気がしない」ということには近寄りません。言葉であれこれ説明しようとするのではなく、実際にやってみせて、それから子どもにもやらせてあげて、といった教え方を最初はしてあげてほしいですね。
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受験勉強と「Microsoft 365」
--リセマムでは今回のインタビューに先立ち、お子さんの受験においてPCや「Microsoft 365」を活用している例をマイクロソフトの社員の方々にお聞きしました。受験指導のお立場から、これらの活用方法は中学受験でどのように役に立つのか、こうしたことを行うことで受験期のお子さんや保護者のどんな部分をサポートできると考えられるでしょうか。
【活用例】
「OneNote」を利用した親による学習コンテンツのキュレーション
無料で視聴できる動画コンテンツの活用
単一ではなく、複数の選択肢を同時並行でやることによるカリキュラムの調整
オンライン遠隔授業で先生と画面共有しての授業(「Microsoft Whiteboard」/「Office Lens」×「OneNote」の利用、マルチデバイスでPCやスマホなどで好きな時間に好きな場所で勉強)
「Office Lens」を活用したドキュメント保存、配布プリントを撮影して保存しておく
「PowerPoint」を利用し、できなかった問題をデジタルスクラップ
毎日の日課を「デジタル付箋」でチェック
上記の活用例は、まず、お子さんのテスト記録に使いたいですね。テスト後は多くの場合は解きっぱなしになるものです。しかし大切なことは、そのテストのどの問題について何に気付いたのか、次にどう生かしたいのかという分析メモを残すことです。次のテストに向けて対策を打つときに参考になりますし、複数のテストから弱点単元を洗い出していくときにもメモが役立ちます。
そうした中で、ホワイトボードや書類をデジタルデータ化できるドキュメントスキャナーアプリの「Office Lens」が便利だと感じました。テスト全体を撮影、問題ごとに撮影、と使い分けてファイルを残せば、分析メモと合わせて一目瞭然です。また、「OneDrive クラウド ストレージ」は1テラバイトまで使用できるので、ファイルや写真に撮ったデータを容量を気にすることなく保存しておけるのもいいですね。手持ちのどのデバイスでもアクセスでき、バックアップを行うことができるのも利便性が高いと感じます。
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デジタルで記録保存することの魅力は、後で書き足したり編集したりが簡単なことですね。弱点単元に取り組んで、不安が解消されたテストは「完了」ボックスへ移動するなどして、学習タスクにメリハリをつけるとお子さんも取り組みやすくなります。親御さんもお尻をたたきすぎずに済みそうですし(笑)。
私たちはよく家庭学習にホワイトボードを使うといいですよ、と話をします。なぜかというと、大きな画面に手を動かして書く、問題を解くという作業をすることで、理解度が増すからです。また、親子での教え合いがやりやすいというメリットがあります。
もうひとつ、毎日の学習予定を書き出して、終わったものから消していけるという使い方をお勧めしています。このタスクの書き出しは付箋に書いて貼り出して、済んだものから「完了」ゾーンに移動させるということでもOKです。
そうした観点から、「Microsoft Whiteboard」は家族でタスク共有するのに適していると思います。やり方としては、お子さんが「デジタル付箋」にタスクを書いて整理する。終わったものは移動させる。親御さんは、お子さんのタスクを見て気付いたことをホワイトボードにメッセージとして書き込んで励ます。また完了ゾーンに移動した付箋を花マルで囲ってあげるなど、家族の共同作業として進めると楽しそうです。
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アナログのホワイトボードですと、家族が揃う朝の時間や帰宅後にしかアクセスできませんが、「Microsoft Whiteboard」なら、オンライン環境にあればご両親の外出先からでもアクセスできます。お子さんが学校から帰ってくるタイミングに合わせて、「今日もがんばろうね」と励ましメッセージを書き込んであげるのもいいですね。どのくらい進んだのかも、途中途中で確認してあげられます。特に共働き家庭にとっては、工夫次第で中学受験の学習タスクをずいぶんと整理、進捗させやすくなるでしょうね。
また、OfficeアプリはPCをお持ちの多くのご家庭が利用していると思うので、ワンストップで情報を共有できるというのも魅力です。フリーアプリはいろいろあってもアカウント管理が大変だったり、互換性の問題があったりして家族で情報を共有する際にストレスが生じがちです。その点、Microsoft 365なら、Windows、macOS、iOS、Android で動作するので、自分の使用しているデバイスに左右されることなく、自宅でも外出先でも心配ないのがうれしいですね。
こうした機能をいろいろと組み合わせ家族でルールを決めておき、例えば、何か探したかったり、お互いに確認し合いたいときは、デジタルノートブックの「OneNote」を利用する、というように決めておけば日常のちょっとしたストレスが軽減されると思います。
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あと、「Office テンプレート」というものが公開されているそうですね。いくつか見てみましたが、「手帳テンプレート」や「自宅学習 時間割テンプレート」などは、中学受験家庭で便利に活用できそうです。
手帳機能には、塾の授業予定や模試予定を記入しておく。そしてテスト準備の学習予定も書き込んでいく。スタンプを使うと見た目も楽しく分かりやすいでしょうね。6年生なら、過去問をいつやるのか、取り組む予定を書き込みましょう。受験勉強ではあれもこれもやりたいことは尽きません。ですから、絶対に取り組みたいことをまず予定に書き入れてみるということが大切です。

アナログの手帳と違って、デジタル手帳ならひとつひとつの予定にメモやファイルを関連付けさせられて便利ですね。OneNote内のファイルとリンクさせておけば、テスト直しをする問題を画面上でさっと確認でき、お子さんがプリントを探し回る手間も省けそうです。
あと、地図を貼る例が紹介されていますが、入試会場への行き方確認に役立つなと直感しました。入試直前期は緊張のあまり色々と見落としが発生します。事前に持ち物チェックリストを作っておく、入試会場までに行き方を確認して貼っておく、といった準備をしておくと、前日当日の落ち着きにつながるのではないでしょうか。
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時間割テンプレートも、日々の学習リズムを親子で相談しながら作り上げていくのに役立ちそうです。計画を立てるのに使うのも良いのですが、「今日は何をどれだけやれたか」という行動記録を残すのに使うのもお勧めです。実際にどれぐらいやれているのかを1週間分記録して、親子で振り返りをするのです。背伸びしすぎた計画を立てるのではなく、少しがんばれば実行できそうだとお子さん自身が思える計画を立てていくことが、学習を軌道に乗せるコツです。
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ツールを使いこなし勉強環境を整える
--最後に、こうしたさまざまなツールを用いながらも受験生をサポートする親御さんに、メッセージをいただければと思います。
お子さんの中学受験を日々支えていらっしゃる保護者の方は、楽しくやりがいもあるでしょうが、やはり大変なことの連続だと思います。お疲れさまです。
中学受験の何が難しいかといえば、お子さんがまだ小学生だということです。日々成長し、意識も気持ちも変わり続けているけれど、まだまだ未熟で自分自身のことを自分だけで決めきれない子を支えていく受験です。子どもの気持ちを大事にしながらも、親の責任と判断で決めてあげなくてはならないことが大半です。その重圧を乗り越えるために、皆さんは多くの情報に触れ、考え、家族で話し合い、1人で悩み、子どもの毎日の学習をなんとか形にしてあげようと関わっていることでしょう。
しかし、人間の脳はあらゆることを記憶していますが、同時に多くのことを考えられるようにはできていません。受験生の親御さんはみな、「頭の中がいっぱい」になるものです。頭の整理がつかず、あれもこれも気になってしまうために、考え、判断することが難しくなるのです。
ですから、私が親御さんの学習カウンセリングをさせていただくときに、まず何をやるかといえば情報の整理です。知っていること、困っていること、気になっていること、悩んでいること、望んでいること、期待していることがそれぞれ何かを整理します。いつまでに何をどの順番でやっていけばいいのかを、決めやすくしていくのです。それだけで、動き出せることがたくさん出てきますし、成果も上がり始めます。いかに皆さんの頭の中がお子さんのことでいっぱいなのかが、よくわかります。
今回は「Microsoft 365 」について私なりに見てきましたが、こうしたツールを上手く使うことで、お母さん、お父さんの頭の中の情報を整理し負担を軽くすることができそうですね。忙しい毎日の中でも、お子さんとのコミュニケーションチャンスが生まれて、気持ちも前向きになれそうです。
最後にがんばるのはお子さん自身。だからこそ落ち着いた判断ができる環境を整えて、受験生の親としてお子さんを信じてあげて欲しいなと思っています。
--ありがとうございました。
デジタルツールをうまく利用することで、親も子も、作業負担を減らすことが可能となり、コミュニケーションも取りやすくなるという。これからは受験サポートの一環としての「デジタルツールの在り方」について、それぞれの家庭で、親子で考えることで、より効率的で効果的な受験勉強の方法を見つけ出す必要があるのかもしれない。