カフェ×教室×図書室、コクヨが手がけた千代田高等学院「ARC」とは

 コクヨのファーニチャー事業部が設計から家具のセレクトまでをすべて担い、2018年に完成した武蔵野大学附属千代田高等学院内の「アカデミックリソースセンター」を取材しました。

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千代田高等学院 ARC
  • 千代田高等学院 ARC
  • 千代田高等学院 ARC/アクティブ・ラーニングスペースでの授業のようす
  • 千代田高等学院 ARC/アクティブ・ラーニングスペースでの授業のようす
  • 千代田高等学院 ARC/アクティブ・ラーニングスペースでの授業のようす
  • 千代田高等学院 ARCにて/資料ライブラリー
  • 千代田高等学院 ARCにて/資料ライブラリーからつながるアクティブ・ラーニングスペース
  • 千代田高等学院 ARC/アクティブ・ラーニングスペースでの授業のようす
  • 千代田高等学院 ARC/資料ライブラリーには集中して勉強できるスペースも
 暖色を基調としたおしゃれなカフェ空間。通路のガラス越しに、白を基調とした明るいフリーレイアウトの教室があり、その奥には図書の棚が並ぶ。カフェ、教室、図書室という、3つの役割を兼ね備えたこの空間は、東京市ヶ谷にある武蔵野大学附属千代田高等学院内に作られた新しい学びの場「ARC(アーク)」こと、「アカデミックリソースセンター」です。生徒たちはこの空間で、授業を受けたり、図書館で本を読んだり、休み時間や放課後にはカフェで友達とくつろいだりしています。

アクティブ・ラーニングスペースでの授業のようす

 千代田高等学院の前身は、130年続く伝統のある女子校の「千代田女学園」でした。グローバル時代に備えた新しい学びを追求するため、大規模な学校改革を行い、2018年4月からは男女共学化や特色ある5つの新コースを開設するなど、新しい一歩を歩み始めました。その学校改革のひとつとして行われたのが、図書室の大改造です。

 活字離れが心配されている近年、生徒たちの図書室の利用率は決して高くありません。そこで、図書室の広いスペースをリニューアルし、生徒同士の議論を活発化するアクティブ・ラーニングスペース、図書室の蔵書を集めた資料ライブラリーに加え、カフェのようにくつろげるインターネットスペースの3つの空間を作り上げました。

資料ライブラリーからつながるアクティブ・ラーニングスペース

 ARC新設の企画を担当したのは、同校の情報科主任であり、アカデミックリソースセンター コーディネーターであるドゥラゴ英理花先生です。ドゥラゴ先生の考案したコンセプトに基づき、コクヨが設計から家具のセレクトまでをすべて担い、2018年にARCが完成しました。

◆授業に合わせて自由にレイアウトできるアクティブ・ラーニングスペース

 ARCは、これまでの高校の教室や図書室の概念を良い意味で突き崩してくれます。まず、アクティブ・ラーニングの教室には、広い空間の中に、簡単に配置を変えられるスタッキングテーブルとチェアを設置。授業の内容によって、円卓型や対面型など、自由に教室内のレイアウトを変えることができます。

 また、図書室と通路の間にあった壁を透明なガラスにしたことで、明るく開放的なイメージになり、空間をさらに広く見せる工夫が凝らされています。

カフェからはガラス越しにアクティブ・ラーニングスペースが見える

 さらに、これまではただの広い通路にすぎなかったスペースを、インターネットスペースとしてソファやテーブルを置き、生徒が休み時間や放課後にくつろぐカフェにしました。壁に設置された木製の本棚には、気軽に読める文庫コーナーのほか、文学全集なども置かれています。普段は敬遠されがちなぶ厚い文学全集も、このカフェスペースに置いて可視化することで生徒の目に留まり、手に取って読んでもらえる機会が増えたということです。

カフェスペースには毎日生徒たちが集まる

◆シリコンバレーのイノベーションの場を日本の高校に

 この画期的なスペース「ARC」はどのような目的で作られたのでしょうか。アカデミックリソースセンター コーディネーターのドゥラゴ先生にお話をうかがってみました。

 「参考にしたのは、米スタンフォード大学にあるd・schoolです。d・schoolとは、スタンフォード大学に誕生した、学生がアイデアを持ち寄り、意見を交わしたり、プロダクトを作り出したりできる自由なスタジオです。d・schoolで新しいサービスやプロダクトが次々と誕生しているように、高校の中にARCを作ることで、生徒たちが自由に議論し、ものを作り出す『イノベーション』の場となることを期待しています。」(ドゥラゴ先生)

アカデミックリソースセンター コーディネーターのドゥラゴ英理花先生

 「同時に『生徒自身が楽しんで学習できる』ということも重要です。日本でも、最近は『アクティブ・ラーニングスタジオ』のような場が大学を中心に増え始めていますが、高校での導入はまだ少ないのが現状です。2020年の教育改革に向けて、学校も従来の教育の方式から、新しいグローバルな時代に対応できるように変わろうとしています。千代田高等学院では、『生徒ひとりひとりが真の夢の実現を目指す』ために、このARCという空間を作り出したのです。」(ドゥラゴ先生)

◆学びを楽しくするアクティブ・ラーニングの教室

 実際に、ARCを設置した効果として感じられたこととして、「生徒たちがのびのびと学んでいること」を、ドゥラゴ先生は第一に挙げました。実際に、アクティブ・ラーニングスペースで行われていた高校1年生の授業を見学したところ、数名のグループに分かれた円形のテーブルで、生徒たちは一人一台のパソコンを前に活発に意見を交わし合っていました。そして、全員が笑顔で、楽しそうだったことがとても印象的でした。

 また、教室とカフェスペースを分けたことで、さまざまな学びの形が実現でき、メリハリがつけられることもメリットだといいます。教室には、「アクティブボード」と呼ばれる移動式のホワイトボードが複数用意されており、テーブルにアクティブボードを持ってくれば、その場が即座に“小さな教室”に変わります。放課後に、集まった生徒同士でアクティブボードを囲んで議論を交わしていることもあるそうです。

放課後はカフェに移動式のホワイトボードを移動し、友達同士で勉強会

 「ARCはアナログとデジタルの良いところを両方持っています。パソコンやタブレット、ネットなどのICTを活用しつつ、資料ライブラリーで調べものもできる。これからの時代は、クリティカルシンキング(批判的思考)、つまり『見極める力』が大事になっていきます。ARCでは、ICTならではの良さと、従来の『書く』という行為や図書といったアナログの良さ、どちらも大切にしながら、その場面で最良の手段を選んでいくことが可能なのです。アクティブ・ラーニングの一番の目的は、思考を活性化することにあります。その最大効果人数は、せいぜい5人までと言われています。今後は多数に対して効果的にできるアクティブ・ラーニングの方法も模索していけるとよいですね。」というドゥラゴ先生は、さらに先のアクティブ・ラーニングの方法や空間を想い描いていたようでした。

◆教室でドローンを飛ばし、マインクラフト上で学校の3Dモデルを作成

 ドゥラゴ先生は、情報科の授業において、パソコンやネット、ドローンなど様々なICTを活用しています。

 「現在、情報科で取り組んでいるのは、130周年記念プロジェクトとして、ドローンで空撮した校舎の100枚以上の写真をもとに『マインクラフト』上で千代田高等学院の校舎をモデリングするというものです。ARCのアクティブ・ラーニングスペースでは、ドローンの試運転なども行いました。普通の教室ではなかなかできないことも、ここでなら可能になります。」(ドゥラゴ先生)

 ドゥラゴ先生は、日本国内では2人しか認定されていない、マインクラフトのグローバルメンターの資格を持っており、教育版マインクラフトを使った授業を積極的に行っています。さらに、10月に開催される同校の修学旅行では、「マインクラフト」のシステム設計を行っているシアトルのマイクロソフト本社に行き、生徒ともにプレゼンを行う計画を立てているそうです。

アカデミックリソースセンター コーディネーターのドゥラゴ英理花先生

 ちなみに、アクティブ・ラーニングの教室は使いたい先生が予約するシステムで、ほかの教科でもとても人気があるそうです。情報科に限らず、数学や国語など、ほぼ全教科で活用されています。

◆生徒からも「メリハリがついて学びやすい」と好評

 では、生徒たちはARCをどのように活用しているのでしょうか。お聞きしたのは、共学部のIQ(文理探究)コースに通う藤田さん。マインクラフトの達人でありながら、バスケットボールも好きな10学年(高校1年生)です。藤田さんは、「ARCは、中学校までの図書室とはまったくイメージが違いました。普段の教室より広くて明るいので、勉強がしやすいです」と、ARCで学ぶ楽しさを語ってくれました。

千代田高等学院 共学部のIQ(文理探究)コースに通う藤田さん

 女子部のLA(リベラルアーツ)コースに通う同じく10学年の谷さんも、ARCカフェの常連。「部活のない日は、必ずARCのカフェに来ています。課題をやるときは、図書室で資料を参考にしつつ、アクティブ・ラーニングスペースで黙々とやっています。一方で、友達と話すときはカフェを使っています」と、自然にARCを使い分けています。

千代田高等学院 女子部のLA(リベラルアーツ)コースに通う谷さん

 ふたりとも、放課後には毎日のようにARCを利用しているとのこと。「できるなら、毎日ここで勉強したい!」と熱く語るほど、ARCは生徒たちのお気に入りの空間になっています。

 このARC、実はもうひとつ大事な役割を担っています。同校では共学部と女子部の校舎がわかれており、普段は離れた教室で授業を受けています。その中間地点にあるARCは、他の学年やコースとの交流の場でもあるのです。「共学部のIB国際バカロレアコースと、女子部のLAコースの生徒が一緒に談笑していたり、下級生が他のコースの先輩に質問したりしている場面もよく見ます」とドゥラゴ先生。

 さらに、もうひとつ。同校の人気の取り組みがカフェスペースで行われている「ティーブレイク」です。毎日、午前中の15分休みは、「ティーブレイク」として生徒が持参したお菓子などを食べられる時間になっており、毎日それを楽しみにARCへ通う生徒も多いそう。

カフェスペースの可愛い手書きのWelcomeボード

 こんなスペースが、自分の高校にもあったら、学校生活がもっと楽しくなったかも!と、思ってしまう千代田高等学院のARC。ここからどんな新しいアイデアが飛び出すのでしょうか。もしかしたら、未来を変える大きなイノベーションが生まれてくるかもしれません。そして、この事例をもとに、これから多くの学校に新しい学びの場が増えていくことを大いに期待したいと思います。

コクヨがデザイン“新しい学び”が生まれる場所~武蔵野大学附属 千代田高等学院「アカデミックリソースセンター」

《相川いずみ》

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