従来の学校の枠を取り払った学びの場“超教育”を構想「超教育協会」

 2018年5月26日に慶應義塾大学三田キャンパスで行われた「超教育協会」設立シンポジウムの模様をリポートする。

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「超教育協会」設立シンポジウム
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 21世紀、ITやAIは社会が求める人材像を変え、それがまた教育を刷新するーー。従来の学校の枠を取り払った学びの場“超教育”を構想する「超教育協会」が設立された。31団体が参加し、各団体に所属する企業数は8,000社にものぼる。会長は東京大学第28代総長であり、現在は三菱総合研究所理事長を務める小宮山宏氏、理事長は特定非営利活動法人CANVAS理事長の石戸奈々子氏、理事には一般社団法人デジタル教科書教材協議会(DiTT)専務理事の中村伊知哉氏をはじめ、日本のITやAIを牽引する錚錚たる顔ぶれだ。

 2018年5月26日に慶應義塾大学三田キャンパスで行われた設立シンポジウムの模様をリポートする。

 すべての産業領域でIT人材の需要が高まる一方、労働人口の減少によりその確保は一段と深刻化している日本。にも関わらず、教育情報化、IT化の面では「超」後進国だ。諸外国がコンピュータサイエンス教育やSTEAM*教育を重視し、クラウド化やソーシャルメディアの利用、そしてビッグデータの活用に進む中、日本はそのはるか手前にある。

 シンポジウムの冒頭、本協会の会長であり、「課題先進国」という言葉の名付け親でもある小宮山氏は、「少子高齢化による労働人口の不足という危機的な課題に、世界でいち早く直面することはむしろチャンス」と言い、「ITやAIを活用し、生産性を上げていける伸び代は世界一。今こそ多くの民間の叡智を集結し、行動を起こすべき」と訴えた。また、現在の日本の教育制度は平均寿命が50~60歳の時代に設計されたものであることから、大人が学び直す機会を提供するリカレント教育の遅れを指摘。すべての学習者を主体とした新しいデザインが必要であるとした。

 来賓挨拶には、野田聖子総務大臣が登壇し、前日に終了したばかりの日中韓情報通信大臣会合に触れながら、「アジアでも深刻な課題は人口減少と高齢化であるという認識を共有した。日本はこのままだと会社でいえば倒産だ。今までに経験したことのない負荷にさらされ、待った無しの事態。これまでの常識の範疇では太刀打ちできない」と危機感を露わにした。そのうえで、この難題に立ち向かうには、ICT(情報通信技術)を活用できる「異能」人材を育成することが唯一最大の力となることを強調した。

 続いて、内閣府知的財産戦略推進事務局長の住田孝之氏は、評価が画一化された教育からは均一な人材しか生まれないとし、「異能」人材の育成に「違い」を認める教育が重要と訴えた。また、内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室参事官の八山幸司氏は、世界はITが前提で動いており、今後はその技術をより深く学ぶことが必要と述べた。

 基調講演では、元ハーバード大学大学院教授、東京大学名誉教授であり、開成中学校・高等学校の柳沢幸雄校長が、今後の日本社会の「多様化」をテーマに、30年後の世界で生き抜ける力を養う教育について語った。「これからは、本人の好き嫌いにかかわらず、文化や歴史、行動形態の多様な人々と共生していく社会になる。世界の若者は日本と比べて自己肯定感が高く、自信を持っている。今の子どもたちは将来、そういう相手と対峙していかなければならない」と言い、机上の勉強だけではなく、部活や学校行事、課外活動などを通じた「楽しい」学びの機会を得て、個性を伸ばし、自主性や社会性を育むべきと強調した。

 パネルディスカッションは、同協会の理事長を務める石戸奈々子氏が進行役となり、安宅和人氏(ヤフー執行役員)、杉山知之氏(デジタルハリウッド大学学長)、藤原洋氏(インターネット協会(IAjapan)理事長)、中村伊知哉氏(デジタル教科書教材協議会(DiTT)専務理事)が、各々の教育観を語った。

 安宅氏は、「目指すべきモデルは根底から変えるべき。これまでの教育の思想は訓練に近かったと思うが、これからは育成という視点が重要。学ぶ側もつくる、仕掛けるという思考が大切であり、与えられた問題を解くのではなく、自ら解くべき問題を設定することに情熱を傾けるべき」と訴えた。そのうえで、「改善案を横に展開していくようなn倍化の時代はもう終わり。今後は新しいものを生み出す時代」とし、強い「意志」や、溢れるほどの情報や多様な人間をつないでいく、「統合」する力が重要だと語った。

 杉山氏は、「中学校、高校の先生やその親たちに未来が見えていない。昭和の時代感覚のまま、子どもたちと向き合っているのが現状」と言い、そうした人々にこの社会の劇的な変化が伝わるよう、働きかけていきたいと意気込んだ。さらに、未だに日本の社会に蔓延する、個性を見せてはいけないという同調圧力を変えていかなければならないと訴えた。杉山氏が学長を務めるデジタルハリウッド大学には、世界各国から多くの留学生が集まり、その数は全体の3分の1を占めるが、日本のICT環境は彼らの母国に比べて圧倒的に遅れているという。「でもそんな彼らがなぜ日本に来るのか。それは日本の独特のカルチャーをとても面白がっているから。追い付け、追い越せではなく、これまでの教育を超えるような新しいアプローチで、世界中が驚くようなものを仕掛けていきたい」と意欲を見せた。

 藤原氏は、「日本の教育には『なぜ?』と問うことが徹底的に欠けている。イノベーション大国のイスラエルで大学生に講義をすると、質問が非常に多く、授業が遮断されることはしょっちゅうある。日本の大学で質問に来るといえば、インドと中国からの留学生ばかり」と教育現場の現状を指摘した。「教育はイノベーションを起こさなければならないもっとも重要なテーマ。だからこそ、教育の供給者側ではなく、需要者側、つまり学習者へと主体をシフトしていく時代」と言い、「ICTを活用して、教育を受ける側が好きなように変えていく。そして枠からはみ出たような異能を埋れさせないよう、どんどん表舞台で活躍させるべき」と訴えた。

 中村氏は、同協会の理事として、特にIT、AIの世界で日本をリードする逸材を次々と幹事やオブザーバー、評議員に集めた求心力だ。また、石戸氏、杉山氏とともに、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボでデジタル技術や研究における世界の最先端に身を置くなど、自身も日本のICTを牽引してきたキーパーソンでもある。2020年にはICTの即戦力を育てる「i専門職大学」を設立する中村氏は、「法改正で教科書のデジタル化がようやく認められ、日本もなんとかスタートラインに立てた。これからはリードする立場に立てるよう、国に頼らず民間主導で一つずつアクションを起こしていきたい」と、立ち見が出るほどの列席者に向けて結束と協力を仰いだ。

 最後に、理事長の石戸氏は「IoTやAIは、狩猟、農耕、工業、情報に次ぐ第5の文明刷新。すべての人にITを使いこなす力が求められ、それを元に新しい価値を創造していく時代。また、寿命100年の時代でもあり、生涯にわたって学び続けることのできる、学校・家庭・職場・地域が有機的につながった学びの場をつくり、新しい日本の教育をデザインしていきたい」と締めくくった。設立シンポジウムは東京での開催だったが、今後は日本各地で展開していく予定だ。

※STEAM=Science=科学、Technology=技術、Engineering=工学、Art=芸術、Mathematics=数学のこと。従来はSTEMと称されていたが、最近ではArtが加わるSTEAMと呼ばれることが多い。
《加藤紀子》

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