Withコロナで変化する民間学童の役割とオンラインの利点

 都内を中心に民間学童を運営するウィズダムアカデミーの代表取締役 鈴木良和氏ほか3名の方に、コロナ禍で学童や習い事に何が起こったのか、また今後どのような変化を想定しているかを聞いた。

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 コロナ禍による休業や休校は、大人たちの働き方とともに、子どもたちの日常も変えた。コロナが収束していない現在、子どもたちの日常を支えるためには、どのような視点が必要となるのだろうか。

 都内を中心に民間学童を運営するウィズダムアカデミー代表取締役の鈴木良和氏、同社学童運営本部の伊藤恵理氏、恵比寿校責任者兼エリアマネージャー(自由が丘、市ヶ谷、目白など)の鈴木千晴氏、二子玉川校責任者兼エリアマネージャー(駒沢、池尻など)の由良美紀氏に、コロナ禍での学童や習い事の利用の変化や、今後の見通しについて聞いた。

コロナ禍での学童・習い事の利用は二極化が進む



--コロナの感染拡大によって学童や習い事の利用に変化はありましたか。

鈴木代表:コロナ禍での学童の使い方は、この半年で明らかに変化したと認識しています。

 東京でもエリアによって傾向が異なり、我々の学童では、都心部、たとえば市ヶ谷、恵比寿、目白、自由が丘などで休会が増えましたが、二子玉川などではあまり休会が増えませんでした。もう少し郊外の国分寺や横浜の上大岡などでは、より休会率が低くなっています。これは顕著な傾向で、ユーザーの属性が違うものと考えています。郊外では出勤される方が多く、都心部ではより在宅で働く方が多かったのではないでしょうか。

 ウィズダムアカデミーでは多様な習い事を揃えていますが、学校の全国一斉休校の期間も休講にはしませんでした。一般的に学童施設は密というイメージが強いと思いますが、我々の運営する学童施設は習い事を複数行っているため部屋数が多く、部屋自体も広いので密を回避できますが、特に分散することを意識しました。

 外出自粛期間中でも、預かりは減らしても習い事は継続させたいという保護者からのニーズには強いものがありました。やはり「教育」を重視している保護者が多いということを、我々もコロナ禍によって改めて学んだ形です。

--コロナ禍で、民間学童のニーズが高まっているようですね。

鈴木代表:4月と5月は通常の3~4倍程度に問合せが増えました。密にならない広い施設を希望されるご家庭や、普段利用している施設が休みでオープンしているところを探しているご家庭からのお問合せがかなりありました。

--現在は平常時の水準に戻っていますか。

鈴木代表:4月、5月の利用率は通常時の50%程度だったのですが、段階的に戻ってきて9月には90%近くまで戻っています。しかし10%程度はまだ休会のままです。休会のままのご家庭は、親御さんが自宅にいらっしゃるニューノーマルな生活に変わったのだと考えています。

--私立校と公立校とで、お子さまの利用状況に違いはありますか。

鈴木代表:私立の場合は、オンライン授業を続けている学校もあり、まだ通常の状態に戻っていない学校もあるようです。

鈴木千晴氏:私立は9月に入って開校している学校が増えましたが、まだ不安定なところもあります。恵比寿校の場合、そうしたご家庭では学校がある日だけ通うお子さまもいれば、まだ控えますと休会を続けるご家庭もあります。先月(8月)までは休校でオンラインの学習が多く、親御さんがご自宅でお仕事をされているご家庭だと、やはり休会をされる方が多くなりました。

--夏休み期間はいかがでしたか。

鈴木代表:全体で例年の半分くらいの利用です。夏休みは通常ですと朝から預かりますのでイベントが盛りだくさんなのですが、今年はまず外に出ないようにし、室内で体験できるものに限定せざるを得ませんでした。また、学校の夏休み期間短縮により、ゆっくり夏休みを過ごせない状況もありました。そして、通常の夏休みでははじめてご利用される方も多くなりますが、今年はもともとご利用されている方が多かったと思います。

由良氏:二子玉川に限っては、夏休みのご利用はとても多く、新規でのご利用者もたくさんいました。学校の学童が密だと心配されて、口コミで部屋が広く密にならない私たちの施設を選んでくださったようです。

--現在、親御さんからの心配の声などはありますか。

由良氏:最近では、コロナに関することよりも、休校でお子さまの勉強や習い事が遅れているといった保護者の方からの声が届くことがありますね。

鈴木千晴氏:恵比寿をはじめとする私のエリアでも、ここ最近はコロナに対するご心配の声は少なくなってきています。緊急事態宣言下の時期は、換気や消毒への対応や対策を確認されたうえで利用を再開される方もいらっしゃいました。

鈴木代表:感染対策は日々行っています。感染が起きることを前提で動かないと駄目だと考えています。保健所との連携とともに、独自に厳しい基準のレギュレーションを設けました。

 また、報告・連絡の徹底と察知をいかに速くするかに気を配っています。通常の予防では、フェイスシールドや消毒、換気は当たり前で、空気清浄機も数多く導入しています。このほか、医療機関と組んで、濃厚接触者の可能性があり医師が必要だと認定を受けた場合は、どんな方でもすべてPCR検査を受けることを徹底させていただいています。

オンライン学童は双方向のレッスンへとシフト



--休校期間中にオンライン学童もされていましたが、反響はいかがでしたか。

伊藤氏:多くの人に見てほしいということで、5月の連休明けからすべて完全無料で一般開放をしましたところ、600人程の登録がありました。休校が明けて利用者は減りましたが、今もオンライン学童は続けていて、今後も取組みを進めたいと考えています。

--オンライン学童は、どのような流れで実施されたのでしょうか。

鈴木代表:5月はみなさん学校に行っていないので、時間帯は13時から15時の2時間で実施しました。30分単位で、内容は音楽や英語などあらゆるジャンルを入れました。我々もオンライン学童の試みを始めたばかりで、何がオンラインに向いていて、何が向いていないかを学んでいきました。

伊藤氏:5月の下旬から徐々に学校に動きがあって、そこからは16時半から18時という時間帯にずらしました。6月の2週目くらいからは徐々に学校が始まり、30分刻みの工作や英語を、レッスンとして特化していく動きに変えました。

鈴木代表:やはりずっと映像を見ているのはお子さまには難しいですね。親御さんがいる場合はサポートもあり、オンラインはやりやすいのですが、お子さまだけだと難しい。そこをレッスン化して習慣化すれば、子どもたちだけでもできるのではないかと感じています。

--一方通行の配信から徐々にレッスン形式に変わり、双方向になったということですね。

伊藤氏:保護者の方も、何がオンラインでできるのかがが徐々にわかってきたと思います。たとえばピアノは、「音を聴く」ことは響きが全然違うので、上級者向けのレッスンはオンラインでは難しいと思います。逆に小さいお子さまの場合も、楽典などを教える際に手とり足とり見せながら書きながらとなるので、オンラインだと限界があります。とはいえある程度限られた層ならば、音楽系の習い事もオンラインでのレッスンが可能だと感じました。

 作文講座などは、オンラインによって双方向で上手くできるものがあります。やりにくいのは工作や運動系でした。

鈴木代表:スポーツ系は総じて難しいですね。オンラインの習い事で進めやすいのは、もともとやっていた英語や音楽、あとは勉強系のもの。プログラミングも比較的、オンライン化が進んでいるものが多いです。

--プログラミングはデジタルで完結するものと、組み立てて動かすもので違いはありますか。

鈴木代表:マインクラフト系のものはやりやすそうです。逆にブロック系は難しいですね。

伊藤氏:ブロックは高価なものを新たに買うことになる場合、ハードルはありますね。プログラミングでも、オンラインでできるものとできないものは内容によってあると思います。

鈴木代表:やはりiPadなどのデバイスだけで完結するものはわかりやすいです。プログラミング以外では、iPadを使った暗算学習の「そろタッチ」があります。タブレットを使った学習教材は自分だけでできるように設計されており、休校中は人気が高まったと思います。

 ただ、我々はやはり講師が介在することに意味があると考えています。これからICT化が進んでいく状況で、転換期を迎えていると感じています。

--ほかにオンラインでできる習い事はありますか。

伊藤氏:今、「キッズシアタートレーニング」をやっていますが、これは演劇やドラマを使って、自己表現やコミュニケーションなどを学ぶもので、海外では幼児から高校生まで、学校の授業としてもよく利用されています。私どもでは、早稲田の文学部で演劇を学んでからイギリスで演劇の勉強をし、世界の子どもたちに演劇を通して自己肯定感を高めるような活動を続けてきた先生に指導していただいていますが、オンラインでもとても楽しく、充実感と満足感があるという声をいただいています。

鈴木代表:おそらく、これからヒットするものが出てくると思いますが、我々も今、取扱コースが50以上ある中で模索中です。また、受ける側のIT環境も整備されないと難しいですね。我々のほうでは今、iPadとパソコンのレンタルをできるよう進めています。セッティングや使い方などの講座もあると良いと思っています。

オンラインならではの3つのメリット



--これまで一般的にオンラインの習い事では、費用や通う時間が節約できるなどのメリットが謳われてきましたが、オンラインだからこその付加価値はありますか。

鈴木代表:3つあると考えています。まずは、特別な先生と出会えること。次に、距離がなくなること。最後に、講師・コンテンツの幅が広がることです。

伊藤氏:今、一番遠いところにお住まいなのはシンガポールのご利用者さんですね。ニューヨークでも活躍した素晴らしいピアノの先生のレッスンをオンラインで受けていらっしゃいます。レッスンも質が高く満足度も高いです。先生も英語ができて、いろんな音楽の用語をイギリス英語ならこう、アメリカ英語ならこうといったことまで教えられて、親御さんが「なかなかこんな先生に出会えることはない」と、とても喜んでくださっています。

 ほかにも、芸大出身のピアノの先生もいて、神戸や長野に住んでいる方もレッスンを受けています。また時差の少ないオーストラリアやアジア各国にいらっしゃる日本人の家庭にも需要がもっとあるでしょうし、そうした国々の先生によるレッスンを日本の子どもたちが受講することも可能になります。

鈴木代表:ご利用者さま側からすると、どこからでもネットさえ通じていれば受けることができる。これはオンラインのチャンスでしょうね。先生側にもチャンスだと思います。海外で行っている講座を日本で受けられるというチャンスも今後、増えていくと思います。

コロナ禍で変わる学童の利用



--子どもたちの放課後の過ごし方が大きく変化しましたが、コロナ収束後のイメージはいかがお考えでしょうか。

鈴木代表:生活様式が変わりましたので、基本的にもとに戻らないと思います。ほかのビジネスでも同じだと思いますが、リモートワークで会社に行かなくても良くなり、我々の会員さんも今は10%が戻っていませんが、おそらくこの層の方は戻ってこないと思います。

 では、戻らないとどうなるか。それは学童の利用の機会が減るわけではなく、オンラインという手段が増えて、働き方から学童保育の利用方法が変わると考えています。家で子どもといるけども、子どもの相手をしていると仕事に集中できませんよね。

 実際、親御さんが家にいるとなると、自治体などの学童は気軽に使えません。毎日、外に出て働いているという証明書がないと学童は通わせてくれないのです。そこに我々民間学童の役割があります。家にいても仕事があるときには預けられるというのは新たなスタイルです。

 土日の使い方も変わってくると思います。オンラインで学んでいても、成果を発表する機会は大切です。そこにはオフラインが必要だと思いますので、土日に成果発表の機会を作りたい。親御さんもそこには一緒に参加して、発表会での披露や作品の展示などを親子で体験する。

 また、オンラインならば遠隔で各地から人が集まりますので、逆に出会いのチャンスが増えます。オフではなかなか会えなかったけれど、オンラインならば何百キロも離れた場所にいる人に会える。たとえば、全国から集まるフェスタみたいなものを年に1回やって、出会う機会を増やすのも面白いかもしれない。

 このコロナ禍をどう生かすか。働き方が変わる。教育の受け方も変わる。機会が増えて子どもたちの視野が広がる。最終的にはそうしたものを目指したいと思います。

--ありがとうございました。

 今回のコロナ禍による学童と習い事の変化は、一過性のものではなく、子どもたちの将来の可能性を広げる方向へ、さらに進化していくきっかけになったのではないだろうか。
《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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