もっとも大切なのは礼儀と謙虚さ
「その1」では、わずかな面接時間では受験生の医師の資質を見抜くことはできないこと、その代わりに「この受験生が自分の医局に入ってきたときに皆とうまくやっていけるか」を見ているのだということを説明しました。
かといって、面接官に媚びるような態度や発言をするのは逆効果です。「こいつはあざといやつだ」と思われる可能性があるからです。
では面接試験でもっとも大切なのは何でしょうか。それは次のようなことです。
礼儀と謙虚さ
ドアをノックした瞬間から退室してドアを閉め終わるまでが面接試験です。そのすべてにおいて礼儀正しく、そして謙虚でいなければいけません。
面接官は、礼儀正しい受験生はきっと医局に入っても礼をわきまえるだろうし、謙虚さを持っていれば傲慢な医師にはならないだろうと考えるからです。きちんと挨拶をして頭を下げることで印象をよくするべきです。そして会話においては謙虚さを見せましょう。
挨拶の練習をしておいてください。頭を下げる角度や腕の振り方、首の動かし方、手の位置などを徹底的に練習しましょう。入試本番で、礼儀正しいと面接官に印象づけるのは大切なことです。
次は面接練習のチェック項目です。挨拶や礼儀作法については、このチェック項目をすべてクリアすれば本番でも面接官に好印象を持ってもらうことができます。一つひとつの動作が流れないように意識しましょう。
面接練習チェック項目
1 入室
・ドアの外の挨拶の声が聞こえる
・ノックの仕方、強さ、速度、回数
・ドアの閉め方
・「失礼します」の挨拶、はきはき話す
・頭の下げ方、深さ、速度
・手の位置
・背筋
2 移動
・背筋
・腕の振り
・速度
・立ち位置
3 着席
・本人確認時の話し方
・「よろしくお願いします」「~いたします」の挨拶
・手の位置
・頭の下げ方、深さ、速度
4 着席後
・背筋
・手の位置
・目線
・脚の位置
・頭の動かし方
5 起立
・立ち位置
・「ありがとうございました」の挨拶
・手の位置
・頭の下げ方、深さ、速度
6 移動
・背筋
・「失礼しました」の挨拶
・声の大きさ
・手の位置
・頭の下げ方、深さ、速度
7 退室
・ドアの開け方
・ドアの閉め方
次に「謙虚さ」について具体的に説明しましょう。面接試験ではこういう質問がよくされます。やり取りを見てください。
面接官「あなたはコミュニケーション能力に自信がありますか。」
受験生「はい。自信があります。」
面「なぜ自信があるのですか。」
受「私は高校3年生のときに生徒会会長を務めました。そのときにいろいろな人と話す機会があり、それによって十分なコミュニケーション能力を身に付けました。」
面「あなたの今のコミュニケーション能力は、患者さんに信頼される医師になるのに十分なものだと思いますか。」
受「はい。十分なものだと思います。」
このように答えるのは危険です。なぜなら、面接官にとっては「生徒会長をやっただけで、医師に必要なコミュニケーション能力を身に付けたと言うなんて、身の程知らずの奴だなあ」と思えるからです。
次のように答えれば謙虚さを示すことができます。
「いいえ。私の今のコミュニケーション能力では、まだまだ不十分だと思います。もっとさまざまな人と交流を持つことで、コミュニケーション能力を高めていきたいと思います。」
では、次の質問に対しては何と答えればいいでしょうか。仮に自分自身では本当にそう思っていなくても、謙虚さを示すためには、このように答えるべきです。
面「あなたが医師に向いていない点は何だと思いますか。」
受「他人に感情移入をしやすい点だと思います。患者さんに感情移入しすぎてしまうと、冷静に客観的な判断ができなくなってしまうのではないかという点が少し心配です。」
この質問に「医師に向いていない点はない」と答えてしまうと、面接試験では「謙虚さがない」と判断されかねないので注意が必要です。
以前、面接試験にやたらと弱い生徒がいました。いわゆるビジュアル系の生徒で、独特の髪形、細く剃り整えた眉、力のある眼が印象的でした。ろくに挨拶もできず、話をしても生意気な感じでしたが、何度か注意されるうちにきちんと挨拶ができるようになり、成績もどんどん上がり、10以上の私立医大の1次試験を通過しました。しかし残念ながら最終合格を果たすことはできませんでした。
小論文は上手な生徒だったので、面接試験で落とされたとしか考えられませんでした。そこで、「眉毛を整えるのはやめる」「普通の髪形にする」「少しカラフルな眼鏡をかけて顔の印象を柔らかなものにする」という3点に注意しました。
この生徒は翌年の受験でも次々に1次試験通過を果たしていきましたが、やはりなかなか最終合格には至りませんでした。そこで、外見以外のことについて改めて考えてみました。なぜなら、外見はもうほかの受験生と見た目ではほとんど変わらなかったからです。
そのときに気になったのが、彼の回答の遅さでした。何を話すにしても、ほんのわずかですが遅れるのです。時間にしてみればおそらく1秒ほどだと思うのですが、その遅れが人を食ったような印象を与えるのではないかと思いました。普段接している者にとっては、1秒の遅れなどまったく気にならないのですが、初対面の面接官には気になったのかもしれないのです。
そこで、この生徒には「質問されればすぐに答えるように」と言いました。しかし、意識して1秒遅らせているわけではないし、20年間もそのような話し方をしてきたのですから、「すぐに答えろ」と急に言われても直しようがありません。困り果てたときに考え付いたのが、次の方法です。
質問されたら間髪を入れずに「はい」と答える
面「あなたの趣味は何ですか。」
受「...私の趣味は釣りです。」
従来のこのやり取りを、次のように変えるのです。
面「あなたの趣味は何ですか。」
受「はい。...私の趣味は釣りです。」
こんなことで印象が変わるのかと思うかもしれませんが、やってみればわかります。先に「はい」と答えることで、その後に1秒の遅れがあっても、決して生意気な印象を与えることはなくなりました。残された面接試験ではこのやり方でいこうと決め、何度も繰り返し練習をしました。
彼はその直後から次々と最終合格を果たし、今は医大生になっています。やはり1秒の遅れが、生意気で傲慢な人間だと思わせていたのかもしれません。ひとりひとりの癖や特徴に合わせた面接練習が大切だと改めて思いました。
面接試験では話の内容よりも印象が大切です。しかし、礼儀や謙虚さは一朝一夕で身に付くものではありません。普段から意識しておくべきもので、面接試験の緊張状態の中で演じることはなかなか難しいものです。
面接試験で、自分のことをうっかり「俺」とか「下の名前」で呼んでしまうことがあります。普段の自分の呼び方としては、男の子なら「僕」「俺」「自分」、女の子なら「私」「あたし」「うち」「下の名前」などが多いでしょう。家族や友人の前ではそれでも構いませんが、先生など目上の人にはきちんと「僕」「私」を使うべきです。つい「俺は」などと言ってしまい、慌てて「すみません、私は」と言い直すことのないようにしたいものです。
また、自分の両親を「親」と言う人も多くいますが、これも感心しません。きちんと「父」「母」「両親」と言うようにしましょう。
ひとつひとつの言葉の使い方で、印象は大きく変わってくるということを忘れてはいけません。
<協力:KADOKAWA>
発行:KADOKAWA
<著者プロフィール:進学塾ビッグバン小論文・面接科>
進学塾ビッグバンは開学17年目を迎える医系専門予備校。日曜日を除く9時から22時までの完全拘束学習体制を整える。生徒一人ひとりの学習状況を把握し、学習面・生活面・精神面のすべてを徹底的にフォロー。小論文面接科は様々な情報源と蓄積された膨大な経験から必要な知識のほか「医師を志す者はどういう人間でなければならないか」を考えさせる授業を展開。出願書類の作成指導も担当する医学部受験指導のエキスパート集団である。