「恐れず進め」ドルトン東京学園 荒木校長・安居副校長に聞く2期目のスピリット<前編>

 今春2年目を迎え、新たに荒木貴之校長が就任した同校は、Withコロナの時代をどう乗り越えていくのか。荒木校長と開校時より学校運営を支え続ける安居長敏副校長インタビュー前編。

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ドルトン東京学園の荒木貴之校長と安居長敏副校長
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  • 「ラボラトリー」のようす
  • 「英語」授業のようす
 開校1年目から、募集定員を大きく上回る入学者を迎えたドルトン東京学園。生徒ひとりひとりから湧き出る意欲と探究心を育み、他者とともに自らの意志で学んでいく力を授ける「ドルトンプラン」には、ますます期待が寄せられている。

 今春2年目を迎え、新たに荒木貴之校長が就任した同校は、Withコロナの時代をどう乗り越えていくのか。荒木校長、そして開校時より学校運営を支え続ける安居長敏副校長に話を伺った。

「恐れず進め」を体現



--校長就任早々に緊急事態宣言が出て、御校ではどのような対応をされたのですか。

荒木校長:コロナウイルスの蔓延による緊急事態宣言の発令は4月7日でしたが、我々が授業のオンライン化を決めたのは4月1日でした。状況は悪化の一途でしたから、1日に決めて3日には生徒全員の家庭に連絡を入れ、6日には校長からのメッセージを配信しました。オンライン授業は4月13日からスタートさせています。この対応の速さには驚かれましたが、本校のモットーは「恐れずに進め」で、それを実践したかたちです。

 ビデオ会議システムを使ったオンライン授業なんて、誰もやったことがない状況でした。もちろん、先生方も不安でいっぱいでした。まだ始めてもいない段階から、懸念事項が次から次へと思い浮かび、「だからできません」と言いたくなるほどでした。でももう、こうなったら清水の舞台から飛び降りるしかない。まさに「恐れずに進め」です。日本だけではなく、世界中でも、こんなこと誰もやったことがないんだから、恐れてもしかたないのだ、と。そう割り切ったことで、迅速な判断に至りました。

 ただし、ソフトランディングは意識しました。オンラインに切り替えるからといって、1日中、1時間近い授業を6限までずっとオンラインで見せられたら、生徒たちには苦痛以外の何ものでもありませんから。僕がもし生徒の立場だったら、気分が悪くなってしまうに違いない。そう思って、そこは現場の先生たちに工夫をお願いしました。

安居副校長:僕のほうは、オンライン授業が始まった4月13日の当日中に、先生方がお互いのオンライン授業のノウハウを共有できる掲示板を立ち上げました。

 開校してまだ2年目。この春にも新しい先生が10名以上入職され、早速、担任を任された先生もいます。学校全体の雰囲気も肌感覚として掴みきれないまま、生徒にも保護者にも会えない状態でのスタートは、すごく不安が大きかったと思います。でも、先生方はとても前向きで、せっかくならこの危機的な状況を楽しんでやろうと思うくらいの姿勢があったように思います。

 そうやって先生方が生徒たちに対して、「先生だって完璧じゃない。失敗することもあると思うけど、できるかぎり頑張ってみるね!」と、自分の弱さも含めてさらけ出したこと。そして、先生同士で知恵を出し合い、協力し合って新しい挑戦に立ち向かっていったことが、子どもたちにはとても良い影響を与えたのではないか。今、振り返ると、そんなふうに感じています。

 ドルトンが掲げる「恐れずに進め」を、先生自らが体現し、失敗したらやり直せばいい、失敗から学べばいいというスピリットを、生徒も保護者も教員もみんなで体験できたと思います。

1期生から2期生へ引き継がれる理念「自由と協働」



--開校2年目の今、学校の規模はどれくらいですか。

荒木校長:現在の中学2年生が1期生になります。1期生が約150名、そして今年入学した2期生にあたる中学1年生が約100名です。本来は、1学年25人学級を4クラスで100名、という規模で想定していたのですが、1期生は新設校にも関わらず、入学辞退者が想定より少なく、歩留まりを読み違えてしまうという嬉しい悲鳴でした。進学実績も何もなく、掲げているのは「ドルトンプラン」という教育メソッドだけでしたが、河合塾が経営母体であるという信頼感は思っていた以上に大きかったのかもしれません。確かに、この最新設備を備えた校舎と豊かな自然がある環境で、25人学級という少人数のクラスサイズで手厚い教育を受けられるのは、うちの生徒たちはすごく恵まれているなぁとつくづく感じています。

「英語」授業のようす
「英語」授業のようす

--開校して半年後くらいに取材で1期生の生徒さんにお話を伺ったことがあります。ついこの間まで小学生だったとは思えないほど、皆さんとてもしっかりと自分の考えを表現でき、それぞれの多様な個性を生かし、目的をもって過ごされていたことに驚きを隠せませんでした。改めて、ドルトン東京学園の教育の特徴は、何でしょう。

荒木校長:教育理念は「自由と協働」です。「自由」とは、学びをいくらでも深掘りできるという、アカデミックな自由です。元々、何かに深い興味や関心を持ち合わせている子もいれば、学校でのさまざまな機会を通じて見つけ出す子もいるでしょう。そうした生徒ひとりひとりが興味・関心を抱くことに、教員や学校が全力でサポートする。これが生徒ひとりひとりに対する私たち教員の姿勢です。

 そして「協働」とは、これからの世界で想定もしていないようなことが起こり得る中、自分ひとりではどうにもならないときに、周囲の力を借りながらチームとして協力して解決していける力のこと。実際に、先生方自身もリソースに限りがあるので、自分たちの力だけでは足りないとき、外部の専門家や企業などに積極的に力を借りようとしています。先生方がそうした姿勢を生徒たちに見せることによって、生徒たちも、周囲の力の借り方を学んでいく。自分たちの仲間や先生はもちろんですが、学校という枠の中にとどまる必要はなく、学校の内外のいろんな力を結集すればあらゆるものが生み出せることを学んでほしい。

 大きくこの2つの力を、生徒ひとりひとりが起点となり、「学習者中心」の学びを通じて身に付けていってもらいたいと考えています。

安居副校長:1年間、1期生の成長を見てきて、彼らは放物線状にグッと大きく伸びた印象があります。そうはいっても彼らだって入学当初は、右も左もわからない状態でした。そして教員のほうもまだ不安で手探りの状態。細かい指示は何も出されないから、自分で考えるしかない。そうやって、「自分で考えてやってごらん」と言われ、「自分が動くしかない」と動いたし、自分の考えをちゃんと言語化して伝えざるを得なかった。授業中も、生徒からの発話のほうが圧倒的に多いスタイルなので、自分の意見が言語化できないと、本校では授業すら進まないのです。

 そうやって彼らは、自主的に学び、行動するという姿勢を身に付け、大きく成長していったのだと思います。彼らには今、「自分たちがこの学校をつくっていく」という自負があり、それは間違いなく2期生にも引き継がれていくでしょう

「自律した学び」の姿勢は生涯の宝



--御校の教育の軸となっている「ドルトンプラン」とは具体的にどんな内容なのですか。

安居副校長:ドルトンプランの特徴として「アサインメント」と「ラボラトリー」という2本の柱があります。ドルトンプランの誕生から100年が経ちますが、「アサインメント」とは、学習の目的や到達目標、方法と手順、さまざまな課題を具体的に示した「学びの羅針盤」となり、生徒たちの自律的な学習の支えになってきました。

 ドルトン東京学園では、生徒は学習のクラウド・プラットフォームを通じて、いつでも、どこでも「アサインメント」を手に入れ、学習に取り組む環境を整備しています。ドルトンプランとICTの融合から生まれる、新しい学びのかたちです。

 また、「ラボラトリー」とは、授業での学びを深め、定着させる場所・時間で、生徒たちは学習の目標や進め方を自由に設定することができます。教員からアドバイスを受けながら知識をつなげ、自らの学びをより深め、その輪を拡げていくことができます。

 実際にこの1年間では、授業自体がラボラトリーに近い内容になっているものもありました。教員たちが子どもたちの探究心をおおいに刺激するようで、生徒たちからは「もっと知りたい」「もっとやりたい」という要望も出てきました。

 そこで昨年はラボラトリーの時間が週に2時間だったのを、今年からは週4時間に増やしています。今年はさらにバージョンアップして、外部のリソースも積極的に活用していきます。たとえば、国立環境学研究所の研究者に来てもらい、科研費をもらって一緒に研究をしたり、起業家育成プログラム「ガイアックス特別ラボ起業ゼミ」をスタートしたりしました。身近なスタートアップ起業の狙いを分析、考えた事業アイデアを発表するなど、中学生からビジネスに触れる機会を増やすことで、起業を含めた将来の働き方の選択肢を広げる試みです。

「ラボラトリー」のようす
「ラボラトリー」のようす

--新任の荒木校長が抱く「ドルトンプラン」への思いを聞かせてください。

荒木校長:関西の立命館小学校で副校長、追手門学院で参与としていち早くICT教育を導入し、さらにはグローバル人材育成のさまざまなプログラムをつくりあげた2013年に、河合塾からドルトンプランによる中等教育学校をつくりたいとスカウトされました。着任早々ニューヨークのセントラルパークの東側、アッパーイーストサイドにあるドルトンスクールを視察に行き、調布市の土地の購入からカリキュラム開発、サマースクールの運営などに携わりました。

 当初、ドルトン東京学園は2016年に開校を目指していましたが、取得した土地からは遺跡が発掘され、開校の目処が立たなくなり、私は武蔵野大学へ転身します。今度は、存続の危機だった千代田女学園中高の立て直しを任され、参事、副校長、校長と合計4年半で、共学化、国際バカロレアの取得と改革を進め、生徒数も倍増しました。校長の任期が終了したところで、縁あってドルトン東京学園に戻ることができました。だから今、僕らが当時思い描いていた校舎が実際に形になり、生徒たちが活躍している姿を見るのは、嬉しくてたまりません。

 本校では、生徒たちが自ら課題を見つけ、時には周囲の力を巻き込みながら、自由に学び、探究できる環境を全力で保障します。それによって身に付く「自律した学び」の姿勢は、間違いなく彼らの生涯の宝となり、武器になります。

 河合塾という看板から、旧来型の偏差値に依拠した進学準備を期待されることもありますが、そんな普通の学校になってしまったらこの学校は終わりです。そこは校長のリーダーシップでしっかりと一線を引き、ドルトンプランの信念を曲げることなく、常にインディペンデントでありたいと思っています。

 →1期生が「科学の甲子園ジュニア全国大会」に出場。自己効力感の高い生徒が多い理由とは?「自律して行動するまで待つ」ドルトン東京学園 荒木校長・安居副校長に聞く生徒への思い<後編>へ続く。

加藤紀子(かとう のりこ)
1973年京都市生まれ。1996年東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、子どものメンタル、子どもの英語教育、海外大学進学、国際バカロレア等、教育分野を中心に「プレジデントFamily」「NewsPicks」「ダイヤモンド・オンライン」「ReseMom(リセマム)」などさまざまなメディアで旺盛な取材、執筆を続けている。一男一女の母。2020年6月発売の初著書「子育てベスト100」(ダイヤモンド社)は、2020年9月現在13万部発行のベストセラー本となり、教育関連の書籍では異例の大ヒット作に。(写真撮影:干川修)

《加藤紀子》

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