おおたとしまさ氏&安浪京子先生が語る中学受験直前期「親が陥る5つの“迷信”」

 中学受験プロ家庭教師・安浪京子先生と教育ジャーナリスト・おおたとしまさ氏が語る、直前期「親が陥る5つの“迷信”」とは? ラストスパートを迎える中学受験生の親たちへ、中学受験最前線を知り尽くす2人が語るコロナ禍の中学受験アドバイス。

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  • 中学受験の親たちへ ~子どもの「最高」を引き出すルール~
 中学受験を控えた6年生は、今年はコロナの影響で夏休みが短く、慌ただしい夏だったはずだ。1学期は塾の授業がオンラインに切り替わるなど、馴染みのない環境の下でさまざまな課題が残り、不安と焦りで秋を迎えている家庭も多いのではないだろうか。

 そこで今回は、日本一予約の取れない中学受験プロ家庭教師・安浪京子先生と、中学受験コミック「二月の勝者」の関連書籍「中学受験生に伝えたい 勉強よりも大切な100の言葉:『二月の勝者』×おおたとしまさ」も話題の教育ジャーナリスト・おおたとしまさ氏に、6年生後半の入試直前期に親が陥りやすい5つの“迷信”と、ラストスパートに向けてのアドバイスを語ってもらった。

直前期・親が陥る5つの“迷信”



迷信その1:合格の可能性は、勉強の「時間」と「量」に比例する



安浪京子先生(以下、京子先生):6年生の保護者が精神的に最も不安定になりがちなのが10月、11月で、私はこの時期を「魔の月」と呼んでいます。入試まであと数か月しかない、それなのに思うような結果が出ていない、今のうちにあれもこれもやっておかねば…という焦りから、冷静でいられなくなるのです。

 塾も6年生の秋は、子どもがこなせるかどうかは関係なく大量に課題を出し、「全部やれ」と指示するので、睡眠時間を削らざるを得ず、日付が変わってもやっている子もいます。でも、この時期に一番気を付けなければいけないのは、勉強の「時間」と「量」で子どもを潰さないことです。

 考えてみてください。給食で牛乳をコップ1杯しか飲めない子に、毎回無理やり1リットル飲ませていたら、その子の体はどうなるでしょうか? 吐き戻す、お腹を下す、牛乳を飲みたくなくなる、給食の時間そのものが嫌になる…となりますよね。受験勉強も同じです。今、あまりにも子どもに無理をさせすぎると、子どもの心と体はパンクしてしまいます。

 学力をつけるためには、ある程度の時間と量は必要ですが、必ずしも学力の伸びと比例するわけではありません。むしろ容量を超えた詰め込みによって、大事なものが残らなくなるといわれています。また、子どもにとっては、塾で出される課題の難度が上がる一方で、取り組み始めたばかりの過去問ではまだ思うように点数が取れないので、自己肯定感が下がる時期でもあります。そんな状態の子どもを今、親が焦って追い詰めては逆効果です。まずは睡眠時間をしっかりと確保し、手元にある課題の中で何が重要か、学習の優先順位をつけてもらうことが大切です。わからなければ塾の先生に聞きましょう。本番直前の2、3週間前で大きく伸びる子も沢山います。そのタイミングに失速してしまわないよう、今は気力と体力を去勢しないことが大切です。

迷信その2:親が徹底管理する中学受験は成功する



おおたとしまさ氏(以下、おおた氏):まだ小学生ですし、親が子どもの勉強をサポートしてあげることに異論はありません。ただし、親が子どもに一体化し過ぎて、「成績アップや合格は親の手柄」あるいは「成績ダウンや不合格は親の責任」というほど思いつめないように気を付けたいものです。

 特に6年生の後半は、ここでちょっとでもお尻を叩いて偏差値を上げれば、併願先のレベルも上げられるという下心も出やすい時期です。でも、仮にそれで本番まで持ち込めて合格できたとしても、その成功体験が仇(あだ)になり、子どもへの過干渉が続きがちです。そうなると、子どもの反抗期、思春期に芽生える自立の芽まで奪ってしまうことになりかねません。

 受験の先にある子どもの成長を見据え、「子どもは親の作品ではない」という自覚をもった二人三脚なら大賛成です。

迷信その3:どこかに必ず「やる気スイッチ」がある



京子先生:今の時期、親からの相談で多いのが、「夏休み最後の模試、成績がボロボロでした。でも子どもはまったくやる気を見せません…」というもの。でも、ちゃんとサボらず夏期講習に行き、白紙答案を書くわけでもなく、子どもなりに頑張っていたわけですよね? なのに親は、足りないところばかり見てしまうのです。

 どんな子どもも必ずやる気をもっています。何にやる気を発揮するかは子どもそれぞれ。ところが、受験生の親が求めているのは、勉強という方向に向いているやる気だけで、これは親の都合でしかありません。オンラインで子ども向けの悩み相談会を開催していますが、子どもたち自身からも「どうしたらやる気になりますか」という質問を多く受けます。こういう質問が出るのは、いつも親から「やる気ないの?」「もっとやる気出しなさい」などと、言われ続けているからだと思います。

 でも、大人だって、やる気が出るときと出ないときがありますよね。なのに親は子どもに、「やる気を出し続けてほしい」と望み、それを子どもは素直に受けとめ、「やる気とは持続させるべきもの」と思い込まされている。そんなこと、大人でもできないのに(笑)。

 だからこそ親はまず、「やる気は発揮し続けられるものではない」と、やる気への認識を改める必要があります。そして、漢字でも計算でも、その子が当たり前にやっていることをひとつずつ、丁寧に認めてあげるところから始めてみてください。それが子どもが前を向く原動力になります。

 過去問に取り組む際も同じです。合格最低点まであと何十点も足りないからといって、親も一緒になって落ち込むのではなく、「算数で3問ミスを減らして、漢字の書き取りがあと2つ書けていたら、ほら、こんなに点数上がるよ!」と、合格が手の届く場所にあることを具体的に説明してあげてください。志望校の過去問で合格最低点が超えられれば、子どもは一気に目の色が変わり、これがやる気の引き金となることが多々あります。

 もしかしてそのタイミングは、子どもによっては本番直前、あるいは第一志望の不合格後かもしれません。でも、子どもが「頑張ってくるね」と言って親に背中を向け、ひとりで試験会場に向かうとき、その瞬間にはしっかりとやる気スイッチが入っているわけです。「あれだけイヤイヤ勉強をしているように見えたわが子も、最後はここまで来られたんだ」と親がその成長を認められたら、その中学受験は価値あるものになるのではないでしょうか。

迷信その4:偏差値が“高い学校ほどいい学校”だ



おおた氏:現在の社会状況では、確かに今年の6年生にとって、学校選びが難しいでしょう。学校行事も学校説明会も軒並み中止になったため、各学校に漂うリアルな空気に触れたり、在校生の雰囲気を肌で感じたりできません。偏差値表にすがってしまう心情もよくわかります。

 ですが、こうした制約の多い中での受験校選びには、いくつか注意が必要です。

 1つ目は、入試の多様化によって偏差値がますますあてにならなくなってきているということです。なかには「バブル偏差値」と呼んでもいいような数値も散見されます。

 どういうことか。現在多くの学校で複数回の入試を行っています。挑戦のチャンスが増えるのですからそれ自体はいいことです。でも、複数回ある入試のうちどこかの回を「特進コース」などと銘打って合格者数を極端に絞れば、そこだけ倍率が上がり、その結果、その入試回に限って入試の難易度を表す偏差値も上昇します。

 ただしこのような場合、上位合格者は結局他校に進学してしまうケースも多く、入試難易度を示す偏差値と実際の入学者の学力層との間にズレが生じます。これを私は「バブル偏差値」と呼んでいます。学校の入試難易度を表す偏差値は、その学校に通う生徒の学力層の参考になると一般には思われていますが、その機能すら怪しくなっているのです。

 ですから、もし同じ学校が複数回の入試を実施している場合、実際の入学者の学力層を知るには、一番低い偏差値を見てください。

とはいえ、いろいろな学校を取材して回っている立場から付け加えておきたいのは、しっかりとしたポリシーをもって教育を行っている学校では、偏差値に関係なく、生徒たちも先生たちも輝いているということです。そういう意味でも、偏差値だけで学校を評価しないでほしいと思います。そうすれば、中学受験の選択肢は広がります。

 2つ目は、オンラインで行われる学校説明会での、見た目の派手さに振り回されないことです。

 オンラインだけでは、言葉の派手さやプレゼンのうまさに目を奪われやすくなります。しかし大切なのは、スローガンやプレゼンのテクニックではなく、その学校の先生たちがどのような観点で子どもたちを見ているかです。校長先生がどんな雰囲気で何を語っているか、学校としてどういう願いをもって教育に当たっているのか、静かな語りにこそじっくり耳を傾けてください。

 6年間通うのは子ども自身ですから、オンラインでの個別相談会で、子どもからも学校に質問させてみたり、登下校のようすだけでも実際に見に行き、先輩たちの日常をそばで感じてみたりするのも良いと思います。

迷信その5:中学受験のゴールは第一志望に合格だ



おおた氏:どんな学校に通うかによって、子どもの人生が大きく変わってしまうのではないかと思っている人も多いかもしれません。でもそれはちょっと学校に過度な期待をしすぎです。実際には、学校が子どもの人格を設計してくれるわけではありません。どんな学校に行っても、その子はその子で変わりません。

 危機感を煽って勉強させたいという思惑があったとしても、「第一志望に合格できなかったらあなたの人生は真っ暗よ」みたいなメッセージはやめてほしいと思います。中学受験をしたせいで、とても視野の狭い人生感を刷り込むことになってしまいますから。

 第一志望に合格できれば、努力が報われるという成功体験になります。でももし第二志望以下の学校に通うことになったとしても、親がその結果を喜んで堂々と送り出してやれれば、子どもも自分の通うことになった学校に誇りをもって堂々と通えるようになります。さらにその環境を存分に満喫して、そこでしか得られなかった恩師や友人との出会いに感謝できれば、結果的にその学校に進んだことがその子にとっての正解だったことになります。これは正解のない世の中において、事後的に自ら正解をつくり出すことにほかなりません。

 中学受験の親の役割は、子どもの恐怖心を煽って無理矢理勉強させて何が何でも第一志望に合格させることではなく、どんな学校に行ってもやっていけるように子どもを育てることだと僕は思っています。

京子先生:今、渦中にいる親御さんには実感が湧きづらいと思いますが、中学受験はあくまで人生のひとつのライフイベントに過ぎません。第一志望に合格できても、不合格でも、そこで時が止まるわけではなく、現実はその先も続いていきます。だからこそ、合格発表後のお子さんには、合否にかかわらず、「長い間お疲れ様でした」と、頑張ってきたことを必ずねぎらってあげてほしいですね。

 不合格で第2、第3志望への進学になると、割り切れないのは、子どもより親のほうだったりしますが、「私はやり切った。悔いはない」「お母さん、悲しまないで。僕はちゃんとやっていくから」と清々しく親に言い切れるくらい、精神的に成長して親を超えて行った生徒たちをたくさん見てきました。努力で勝ち取ったものはもちろん素直に喜べばいいけれど、結果がどうであれ、本人が入試の当日、志望校の門をくぐることができたならば、何か得るものが見つかるのではと思います。

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 中学受験では、親が子どもをサポートしようと一生懸命になるほど、無意識に子どもと一体化し、こうした迷信に縛られて子どもを追い詰めてしまいがちだ。おおた氏と京子先生の言葉のとおり、子どもの人生は合格発表の瞬間に終わるわけではない。大人が子どもの受験をいかに上手に管理するか、という情報が氾濫する中、あえて頭をクールダウンし、中学受験の本質と向き合ううえで、二人の共著「中学受験の親たちへ~子どもの『最高』を引き出すルール」は必読だ。

中学受験の親たちへ~子どもの「最高」を引き出すルール

発行:大和書房

安浪京子:株式会社アートオブエデュケーション代表取締役、算数教育家、中学受験専門カウンセラー。神戸大学を卒業後、関西、関東の中学受験専門大手進学塾にて算数講師を担当。生徒アンケートでは100%の支持率を誇る。プロ家庭教師歴約20年。きめ細かい算数指導とメンタルフォローをモットーに、毎年多数の合格者を輩出。中学受験、算数、メンタルサポートなどに関するセミナーを開催、算数力をつける独自のメソッドは多数の親子から支持を得ている。「きょうこ先生」として多数のメディアでさまざまな悩みに答えている。著書に『最強の中学受験 「普通の子」が合格する絶対ルール』など多数。

おおたとしまさ:教育ジャーナリスト。1973年、東京都生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退、上智大学英語学科卒業。リクルートから独立後、数々の育児・教育媒体の企画・編集に関わる。教育現場を丹念に取材し斬新な切り口で考察する筆致に定評があり、執筆活動の傍ら、講演・メディア出演などにも幅広く活躍。中学・高校の英語の教員免許、小学校英語指導者資格をもち、私立小学校の英語の非常勤講師の経験もある。著書は60冊以上。

《加藤紀子》

加藤紀子

京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。現在はリセマムで編集長を務める。

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