中学受験という高い目標に挑む子供を、親はどのように見守りサポートしたら良いか。前編では望ましい親のスタンスや、小学校で習う知識を総動員して問題に対峙する子供に対して親が「陥りがちな失敗」について西村氏に話を聞いた。
後編となる今回は、この夏の学年別の学習のポイントについてをお届けする。
学年別夏の学習アドバイス
--前編では「親に必要なのはスケジュール管理をはじめとするサポートで、一概に学習内容にまで踏み込む必要はない」というお話をいただきました。とはいえ、もうすぐ夏休み。学習のテクニックやポイントも気になるところです。特に高学年の子供たちは、日数、勉強内容ともにボリュームのある夏期講習がスタートします。学年ごとの夏の学習のアドバイスを教えてください。
朝起きて計算と漢字をやる習慣があるのであれば、夏休み中も続けるなど、毎日コンスタントに取り組んでいる習慣の継続と再確認をしてください。再確認するポイントの1つとして大切なのが、宿題に取り組むタイミング。授業が終わったあといきなり宿題ではなく、授業の振り返りをしてから宿題をするという習慣付けが大事です。特に算数では理解の定着においてそれが重要になってきます。
<4年生>算数の計算力アップを
どの塾に通っていても4年生にとって算数で一番重要なのは「計算力」。計算力の基礎になる力は暗算力です。数字のワーキングメモリー(作業記憶)を夏の間に鍛えていかなければなりません。計算ミスが多いから筆算をきちんとするよりも、2ケタ×1ケタといった暗算の訓練を続けるほうが後々効果的です。暗算の正確さを身に付けることで、計算全体のスピードアップと正確性アップが叶います。
4年生は塾によって予習・復習などの進め方や単元に差がある学年です。塾ごとのポイントをまとめますね。
●サピックス(予習型)
通常授業では1か月4単元のところ、夏期講習で14単元進みます。全部復習するのは到底無理なので、諦めることも肝心です。14単元の中でどうしても外せないのは「小数」「分数」。その次に重要なのは「立体図形1・2」「平面図形1・2・3」。この7単元を優先しましょう。
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●日能研(復習型)
1学期ですでに習った範囲の基礎概念については、ほとんど再説明されません。苦手と感じた単元は講習が始まる前に各自で復習しておく必要があります。
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●四谷大塚、早稲田アカデミー(予習・復習折衷型)
学力上位者は予習を中心に、中間層のお子さんは復習を中心に行うと良いでしょう。この2塾は予習単元を2学期にもう一度やるので、予習に力を入れるよりも、復習で知識をちゃんと定着させることを目標にしましょう。夏期講習のまとめテストのほとんどは復習範囲から出題されます。
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<5年生>「比と割合」を徹底的に
どの塾でも、ほとんどすべての単元を5年生までに網羅するように受験カリキュラムが組まれています。ということは5年生で受験できるレベルが決まってしまうとも言い換えられます。
算数について言及すると、夏期講習ではほとんどの塾でメインとなる単元は「比」になります。苦手と感じる子が多い一方で「比と割合」を使った問題が入試では一番多く出ます。なので、夏の講習では徹底的に「比と割合」を勉強することが多いです。
比に苦手意識のある子は、まず「公約数・公倍数」「分数の計算」の復習をしましょう。この単元がおろそかになっていると、実は「比と割合」を理解するのが難しいのです。講習が終わって問題を解くだけではなかなか弱点をカバーしきれないこともあるので、関連する単元を、夏休み中にじっくり取り組むことをおすすめします。
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<6年生>目の前の問題に集中を
6年生の勉強法は、4年生や5年生までとは全然違ってきます。6年1学期までは学力をつける時期で、考え方の引き出しや知識の量を増やしていくのが主な目的でした。ところが、夏期講習からは「得点力アップ」へと目的が変わります。
1学期までは授業をよく聞いて復習するのが正しい勉強法でしたが、夏からは、家庭での復習よりも授業中の演習に集中することが何よりも大切です。ただ、困ったことに演習の時間は短い。普通に解いたら1問だけでも10分かかる問題を、授業では10分で3問解くようなスピードで行うので、あたふたしてしまいます。問題をきちんと読み込めないことで、ミスを誘発することも。そこをぐっと我慢して目の前の1問で良いから、絶対正解する気持ちで向き合って、しっかり解いてほしいと思います。
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また、例年、夏期講習で自信をなくす子を多く見かけます。それまでと違い、夏期講習のテキストは実際の入試の過去問や数値替えの問題がどんどん出てきます。たとえば開成コースのテキストに灘の2日目の問題が入っているなど、これまでやってきたことより1段階難しくなると言われています。
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そこで大切になるのは、どの部分を復習するか。おすすめは、私が日頃から提唱している「○△×学習法」です。
これは、授業で教わった問題について、絶対解ける・大丈夫なら「○」、ちょっとでも心配なら「△」、わからなかったら「×」と記しておくだけ。漫然と授業を聞くのではなく、授業のなかで復習すべき問題をピックアップしておき、家に帰ってから復習するのは「△」の問題だけにする、シンプルで効率的な勉強法です。軽々わかった問題は復習しなくて良いのです。ちなみに、「×」を解こうと頑張るのは時間がかかり過ぎるので、思い切って切り捨てます。
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● 国語:過去問に取り組む
この夏期講習のタイミングで国語が苦手と気付く子も多いです。これは講習で扱う教材が実際の入試問題に変わったことで弱点が見えてきたことを意味しています。
それまでの時期に学習してきた教材は、10年ほど前の入試問題をもとにした演習問題が多く、昔の名作などをテーマにしたものが多かったはず。しかし、近ごろの入試傾向として、新しい作家や近年発表された作品からの出題が多くなってきたことを受けて、それらが夏期講習のテキストに出てくるようになっています。そのため、問題の傾向が変わったように感じ、急に解けなくなる、点数が下がるといったことが起こります。
ではどうすれば良いかというと、授業の復習に固執せず、どんどん過去問演習をこなすこと。サピックスでは夏の間に「やっておくべき過去問リスト」を渡されるので、それをこなしましょう。「過去問はまだ取り組まなくて良い」という他塾でも、国語に関しては最近の傾向を掴むために先行してやっておいたほうが良いと思います。
● 理科・社会:知識の関連付けを
理科、社会では、覚えたことの関連付けも夏の作業として大切です。塾によっては一問一答の暗記教材を使うところもありますが、実はそれをやっても成績が上がらないことが多いのです。というのも、前後の繋がりや文章全体を通して考える入試問題が増えつつあるから。実際、昨年の渋谷教育学園渋谷の理科では知識を問う問題はたった1問だけでした。それ以外はすべて「原因と結果を書きなさい」といった問題ばかりでした。
親が一問一答に付き合ってあげるときは「双子葉なのに胚乳がある植物は?」という問いに「カキとオシロイバナ」と答えさせるよりも、問いと答えを逆にして「カキとオシロイバナってどんな植物?」と聞いてあげて、「双子葉なのに有胚乳な植物」などと答えさせるほうが力が付きます。
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中学受験の勉強で目指すところ
--最後に保護者へのメッセージ、特に6年生の保護者に向けてのアドバイスをお願いします。
中学受験の勉強が目指す到達点というのは、合格を目標とする過程の中で、勉強をおもしろいと感じることができるかどうかではないでしょうか。その気付きが、中学に入ってからの伸びに決定的に作用します。やらされ感の強い勉強にならないように、中学受験を目指すご家庭は注意してほしいです。可能性をうまく表現してあげて、子供の自己肯定感を高める付き合いを続けてほしいと思います。
6年生にもなると「今さら頑張っても…」と、もう不合格を予感している子もいたり、不合格になったときの言い訳まで考える子も出てきます。そうではなくて「今からが本番、今から本気出すぞ」と自ら掛け声をかけて自信をもてるよう、親として関わりをもってほしいですね。常に「今からでもあなたなら大丈夫」という声がけをしてください。
--ありがとうございました。
塾の送迎に学習のスケジューリング、先生とのコミュニケーションから問題の取捨選択。受験をすると決めた以上、親も子供も、やらなければならない、越えなければいけないハードルがたくさんある。それらを「一緒に楽しめたら良い」という先生の言葉が印象的だった。受験を通じて親子の絆を強くできたら、それこそが合格以上の実りとなるのであろう。
なお、西村則康氏は現在、毎月「西村則康と一緒に作る魔法の学習サイクル『今月の学習プラン作成』セミナー」を開催している。セミナーは学年別でオンラインにて行われ、塾別の今月の重要単元や、通塾の有無に限らず今月注力したいこと、毎月のスケジューリングを伝授。ちなみに記事内で紹介した画像は、このセミナーで使用された資料を提供いただいたものである。セミナー費用は1回3,000円。詳細は以下より確認してほしい。
西村則康と一緒に作る魔法の学習サイクル
「今月の学習プラン作成」セミナー