希学園 前田理事長に聞く「希学園の中学受験戦略と来年の入試」

 関西の塾が関東でも成功した秘訣、今後の中学受験はどうなるのか、親のサポートはどうすればよいのか、そして、前田氏の考える塾とは、希学園の前田理事長に聞いた。

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前田卓郎理事長
  • 前田卓郎理事長
  • 首都圏入試の計画の一例。合格・不合格の結果次第で受験スケジュールを効果的に変更できるよう、複数のプランを用意する
  • 毎回「四つの約束」や「引率の約束」を唱和してマナーや安全を確認
  • 数学者 広中平祐氏より贈られた書
 灘中など関西の難関中学校受験やエリート養成で名を馳せた希学園が東京に進出したのが2004年。今や東京・横浜で4教室を展開し、首都圏難関中学校でも合格実績を上げている希学園は、理事長でありながら今も教壇に立って子どもたちと向き合う前田卓郎氏の存在も有名な進学塾だ。関西の塾が関東でも成功した秘訣は? 今後の中学受験はどうなるのか? 親のサポートはどうすればよいのか? そして、前田氏の考える塾とは? 前田理事長本人に、これらの質問をぶつけてみた。

--早速ですが、首都圏に進出にあたり、どんなご苦労がありましたか?

 進出当初は、「関西の塾なので関東の中学については傾向と対策ができていない」「関西流の“こてこて”の塾が来た」などと言われましたね(笑)。しかし、関西で活動していた時代から、首都圏の中学を受験させたいという保護者はおりました。特に当時は、関西の経済が低迷していたために仕事や会社の都合で首都圏に引っ越す家庭も少なくなく、進出前から関東の中学の分析はしていました。

 塾生も、当初は関西から越してきた子や、保護者が関西出身という方が多かったのですが、今はそんなことはありません。

--首都圏でも合格実績を上げられた秘訣は何でしょうか?

 首都圏だからといった理由や秘訣のようなものはないと思います。基本は教育や指導の質の問題だと思います。生徒一人一人を大切にする指導体制やチューター制(塾生ごとに担当の専任講師がつききめ細かくサポートする制度)などが評価された結果ではないでしょうか。

 したがって、塾の方針や指導体制に、大阪と東京で違いはありませんが、希の指導が評価される背景には、少子化もあるのではないかと思っています。というのは、少子化の問題が予想された20年前に、多くの塾が生徒確保のために週3日でOKなどという「お手軽コース」を設定しました。しかし、それでは受験対策にならないので、結局は家庭教師をつけたり、別の塾と併用したり。そこで、オールインワンでサポートできる、希学園のような塾がよいということになったのです。

 生徒ごとに手厚く面倒をみるというのは、マンモス校ではなかなかできないことで、以前勤めていた塾では、この指導方針をめぐって追い出されたくらいですが(笑)、今でもこの方針は変えていません。

 私は塾というのは、ただの学習機関ではないと思っています。大事なお子さんの貴重な1日のかなりの時間お預かりするわけですから、教育機関として、知識だけではなく人間形成や自立心といった「マインド」も育ってほしいと思っています。

--2011年度入試では御三家や早慶中など難関中に多数の合格者を出していますが、どういった戦略があったのでしょうか?

 今年も第1、第2志望までの学校に合格した子が多かったと思いますが、1月入試にうまく対応できたことがよかったのだと思っています。

 試験科目数や日程、一斉入試などの関係で、関東と関西の入試では多少戦略が変わってきます。関西では日程や受験科目数で、ある程度、受験校の組合せが決まってきますが、関東では複数回入試も利用して、多様な受験パターンを立てることができます。つまり、子どもの個性やタイプに合わせて第1志望をどこにもってくるか、失敗したら別のパターンに変更するなど、きめ細かい作戦が立てられるのです。

 その作戦は、必ず上の学校が狙えるように塾がアドバイスします。志望校だけでなく、さらに難しい学校に合格する生徒さんも実際にいますよ。

--希学園では入塾のタイミングはいつが最適だと考えていますか?

 受験対策という意味では5年生からで間に合います。しかし、合格するためには5年生で1日5時間、6年生で6時間は勉強する必要があります。1日にそれだけの時間を勉強に集中するには、日ごろの習慣づけが重要になってくるので、塾としては3年生からコースを設定しています。

--「スーパーエリート」という言葉を使っていますが、入塾テストや条件は厳しいのでしょうか?

 「エリート」という外来語の意味で誤解されることもあるのですが、普通の学校の授業に問題なくついていける子なら大丈夫ですよ。本来は「スーパーエリートを養成する」という意味で使っているので、エリートでなければ入れないということではなく、本当のエリート、つまり社会貢献ができる選ばれた人になってほしいという意味なんです。

--来年の入試は、どうなると予想されますか?

 やはり不況の影響で受験校を減らす子が増えてくるのではないでしょうか。これまで7~8校受験していたような子が5~6校に減らすことがあるでしょう。また、阪神淡路大震災のときもそうでしたが、受験する学校が減るとともに、学校選びについて通学時間や交通網を考慮する保護者が増えるでしょう。

 なるべく家の近く、乗り継ぎは少なく、保護者の通勤経路の途中にあるといった要素も学校選びに影響する可能性があります。

--学校選びについて、保護者へのアドバイスをお願いします。

 明確な将来設計ができていて、そのための特定のブランド校を受験する場合でなければ、選択肢はなるべく多くしておいた方がよいと思います。その意味で、進学校ならさまざまな進路に対応しやすいと思います。

 子どもにとってよい受験にするためには、親のエゴの押しつけもよくありません。家族会議などで子どもの意思を尊重してあげて、安易にそれを曲げないでください。親の希望を通したいなら子どもを納得させられる理由が必要です。

--夏休みの過ごし方についてはいかがでしょうか?

 希学園は、一般企業の多くが取り入れているPDC(Plan、Do、Check)の考え方をいち早く学習計画に取り入れた塾です。PDCに沿った学習計画を子どもたちにも作るように指導しています。

 夏休みの勉強でも家族旅行でもよいのですが、何かを計画(Plan)し、それを実行(Do)し、その結果を評価・分析し、悪いところは修正していく(Check)、ということを実践してほしいと思います。

 PDCの重要なポイントは、計画を実行するというだけではなく、結果を評価して改善すべき点をチェックし、修正していくということにあります。これらを自分でこなすことで、生活経験値を高め、自立心も育てます。

 入試の本番では、子どもが一人で戦わなければなりません。親が手助けできないので、自立心を養ったり精神年齢を上げることは重要です。

--最後に、中学入試を目指すお子さんの保護者へのメッセージをお願いします。

 まず、子どもの可能性は信じてあげること。そして、子どもの現状の学力は信じないことです。現状の成績で学校を決めてしまうのは、成長する意欲をそいでしまうのでやってはいけません。そして、親子で決めたことは、ブレないようにしてください。結果に一喜一憂するのではなく、結果を分析して次につなげることが重要です。

 中学受験は子どもにとって初めて一人で立ち向かわなければならない戦いですが、同時に親にとっても子どもから自立するタイミングでもあります。極論するなら、結果はともかく中学受験をしてよかったと、子どもも親も思えるような受験を目指してほしいと思います。

--ありがとうざいました。

 前田理事長は、子どもたちから「前田先生」と呼ばれる人気講師でもある。現在は、主に首都圏の教室で教壇に立っているが、関西からの要望も多く、日帰り出張で授業を行うこともあるそうだ。インタビュー中、話題豊富にお話をされながらも、一方的ではなく、こちらの話にじっくりと耳を傾けてくださったのが印象的だった。

《聞き手:田村 麻里子》
《中尾真二》

中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。エレクトロニクス、コンピュータの専門知識を活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアで取材・執筆活動を展開。ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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