「U-21学生研究発表会」で国際高等専門学校2年生チームが最優秀賞を受賞

 電気学会「U-21学⽣研究発表会」で最優秀賞を受賞した3名の高専⽣にインタビューを実施。このプロジェクト実施に⾄った背景や、国際⾼等専⾨学校での学びについて話を聞いた。

教育・受験 中学生
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津幡町の森林動物園で行なわれた予備評価の模様(2020年12月6日)
  • 津幡町の森林動物園で行なわれた予備評価の模様(2020年12月6日)
  • 電気学会「U-21学生研究発表会」で獲得した最優秀賞の表彰状
  • 写真左から杉晃太朗さん、佐藤俊太朗さん、畠中義基さん
  • 授業のようす
  • 授業のようす
  • 学習させた画像
  • 完成したモデルを持って森林公園で試験を実施
  • システムを設計して写真の中の猿にラベル付け
 2021年3月13日にオンラインで開催された電気学会「U-21学生研究発表会」で、大学生の参加者もいる中、最優秀賞を受賞した高専生たちがいた。高校で言えば2年生に相当する17歳。それが、国際高等専門学校(以下、国際高専)の2年生3名からなるチームだ。

 このチームは、2年生後学期の問題発見解決型の授業「エンジニアリングデザインII B」で取り組んだ「獣害対策のためのAIを用いたサル認識システムの開発」について、U-21学生研究発表会にてその活動成果を発表し、見事、最優秀賞を受賞したという。そこで3名にインタビューを実施。このプロジェクト実施に至った背景や、国際高専での学びについて話を聞いた。

17歳で挑んだ「U-21学生研究発表会」



 電気学会「U-21学生研究発表会」は、21歳以下の大学生、高専生、高校生といった学会入会前の若い生徒や学生を対象に、日頃の研究や勉強の成果を発表する場として、電気学会の電力・エネルギー部門が開催している。

電気学会「U-21学生研究発表会」で獲得した最優秀賞の表彰状
電気学会「U-21学生研究発表会」で獲得した最優秀賞の表彰状

 今回は大学6、高等専門学校5、高等学校35、中等教育学校3、中学校3の計52の個人・チームが参加した。各個人・チームは「SDGs(持続可能な開発目標)」「エネルギー問題」「電気」「IoT」「Society 5.0」「AIやビッグデータ」「VRやドローン」「コロナ禍」の7つのテーマから1つを選び、ライブでの口頭発表もしくはオリジナル動画にて発表を行った。

 国際高専から参加したのは、2年生の畠中義基さん、杉晃太朗さん、佐藤俊太朗さんの3名。「SDGs(持続可能な開発目標)」をテーマに、全国でサルによる農作物被害が深刻化する中、持続可能な農業に向けてAIを用いた獣害対策システムを開発したこと、自分たちでサル画像を収集し、機械学習させた結果、畑で撮影された動画による信頼度評価では信頼度90%を達成したことなどを説明し、デモンストレーションも行ったという。

写真左から杉晃太朗さん、佐藤俊太朗さん、畠中義基さん
写真左から杉晃太朗さん、佐藤俊太朗さん、畠中義基さん

--まずはU-21学生研究発表会で発表したプロジェクトがどういった内容なのか、そして獣害対策に着目したのはなぜなのかをお聞かせください。獣害対策とSDGsはどのように結びついているのでしょう。

畠中さん:僕たちが発表したのは、「獣害対策のためのAIを用いたサル認識システムの開発」についてです。1年の時にクラブ活動の一環として白山麓キャンパスの校舎の向かいの畑にサツマイモを植えたのですが、ある日畑をサルに荒らされて盗まれるという事件が起きたんです。しっかりと対策を行っていたつもりだったので正直ショックでした。この事件を機に「獣害」というものを調べ始め、日本全国で農業従事者の高齢化と後継者不足、サルによる農作物被害が深刻化していることを知りました。授業でも近隣に住む方々にヒアリングをする機会があったのですが、キャンパスがある白山市だけでも250万円の被害が出ていることがわかりました。

杉さん:獣害防御策として電気柵などの設置を思い浮かべる人が多いと思うのですが、地元の方のお話によれば、電気柵に触れずに農地に入ってしまう器用なサルも増えているそうです。また、農業に携わる人の高齢化もあって、設置に際しては高齢者への労力面や費用面での負担が大きいことから、やむなく畑を閉じて、耕作放棄地にしているところも増えています。耕作放棄地が増えることで、残った畑への獣害がさらに増え、悪循環が生まれてしまっています。

佐藤さん:白山麓キャンパス周辺地域では威嚇して害獣が耕作地に近寄るのを防ごうと、ロケット花火やエアガンが使用されているそうなのですが、効果は一時的で、結局のところ常時監視が必要となっていると聞きました。こうしたことから、持続可能な農業のためには害獣対策が必要だと考えたんです。

授業のようす
授業のようす

--プロジェクトで目指した目標はどのようなものだったのでしょうか。

畠中さん:最終目標は、24時間、無人でサルを監視して被害を未然に防ぐ威嚇システムを実現することです。でも、その目標の達成には時間がかかると思ったので、ひとまず2020年度は監視のために必要な「正確なサル認識技術の確立」を目標に設定しました。

佐藤さん:プロジェクトを継続し、最終目標を実現すれば、持続可能な農業の推進や、休耕田の再利用、就農人口の復活が可能になり、SDGs達成にも繋がるのではないかな、と。

授業のようす
授業のようす

地元の方からも期待の声



--「正確なサル認識技術の確立」のためには、具体的にはどういったことを行ったのでしょうか。

佐藤さん:AIをうまく動かすためにはコンピュータに大量のデータを学習させる必要があります。そのために、小型AIコンピュータボードの「Jetson nano」を用いてサル画像の認識システムを構築し、サルの画像を集めて学習させました。コロナ禍でなかなか自由に外に出かけられなかったので、はじめのうちはネットで集めたサルの画像を使いました。

学習させた画像
学習させた画像

杉さん:その学習の成果を検証するために、津幡町の森林動物園で「どれくらい認識できるか」の予備評価を実施しました。あわせて森林動物園で撮影したサル画像3,000枚を、さらに機械学習させ、精度の向上を目指しました。加えて、白山麓キャンパス周辺の実際の畑で撮影したサル画像2,000枚も機械学習させて、効果検証も実施しました。最終的には信頼度を最大90%まで向上させることができました。

完成したモデルを持って森林公園で試験を実施
完成したモデルを持って森林公園で試験を実施

--大変だったのはどんなところでしたか。

畠中さん:当たり前のことですが、ただ猿の写真を撮ってコンピュータに学習させるだけではなくて、機械が猿を見分けられるようにしなければならないんです。先生の指導のもと、システムを設計して写真の中の猿にラベル付けをしたのですが、大量のサルの画像をトリミングする作業はとても大変でした。でも、地元の方から「期待しているぞ」という言葉をいただけたことはとてもうれしかったです。

システムを設計して写真の中の猿にラベル付け
システムを設計して写真の中の猿にラベル付け

高い認識率を達成
高い認識率を達成

--2年の後学期の「エンジニアリングデザインII B」で取り組んだとお聞きしました。プロジェクトの実施期間を教えてください。

杉さん:大体20週間くらいだったと思います。2,000枚ほどの画像を機械学習させるだけで4週間かかりました。その後の電気学会の「U-21学生研究発表会」のための準備は6週間くらいです。

--この研究の今後の計画を教えてください。

畠中さん:僕たちはこのプロジェクトから外れ後輩たちに託すことになりますが、今年(2021年度)は、サルが畑に侵入した際、畑の所有者の方のスマートフォンに知らせるシステムの構築を目指します。来年(2022年度)以降は監視範囲を広げていって、ロボットやドローンなどを使って害獣を威嚇排除する技術も構築していき、2024年度にはキャンパス周辺の地域一帯の農地に展開予定です。

畑で撮影された動画で効果検証を実施。 サルと認識されると自動的に緑の枠がつけられ、頭数もカウントされる
畑で撮影された動画で効果検証を実施。サルと認識されると自動的に緑の枠がつけられ、頭数もカウントされる

--地元の方々も、プロジェクトの成果を心待ちにしているでしょうね。本日はありがとうございました。

SDGsを念頭に置き、
地域課題や地球規模課題の解決に挑む



 「サイエンスや数学は世界共通。だからこそ英語で学ぶ」。国際高等専門学校では、持続可能な未来社会を創造できるグローバルイノベーターを目指している。科学と技術、数学を英語で統合的に学び、「創造の道具」にするとともに、国際高専オリジナルの「エンジニアリングデザイン教育」を通じて、誰ひとり取り残さない世界の実現に向けてイノベーション創出に取り組むという。

SDGs

 高専生たちはユーザーにとって何が問題で何が必要なのかを考えながら、アイデアを創出。キャンパス内のMaker Studioにあるレーザーカッターや、工作機械、3Dプリンターなどを使って、物やシステムなどのプロトタイプを作りながら、よりよい解決策を考えていく。

 1、2年生は自然豊かな白山麓キャンパスで全寮制教育を受ける。また、3年生は全員が1年間のニュージーランド留学を経験し、4、5年生は、併設校の金沢工業大学と連携し、分野横断型研究やプロジェクト活動に取り組む。

米RITと金沢工業大情報工学専攻の
2大学修士号取得の道も



 国際高専卒業後の編入先となる金沢工業大学は、第1回「ジャパンSDGsアワード」SDGs推進副本部長(内閣官房長官)賞を大学で唯一受賞した、日本を代表するSDGs推進高等教育機関だ。社会実装型の教育研究を全学的に推進し、Society5.0をリードする人材育成に取り組んでいる。

 米国のロチェスター工科大学大学院とのDual Degreeプログラムを実施しているのも大きな特色だ。金沢工業大学 大学院情報工学専攻まで進学すると、最短2年間で全米ベスト大学の1つ、ロチェスター工科大と金沢工業大の2大学の修士号取得の道が用意されている。

 2021年6月13日には、国際高専のオンライン進学説明会が実施される。社会に役立ちたいという方には国際高専の実践的教育を詳しく知るチャンスだ。
オンライン進学説明会など「国際高専」の詳細はこちら
《編集部》

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