小学校受験は特別なもの?挑戦することのメリットとは…小学校受験協会・藤田和彦氏<前編>

 コロナ禍で小学校受験はどのように変化しているのだろうか。昨今の未就学児家庭の思いや考えを知るべく、小学校受験に造詣が深い小学校受験協会 代表理事・藤田和彦氏に話を聞いた。

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小学校受験は特別なもの?挑戦することのメリットとは
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 2020年春、新型コロナウイルス感染症の見えない脅威から子供たちを守ろうと、各教育現場で休校措置、オンライン授業へのシフトが行われた。その結果、公立・国立・私立それぞれの教育環境の対応の差が顕著に可視化された。わが子に安心安全で、より良い教育環境を提供したいと、国立・私立小学校受験を検討しはじめた家庭も少なくないだろう。

 昨今の小学校受験事情はどのように変化しているのだろうか。未就学児家庭の思いや考えを知るべく、小学校受験に造詣が深い小学校受験協会 代表理事・藤田和彦氏に話を聞いた。

「ライトな気持ち」で小学校受験…学びの習慣づくりとしての受験勉強



--貴協会は2016年に創立されたと聞きました。創設から5年で小学校受験者層に変化はありましたか。

 当協会は「すべての幼児に、学ぶことの楽しさを」を合言葉に、国立大学附属小学校の受験を通して1人でも多くのお子さまに将来の土台となる学びの機会を提供するために設立されました。教室開講初年度は「志望校に合格したい」という強い意志をもったいくつかのご家庭に向けて講座を始めましたが、年々「志望校合格を絶対視している訳ではないが、幼児教育やしつけの一環で教室に通う」というご家庭が増えている傾向にあります。国立大学の附属小学校は願書提出後に受験者を抽選で決定するため、出願手続きが始まる年長さんの9、10月に「抽選で通ったら受験してみようか」「国立小学校が通学範囲にあるから受けてみようか」と気軽に受験を考えるご家庭が出てきました。たとえば茗荷谷の3校(筑波大学附属小学校、お茶の水女子大学附属小学校、東京学芸大学附属竹早小学校)であれば、文京区あたりの近隣にお住まいのご家庭が特に対策をせずに「一応受験してみようか」というライトな気持ちで出願する、というお話を聞きます。

 ただ一方で、ここ10年くらいの間に、当協会だけでなく国立小学校対策教室・クラスを開講する塾やスクールが増えていて、それに付随して、しっかり受験対策をとるご家庭も多くなってきました。「国公立は第一志望ではない」「ちょっと受験にトライしてみようかな」というご家庭でも、一度小学校受験対策の教室のようすを見学してみるという空気感が高まっているように思います。実際のところ、都内の国立小学校6校の受験者数は2013年から2019年まで右肩下がりで減少傾向にあったのですが、そうした中でも、当協会のような国立小対策教室に通うご家庭は増えている印象です。

--通塾されるご家庭が増えているのは、国立小学校の受験問題がやや難化しているからでしょうか。

 多少の変更はあるものの、受験問題の基本的なベース構成・難易度はここ10年間くらいは大きく変わってはいません。ただ、対策教室等に通って準備をしている受験者の数が相対的に増えてきていますので、対策なしに受験しても対応できない、最低限のラインを守れないと選抜からふるい落とされる、という機運があります。その流れで教室に通う子供たちが増えている印象です。

 国立小学校の受験問題は、私立小学校の受験問題と比べると易しい問題である場合が多く、首都圏の国立小学校の中で難しいといわれているのは筑波大学附属小学校の図形問題くらいです。その他については難問というほど難しい問題は出題されないので対策をとらずとも、問題を解ける子供たちも多いんです。ただ保護者としては、当日より良いパフォーマンスが出せるように、どういう問題が出るのかあらかじめパターンを把握しておきたい、難易度的には解ける問題であってもどう解くのかの準備をしておきたい、という方が多いように感じます。

 当協会について言えば、「何がなんでも国立小を目指したい」「地元の公立小は避けたい」というヘビーな受験者層に加え、「運試しに国立小を受けてみよう」「小学校入学後の学習習慣づくりのために小学校受験に挑戦したい」という比較的ライトな受験者層の方に多く通っていただいています。「子供は地元の公立小に行きたいと言っているけれど念のため選択肢を増やしてあげたい」というご家庭も多いですね。

小学校受験協会 代表理事・藤田和彦氏「国公立小学校は年長夏からの挑戦でも間に合う」と話す小学校受験協会 代表理事・藤田和彦氏

小学校受験で得られる3つのメリット



--さまざまな理由で小学校受験を目指すケースがあるのですね。小学校受験に挑戦することで得られるメリットとは何でしょうか。

 1つ目のメリットとしては、就学前に家庭での学習習慣づくり、特に親子で学びに取り組む習慣づくりができるという点です。学びの習慣は、机に向かって鉛筆を持って取り組むいわゆる「お勉強」だけではありません。たとえば、小学校受験のペーパー課題の中には「お話の内容理解」といって物語を聞いて質問に答えるような問題があるのですが、その対策として必ず勧めているのが「読み聞かせ」です。親子で読み聞かせをすることによって、物語を聞いてイメージする想像力や物語に慣れ親しむことが自然と身に付き、それが後々の読書習慣や文章を読んで理解するという国語力につながっていきます。国語力はそれ以外の科目にもつながっていく大切な力だということを伝えたうえで、読み聞かせの習慣づくりを勧めています。

 受験のためにと、机に向かう時間やペーパー学習の枚数ばかりを気にして、ノルマ的に勉強に取り組んでしまうと、就学前の子供にとってその時間は結構タフで苦痛を感じる時間になりかねません。そうではなくて、机に向かっていない時間の中でも学びを発見していくような意識を子供ではなく保護者の方がもつことによって、日常の中に隠れている学びを見つける視点や意識を親子で一緒に育んでいくことができます。席に座って勉強している時間以外でも、何かを発見したり、興味を持って調べたり、集中したり。そうすることで、受験が終わった後もどんどん新しいことを発見して取り組んでいくことができる。これを子供に「身に付けさせる」のではなく、ご家庭全体として「親子で一緒に身に付ける」ためのステップになる、というのも小学校受験に向き合うことの大きなメリットだと感じています。

 「お勉強」をイメージした時に、受験を突破するための苦しいものという感覚で取り組んでしまうと、就学前の子供にとっても、親にとっても辛くなってしまいます。それよりも、「学びを楽しむって大事だね」というスタンスで、親子共に「お勉強」の中に遊び的な、肯定的なイメージを持って学びの楽しみ方を探すような習慣、それを含めた学習習慣を築きましょうと、当協会では伝えています。

 メリットの2つ目は、家庭内の生活習慣をより良い方向へ導くことができるという点です。小学校受験の特徴的な部分に「学力が高ければ良い」という訳ではないことがあげられます。小学校受験では「ペーパー課題」の他にも、巧緻性を判断する「制作課題」や「運動課題」、先生の質問に答える「口頭試問」、お友達と一緒に協力しながらグループワークを行う「行動観察」等、さまざまなタイプの試験が課されます。勉強ができれば良いというだけでなく、どんな人間性を発揮するのかが合否につながる評価ポイントになってきます。

 先生のお話を聞く姿勢や、トイレにいった後にハンカチで手を拭いてポケットに戻す、脱いだ靴を揃えておく、といった基本的な生活習慣(身辺自立)が身に付いているのか。小学校入学後、親がいなくても先生が手を貸してくれなくても自分で生活していくことができるのか、集団生活の中でどうしたらお友達と楽しく取り組めるのかといった、社会で生きていくための基本的な準備を小学校受験を通して進めていけるというのも1つのメリットだと感じます。

 これもまた子供に指示してやらせるのではなく、家庭内で親子が共に意識して取り組むというのがポイントで、親が率先してあいさつや周りの人への配慮、生活習慣を見直して子供にお手本を示すことで、家庭内の習慣やコミュニケーションを良い方向へ進めていくことができると考えています。

小学校受験は特別なもの?挑戦することのメリットとはまるで就活! ご縁と人間性で決まる小学校受験

--小学校受験って、就職活動に似ている印象ですね。

 そうなんです。私も小学校受験は就職活動に非常に近いと思っています。就職活動もどんなに優秀であってもすべての会社から内定を得られる訳ではないですよね。小学校受験もそれに近いところがあって、どちらもマッチング要素が強いんです。私立小であればその学校の校風にマッチしているかが問われますし。小学校受験においては難関校や名門校といわれる学校に合格することが人生の優劣を決めることにはならないと感じています。

 小学校入学時に大切にしてきたことが、中学・高校と進むうちに置き去りされて学力や偏差値一辺倒になってしまい、就職活動で社会に出た時につまずいてしまう。大学入試改革も、大学までの教育でも社会人として活躍していける能力を育成するための教育をすべきという考えが根底にあって、学力だけでない柔軟な評価指標を取り入れるはずでしたが、こちらもなかなか難航していますよね。

--なるほど、面白いところにお話がつながってとても興味深いです。

 3つ目のメリットは、受験に向き合う中で、家庭の教育方針や進学計画を考える機会がもてるという点です。小学校受験に向けた準備をしていく以上、家庭内の理解と協力は不可欠です。両親と子供が揃って面接する場面もありますし、受験のために教室に通う、模試を受ける、となるとそれに対する労力がかかってくるのは避けられないので、その中で特にお父さま・お母さまの教育に対する思いのすり合わせはマストです。すべて統一する必要はないにしても、受験への取組みに対してお互いに理解し、肯定的な思いを保ったうえで進んでいくことが望ましい。子供のこれからのことについて、家庭内で話をする機会を意識してもつことができるのは、子供の将来に向けたメリットであると感じています。

私立?国立?志望先で大きく変わる受験対策



--小学校受験の受験先として、国公立小学校と私立小学校の2つのパターンがありますね。それぞれの受験に違いはありますでしょうか。

 大きな違いとして、国立小学校には試験前・試験後に抽選があります。研究実施校、教員養成校という学校の成り立ち上、公平を期してさまざまな生徒を集める必要があることから、結果的にいわゆる「運」「ご縁」の要素が強いのが特徴です。志願者数も私立小学校に比べると多く、倍率も高くなります。

 一方、私立小学校は国立小学校に比べると志願者数・倍率ともに低いケースが多いため、適切な対策をしていけば比較的合格につながりやすいという特徴があります。私立小学校は学校ごとに明確な建学の精神、宗教的要素、男子校・女子校があるのも私立小学校の大きな特徴ですね。

 国立小学校では志願者数の多さから、ひとりひとりの試験中の動きやようすをすべて精査して合否を出すことは難しいのでは、という話があります。都内の国立小学校では、例年、2~3日に志願者を分けて試験を実施していますが、この2日ないしは3日で、1,000名前後の志願者が受験をします。たとえば、コロナ禍以前の筑波大学附属小学校では、3日で約2,000名が試験を受け、試験翌日には合否が発表されていました。私立小学校の中には、試験後にひとりひとりのようすを検証して合否を出す学校もあるそうですが、大人数に試験を実施した翌日に合格発表を行う国立小学校で、試験後に各受験者の細かなようすを精査するのは現実的ではないように思います。試験当日の子供のようすが、立ち会った試験官の目にどう映ったかも一部合否を左右するため、そういったところからも「運」と「ご縁」の要素が強いと見てとることができます。

 また、国立小学校の最近の傾向では、どうやら学力で合否が決まっている訳ではない、ということがわかってきました。これまでに合格した子、残念ながら不合格だった子たちの話を比較したうえですが、大手の教室が行っている模試の結果順に受験生を並べてスコアが高かった子供から合格しているか、合格率が高いかというとそうでもないという傾向が出ていて、模試の結果と合格の相関関係はないという印象です。

 対して、私立小学校ではペーパー課題で満点が取れたら合格、1問間違えたらギリギリ、2問間違えたら不合格、と明確に決まっている学校もあると聞きます。各校の特徴が明確な分、学校の校風や方針を理解したうえで自己アピールをする必要があります。入念な学校研究が必要になる点も大きな違いの1つですね。

今からでも間に合う?国公立小学校受験のモデルスケジュール



--小学校受験にあたってのモデルスケジュールを教えてください。

 2020年度はコロナ禍ということもありスケジュールに大きな変化もあったため、2年前までのスタンダードなスケジュールをもとに、年長さんの8月から受験までの流れをお話しますね。

【小学校受験モデルスケジュール ~年長さん夏以降を例に~】
8月
 ・説明会に参加する(説明会動画を見る)
 ・本番に必要な服装・持ち物を揃える
 ・願書用の写真撮影
8月~9月
 ・出願する学校を決める
8月~10月
 ・受験方針の再確認
9月
 ・過去問に取り組む
9月~10月
 ・願書受取、出願
9月~11月
 ・保護者作文記入の準備
10月
 ・口頭試問の練習
 ・試験について親子で意識あわせをする
11月~12月
 ・コンディションを整える


【国立小学校】



<年長編>
 国立小学校受験において、8~9月は出願に向けた準備を進める時期です。8月の段階で本番に必要な服装や持ち物を揃えるべきなのは、願書用の写真撮影を行うためです。国立小では願書用の写真が本人確認の意味合いも兼ねているため、当日眼鏡をかけて受験する子であれば写真撮影でも同じ眼鏡をかけて撮らないと意味がありません。本番の服装も8月の段階でチェックして揃え、同じ服装で写真を撮ってあげた方が良いですね。服装は「国立ルック」と呼ばれる、白のポロシャツに紺の半ズボン(男の子)、運動しやすいジャンパースカートもしくはキュロット(女の子)といったコーディネートが定番です。写真で合否が決まることはないのですが、より印象をよくするためにスタジオで撮影するとなると、やはり8月くらいに予約を取っておくのが安心だと思います。

 9~10月は出願を行う時期です。実際に願書を受け取り、出願手続きを行う時期になるため、各小学校のWebサイトで発表されている最新情報を確認しながら対応することが必要です。また、9月に過去問に取り組むと書いていますが、できることならば7月・8月からどんな問題があるのかなと過去問をチェックして取り掛かることで、どの問題につまずいているのか、何がわからなくて困っているのかを早い段階で確認することができます。

 そうして、10月ごろから受験について親子で話し合い、健康状態を維持してコンディションを整えつつ、11月中旬~12月上旬の本番を迎える、というのがおもな流れです。

小学校受験スケジュール<年長編>

<年中編>
 国立小学校の年中さん向けスケジュールとしては、例年、受験の1年前から学校説明会に参加して空気感を掴んだり、この学校を受けるべきかどうかの判断材料にしてくださいと伝えています。ただ、昨年は多くの学校で説明会が中止となってWebでの説明動画配信となり、参加対象も受験学年のみに制限されるなど、受験生以外の参加が難しくなりました。本来であれば年中さんの夏により多くの学校の説明会に参加したいところですが、なかなか難しいという状況です。今年もその状況は変わらないため、年中さんの情報収集の動き出しに少し影響が出るとみています。

小学校受験スケジュール<年中編>

【私立小学校】



 私立小学校の場合は、年中さんから学校研究を進めておくことが必須です。私立小の場合、年長さんの5月くらいから各校で説明会が開催されるのですが、事前に日程を把握しておいて必ず参加してほしいです。なぜなら、私立小では志望度を確認する意味合いから、過去の説明会の参加状況をリストで管理把握したうえで合否判定に用いているからです。日和見的に受験してもなかなか合格しづらい面があるので、早い時期からの準備が合否を左右するといっても過言ではありません。私立小となると学校数も相当多いので、年長に上がって以降も志望する学校の説明会に漏れずに参加するためには、年中の夏からの情報収集と学校研究が非常に重要になります。

 同時に願書の書き方や面接の準備も進める必要がありますが、学校ごとの特色等をすべて理解して進めていくのはかなり難しいため、こうしたところは、もし教室等に通っているのであれば、熟知している教室の先生に細かく聞いて指導をお願いしてしまうのが一番スムーズで効率的だと思います。それでも、実際に願書を書くのは保護者の方ですので、あくまでもしっかり保護者の方が理解して準備を進めていく姿勢が大事ですね。

 正直なところ、年長さんの夏に「いまから私立小の受験を考えたいのですが」というのは時間的に厳しいところがあります。年中さんの夏からでも慌てて動き出してほしいなというのが本音で、それくらい準備が必要だということを頭に入れていただけるとスムーズに受験に向けて取り組んでいけるかと思います。

--私立小学校では思った以上に準備が必要だということですね。

 そうですね。いまお伝えしたのは出願に向けた手続き上の準備がメインでしたが、受験を抜きにしても年中さんやその前の時期から楽しく学びに取り組む習慣をつくってあげることが大事だと思っています。「読み聞かせ」「図鑑でいろいろなものに触れる」「実物に触れる」「季節のイベント」「塗り絵」「パズル」「お絵描き」「お手伝い」といった知識と経験の幅を広げる活動に楽しく取り組む経験は、受験をしてもしなくても非常に有意義な就学前の学習になります。

 国立小学校の受験対策であれば年長さんになってからでも間に合いますが、年中さんやその前から楽しい学びの習慣が積み重なっていれば、焦って受験を意識した対策をせずとも対応できるはずです。年中さんを過ぎてしまったから遅いということはないので、ぜひご家庭でそうした学びに触れる習慣をつくってほしいなと思っています。

 インタビュー後編「首都圏国公立小9校の傾向と対策、「聞く力」が鍵」へ続く。
《畑山望》

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