子どものやる気を引き出す“声かけ”1/3…子どものタイプ編

子どもがやる気を出すために、どのような声かけをすればいいのか。小川大介氏に、そのコツを聞いた。

教育・受験 受験
小川大介氏
  • 小川大介氏
 中学受験に特化し、生徒一人ひとりに合わせたオーダーメイドの授業で難関校に合格者を多数送り出してきた個別指導のSS-1。代表の小川大介氏は、著書『「小川式「声かけ」メソッド』で、親から子への「声かけ」の内容を少し工夫するだけで子どもの学力をぐんぐん伸ばす独自のメソッドを紹介している。子どもがやる気を出すために、どのような声かけをすればいいのか。小川大介氏に、そのコツを聞いた。

 子どものタイプ編テスト編夏休み編の3回で紹介する。

--小川先生が「声かけ」に注目されたきっかけは何ですか?

 学習者に気づきを与え能力を引き出すコミュニケーション手法としてコーチングやNLPといった技法があります。一方、SS-1で成果を上げている講師は、例外なく発問や声かけのタイミングがいい。そこで両者を合わせて、独自のメソッドを体系的に作りあげました。それを授業の中でも使っていますし、ご家庭でも使っていただけるように、セミナーなどで保護者の方々にもお伝えしています。

 ただ、間違わないでいただきたいのは、「声かけ」というと言葉を出すことばかり考える方が多いのですが、実は8割が「聴く」ということ。「声かけ」はタイミングが大切で、8割は子どものことを観察してよく聴いて、あ、今だ、というときにぽつっと言う。それまで待つことが大切なのです。

--子どものタイプにより効果的な「声かけ」は異なりますか?

 お子さんのタイプの前に、まず保護者のことをお話ししましょう。

 保護者には大きく2つのタイプがあります。1つは、お子さんが「今日できた」ことに喜びを感じられる精神状態のかた、もう1つは、受験まであと何日だからここまで到達しなければならないと、ノルマに意識が向かっているかたです。

 お子さんに声かけする前に、ご自分が今どのような精神状態にあるかを自覚することが大切です。

 先ほど、「声かけ」は8割が「聴く」ことだと申しました。後者の親は、心に余裕がなく、「聴く」ことができない。ここだ、というタイミングまで待てないのです。受験生の親の大半はそうではないでしょうか。

 もしご自分が、後者のタイプだと自覚されているなら、お子さんの声を聴ける態勢にならないうちは、「声かけ」をしようとしないほうがいい。

 こんなときは落ち着いて、お子さんと打ち合わせてみてください。「まず、あなたに知っておいてほしいのだけど、明日までに少なくともこれだけはやらないと、明日の授業がわからなくなりそうよ。そのことはわかっている?」と聴いてみる。

 そこで、お子さんがピンときていないようだったら、「この前の授業に戻ってみようよ。前はここと、ここはわかったよね。だけど、ここはあまりわからないって言ってたよね。じゃあ明日に向けて、ここだけはやっておかないといけないね」と、一つひとつ、お子さんといっしょに状況を確認してほしいのです。

 こうして、お子さんが自分で「やらなければならないな」と気づくところまでが第1段階です。次の段階になると、お子さんのタイプによってアプローチが異なります。お子さんは、次の4つのタイプに分かれます。

(1)勉強ができ、言われなくても勝手にどんどんやる子
(2)勉強ができるけど、面倒だからやらない子
(3)勉強はあまりできないけど、できないなりに頑張る子
(4)勉強はあまりできないし、頑張ろうともしない子

(1)の子は、問題なく、最後は塾の合格体験記に載る子でしょう。
(2)の子は、そのままでは(3)の子に追い抜かれる可能性があります。
(3)の子は、自分で頑張れる子ですから大丈夫でしょう。
(4)の子は、親御さんにとってもっとも不安なタイプでしょう。

 (4)タイプの子は、なぜ勉強をしたがらないのか、そもそもの原因を探ることから始めなければなりません。

 子どもは本来勉強が好きなはずです。1歳前後の、ハイハイをしたり歩けるようになったばかりの乳幼児は、床に何か落ちていたら必ず拾いますし、言葉を覚えたての子は必ず、覚えたばかりの言葉を使いたがり、親を「なあに」「どうして」と質問攻めにする。人間は、自分が知らなかったことを知り、世界が広がることを面白く思うようにできているのです。

 それが、どこかでおかしくなる。

 最初の節目は3歳、幼稚園の入園時です。ここで初めてよその子との比較が始まる。次の節目は5歳、年長さんのとき。この頃から、文字の認識や、集団学習など、少しずつ複雑な内容を要求されるようになる。そして6歳、小学校入学時。新しい集団に入っていく。

 これらの節目のときに、ちょっと苦労したけれど自分なりにうまくできた、という経験が多いかどうか、しかもそのことを親とともに喜べた経験が多いかどうかは、あとあと非常に大きな差となります。

 だれでも新しいことにチャレンジするときは、怖いものです。しかし、その恐れよりも、うまくいったときの喜びが大きい子は、何にでもチャレンジしようとするようになる。こういう子は学習に対しても前向きに取り組めるのです。

 (4)のタイプの子はおそらくうまくいってほめられた経験が乏しいと考えられます。がんばってもうまくいかないのでは? 間違うのでは? 終わらないのでは? と、やる前から失敗するほうに意識が向いている。自分の能力を信じることができていない。

 そういうお子さんには、これまでの学習を振り返って「ここまではできているよね」ということを思い出させてあげることが効果的です。「できるところまでは復習しておこうよ」と、簡単な問題で助走をつけてあげて「ここまでできたんだから、ちょっと難しいこともやってみようよ」と促してあげるのです。

 次に(2)のタイプ、できるのにがんばろうとしないの子の場合です。このタイプの子には、大人としてきちんと向き合い、お子さんの見通しを聴いてあげることです。たとえば、「能力がある人でも日々努力する人には絶対勝てないことはわかるでしょう? お母さんの目には、あなたは力があるのに努力していない人に見える。あなた自身はどう思っているの?」と問いかけてあげる。

 大事なことは、

  (1)私には○○に見えるけど
  (2)あなたはどう思うの?

と聞くことです。絶対にしてはいけないのは「あなた、やってないじゃない」と頭ごなしに言うことです。

 聴いてみると、子どもは子どもなりに計画を持っているものです。そういう話が本人から出てきたら、「やろうと思っているのにお母さんに言われるのは嫌だろうし、私も言いたくないから、一つお願いなんだけど、せっかく能力のあるあなたが日々の努力をしていないように見えたら、お母さんは口を出さないわけにはいかないの。その立場をわかってくれるかな」と、自分の想いを話すのです。

 「お前はこうだろう」ではなく、「私はこう思っている」と。10歳くらいの子なら、大人として話をすれば結構わかってくれるものです。

 それでもうまくいかないという場合、過去になげかけてきたメッセージの何かがずっと棘として残っている場合があります。お子さんは、親が決めたことしかやらせないくせにと思っているかもしれないし、サボって100点取れたときにほめたくせに、がんばって85点のときに怒ったじゃないか、と思っているのかもしれない。親に言われたことって結構覚えているものです。

 もし身に覚えがあれば、気付いたときに絶対に謝るべきです。「古い話を持ち出して悪いけど、あのときゴメンね」と。いつ謝っても遅くはありません。

 ほとんどの親御さんは、子どもに謝る勇気を持っていません。でも、うまくいっているご家庭は、たいてい悪いと思ったら謝っていますよ。堂々と謝り、堂々と叱っているのです。
《石井栄子》

石井栄子

子育てから、健康、食、教育、留学、政治まで幅広いジャンルで執筆・編集活動を行うフリーライター兼編集者。趣味は登山とヒップホップダンス、英語の勉強。「いつか英語がペラペラに!」を夢に、オンライン英会話で細々と勉強を続けている。最近編集を手掛けた本:『10歳からの図解でわかるSDGs「17の目標」と「自分にできること」』(平本督太郎著 メイツ出版)、『10代から知っておきたいメンタルケア しんどい時の自分の守り方』(増田史著 ナツメ社)『13歳からの著作権 正しく使う・作る・発信するための 「権利」とのつきあい方がわかる本』(久保田裕監修 メイツ出版)ほか多数

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