ライフイズテック宮川聡氏に聞く、英オックスフォード大学でITキャンプを開催する理由

 2017年夏休み、英国の名門大学オックスフォードに宿泊しITを学ぶ中・高校生向けキャンプ「Life is Tech ! Global IT Camp」が、ライフイズテック主催で開催される。「Global IT Camp」開催の目的からプログラミング教育にかける思いと、今後の海外展開について聞いた。

教育・受験 中学生
ライフイズテック海外事業部統括マネジャーの宮川聡氏
  • ライフイズテック海外事業部統括マネジャーの宮川聡氏
  • ライフイズテック海外事業部統括マネジャーの宮川聡氏
  • ライフイズテック海外事業部統括マネジャーの宮川聡氏
  • ライフイズテック本社、窓辺からも「楽しさ」が
 国内最大級の中高生向けITキャンプやスクールを展開する「Life is Tech !(ライフイズテック)」は2017年夏、イギリスの名門大学オックスフォードに宿泊しITを学ぶ中高校生向けサマーキャンプ「Life is Tech ! Global IT Camp」を主催する。

 2016年にオンラインのプログラミング学習サービス「MOZER(マザー)」を発表した同社では、日本だけでなく、海外に向けても「MOZER 英語版」の普及やITキャンプ開催などに取り組んでいる。ライフイズテック海外事業部統括マネージャーの宮川聡氏に、「Global IT Camp」開催の目的やプログラミング教育にかける思いと、今後の海外展開について聞いた。

◆オックスフォードという空間で新しい価値観にふれてほしい

 ライフイズテックの代表取締役CEOである水野雄介氏とは、中高生時代の同級生であった宮川氏。保険会社の海外事業を手掛けた実績と、スタンフォードMBAの知識を生かし、2016年より同社へ参加。現在は「Global IT Camp」の開催、アメリカをはじめとした各国で「MOZER」普及のためのワークショップや講演会などを行っている。

 「Global IT Camp」の目的は、「新しい経験をし、価値観にふれることで視野を広げること」だと宮川氏は語る。

宮川氏「私自身、スタンフォードへ留学して、世界中から集まってきたさまざまな志を持つ人に出会ったことで大変な刺激を受け、視野が大きく広がりました。こんな新しい経験を、中高校生がしたらどんなになるんだろう…と。いろいろなことを吸収できる中高生世代だからこそ、海外で新しい体験してほしいと思います。」

 ライフイズテックでは、これまでにも東京大学や慶應義塾大学をはじめ、日本のさまざまな大学でキャンプを開催していきた。今回は、「『IT』という軸にくわえて『海外』という軸を追加した」と宮川氏。滞在地としてオックスフォード大学を選んだのには、いくつかの理由がある。

宮川氏「ひとつめは、街とアカデミックな大学が一体化している稀有な場所であること。肌で世界のトップスクールを体感できること。学ぶ学生だけでなく、教えている先生など、さまざまな人と交流ができることなどです。見るのと聞くのでは大きく違うことを、ぜひ感じてほしいですね。」

◆海外ならではのアクティビティも用意

 キャンプは7日間。宮川氏や代表の水野氏のほか、英語に堪能な日本人大学生のメンター数人が同行する。

宮川氏「キャンプ初日はまずチームビルディングから行い、参加者同士の交流を深めていきます。また、年の近いメンターが数人にひとりつきますので、参加者も安心できると思います。宿泊場所は、オックスフォードの中でもっとも歴史のある、ユニバーシティというカレッジ(学生寮)です。外観は古いですが中は改装されており、意外なほど設備も近代的で安全です。オックスフォードには、映画『ハリーポッター』の寮の舞台にもなったカレッジなどもあり、大人でもワクワクする場所になっています。」

 キャンプで過ごす時間は、開発だけにならないようにしたいと宮川氏は話す。

宮川氏「せっかくイギリスにいるので、海外ならではのアクティビティを随所に盛り込んでいます。たとえばぜひ生で見てほしいウィンザー城への見学のほか、現地の学生やオックスフォードの教授との交流会なども予定しています。私や水野も一緒のカレッジに宿泊しますので、夜には私たちからとっておきの話もできると思います。水野からは起業にまつわる話、私からは海外留学のエピソードなど、普段のキャンプでは話せないことも、ここでは話す機会を持ちたいですね。」

◆プログラミングは人生を豊かにするツールのひとつ

 2020年のプログラミング必修化に向けて、年々プログラミング教室への期待や注目が高まっていることについて、宮川氏はこう話す。

宮川氏「2011年のスタートから『ひとりひとりの可能性を最大限にのばしたい』という思いは一貫して変わっていません。我々のやっているテクノロジーを使った『ものづくり』によって、クリエイティビティといわれる創造力、問題解決能力を鍛える。そういったスキルを持っていれば、将来どんな分野に進んだとしても役立ち、良い人生を送れると思います。そういったスキルを持つことで達成感や自己肯定感が養われる。エンジニアを育てることや、仕事を得るためにプログラミングを学ぶことは、ライフイズテックの本来の目的ではありません。人生を豊かにするためのツールとしてプログラミングがあるんです。」

 ライフイズテックでは、プログラミング教室のコンテンツをただ提供するだけでなく、初心者でも入りやすい導入部から、将来へつながる出口も用意しているという。

宮川氏「保護者の方の共通の願いは『子どもに幸せになってほしい』ということだと思います。幸せの定義は人それぞれですが、プログラミングのスキルが高ければ社会で活躍できるということは非常に大事なポイント。プログラミングを学ぶことで子どもが幸せになれるというパスは示していきたいと思います。

 学んだ先の出口として、『アプリ甲子園』といったコンテストで社会に向けて作ったものを発表し、フィードバックを受けることができる枠組みを用意しています。また、大学入試でも、AO入試でプログラミングスキルがあることで合格した例もあります。さらに、企業の協賛を受け、大学生のメンターを育成する『リーダーズ』という制度も設けています。」

 現在のプログラミング学習の盛り上がりは、とても良い傾向だと、宮川氏は話す。従来の成績重視の傾向から、新しいスキルにも価値が見いだされるようになり、プログラミングスキルを持っていることが将来の強みとなってきているからだ。実際、リーダーズで厳しい研修を受けたメンターは、就職でも非常に有利なスキルとして人気があり、メンターを志す学生が年々増加しているという。

◆プログラミングキャンプをきっかけに新しい興味へ

 「Global IT Camp」も同様で、「この体験をきっかけに、プログラミングだけでなく、新しい世界にも興味を持ってほしい」というのが、宮川氏の思いだ。

宮川氏「海外には興味はあるけれど、英語合宿というとかまえてしまうという中高校生にこそぜひ参加してほしいです。このキャンプに参加することで、『英語もやってみようかな』と興味が広がるかもしれません。もしかしたら、これがきっかけで海外留学をめざす子がいるかもしれません。学ぶモチベーションを保つ最大の力は、『楽しい』という思いなんです。キャンプではチームビルドというものづくりを通じて、すごく楽しかったという体験をしてほしいです。」

 「Global IT Camp」では、ライフイズテックの経験をふまえて、初心者や初めてキャンプに参加する生徒でもつまずかないようにサポートも整えている。

宮川氏「新しい価値観を通して、人は成長します。『Global IT Camp』では、我々のできる『IT』と、安心できる環境を提供します。皆さんのこれからの人生に何かしらの影響をあたえる、一生思い出に残るキャンプになると思います」

◆アメリカの学校でオンラインのプログラミング学習サービス「MOZER」を実験導入

 ライフイズテックでは、2015年から海外展開も開始している。まず2015年にシンガポール、翌2016年にオーストラリアで、現地の子どもに向けたITキャンプをスタートした。また、2016年にロンドンで開催された教育イベント「EdTechXEurope 2016」で発表した「MOZER 英語版」は、グローバル・オールスターズ・アワードのグロース部門で優勝し、各国から注目されている。

 今年3月には、テキサス州で行われたアメリカ最大の教育イベント「SXSWedu」に出展し、体験イベントを開催したほか、5月18~19日には、シリコンバレーのThe Tech Museum of Innovationで「MOZER 英語版」のワークショップを行う。

宮川氏「現在、テキサス州にある公立中学校で試験的に『MOZER 英語版』を導入していますが、校長先生をはじめ、生徒にも大変好評です。アメリカは移民も多く、国語(英語)の読み書きが困難な人もいますので、プログラミングを学びながら読み書きも学べるという発見もありました。国語の授業よりも、プログラミングを学びながら国語を学ぶ方が楽しい、という意見もありました。

 5月18~19日にはシリコンバレーのThe Tech Museum of Innovationで『MOZER 英語版』のワークショップを行います。シリコンバレーからマーケットを広げていきたいと考えています。シリコンバレーを選んだ理由は、多くのIT企業がありエンジニアの教育熱も高く、目が肥えているので、多くの有益なフィードバックが得られるということです。ここで満足できるものに仕上げられれば、世界に通用すると思います。」

 ライフイズテックでは、「Global IT Camp」の専用ページを公開し、キャンプの詳しいスケジュールなどを掲載している。「MOZER」はオンラインで体験可能。
《相川いずみ》

教育ライター/編集者 相川いずみ

「週刊アスキー」編集部を経て、現在は教育ライターとして、ICT活用、プログラミング、中学受験、育児等をテーマに全国の教育現場で取材・執筆を行う。渋谷区で子ども向けプログラミング教室を主宰するほか、区立中学校でファシリテーターを務める。Google 認定教育者 レベル2(2021年~)。著書に『“toio”であそぶ!まなぶ!ロボットプログラミング』がある。

+ 続きを読む

【注目の記事】

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top