三田国際科学学園は、国際教育とサイエンス教育を2本の柱に、国公立大学、難関私立大学ならびに、海外大学にも多数の卒業生を送り出している。
2026年3月に同校ICコース(インターナショナルコース)を卒業したS.Uさんは、ミネルバ大学をはじめとする10校以上の海外大学から合格を獲得し、全額奨学金を得て米国ブランダイス大学に9月から進学する。リベラルアーツ教育を重視するブランダイス大学は、全米でも優秀な高等教育機関のひとつとして知られる。S.Uさんと、同校で教鞭をとるジャスティン・ブラワー先生に、海外大学受験の実情と同校の支援について聞いた。
「海外で学ぶ」が自然な環境だった
--2026年3月に三田国際科学学園高等学校を卒業されたS.Uさん。多数の海外大学に合格されたそうですね。
S.Uさん:オーストラリアのメルボルン大学、オランダのアムステルダム大学、アメリカはブランダイス大学やミネルバ大学などに合格しました。最終的にはブランダイス大学に進学することにしました。
--海外大学への進学を決めたのはいつごろでしょうか。きっかけも含めて教えてください。
S.Uさん:小さいころから、「海外で広い世界を見たい」という気持ちがありました。2歳から7歳まで中国に、10歳から11歳までタイに住んでいたので、その影響もあるかもしれません。はじめは漠然とした憧れに過ぎず、具体的に海外大学への進学を決断したのは中3のときです。高校のコースを選ぶタイミングで、「日本の大学を目指すのか、海外の大学を目指すのか」をあらためて考えました。周りの友達も海外大学を目指す人が多かったですし、両親もそれぞれ若いときに留学経験があり、理解があったのも、決断の後押しになりましたね。

コンプレックスが研究テーマに
--どのような研究への関心から、それらの大学を志望したのでしょうか。テーマに関心をもったきっかけも含めて教えてください。
S.Uさん:中学生のころの私は、自分の見た目に強いコンプレックスを抱えていました。誰かが容姿を褒められている言葉を聞くたびに、「自分にはないもの」を突き付けられているような感覚があり、苦しく感じることもありました。そのような経験から、「ありのままの自分を認めてほしい」という思いで、友だちと3人で有志団体『Kalon』を立ち上げました。
Kalonは古典ギリシャ語で、目に見える外見だけでなく「内面から生まれる美しさ」も表す言葉です。最初は自分自身のための活動だったのですが、メンバーを集める中で、日本を含めアジアはルッキズムの傾向が強く、同じような悩みや違和感を抱えている人が想像以上に多いことに気づきました。「美しさに対する価値観を変えることは、自分のためだけでなく、他の人のためにもなる」と考えるようになったのです。
アメリカの大学に興味をもったのは、アメリカでは少数派の意見やニーズを商品開発やマーケティングに反映させる「インクルーシブマーケティング」の考え方が広がっていることを知ったからです。また、自分の身体を否定せず、ありのままを受け入れようとする「ボディポジティビティ」という価値観にもひかれました。こうした背景から、「なぜ美の価値観は変わりにくいのか」を心理学的に研究し、美意識とマーケティングについて学びたいと考えるようになりました。
有志団体を立ち上げたのは中2の終わりごろ。三田国際科学学園には生徒が自分の興味や関心をもとに有志団体を立ちあげる文化があったので、私も軽い気持ちで活動をスタートしました。学園祭では展示の企画・運営なども担ったため、結果的にこうした活動実績が、海外大学受験において自分をアピールする材料にもなりました。
--ブラワー先生は、Kalonの顧問として、活動をどのようにご覧になっていましたか。
ブラワー先生:最初に顧問を打診され、趣旨について話を聞いた際に、S.Uさんが「ボディポジティビティ」について熱く語る姿を見て、素晴らしいと思いました。その言葉を生徒が使うのを聞いたのは初めてだったからです。近年、SNSなどの影響で、特に女の子の自己肯定感が低下しているという説もあり、とても意義のある活動だと感じました。

哲学の授業が育てた“批判的思考力”
--S.Uさんは、ブラワー先生の授業から大きな影響を受けたそうですね。
S.Uさん:ブラワー先生からは、中学で英語を、高校では哲学を学びました。私はICコースだったので、他の主要教科と同様に哲学の授業も英語で行われていたのですが、「人生の意味とは何か」といったテーマについてディスカッションをするなど、授業のたびに毎回深く考えさせられました。
また、自分の意見を深めるために、ブラワー先生に「この考えに対する反論を聞かせてほしい」などと相談すると、個別でディスカッションに付き合ってくださり、自分の考えの落とし穴や論理的に弱い部分を指摘していただけました。そのおかげで批判的思考力を養うことができたと感じています。さらに、ブラワー先生は欧米の哲学者を紹介する際に「この人は◯◯大学で教えていた、研究していた」などと教えてくださるので、海外の大学が身近に感じられ、海外進学への意識が高まっていきました。
--ブラワー先生は授業でどのようなことを大切にされていますか。
ブラワー先生:私は哲学が大好きです。こうした自分自身の情熱がなければ、生徒には伝わらないと思っています。
また、私の授業では、自分の意見を表明せずに終わらせることは許されません。自分にとっての真実は何かを論理的に言語化して証明することで、自己理解を深めることができるからです。そして相手の考えも尊重し、オープンに話し合う姿勢を大切にしています。
海外大学受験で求められる「自分だけのストーリー」
--S.Uさんが海外大学受験に際して苦労したこと、難しかったことを教えてください。
S.Uさん:アメリカの大学を目指すにあたっては、成績、課外活動、エッセイのすべてを高いレベルで維持しなければならないことが大変でした。高2から始まったDDP(デュアルディプロマプログラム)は、日本とオーストラリア2つの高校卒業資格取得を目指すもので、一気に勉強の難易度が上がり、好成績を維持するのが難しくなりました。
海外大学受験では、課外活動も長期的に取り組み、かつインパクトがある実績を残すことが求められます。くわえて、何らかの受賞歴なども必要なため、私は高3の夏に国際心理学オリンピックに挑戦しました。奨学金の申請では何ページにもわたるエッセイを書いたり、面接の対策をしたりと、準備にとても苦労しました。

--そのような場面において、三田国際科学学園の先生からどのようなサポートを得ましたか。
S.Uさん:高3の先生が中心となって、エッセイ指導、面接対策などそれぞれ専門の先生がサポートしてくださいました。国際心理学オリンピックへの出場にあたっては、心理学の先生に必要な教材をはじめ、多くのアドバイスをいただきました。奨学金の申請では、エッセイの添削やオンラインでの面接練習を何度も行っていただくなど、手厚いサポートを得られました。
--これまでのご経験から、日本の高校生が海外大学に進学する際のハードルについて、どういった点で悩む学生が多いのでしょうか
ブラワー先生:大きく3つあると思っています。
1つ目は、誰に頼れば良いかわからず、情報も不足しているという不安です。アメリカにいれば、親同士のネットワークを通じて情報を得やすい環境がありますが、日本では、困ったときに誰を頼れば良いのかわからないことが多いと思います。
2つ目は、自分のストーリーを語るためのエッセイです。「自分はこういう人間だ」「自分の人生のストーリーはこうだ」などと自分を表現することに慣れていない生徒が多いです。
3つ目は、お金です。特にアメリカの大学は学費がとても高く、昨今は円安の影響もあるため、奨学金なしで進学することは現実的ではありません。経済的な面から、「本当にそれほどの価値があるのか」とためらってしまう保護者も少なくありません。
--それらの悩みに対して、貴校ではどのようなサポートをしていますか。
ブラワー先生:まず、各国の大学や奨学金などに関する情報をこまめに提供しています。本校の教員には、北米、欧州、アジアなどさまざまな国の出身者がいるため、各国のシステムに詳しい先生が協力してサポート力を上げています。エッセイについては、個別に何度もフィードバックしながら、書き直しを重ねてもらいます。書けば書くほど、自分の人生には形があり、その人生は自分で創ってきたのだということが見えてきます。迫ってくる提出期限と、よりブラッシュアップしたい気持ちの狭間で葛藤し、自分で折り合いを付けながら、自分で何とか乗り越えていきます。大学受験は生徒にとっては自己責任を学び、成長する機会でもあります。私たちは後ろで見守り、必要があれば全力でサポートします。

ボストンで多様性を体感したい
--S.Uさんが最終的にブランダイス大学への進学を決めた理由を教えてください。
S.Uさん:まずは経済的な理由です。ブランダイス大学からは奨学金として授業料・生活費含む費用を全額支給していただけることになったので、家庭で準備していた資金を別のことに充てることができます。大学内外でのさまざまなチャレンジの機会を増やせると思い、進学を決めました。
また、リベラルアーツと研究大学の間にあるような校風で、幅広く興味のあることを学べる環境が整っている点も魅力でした。さらに、ボストンに近く、周辺にある多くの企業でインターンのチャンスも豊富な環境は、キャリアを築くうえでも大きなメリットがあると感じています。
--夏以降から始まる海外での大学生活をどのように過ごしたいですか。また卒業後の進路・キャリアについても、現在思い描いていることを教えてください。
S.Uさん:ボストンは多様なバックグラウンドをもつ人が集まる都市なので、自分の視野を広げてくれるような仲間に出会えることが楽しみです。多様性を肌で感じることは、私が研究したいインクルーシブマーケティングの分野においても、とても大切なことだと思っています。将来的には、起業することも視野に入れています。

考えることは、自分を自由にする
--ブラワー先生からS.Uさんへ、どのようなエールを贈りたいですか。
ブラワー先生:S.Uさんは思いやりがあって、努力家で、好奇心旺盛です。これまでもさまざまなチャレンジをしてきた人なので、どこへ行っても必ずやっていけると思っています。これまでの努力はすべて自分自身が積み重ねてきたものですから、自信をもってください。
哲学的な視点から、1つだけ伝えておきたいことがあります。今の時代は、SNSをはじめさまざまなメディアを通じて、絶えず多くの意見や情報が流れ込んできます。そうした流れにただ身を任せるのではなく、自分でしっかり考えて納得し、昇華したうえで自分の意見にしてほしいと思います。
考えることは、自分を自由にします。アメリカの哲学者エマーソンの『自己信頼(Self-Reliance)』にこんな一節があります。「あらゆる天才の作品の中に、私たちはかつて自分が『そんなはずはない』と退け、切り捨てた思想を見出す。それらは、まるで他人事のように、しかし確かな重みをもって自分のもとに返ってくる」と。つまり、自分の考えを「そんなはずはない」「できるはずはない」と打ち消してしまうと、誰かが同じことを考えて形にした際、それを見て「なんで自分の考えを大切にしなかったのだろう」と悔しい思いをすることがある、ということです。エマーソンのこの言葉を思い出しながら、世の中に流されず、自分の価値観を大切に、やりたいことをあきらめずに追求していってほしいですね。
--最後に、海外大学への進学を夢見る中学受験生およびその保護者へメッセージをお願いいたします。
ブラワー先生:不安もあるかと思いますが、世の中にはたくさんの可能性があり、チャレンジ精神さえあれば、必ずやり遂げる方法はあります。海外に出た先には、想像を越える素晴らしい経験が待っています。私自身も海外に出てから、自分がやりたい仕事や大切なものに出会い、本当の幸せを見つけました。
三田国際科学学園には、それをサポートする環境が整っています。好奇心を持って冒険しながら、自分とはどういう人間なのかを見つけていきましょう。
--ありがとうございました。

印象的だったのは、S.Uさんの海外大学進学への道のりが、ゴールからの逆算ではなく、同校での6年間の学びの中で、「自分は何を大切にしたいのか」を問い続けた結果であったこと。そしてその思いを受け止め、目標への歩みをサポートする環境が整っていたことも、彼女の夢を後押しした大きな力だったと感じた。ブラワー先生と哲学を学び、海外に飛び立つS.Uさんは、今後、何に出会い、どんな幸せを手にするのだろう。今後の活躍を期待したい。
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