お子さまのノート、見ていますか? 平日の夜、夕飯が終わった後、私は毎日、小1の息子のノートを開きます。「むむっ! 今日のおわりの会は先生の話を聞かないで、最後に慌てて連絡帳を書きましたね!」と最近我が家で流行っている『おしりたんてい』(顔がおしりの形をした探偵が活躍する物語)口調で言うと、息子は「ふふふ」と笑いながら目をそらします。 ノートを開き、息子の字の書き方や筆圧をじっくり見ていると、そのノートを書いていたときの息子の様子が浮かんできます。 私は、10年近く、ノートの書き方の取材をしています。『東大合格生のノートはかならず美しい』(文藝春秋、2008年)が私の初めての本でした。それがきっかけとなり、東大生以外にも京大生や文豪・ノーベル賞受賞者などいろんな方のノートを取材してきました。こんなに長くノートの取材を続けるなんて想像もしていなかったのですが、今もノートの取材を続けています。 ここ数年、「ノートをしっかり書けない子が増えている」という声と同時に「自学自習(家庭学習)ができる子が減っている」という声も聞くようになりました。これまで取材してきた優秀だなと感じる子たちは、ノートを書くことで自学自習する力を身につけていました。それは、中高生になって突然芽生える力ではなく、小学生からしっかり書く力を養い、「書くことをいとわない子」に育っているからこそ身についた力でもあります。次ページ: そのために小学生のうちに何をしたらいいのか。 では、そのために小学生のうちに何をしたらいいのか。 それを、昨年の春、『東大合格生が小学生だったときのノート』(講談社)という本にまとめました。その中身は、このコラムでも少しずつ紹介していきたいと思っているのですが、小学生のノート力は、子どもが一人でつけられるものではありません。基本は、先生なり親なり大人のサポートや指導が必要になります。 親ができることは、まず、子どものノートを見ることだと思います。とは言え、ノートを見ていきなり「きれいに書きなさい!」としかるだけでは意味はありません。ノート指導をする前にお子さまの状態を見てあげることが大切です。ノートはとても雄弁です。毎日見ることで、子どもの書き方のくせや授業の理解ができているところ、できていないところが分かったり、字の揺らぎや筆圧から精神状態が見えたりもします。 ある小学生のノートでした。前半部分はポツポツと乱れた文字が並ぶくらいでほとんど白紙状態だったのが、後半になるとしっかりとした字で知識をきちんとまとめたノートを書いている子がいました。同一人物のノートとは思えないくらいの激変で。その子のお母さんに話を聞くと、1学期は学級崩壊で授業が成り立たなかったそうなのですが、2学期に先生が変わり、クラスが落ち着いたことでノートが変わったとのことでした。 小学生のノートにはそのときの環境や気持ちがものすごく反映されます。 どうしてそう書いているのか。また、どうしてきちんと書けないのか。 そこには、能力だけでなく、環境による理由がある場合もあります。だからこそ、その理由を探るためにもお子さまのノートを日々見ることが大切になってきます。次ページ: 私の息子のノートは? そんなわけで、私も息子が小学生になった春から、毎日ノートを見ています。最初は、開くたびに「えー!」と驚いてばかりでした。 ノートは開いたところから使ってる! けい線を無視して書いている!! ついでに、 算数の教科書に出てくる登場人物が全員ヒゲメガネになってる!!!「そうきたか!」と。「これが男子というやつなのか!」と。 でも、仕方ないなとも思いました。それまでノートと言えばお絵描き帳しか使っていなかった彼にとって、学習ノートは何のために書くのかわからないんですよね。 小1の息子にノートの重要性を語っても伝わらないと思います。でも、だからと言って適当に書いて欲しくはない。そこで今は、ノートを見て授業に集中できていないようだったら「どうした?」と声をかけたり注意したり。また、ノートをとばして使いがちなので「今日はこのページから使おう!」とか「日付を書こう」と付箋に書いて貼っています。 すぐにできなくてもいい。とにかく意識付けをして、それが癖になり、いつか当たり前にできるようになるといいなと思いながらやっています。 毎日ノートを見ているとたまに「またこんな風に書いて!」と嫌味の一つも言いたくなることもあります。でも、それが積み重なると息子はもちろん私にとってもノートを開く時間が楽しいものではなくなってしまう。そんなときは、『おしりたんてい』になりきり、小さく湧き上がるイラッとした思いをごまかし、「むむっ! だいぶきれいに書けるようになりましたね。しかし、1ラインあけないで書いていますね」なんて言いながらやっています。 みなさんも今夜から、お子さまのノート、見てみませんか?Copyright (C) Kodansha Ltd. All Rights Reserved.Copyright (C) Bungeishunju Ltd. All rights reserved.