◆教科書は紙でなくてもよい パネルディスカッションでは、DiTT理事であるNPO法人CANVAS理事長の石戸奈々子氏が司会を務め、文部科学省が提出している「『デジタル教科書』に関する検討の視点」をもとに意見が交わされた。 まず「デジタル教科書導入による効果や影響」について、新井氏は「日本の教育における教科書の役割は大きい」としながらも「紙であることの必要性はないというところから始めなければいけない」と語った。「媒体は紙に限らなくてもよい。たとえばデジタルならば紙よりも拡張性がある」とデジタルの優位性を語った。さらに、DiTT参与で一般社団法人日本教育情報化振興会の片岡靖氏は、「ナショナルスタンダードを普及させていく方法として非常に優れている今の教科書制度を、次の世代にいかに活用していくかを検討していくべき」と話した。 石戸氏は次に、「教科書の質の担保」をもっとも重要な課題として挙げ、その要素のひとつとして「検定の範囲をどこにするか」という質問を投げかけた。 これを受けて、堀田氏は「教科書の検定とは、学習指導要領に入っている要素がきちんと入っているかを確認すること」と説明。検定できる現実的な分量、時間、コストなどを考慮し、「検定はノウハウのある紙で行い、検定をクリアされた分については広くデジタルでも使用できるようにするのが突破口かもしれない」と、「デジタル版教科書」の可能性を示唆した。しかし、これはあくまで「デジタル版の教科書」であり、現在広く流通している「デジタル教科書」とは異なるとしている。◆「デジタル版教科書」と「デジタル教科書」の違い DiTT事務局長である、慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授の中村伊知哉氏は、「DiTTが設立して、やっとここまで来た。教育のシステムがデジタルにガラッと変わることは非常にハードルが高い。しかし、もう意義や位置づけを議論している場面ではない。次にどう進めるかが大切。教科書の意義や役割に関する議論はこれまでも交わされており、媒体がデジタルになっても変わらない。問題は導入するか、しないかというところに来ている」と語った。 続けて、片岡氏も「紙の教科書はすばらしい。紙の編集技術や表現はそのまま使用し、検定を受けた教科書をもとに、まったく同じ形で『デジタル版教科書』を作っていく。コストを抑えながらまずは『デジタル版』を作る流れが必要なのでは」と、「デジタル教科書」の導入としての「デジタル版教科書」を提言した。 さらに、中村氏は「デジタル屋としては、音声や動画など、デジタルならではメリットが使え、子どもたちがコミュニケーションや想像力を伸ばしていける教科書が望ましい。」とデジタル教科書への期待を語り、「できれば無償配布の対象にしたいが、コストや時間など現実的な面を考慮し、まずは導入することがもっとも大切だ」とした。 教科書としてデジタルで検定するとすれば、格段に情報量が増えるぶん、動画や音声、掲載されているURLのリンク先まで検定するのかどうか。万が一、コンテンツが差し替えになった場合、動画や音声を作り直さなければならないとなると、検定もやり直すのか。現在の4年改訂を変更、あるいは検定そのものをやめることは、質の担保にも関わってくるため難しい。【次ページ】「デジタル時代の教科書の検定基準」へ