幼稚な場所にする必要はない、子ども×IT「茶々保育園グループ」

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「茶々そしがやこうえん保育園」でのランチブッフェの風景。あすみ福祉会は「クリエイティブ教育」をテーマに、最新のデジタルデバイスやインターネットテクノロジーを積極的に導入し、子ども達の知性や感性・積極性を刺激する教育を行っている
  • 「茶々そしがやこうえん保育園」でのランチブッフェの風景。あすみ福祉会は「クリエイティブ教育」をテーマに、最新のデジタルデバイスやインターネットテクノロジーを積極的に導入し、子ども達の知性や感性・積極性を刺激する教育を行っている
  • ICT教育が可能なクリエイティブルーム。子どもが発表を行ったり、他の園、さらには海外とテレビ電話したりすることも可能だ。壁面には大型ディスプレイが設置され、YouTubeやGoogle Earthを視聴することもできる。クラスにはタブレットを常備、全館にはWi-Fiが用意されている
  • 保護者との連絡に使われている、コミュニケーションサービス/スマホアプリ「kidsly(キッズリー)」
  • 「kidsly」のスマホ画面。登園・遅刻・欠席状況を毎日簡単に記録できるほか、保護者とスタッフの連絡帳、写真の保存・共有、個別連絡、保育園からのお知らせ機能、イベントカレンダーなどの機能を持っている
  • 大きな天井窓から自然光が射すランチルーム。豊かな自然と真っ白な園内。公園で遊んできた子どもが真っ白なキャンバスに色を着けていく。それを助けるツールとしてITがある
  • 茶々保育園グループ(社会福祉法人あすみ福祉会)CEO・理事長 迫田健太郎氏
 インバウンド需要の拡大、そして2020年の東京オリンピック・パラリンピックといった要因から、「おもてなし」がキーワードとして注目されている。さらに、IT/IoTを活用した「おもてなし2.0」とでもいうべきサービスや製品が、飲食業・旅行業・物販業の領域で、多数登場しつつある。本記事はそうした最新事例を紹介し、自社での導入の参考とする内容だ。

 今回は、初の教育系業種として、首都圏を中心に保育園を展開する「茶々保育園グループ(社会福祉法人あすみ福祉会)」に焦点を当てる。同グループは、埼玉県入間市の茶々保育園からスタートし、現在は東京・神奈川・千葉・群馬・埼玉に10園以上を展開。2017年4月には、「茶々そしがやこうえん保育園」「茶々とどろき保育園」を、世田谷区に同時開園した。

「茶々そしがやこうえん保育園」は、国家戦略特区制度を活用し“日本初の公園内保育所”として、世田谷区・祖師谷公園のなかに開園した。広い敷地と自然豊かな環境が特徴だが、同時に、「クリエイティブ教育」をテーマに、タブレットや大型ディスプレイなど、最新のデジタルデバイスやインターネットテクノロジーを積極的に導入し、子ども達の知性や感性・積極性を刺激する教育を行っているという。また、保護者とのやりとりには、リクルートマーケティングパートナーズが提供する保育園向けサービス「kidsly(キッズリー)」も導入している。

 保育園は飲食業や旅行業、物販業のようなサービス業ではないが、IT導入に積極的に取り組む姿勢は、示唆に富むポイントが多く、ITやおもてなしの戦略に悩む企業の助けになると思われる。今回は、茶々保育園グループCEO・理事長である迫田健太郎氏に話を聞いた。

■これまでの「保育園」の枠組みを超える試み

 茶々保育園グループは、埼玉県入間市に「茶々保育園」を1979年に設立したところからスタート。長らく1園1法人だったが、近年の待機児童問題を受け、2001年に第2園を開園。現在は14ヶ所に開園している。なお「茶々そしがやこうえん保育園」がある世田谷区は、現在“待機児童問題”が最も深刻だとされている。

 迫田氏は、アクセンチュア(旧アンダーセンコンサルティング)に勤務後、親の家業を継ぐ形で、茶々保育園グループ理事長になった。こうした経歴が、グループの展開や教育理念に現れているといえるだろう。同グループが掲げる「オトナな保育園」というコンセプトについては、

「保育園は小さな子どもが育つ場所です。
 しかし“幼稚な場所”にする必要はないと私たちは考えてます。
 子どもは、大人の想像以上に能力や感性を備えている。
 そして大人も、充実した時間を過ごせたり、成長できてもいい。
 保育ってこういうこと。保育園ってこういう場所。
 そんな枠を外したら、新しい保育園の姿が見えてきました。」

とサイトやパンフレットでも紹介されている。こうした姿勢や発想は、「国家戦略特区制度の活用」「おちまさと氏のプロデューサー起用」「カフェの併設」「食に関するオイシックス(Oisix)との業務提携」「『保育士のためのおカネ講座』ワークショップの開催」「『茶々式しつけメソッド』の提唱」など、従来の保育園の枠組みに留まらない、多方向の試みに結び付いている。

■保育園の仕事=コミュニケーションをIT化した「kidsly」

「茶々そしがやこうえん保育園」は、迫田氏も「自然があって最高」と自負する環境にあり、自然の多い公園内という立地は、子どもの情操教育にも健康にも良さそうだ。外観は白くシンプルな園舎ながら、大きな天井窓から自然光が射すランチルーム、地域住民も無料利用できるカフェ、そしてICT教育が可能なクリエイティブルームと充実した施設となっている。園内は真っ白で自由に活動できる場、外は自然が豊富な環境、こういう切り分けが、さまざまな発想に結び付いている。

 茶々保育園グループは、冒頭でも紹介したとおり、IT活用にも積極的だ。保育園におけるIT活用は、通常「児童の教育・学習」「保護者との連絡・情報共有」「スタッフ業務の効率化」の3つに分かれる。たとえば同グループでは、保護者との連絡に、リクルートマーケティングパートナーズが提供する保育園と保護者をつなぐ、コミュニケーションサービス/スマホアプリ「kidsly(キッズリー)」を採用している。

「kidsly」は、保育現場や子どもの様子を保護者にタイムリーに伝えることが可能なサービス/アプリだ。シンプルなインターフェイスで、登園・遅刻・欠席状況を毎日簡単に記録できるほか、保護者とスタッフの連絡帳、写真の保存・共有、個別連絡、保育園からのお知らせ機能、イベントカレンダーなどの機能を持っている。保育園・幼稚園での利用に特化したSNS・掲示板・情報共有アプリとして、非常に便利かつ豊富なサービスが用意されている。同グループでは、開発段階から協力し、2016年5月から試験導入。そして2017年4月からは、法人全園・全クラスへの本格導入を開始した。もちろん「茶々そしがやこうえん保育園」でも活用されている。


「茶々そしがやこうえん保育園」は今年4月に開園とまだ歴史は浅いが、IT導入への取り組みは、他園で行っていた。同グループでIT導入への取り組みが本格化したのは、やはり「kidsly」導入が大きなきっかけだったという。「2016年の春頃から取り組みを始めました。近年“IT”が“ICT”とも呼ばれるようになり、“C”=コミュニケーションが大事になってきた。私達のグループロゴにも茶々の“C”が入っているんですが(笑)、これにはコミュニケーションの意味も込めています。テクノロジーの力を借りてコミュニケーションを深めていく、というのは、時代の流れでもあり、保育園との親和性も高いと思います。実際、保育園の仕事というのはコミュニケーションだらけで、そこをIT化する余地が大きいと以前から思っていました」とのことで、まずはコミュニケーションツールとしてのIT活用を重視した。同時に、若い父兄にとってはスマホでのコミュニケーションは、ごく日常的なものだ。それが「kidsly」の積極導入に結び付いた。

「リクルートマーケティングパートナーズさんからは、企画当初から相談を受けていました。うちが試験導入しながらフィードバックもどんどんしていく協力関係です。非常にやりがいもありましたし、私達自身が、保育園におけるコミュニケーションを考え直すきっかけにもなりました」とのこと。「父兄さんはFacebookやInstagramに触れられている方が多いので、説明書なしで使っていただいています。アナログの連絡帳とは違う楽しみもあるので、自然な形でスタートできたと思います」と、ITの便利さ、リアルタイム性が存分に活かされているという。なおkidslyは、1人の子どもに対し複数アカウントを紐付けることができるため、両親だけでなく、祖父母や親戚が、子どもの様子を見られるのも大きな利点だ。

 一方スタッフについては「父兄より年齢層の高いスタッフもいるので、そうしたスタッフの場合とまどいはあるようです。また業務の流れやコミュニケーションの方法が、当然変わるので、そこでの大変さはあるでしょう。現在その切り替えをやっている最中の園もあります。ただ全体の業務効率は徐々に良くなっています」と、一般企業と変わらない模様。「連絡帳などの反応も、“いいね!”感覚でリアルタイムに返ってくるので、保育士のやりがいはすごく上がっています。こうしたフィードバックは、紙での連絡や掲示では、なかなか得られない部分と思います」と、メリットも大きい。今年開園の「茶々そしがやこうえん保育園」は、オペレーションについてはIT化後を前提にしており、とくに問題もなく運営できているという。今後、導入のハードルはさらに下がっていくだろう。

■ITは「子どもから何が出てくるか」を助けるツール

「kidsly」はあくまで保護者とのコミュニケーションツールだ。では子どもとITの関わり、教育面でのIT活用はどうなのだろうか。「子どもの描いた絵、子どもの様子を映した動画をコンテンツとして父兄に提供することで、“発信していくこと”を前提とした保育の組み立てになっているかと思います。形として伝えていく、ということがあまりなかった業界なので、“保育をコンテンツ化して発信していく”という流れは、いいことだと思います。そのためのIT活用でもあります」と迫田氏はいう。「保育のコンテンツ化」というのは、非常に面白く示唆に富んだキーワードだ。

 子ども向けのIT環境としては、クラスに何台かのタブレットを常備し、それが利用可能になっている。また全館にWi-Fiが用意されており、インターネットも利用できる。壁面には大型ディスプレイが設置され、それでYouTube動画やGoogle Earthを視聴することもできる。「クリエイティブルーム」では、子どもが発表を行ったり、他の園、さらには海外とテレビ電話したりすることも可能だ。

「ただ“ICT教育”=“クリエイティブ教育”ではないんですよ。“クリエイティブ”というのは、あくまで表現活動であって、子どもの内から生まれてくるものを大切にしようということなんですね。子どもに何を入れていくか、ではなく、子どもから何が出てくるか、を大切にすることなんです。たとえば当園の周りには、豊富な自然がある。そこで遊んできた子どもが、園内に戻ってどういう表現や発信をするか? それがクリエイティブであり、真っ白なキャンバスに色を子どもが着けていく。それを行うための場がクリエイティブルーム、それを助けるツールがITという位置づけです」と、子どもとITの関わり方を迫田氏は考察する。外に豊富な自然があるから、園の中は真っ白だという位置付けは、公園内という立地だからこそできる発想だ。その点についても「この園ならそれができるかな、と思った」と迫田氏は振り返る。

 実際、森でテントウムシを見かけて、それを絵に描くだけでなく、ネットで生態や種類を検索したり、YouTubeで動画を配信したり、写真を共有したり、その捉え方はITにより多様化する。そこが重要なのだという。実際、よく使われる「ICT教育」という単語は、茶々保育園グループ内ではあまり使わないとのこと。だからこそ「ICTルーム」ではなく「クリエイティブルーム」という名称なのだ。海外とのネット交流などは現在まだ定期的には行っていない段階だが、今後さらに充実させていきたいとの考えで、「いろんな人が社会にいる、という多様性(ダイバーシティ)を、ぜひ感じてほしい。子どもが勝手にテレビ電話を使ってくれるようなことも、ぜひ起きてほしいですね(笑)」と迫田氏は夢を描く。

 なお、現在はまだ、子どもがスマホやタブレットを外に持ち出して、公園で使うといった活動は行っていないとのこと。子どもの習熟度を見つつ、今後徐々に採り入れていきたいアクションだという。


 このように子ども達自身は、“普通にあるもの”として、IT機器を毎日使っている。特別なものとしてではなく、最初から普通に世界が広がっているわけだ。「『オトナな保育園』という当グループのコンセプトには、子どもはすでに社会の一員であり、保育園は送り出していく場所、という願いが込められています。だから、私達大人が、現時点の考えで“世界を閉じる”ことをしてはいけないと思います。この子達が20年後につく職業の何割かは、現在存在しないような職種だと思います」というのが迫田氏の未来予想図だ。保護者のなかには、こうした先進的なIT環境があることを知らずに、茶々保育園グループに入園する場合もあるが、そういった保護者も、ネット等を使わせないよう要望することはなく、強く共感し支持してくれるという。「いまの茶々そしがやこうえん保育園の子達は、いわば第1世代の“一期生”。今後、どんどんネイティブの子達が入ってくるんでしょうね」と、迫田氏は予想する。IT教育そのものを否定するわけではないが、ITはあくまで手段であり、子どもに“便利さ”“可能性”を提供するツール、というのが迫田氏のスタンスだ。

■IT以外の活動も積極的に展開

 同グループの男性保育士の割合は10%前後。一般的な保育園では、男性保育士の比率は2%程度に留まっているとのことで、これは業界的にはかなり高い数字だ。「両方いるのが普通」「いろんな人がいるという、社会で当たり前の姿を、園の中にも作りたい」(迫田氏)とのことで、これも多様性(ダイバーシティ)を重視している表れといえるだろう。

 自分が食べられる量を知るなど、食育以前の生活習慣づけも重視。「子どもと食の距離がとっても近い」(迫田氏)のも特徴で、子ども達が給餌をするなど、食に能動的にたずさわるような取り組みにも積極的だ。Oisixへのアドバイス提携もその1つで、メニュー作成などの意見交換を行っているという。これも自前で調理スタッフ・栄養士を抱え、日々子どもに向かい合う保育園ならではだ。

 そうした活動のなかでも特異なのは、「おちまさと」氏のプロデューサー起用かもしれない。同氏は茶々保育園のCBO(チーフブランディングオフィサー)を2013年から務めている。カフェの併設といったアイデアから、スタッフの制服、子どものかぶる帽子、ブランドロゴやパンフレット、さらには茶々保育園グループのコンセプトまで、幅広く参画している。「保育園をやっているうえで、社会に対して業界のことを伝えていきたいな、という想いがありました。その想いを共有して力を貸していただける方、ということで、何人かが頭に浮かびましたが、その1人がおちさんでした」というのがスタート地点で、「“伝えることに関してのプロ”として以前より気にしていました。伝えたいことがありすぎたので、イクメンでもあり、パートナーとして一緒に“引き算”をしてくれる人として、おちさんにお願いしました」と、プロデューサー起用の流れを解説してくれた。小学校就学前の子どもの教育に、ちょうど興味を持っていたおち氏側の考えもあり、出会いが誕生したという。

■保育園にとっての“おもてなし”とは

 最後に、本連載シリーズでは恒例となっている「皆さんにとって、おもてなしとは?」という質問を投げかけた。飲食業や旅行業にとっては答えやすい質問だが、教育系業種では答えにくい質問かとも思ったが、同園のパンフレットには、「おもてなし」というキーワードそのものずばりが登場していた。

「おもてなし
 なんてコトバは
 知らなくても
 お客さまを大切に思い
 ふるまうことは
 できるのです。」

 つまるところ、おもてなし=C=コミュニケーションなのだ。「誰しもが認める大切なところ。本物の体験から自然に生まれる感情。それがおもてなしであり、コミュニケーションであると思います」と迫田氏は締めくくった。

サービス業のIT利用最前線!8 子どもの表現をITで助ける/あすみ福祉会

《冨岡晶/HANJO HANJO編集部》

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