ニホンオオカミの起源に関する謎が解明、地理的環境も大きく寄与

 山梨大学他からなる研究グループは、ともに本州から発見されたハイイロオオカミの日本固有亜種であり極めて小柄なニホンオオカミと世界最大級のハイイロオオカミの標本による古代DNA解析に成功し、長年の謎とされてきた両者の進化的な関係性等を明らかにした。

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研究結果の概要図
  • 研究結果の概要図
  • 研究で分析した本州に生息していた更新世オオカミとニホンオオカミ (A) 今回分析した栃木県産の更新世オオカミの頭骨(B) 神奈川県で捕獲された標準的なニホンオオカミの標本 (Canis lupus hodophilax) (左) と更新世オオカミ(右) との頭骨サイズの比較(C) ニホンオオカミ(左)と更新世オオカミ(右)の体格の差異
  • ミトコンドリアDNA解析に基づくハイイロオオカミの系統関係と分岐年代推定
  • 核ゲノムデータに基づく更新世オオカミ集団と大陸の現生オオカミ集団の関係と交雑の歴史
  • 研究結果から推定されたニホンオオカミの起源

 山梨大学、国立科学博物館、東京農業大学、東京工業大学、国立遺伝学研究所、山形大学、国立歴史民俗博物館他からなる研究グループは、ともに本州から発見されたハイイロオオカミの日本固有亜種であり極めて小柄なニホンオオカミと世界最大級のハイイロオオカミの標本による古代DNA解析に成功し、長年の謎とされてきた両者の進化的な関係性等を明らかにした。研究成果は、日本時間2022年5月10日に、米科学雑誌 Current Biology(カレントバイオロジー)電子版に掲載された。

 ニホンオオカミ(Canis lupus hodophilax)は、現存ならびに絶滅した世界中のハイイロオオカミ(Canis lupus)の中でも極めて小柄な日本固有の亜種。平均頭骨長が約196mm、歯(下顎第一大臼歯、m1)の長さが約24 mmと、現存ならびに絶滅した世界中のハイイロオオカミの中でも極めて小柄な亜種。オオカミ信仰でも知られるように日本では古来人々に畏敬の念をもたれてきた動物だったが、1905年に確認されたのを最後に絶滅している。一方で、2万年より前には世界最大級のオオカミが日本列島に生息していたことがわかっている。本州に生息した更新世(地質時代の区分の1つで、約258万年前~約1万2千年前までの期間)のオオカミの歯(下顎第一大臼歯、m1)は、最大で34.5mmにも達し、現生ハイイロオオカミのm1が24.0~33.5mm、大陸の更新世オオカミ化石でも28.1~33.4mmの範囲であることから、日本列島の更新世オオカミは地史的な記録におけるすべてのハイイロオオカミの中で最大級であったことがわかっている。

 研究グループは、これまで長年の謎とされてきたこの世界最大級である日本列島の更新世オオカミの系統的位置づけや小柄なニホンオオカミとの進化的な関係性を、最先端の古代DNA解析技術を用いて解明。古代DNA研究としては日本国内最古の試料となる、3万5千年前の巨大な更新世オオカミと5千年前の縄文時代のニホンオオカミの標本を用いたDNA解析を行い、成功した。

 その結果、ミトコンドリアDNA解析から、更新世オオカミはニホンオオカミとはまったく異なって古い年代に分岐した系統であることが明らかとなった。また、分岐年代推定(生物間のDNA配列あるいはアミノ酸配列の違いを比較して系統樹上の分岐した年代を推定する方法)により、巨大な更新世オオカミは5万7千年~3万5千年前に大陸から日本列島へ渡り、その後、3万7千~1万4千前の間にニホンオオカミの祖先に繋がる系統が渡来したことが示された。さらに核ゲノムDNA解析からは、5千年前のニホンオオカミが巨大な更新世オオカミの系統と後から日本列島に入ってきた新しい系統が交雑して成立したことが解明された。

 今回の研究では、ユーラシア大陸から隔離された島弧でありながらも氷期の海水準低下期には断続的に陸続きになるという日本列島の特殊な地理的環境ゆえに、大陸集団では検出できない時間軸を伴った生物地理学的な挙動の解明が可能となった。今回の研究結果で示されたような、系統が交雑することで新しい集団が形成されていくという過程は、ニホンオオカミのみならず普遍的に起こってきた可能性があり、日本列島における哺乳類相の進化史解明の進展が期待されている。


《増田有紀》

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