「イード・アワード2024 塾」小学生の部で最優秀賞を受賞した花まる学習会。人工知能(AI)の進化が加速し、社会が大きく変化する今、子供の教育に不安を抱く保護者も多い。そんな中、花まる学習会代表の高濱正伸氏は「AI時代だからこそ、基礎学習と人間的な魅力がより重要になる」と語る。花まる学習会が実践する教育はどのようにAI時代に活きるのか。高濱氏に話を聞いた。
保護者が抱く「机上の学び以外」への期待
--顧客満足度調査「イード・アワード2024塾」小学生の部で最優秀賞、さらに「子供が好きな塾」「授業がわかりやすい塾」「面倒見が良い塾」の部門賞も同時に受賞されました。おめでとうございます。
ありがとうございます。授業内容だけでなく、保護者との連携、子供たちが「また行きたい」と思える教室の運営など、さまざまな要素を満たさなければ、最優秀賞は獲れません。現場の教室長たちが尽力してくれたおかげです。私が個々の教室に顔を出さなくても、それぞれが自立して運営できており、それが評価されたこと。これが何よりも嬉しいです。皆で頑張った甲斐がありました。
--近ごろの保護者の方は、習い事や子供の学びに対して、どのようなニーズをおもちなのでしょうか。
昨今、世間全体として幼少期における木登りや泥遊び、昆虫採集などといった自然体験の重要性が注目されていることに伴い、サマースクールをはじめとする「野外体験」を求めて入塾を検討される家庭が増えてきました。親としては近所でボール遊びをする程度ならできても、大自然の中で遊ばせることを不安に思うのは当然のこと。「花まる学習会の野外体験なら安心」と信頼を寄せていただいています。
--「机の上」以外の学びにも期待されているのですね。
そうですね。他にも、私たちの提唱している「メシが食える大人に育てる」という教育方針に賛同し、長期的な視野で「たくましく、魅力的な大人に育ってほしい」と入塾される方や、「中学受験を考えているので、小さいころから学習習慣をつけたい」というご家庭からもご支持をいただいています。
最近では、自分が幼少期に花まる学習会に通っていたという方が、親となって自分の子を連れてきてくれるようになりました。長く続けている醍醐味ですね。

好きを深めることが認められる時代に
--2022年に「イード・アワード塾」最優秀賞を受賞された際にも、インタビューをさせていただきました。それから2年が経ちましたが、子供たちをとりまく環境や、保護者からの相談内容などで、高濱先生が感じる変化はありますか。
保護者の方々の中で、「好きを深める」「マニアックに探究し続ける」ことへの理解が深まったと思います。
私が最終審査員を務める小学生の自由研究コンテストでも、応募数がこの2年で6倍くらいに増えました。テーマも驚くほど多岐にわたり、内容についても深くまで堀り下げた力作が多く、目を見張るものがあります。インターネットを活用し、専門家顔負けの研究をしてくる子も珍しくありません。サメの化石を調べるにしても、図鑑に載っていない化石の写真をインターネットから探し出し、最新の研究を引用するなどの徹底ぶり。子供の好奇心を育て、興味関心のあることに集中して、深堀りすることを評価される時代になったと同時に、子供たちの研究意欲を大人が尊重する空気が醸成されてきていると感じています。
以前から自分の興味を追求したいという欲求をもっている子供たちはたくさんいました。でも当時の大人たちはそれを許さなかったのです。「まんべんなくすべての教科ができるように」「学校のテストで100点を取れる知識がつくように」という価値観が一般的だったからです。
しかし、ある特定の分野に詳しい子供たちが「博士」のごとく、大人に対して研究をプレゼンする某テレビ局のバラエティ番組の人気がそれを裏付けているように、今は好きなことを深掘りすることの価値が認められるような時代になってきました。子供の特性を押さえつけるのではなく、伸ばすという流れは、今後も続くと思いますよ。
--一方で「うちの子は何も好きなことがない」と悩む保護者の方もいらっしゃるのでは。
まさに保護者からの相談の中で多いのが「うちの子、何にも興味ありません」「好きなことはどうやって見つければ良いのでしょう」という質問です。でも「好きなことがない」なんてことは、絶対にありません。子供の興味が、保護者の価値観の範疇を超えてしまっているだけです。
たとえば、子供が消しゴムのカスを集めて丸めたり、配られたプリントの角をいじって折り曲げてしまったり、あえて不潔なものに興味をもったりします。それに対し、多くの保護者はつい「止めなさい」と制してしまいがちです。でも、それがその子にとっての「好き」や「熱中」の芽かもしれません。
思わぬものが「興味」「好き」「熱中」のきっかけになります。過去に、おばあちゃんの足が不自由になり、車椅子を使うようになったことで、「なぜ道路に傾斜があるのか」と道路整備の仕組みに関心をもった子がいました。不便に思う一方で、道路が傾斜している理由を考えた結果、傾斜があることで雨天時に排水できることに気づくことができました。先ほどお話した自由研究のコンテストでも、お母さんに叱られるタイミングや機嫌について研究をして受賞した子もいます(笑)。そういった「日常生活の中で気になること」がその子の興味であり、好きなものなんです。

AI時代に必要な「人間的な魅力」をどう育むか
--ここ数年の社会の変化としては、生成AIの進化と普及が挙げられるかと思います。AI時代に必要な力とはなんでしょうか。
シンギュラリティ(人工知能が人間の知能を超え、技術革新のスピードが加速し、社会に大きな変革をもたらす未来)の到来を実感しています。AIの進化は目覚ましく、すでに研究者レベルの回答を数秒で提示できるようになっています。既存の知識を編集し、アウトプットするような作業においては、人間はAIに勝てないでしょう。
そんな時代に子供を最新技術から遠ざけるというのは非現実的。むしろ、AIを友達や秘書のように使いながら、自分がいちばんわくわくする研究をする環境をつくるのが理想的です。そこでもっとも重視されるのは、人間性。たとえば医師という職業であっても、知識量の多さと並んで、これからの時代は「この人と話すと元気になる」「親身に話を聞いてくれる」といった人間的な魅力がますます重宝される時代になるでしょう。医師だけでなく「『会いたい』と思わせる人」になることが重要になると思うのです。
--花まる学習会が「モテる人」=「魅力的な人」の育成を目指していることと繋がりますね。
人から応援してもらえる人、人を惹きつけられる人。これは時代を問わず、普遍的な価値だと思っています。
少し視点を変えてみましょう。世の中には100年以上続く老舗企業があります。これらの企業の共通点は何だと思いますか。単に商売上手で、利益を上げることが企業が長く続く秘訣ではありません。その答えは、公共性です。社会のために頑張っている企業、社会を良くするために必要な企業だと認識してもらえれば、たとえ経営が苦しくなっても援助してくれる企業や、必ず助けてくれる人が出てきます。企業でも人でも、そうやって他者から愛され、周囲を惹きつけることが、それ以降の成長や発展に繋がるのです。
人間性を育むために必要なことは「優しさ」と「面白さ」
--こうした人間性を育むために、花まる学習会のカリキュラムのこだわりを教えてください。
人間性の大きなポイントは、優しさと面白さだと考えています。花まる学習会の授業は、小学校1~3年生の低学年クラスと、4~6年生の高学年クラスに分かれて行います。多くの子供は、自分が所属した集団(チームやクラス)に対して、「自分のもの」としてコミットします。この特性を利用して、みんなで協力して、全員が活躍できるように工夫することで、集団全体として成長できる環境をつくります。学年を超えた関わりから優しさを学ぶことも多いです。
また、花まる学習会では、面白さの根源となる発想力を磨くことも重視しています。たとえば「たこマン」という2コマの漫画教材は、1コマ目のイラストを見て、2コマ目のオチを考えるというゲームです。子供たちに人気の教材で、友達の回答に大笑いしたり、発想力に驚いたり、大いに盛り上がります。
このような普段の授業のほか、先ほどお話しした野外体験はもっとも子供たちの人間力が磨かれる機会と言えるでしょう。夏と冬に実施している野外体験では、1~6年生まで混合でチームを編成します。家族と離れ、初対面、異学年のチームメイトと過ごす体験は、子供たちにとって大きなインパクトがあります。
子供たちの普段の生活は学校と家庭が中心で、その限られた世界の中ではキャラクターが固定化されがちです。しかし、花まる学習会の野外体験では毎回チームが編成されるため、キャラクター設定がリセットされます。長く通い続ければ、高学年になったときにはリーダーとしてチームを引っ張る経験をすることにもなるでしょう。下級生をサポートしたり、喧嘩を仲裁したり。親のいない環境の中で、自分のことは自分でやらなければならない。その体験が、子供をぐっと成長させるのです。

「本気の賞賛」が子供を成長させる
--普段のキャラクター設定をクリアにすることで、自分を解放して成長できるのですね。
野外体験は、子供によっては人生を変えるきっかけになることがあります。引っ込み思案で友達を作るのが苦手な男の子が大きな成長を遂げた例が印象に残っています。彼は内気ながら、毎年夏の野外体験に参加していました。そして6年生になったとき、ついにチームのリーダーになったのです。その野外体験の最中、みんなで星空観察をしていたとき、大人のスタッフがわからなかった星の名前を、彼がさらっと「あの星はアルクトゥルス」と教えてくれたんです。僕自身も驚きましたし、その瞬間から周りの子供たちの彼を見る目が、尊敬のまなざしに変わりました。次の日には「博士」と呼ばれ、下級生からも熱烈に慕われるようになり、彼も心なしか誇らしげで、自信をもつことができたようでした。
この体験がきっかけとなり、彼の中で何かに火がついたのでしょう。夏が終わるころ、「中学受験をしたい」と言い出しました。当然ながら、6年生の秋からの準備はかなり厳しいものがあります。ただ、彼のやる気は止まりません。そして、なんと見事に志望校に合格したのです。さらに、保護者の方の話によれば、受験後も勉強を続けるほど学ぶ意欲が高まり、中学に入って最初のテストでも、学年でトップ5に入るほどの成績を取ったと聞きました。
人が伸びるときには、周囲の人からの「本気の賞賛」が鍵になります。特に子供たちは素直ですから「すごい」と思ったら、全身全霊で褒め、相手を尊敬します。僕たちは、この本気の賞賛の機会を見逃さないようにしています。野外体験は普段の生活から離れた特殊な環境だからこそ、こういった化学反応が起きる確率が高くなるように感じます。
「子育ての同志」としての花まる学習会
--花まる学習会では、保護者支援、特にお母さんのサポートに力を入れていますね。
お母さんが安心して、笑顔で子供を見守ることができる環境こそが、子供の成長に必要だと考えています。教室長をはじめ、花まる学習会の全スタッフでお母さんの子育てに対する不安や悩みを取り除くことができるようにフォローしています。
僕が年間100回以上、保護者向けの講演会に出るのも、その活動の一環です。最近では、お父さん向けの講演会も盛況です。コロナ禍を経て、平日午前中の講演会に来られるお父さんも珍しくありません。パートナーであるお母さんから言われるよりも、僕からのメッセージのほうが素直に聞き入れられるお父さんは多いようです(笑)。僕の講演をうまく活用することで、夫婦のコミュニケーションがスムーズになり、笑顔で過ごせるようになってくれたら本望です。
「花まる学習会」の講演会・イベント情報--最後に、花まる学習会への入塾を検討している方に、ひとことお願いします。
よく「習い事をどう選んだら良いですか」という質問を受けます。そんなときは、身体・感性・知力の3つの柱が育つよう「プールとピアノ、そして花まる学習会」と答えています(笑)。
花まる学習会では、計算や漢字、語彙力といった「学習」の基礎と、発想力を含めた人間力を磨くカリキュラムが揃っています。さらに、保護者の方へのフォローも惜しみません。学習塾の中には、入塾テストがあったり、入った後も「このくらいできるようにしてください」とハードルを設定されたりするところも少なくありませんが、花まる学習会では、親子を丸ごと受け止めます。入塾テストももちろんありません。一緒に子育てするパートナーとして、親子を丸ごと受け止める。僕が子育てで必要だと思うことをやりつくしています。そういう意味で、一般的な「塾」とは異なる存在かもしれません。変化の大きい時代と言われる中、不安を抱えることも多いでしょう。花まる学習会では、その不安を一緒に抱えながら、子育てをサポートしていきます。必要な学力の基礎と、そのうえに乗せるその子らしさ、好きを探究する力を育むために、ぜひ花まる学習会の授業を体験しに来てみてください。
花まる学習会は、受験指導を目的とする塾とは一線を画す。自らの興味を起点とした研究で培われる探究心、野外体験で育まれる人間性、そして漢字や計算といった基礎力。それらを、それぞれの子供に合わせて伸ばしながら、親子に寄り添い続ける姿勢は、AI時代だからこそ、より一層重要な意味をもつだろう。インタビューのたびに「話していたら元気が出た」「また話を聞きたい」と思わせてくれる高濱先生は、まさに「モテる大人」そのもの。これからの花まる学習会からも目が離せない。
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