【専門家に聞く「発達障害」3/3】日常生活や学校生活への影響

 発達障害に関してまず正しい認識を持つために保護者の立場から立命館大学名誉教授の荒木穂積先生にお聞きした。全3回の最終回「発達障害による日常生活や学校生活への影響」をお届けする。

教育・受験 未就学児
写真はイメージです
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  • 「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」2012年 文部科学省
  • 文部科学省による特別支援教育の対象児数
  • 「発達支援」のあるべき姿
 立命館大学名誉教授の荒木穂積先生に、保護者の立場から発達障害についてお聞きする全3回のシリーズ。最終回は「日常生活や学校生活への影響」をお届けする。

第1回:特徴と原因、性別や環境の影響は?
第2回:兆候と診断、ケアやアドバイス
第3回:日常生活や学校生活への影響


学校や行政の対応について



Q11.現在、日本で発達障害と考えられる子供たちはどのくらいいるのでしょうか。



 学校における特別支援教育の対象となる児童数が、おおよその数字になると思います。

文部科学省による特別支援教育の対象児数

 2017年(平成29年)の文部科学省による調査データ(全児童生徒数989万人)では、約7万2,000人が特別支援学校に在籍しています。この年の児童・生徒数は989万人ですので、およそ0.7%となります。小学校・中学校の特別支援学級に在籍している人が約23万6,000人でおよそ2.4%、普通学級に在籍しながら、いわゆる視覚障害や聴覚障害、言語障害、自閉症、学習障害などのある子が通級による指導を受けている数は約10万9,000人でおよそ1.1%です。これらを合わせると特別支援教育の対象者は約41万7,000人、およそ4.2%と考えられています。

 そのほかに発達障害者支援法により障害者支援の対象が広がった影響もあって、文部科学省は特別支援教育の対象を広げようとしています。2012年には、学習上の困難および行動上の困難があると考えられる子供が普通学級にどの程度いるのか、文部科学省協力者会議が調査(「通常の学級に在籍する(発達障害の可能性のある)特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」)を行いました。その結果、発達障害(ADHD・学習障害・高機能自閉症等)の可能性のある児童がおよそ6.5%いるとされており、約64万人いると考えられています。

「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」2017年(平成29年)文部科学省

 具体的には、2012年(平成24年)の文部科学省による調査データ(全児童生徒数1,040万人)ですが、自閉スペクトラム症が1.1%(約11万人)、ADHDが3.6%(約37万人)、学習障害などが4.5%(約47万人)。すべて合わせると単純計算で9%(単純計算で約95万人)を超えますが、3つの障害は合併することもあるため、発達障害の可能性のある児童・生徒の割合はおよそ6.5%程度(約68万人)と考えられています。従来の特別支援教育の対象者として統計の対象にあがっていなかった人がこれだけいるということを、文科省は独自調査で推計しているのです。この調査結果から推計すると1クラスに2人程度と考えられます。

 現場の感覚では10人に1人、30人のクラスだと1クラスに3人程度はいるといわれていますが、これを多いと見るか少ないと見るかはさまざまな議論があるところです。

 第1回の記事でも紹介した「発達障害者支援法」において法律上の定義はなされていますが、医学上の定義はさまざまで定まっていません。お医者さんが発達障害と診断した子供が支援の対象なのか、学校の先生が気になる子供であるとして支援の対象とするのか、基準が決まっていないのです。厚生労働省は、発達障害の支援対象者には医師の診断をもとめていますが、文部科学省は、医師の診断は必要ありません。

 具体的には、学校で発達障害の可能性があるとされて文部科学省の基準では支援の対象者とみなされても、厚生労働省の基準を満たさないと療育手帳や障害者手帳は受給できませんし、「発達障害者支援法」に基づく支援は受けられません。文部科学省では特別支援学校や特別支援学級に入学・入級するときや通常の学級で特別支援教育を受けるときに、必ずしも医学的な診断を必要としていません。医師から発達障害の診断を受けていなくても、保護者や学校が希望を出して教育委員会が教育上必要であると判断した場合には、特別支援教育の対象者となることができます

 学校の場合は、都道府県や市町村の教育委員会にその判断がまかされており、市町村によって入学・入級が認められたり認められなかったりすることがあります。文部科学省が、医師による診断書の提示を義務付けていないため、発達障害が疑われ特別支援教育の対象者として支援を受けたいということが親と学校とでお互いに了解されていれば、特別支援教育の対象になることができるのです。つまり厚生労働省と文部科学省の基準が一致していないわけですが、文部科学省の方が、親と学校・教育委員会との合意があれば支援が受けられる点で柔軟な対応(制度の運用)ができています。

「発達支援」のあるべき姿

日常生活と将来



Q12.発達障害の子供の日常生活や将来が心配です。



 今日では発達障害の支援の対象者は広がってきていますし、そのサポートも将来を見通したものになってきています。たとえば自閉スペクトラム症でいえば、最初の症例報告がなされたころ(世界では1943年、日本では1952年)に生まれた人たちは、現在、70、80歳すぎになってきています。この人たちの生活のようすやライフサイクルについての報告が出されてきていて、症状や行動の変化、生活ぶり、支援のようすやその結果などさまざまな長期の予後報告(フォローアップ報告)がなされているため、ライフサイクルやライフイベントなどの節目や年齢ごとにおこりやすい困難や求められる支援(合理的配慮)の内容がわかってきているのです。

 自閉症の症例として最初に報告したのがアメリカの児童精神科医カナーということは第1回目で述べた通りですが、彼は1943年に12例の症例報告をしています。そのうちの1人ドナルドさんは1933年生まれで、1938年にカナーのところで診察を受けています。ドナルドさんが、80歳の中頃にインタビューを受けておられ、それが記事になっています。その記事によってどのような人生を送られたかを知ることができます。ドナルドさんは、大学を卒業して銀行マンになられたそうで、ゴルフを楽しんだり、世界旅行をしたりしながら、現在は退職され、元気に生活されているそうです。

 日本での最初の症例報告は1952年で、当時名古屋大学におられた鷲見たえ子医師によるものです。このときの症例報告の対象者の方は、ご健在であれば80歳近くになっていると思われます。アメリカでも日本でも、症例が最初に報告されてから70年あまりの歳月が経つ中で、乳幼児のときに自閉スペクトラム症の診断を受けた人が、どのような人生を送られたかを具体的に振り返ることができるようになってきているのです。

 ライフサイクルの視点から自閉スペクトラム症やADHD、学習障害などの発達障害を知ることができるようになると、その人たちが人生のどこかで、何らかの困難に直面するとしても、その困難を予想したり、その困難の先回をりして必要となる発達支援の内容を準備できる可能性も見えてきているといえるでしょう。現在は、誕生から高齢期までを見通して発達障害者の支援ができるようになってきた時代なのです。

 全国児童発達支援協議会(CDS Japan)は「発達支援」モデルとして、いわゆる「発達支援(当事者:狭義)」、「家族支援」、「地域支援」の3つの視点からとらえる生活モデルを提唱しています。発達障害児・者の支援は、「子供の発達」「障害の軽減・改善」「生活支援」を総合的かつ継続的に取り組む必要があります。そのためにもライフサイクルを視野に入れ、子供自身の成長・発達を中心においた支援が求められますが、同時に、地域での子供の育ちや家族の暮らしも視野に入れた生活モデルの支援が必要になります。狭い意味での医学的治療や困った行動の改善に目標をおいた発達支援や短期での発達支援だけでは不十分です。日常生活とライフサイクルを視野に入れた総合的かつ継続的な発達支援を専門家や関係者と相談していっしょに考えていけるとよいでしょう。


Q13.発達障害をもちながら社会で評価されている著名人はいらっしゃいますか。



 たとえば、アスペルガー症候群をもつ著名人としては、物理学者のアルベルト・アインシュタインや動物行動学者でコロラド州立大学教授のテンプル・グランディンさんなどがよく知られています。テンプル・グランディンは、現在70歳をこえておられますが、自閉症当事者として自閉スペクトラム症の理解と支援のための活動も積極的にされています。日本では、画家の山下清がよく知られています。山下清は自閉症でありかつ知的障害をともなっていたといわれています。彼は絵画の領域で特異な能力をもっており多くの作品が遺されています。また、ADHDやLDのある人々としては、坂本龍馬やトーマス・エジソンといった人物がよく知られていますね。

 このように、発達障害がありながらもその人の特別な能力が開花して活躍している人が世界でも日本でも多くいます。発達障害の方が、人生の中で、能力を生かし、困難に先回りしたり、困難を乗り越える適切な支援を受けることができ、ライフサイクルに応じた継続的な発達支援が得られることでその人の人生が切り拓かれていくのです。

--ありがとうございました。

 全3回にわたって荒木先生に発達障害のことをお聞きした中で感じたのは、親や保護者は、先入観をもたずに、専門家と協力しながら、未来志向で子供たちの成長を支えることが、とても大切だということ。医師でも診断や予後の見通しが難しいケースもあるなど、今後の科学の進歩によって、診断や治療、教育、支援、制度などが大きく変わっていく可能性もある。情報を受け取る側も、常にアップデートが必要だろう。子供の発達の可能性と環境や社会が変わっていく可能性の両方をみる複眼的な見方が大切になる。

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《編集部》

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