【全国学力テスト】成績上位県の共通項、大学進学率は?見えない地域差・調査状況

 平成29年8月28日に公開された平成29年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)。正答率上位には「常連」とも言える秋田県、石川県、福井県が並んだ。各県上位の県ではどのような取組みを行っているのか、また、その後の進路状況について調べる。

教育・受験 小学生
 平成29年8月28日に公開された平成29年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)。都道府県ごとの平均正答率を見ると、小学生、中学生ともに上位には「常連」とも言える秋田県、石川県、福井県が並んだ。各上位県ではどのような取組みを行っているのか、また、その後の進路状況について見ていく。
※編集部注:本記事は平成29年度(2017年度)の全国学力テストに関する記事です。平成30年度(2018年度)の参加予定校数は平成30年4月16日実施後の結果公表に関する文科相コメントは平成30年4月17日に記事化しました。(平成30年4月17日編集部追記)


◆秋田・石川・福井…上位3県の共通項とは

 全国学力テストの実施は平成19年度(2007年度)から。秋田県は全国学力テストが実施されるより前、平成13年から少人数学級やティームティーチングによる少人数授業を推進しており、平成14年からは秋田県独自の「学習状況調査」を行ってきた。

 同県の児童生徒は全国学力テスト開始から平均して好成績にあり、平成29年度調査でも小学国語A・Bと中学国語A・Bで1位、小中学校ともに算数・数学は上位3位と、いずれも高い正答率を記録。秋田県教育委員会義務教育課によると、今回の成績は「学校、家庭、地域などで連携してきた結果」。学習状況調査においても、全国平均より肯定的な意見が多く、充実した学習環境で豊かな人間性が育まれていると分析している。

 小学国語Bが秋田県と同率1位、加えて算数A・Bが1位だったのは石川県。中学国語Aでも1位と、児童生徒の平均正答率は高水準にある。石川県は平成19年度から21年度の3年間に行われたテスト結果を受け、金沢大学と連携し、テスト結果の集計や分析を行う研究体制を構築。児童生徒の学力向上に向け、確かな学力を育むための「学びの12か条+(プラス)」を制定し、学習環境とその質の向上に取り組んできたという。石川県教育委員会学校指導課は、今回の結果について「昨年(平成28年度)に引き続きトップクラスの平均正答率となっており、子どもたちが高い学力を維持できている状況を確認することができてよかった」とコメント。市やまち、各教委などが授業改善に取組み「子どもたちの日頃の努力がこのような結果に繋がった」とし、今後も高い学力の維持に取り組む姿勢を見せている。

 石川県に続き、同じ北陸エリアからは福井県も成績上位にランクイン。小学算数Aが全国3位、算数Bが全国2位。中学数学はA・Bともに1位のほか、国語Aも秋田と同率で1位に並んでいる。福井県はこれまで、全国学力テストで得られた結果を分析し、課題克服のための指導方法を明確にした事例集を作成。学力調査の課題は昭和26年から続く「福井県学力検査(現SASA)」の問題にも反映し、教育課題への対応体制を確立している。独自教育も強化しており、文字離れ対策として取り入れた「白川文字学」とその普及は教育業界でも有名な取組みのひとつ。

 上位3県に共通するのは、全国学力テストや独自に行う学力調査の結果を分析し、課題を洗い出し、明確な目標を立てたうえで指導法を教育現場に落とし込み実施するという、PDCAサイクルを構築している点。冊子やリーフレット、映像資料や研修会を実施するなど、教員の指導力向上にも力を入れていることがわかる。

◆地方・首都圏の平均正答率差の理由

 関東・関西などの都市圏における平均正答率を見ると、小学校の場合、東京都は国語Aが10位、国語Bが4位、算数Aが7位、算数Bが5位。神奈川県は国語Aが42位、国語Bが21位、算数Aが35位、算数Bが12位。千葉県と埼玉県は国語A・Bともに21位。国語A・Bの21位はほかに栃木県、群馬県、長野県、和歌山県、高知県など。大阪府は国語A・Bが47位、算数Aが19位、算数Bが28位。兵庫県は国語A・Bが21位、算数Aが19位、算数Bが12位。京都府は国語Aが10位、国語Bが8位、算数Aが14位、算数Bが6位。

 平成29年度調査からは過剰な競争を避けるため、都道府県別の平均正答率を、小数点以下は四捨五入し整数での発表に変更しており、同位に数県が並んでいる場合も少なくない。また、47都道府県の平均正答率を見ると、最上位と最下位の差は10ポイント程度にとどまっており、最大は15ポイントと、特段大きな差はないように見受けられる。

 しかしながら各都道府県の平均正答率差は毎年議論を呼び、「参加している学校種別の違い」「大都市圏における私立校の参加率」「教育ICTを始めとする新しい学びの導入率」など、結果はさまざまな検証が行われている。なお、経年変化を調査するため学力テストの問題は毎年同じ問題を利用。調査問題は原則、非公開とされている。

◆大学進学率を展望…「学校基本調査」平均と比較

 特に注目されるのは、学力テスト上位校の大学進学率だ。平成29年度5月1日現在の数値をまとめた、8月2日発表の文部科学省「平成29年度学校基本調査」速報によると、全日制・定時制をあわせた高等学校卒業者数は107万4,841人。大学等(四年制大学、短期大学など)への進学率は54.8%だった。卒業生に占める就職者の割合は17.7%。

 秋田県の大学進学率を見ると、全日制過程(公私立)校の卒業者総数は8,375名。大学進学率は46.0%。石川県は卒業者総数1万550人、大学進学率は54.4%。福井県は卒業生7,564人のうち4,227人が大学等に進学し、大学進学率は55.8%だ。

 秋田県教育委員会義務教育課は「学力テストと大学進学率の相関は特に認められていない。大学進学率が高くなる要因のひとつには、大学が近隣にどれだけあるかということがある」と指摘。大学進学率の一方、同県の高等学校卒業生の就職率は30.2%と、全国平均よりも高い傾向にある。同課は「秋田県は高等学校卒業者に対する求人を多く用意している県でもある」とし、大学進学率の向上だけに特化するのではなく、「個人個人の進路選択を実現していくことが重要」とコメント。地方と首都圏の進学、就職を取り巻く環境は異なり、数字だけでは判断できない地域差が浮き彫りとなった。

 大学進学情報を扱う「大学通信キャンパスナビ ネットワーク」を運営する大学通信の常務取締役、安田賢治氏は「大学進学率が高いのは、東京都、京都府、神奈川県など、私学の多い大都市圏」と指摘。「学力テスト上位の県と大学進学率の関連はないように思う」とし、学力テストの成績が大学への進学に直結することはなく、「学力テストの高成績は、学力テストに向けた対策や、純粋に学力向上に向けた取組みの成果ではないか」としている。

 平成29年度の全国学力・学習状況調査の結果は国立教育政策研究所、学校基本調査は文部科学省のWebサイトで確認できる。
《佐藤亜希》

【注目の記事】

編集部おすすめの記事

特集

page top