好きを大事に、多彩なキャリアへ…理系女子の自由な選択を促す三菱みらい育成財団「理系ブロッサム」

 三菱みらい育成財団は2024年7月13日、全国の女子高校生を対象としたオンラインセミナー「第3回理系ブロッサム」を開催した。18社から28名の理系女性企業人が参加し講師を務め、また28名の理系女子大学生・大学院生がファシリテーターとして参加した。このイベントの意義にせまる。

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好きを大事に、多彩なキャリアへ…理系女子の自由な選択
  • 好きを大事に、多彩なキャリアへ…理系女子の自由な選択
  • 第3回理系ブロッサム
  • 理系を選ぶことで選択肢や可能性が広がる
  • 第3回理系ブロッサムの講師・参加者たち
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  • イノベーション創出に欠かせないジェンダーダイバーシティ

 三菱みらい育成財団は2024年7月13日、全国の女子高校生を対象としたオンラインセミナー「第3回理系ブロッサム」を開催した。女子高校生が、理系の女子大学生・女性企業人たちと直接対話できるイベントとして3回目を迎えたもので、文理選択に迷っている女子生徒はもちろん、理系に決めた生徒からも、「理系に進んだ際の将来のキャリアを具体的に描ける」「さまざまな道で活躍している理系女性のロールモデルに接することができる」と人気を博している。

 今回も機械、化学、素材、自動車、飲料といったメーカーをはじめ、銀行や証券、保険、コンサル、商社など幅広い業種の18社から28名の理系女性企業人が参加して講師を務め、また、28名の理系女子大学生・大学院生がファシリテーターとして参加した。イベントではまず宇宙飛行士・山崎直子氏および琉球大学工学部・玉城絵美教授によるパネルトークが行われ、宇宙と工学という先端分野における理系女性のキャリアや活躍を共有した後、少人数のルームにわかれてワークショップを実施。合計178名の理系女性企業人や理系の女子大学生と女子高校生が交流するブレイクアウトセッションを2回行い、理系女性のキャリアや経験、考えを直接聞き、質問をかわし、相談を行い、理系という進路について大いに理解を深めていた。

イノベーション創出に欠かせないジェンダーダイバーシティ

 女子生徒における理工系の進路選択を促進する動きが活発化している。国は2020年に閣議決定した「第5次男女共同参画基本計画」において、女子学生・生徒の理工系分野の選択促進および理工系人材の育成を掲げており、女子生徒の理系進学を増やす取組みを推進。こうした取組みの背景には、日本における女性の社会進出が遅れていたり、理系選択が増えなかったりといった現状があることは、前回の理系ブロッサムのイベントレポートにも記したとおりである(前回の記事はこちら)。

 このような背景から、日本の教育業界においても、リケジョを応援し、女性の理系選択を後押しする取組みが数多く出てきている。そのひとつが、昨今活発化している理系・医療系大学と女子校による高大連携協定を結ぶ動きだろう。

 たとえば東京理科大学と吉祥女子中学・高等学校は2024年3月27日に高大連携協定を締結。順天堂大学は6月に私立女子校である十文字中学・高等学校と高大連携に関する協定を締結している。さらに、大学受験における理工系「女子枠」の創設・増強についても、一層動きが顕著となっている。東京工業大学は今年7月、2025年度(令和7年度)入学者選抜要項を公表し、総合型・学校推薦型選抜の女子枠を2024年度入試の58人から149人へ大幅に拡大することを明らかにした。また、新潟大学は2025年度(令和7年度)の工学部入学者選抜「学校推薦型選抜I型」において、「女子枠」を新設することを公表している。このほか、各大学においても、理系女子学生が研究を続けやすいよう環境を整えることに力を注いでいる。

ロールモデルとなる先輩から理系の魅力や将来の選択肢を学ぶ

 女子生徒本人の理系選択における不安を取り除き、背中を押す取組みをしている好例が、三菱みらい育成財団によるオンラインセミナー「理系ブロッサム」だ。日本のリケジョがなかなか増えない要因には、「女性は理系に向いていない」といった無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)があるとされ、そうしたアンコンシャス・バイアスを払拭するには、「大学や団体、企業等の協力のもと、女子児童・生徒、保護者および教員に対し理工系選択のメリットに関する意識啓発、理工系分野の仕事内容、働き方および理工系出身者のキャリアに関する理解を促す」(内閣府:第5次男女共同参画基本計画より)ことが有用だといわれている。同イベントはまさにそうした内容の取組みであり、理系女性企業人と女子高生をオンラインでつなぐことで、理系の進路の可能性をわかりやすく示すことをねらいとしている。

 三菱みらい育成財団は、理系学部に進む女子生徒が少ないと言われる中、理系女子を応援するために同イベントを開催。女子高校生が、多様な分野で活躍する理系女性企業人とオンラインで対話をすることで、理系の価値や魅力を再発見し、進路選択や将来に役立つ情報を得て、自らの可能性を開いていくことを目指している。

 同財団は、三菱グループが創業150周年事業の一環で2019年に、次世代人材の育成を目的に設立した財団で、不確定で正解がない「VUCA」時代を生き抜き、未来を切り拓く人づくりをテーマに、高校生を中心とする15~20歳の若者たちを対象とする教育プログラムにフォーカスして助成事業を行っている。これまでの助成先は延べ384機関、参加者総数は22万8,000名にのぼっている。「理系ブロッサム」は高校生向け教育支援の一環で実施されたものだ。「もっと、理系の今が、わかる日。」をキャッチコピーに掲げ、今回で3回目の開催を迎える同イベントは、普段接することができない先輩たちとの交流を楽しみながら、理系の魅力や将来の選択肢に触れることができると好評を得ている。

 今回のイベントでは、まず宇宙飛行士・山崎直子氏および琉球大学工学部・玉城絵美教授によるパネルトークが行われ、宇宙と工学という先端分野における理系女性の活躍を共有。その後、「理系女性企業講師1名・理系女子大学生ファシリテーター1名・女子高校生数名」という少人数のルームにわかれてワークショップを実施。企業講師による講話ののち、理系女子大生および女子高校生を交えての質疑応答・対話を行うブレイクアウトセッションを2回行い、理系選択とそれによる多彩な活躍の機会について具体的な情報や考えなどを共有し、意見を交わした。また、セッション後は企業講師のみ、女子大生と女子高生のみの2つのグループにわかれて、振り返りを行い、感想や質問などをわかち合った。

 ここでは一部のブレイクアウトセッションのようすを紹介する。

「数字に強いことは武器」(明治安田生命 湯浅氏)

 明治安田生命にアクチュアリーという専門職で採用され、商品開発に従事している湯浅氏。同職は確率や統計などの手法を用いて将来の不確実な事象の評価を行う数理業務のプロフェッショナルだという。

 氏は自身の歩みを振り返り、

1.文理選択
2.大学受験
3.就職活動

の3つがターニングポイントになり、進路に迷ったと語った。

 1は経営・経済などの文系学部に興味があったものの、数学と理科以外は得意ではなかったことから、担任や母親などに相談。「理系学部にも興味がもてるものがありそう」との判断で理系を選択した。2はもともと生物系を志望していたものの、浪人生時代に読んだ新聞記事をきっかけに「好きなことを勉強しよう」と数学科を志すように。その後、3の就職活動でアクチュアリーという職業に興味を持つものの、大学数学の難しさゆえにできるか自信がなかったが、OGによる「ビジネスは1番でなくても需要はある」との講演や、職場体験での体験から一念発起。理系専門職として就職することになったと述べた。

 湯浅氏は自身の歩みを通して、女子高校生らへ「最後は自分で決める、責任をもつことが後悔しない最大のポイント」「仕事では複数の評価軸で測られ、バランスが重要。各評価軸で一番ではなくても価値はある。『好き』も大切にしてほしい」「数字は新人からベテランまで全員に平等にある動かしようがない事実。数字に強いことは武器になり、若いうちから活躍できるチャンスにつながるので、理系×女性は相性が良いのでは」とアドバイスを送った。

「理系学科から進める職種は幅広い」(AGC 市川氏)

 中高一貫女子校から理系単科大学・大学院に進学し、卒業後も理系技術職に従事している「理系どっぷり」の市川氏。「理系科目全般が好きで、理系の職種がイメージしやすかったので文理選択は悩まなかった」ものの、大学受験においては悩みが尽きず、いちばんの転機だったという。

 理系学科を調べるうちに興味をもった経営工学を学べる大学を受験。第1志望大学において、同学科は不合格であったものの、第2志望の材料系学科で合格。志望の学科をとるか大学をとるかで迷いながらも、在学中の転学科も視野に入れて材料系に入学した。大学・大学院では 材料系で楽しい学生生活を送り、「生体材料(バイオセラミックス)」を扱う研究室に所属。医師以外の立場からも人々の健康を支える研究に携われることにやりがいを感じたこともあり、AGCに入社したと語った。

 市川氏は「希望の職種によっては出身学科が重視されることもあるが、理系学科から進める職種はかなり幅広い」「理系を通じて得た論理的思考力などを生かせるところはたくさんある。メーカー以外にも公務員、コンサルティング会社、銀行など活躍の場は多くある」と説明。「理系であることに誇りをもって、希望を胸に将来を考えるきっかけになれば」とエールを送った。

理系を選ぶことで選択肢や可能性が広がる

 各ブレイクアウトセッションでは、高校生からの質問や相談も多く寄せられた。

 「高校生の時にどんなことをしておけば良いか」という質問に対しては、ある企業講師からは「毎日の勉強・部活も大事だけど、いつもと違う分野で、ちょっとでも興味があるイベントがあれば行ってみることも大事。そこで出会ったものがきっかけになって、その後につながることも多いので、興味があるものにはぜひ勇気をもって一歩踏み出してほしい」との答えが示された。

 「理系として会社に入った後も、研究開発1本ではなく、仕事内容を変えることができるか」という質問には「たとえばメーカーでは、研究開発にも基礎研究や製品開発などいろいろあるし、キャリアを積む中で技術職以外にも知的財産や情報、技術営業、人事・経理の道に進む人もいる。非常に幅広い活躍ができる。むしろ事務系の職種で入った人が技術系職種に移ることの方が難しいと思うので、理系の職種は非常に広く活躍できる」との答えがあった。

 一方、今回はブレイクアウトセッションの間に「学生ファシリテーター×高校生」「企業講師のみ」にわかれて、振り返りの時間が設けられた。企業講師のみの振り返りでは「話を聞いてみたら悩んでいることは私が高校生のころと変わりがなくて安心した」「自分の考えを短時間のうちにまとめてしっかり伝えられる子たちが多くて、コミュニケーション能力の高さに驚かされた」といった感想をはじめ、お互いの仕事内容についての質問などが相次ぎ、異業種交流の話にも花が咲いていた

 また、学生スタッフ・高校生の振り返りをみると、高校生からは「高校で理系を選択しても、将来的にいつでも文系に移ることができるというのが印象に残った」「好きなことを仕事にしているのってすごい」「理系に行くと選択肢や可能性が広がる。理系は重要な人材だとわかった」などの感嘆の声。大学生スタッフからは「高校生の皆さんが興味や好きなことが決まっているのが凄いと思う」「後悔があっても挽回が効くので、あまり気負いすぎずに、楽しみながら勉強してほしい」などのコメントが寄せられた。

 最後に、全体セッションで「今、心にあること」をテーマに感想の共有が行われた。

 高校生からは「いろいろな方のキャリアを聞いて、理系は非常に幅が広く、自分の興味のあることを自由に選べるところが楽しそうだと思った。私も自分の興味がある、ワクワクすることを選んで頑張っていきたい」「生物系に進むことを決めているが、大学でも文転が可能という話を聞いて、(将来は文系や芸術系にも進むこともできると)進路選択の幅が広がった」「今日企業講師の話を聞いて学生時代の経験と将来が地続きになっていることを感じた。今の経験を大事にしたい」「今やりたいこと、好きなことを大切にすることで進路の幅が広がることを学んだ」「理系はいつでも進路を変えられることが、迷っていた私には大きな救いになった。好奇心を大事に、進路をもっと柔軟に考えられるようにしたい」「いろいろなことに興味をもってアンテナを張ることをしていきたい」など、将来、理系の進路を前向きに考える声が相次いだ

 また、会終了後のアンケートでは、企業講師からさまざまな気づきや感想、高校生へのメッセージが寄せられた。

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の矢野氏からは、「メーカーやIT企業などでなくても、(金融業界にも)どんな業界にも、理系技術を生かせる場があることを知ってほしい。自分たちよりも将来の在り方が多様化している時代に、このイベントに参加する中高生は何かしら具体的なロールモデルを求めていたり、自分の意見や不安事項を確かめたいという気持ちがありそうだという雰囲気を感じた。自分のキャリア選択は特に迷わなかったものの、本イベントのような機会があれば、より将来に向けて高いモチベーションをもって学業に望めたのではないか」などとコメント。

 三菱倉庫の磯貝氏からは「自分自身が大学の途中から文系寄りの研究をして文系就職をしているので、今何かを選択したとしても、何度でも変更は可能で、それがむしろアドバンテージにすらなり得るということ、理系を選んだからこうあるべきなど、自分で自分の将来を限定せずに視野を広くもってほしいということを伝えたい。理系・文系で学んできたことは共に自分の財産であり、特に仕事の進め方や業務改善といった部分で理系の知識、考え方が活きていると感じている。本イベントは同世代に同じ悩みを抱えている仲間がたくさんいて、自分と同じように夢や将来の目標に向かって頑張っていることを認識する良い機会でもある」などのコメントが寄せられた。

 AGC・市川氏からは、「理系であることに誇りと希望をもってほしい。理系女子に対する世間の印象はかなり改善されている。社会人講師とのコミュニケーションを通して、素敵な未来を想像し、歩んでいくきっかけになっていればうれしい。理系といえば男女ともに寡黙な方が多い印象があったが、今回参加された高校生の皆さんは積極性・コミュニケーション力ともに非常に優れていて、理系女子の未来は明るいと感じた。これから進路を決める皆さんにはさまざまな場所での出会いを大切にしてほしい」と激励が寄せられた。

 明治安田生命・湯浅氏からは、「理系専門職として就職したものの、わからないことや難しいことばかりで毎日がハッピーという訳にはいかないが、好きだから踏ん張れ、好きだから続けられ、好きだから学ぶ意欲がわいてくる。テストや模試の結果をみて、身近な友人、先輩や後輩と自分を比べ、自信をなくすこともあると思うが、好きという気持ちほど大きな原動力になるものはないと思うので、進路選択にあたっては、好きなことや興味があることを大切にしてほしい」とのメッセージが送られた。

好きなことを生かして活躍するリケジョたちに期待

 本イベントにて、「理系女性企業人の多くが「好き」を大事に進路を選んできた」こと、「理系はいつでも自由に進路を変えられる、選択肢が幅広いこと」を知って、感動を覚えた高校生も少なくなかったようだ。ある高校生が言った「理系に進みたいけど数学が苦手なので文系を勧められている」悩みは、文理・進路選択のあるあるだが、理系女性講師は口々に「勇気をもって自由に、好きな道へ」と背中を押してくれていた。好きなことを生かして社会で活躍し、キラキラと輝いている理系女性企業人たちの姿をみて、高校生たちも自由に進路を選ぶ勇気を得たのではないだろうか。社会はそうした理系女性の活躍を広く待ち望んでいる。

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《羽田美里》

羽田美里

執筆歴約20年。様々な媒体で旅行や住宅、金融など幅広く執筆してきましたが、現在は農業をメインに、時々教育について書いています。農も教育も国の基であり、携わる人々に心からの敬意と感謝を抱きつつ、人々の思いが伝わる記事を届けたいと思っています。趣味は保・小・中・高と15年目のPTAと、哲学対話。

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