「自律して行動するまで待つ」ドルトン東京学園 荒木校長・安居副校長に聞く生徒への思い<後編>

 今春2年目を迎え、新たに荒木貴之校長が就任した同校は、Withコロナの時代をどう乗り越えていくのか。荒木校長と開校時より学校運営を支え続ける安居長敏副校長インタビュー後編。

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ドルトン東京学園
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  • 自己効力感の高さが顕著だったドルトン東京学園。(Institution for a Global Society 発表資料より)
  • 「図書委員会」のようす
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 開校1年目から、募集定員を大きく上回る入学者を迎えたドルトン東京学園。生徒ひとりひとりから湧き出る意欲と探究心を育み、他者とともに自らの意志で学んでいく力を授ける「ドルトンプラン」には、ますます期待が寄せられている。

 今春2年目を迎え、新たに荒木貴之校長が就任した同校は、Withコロナ、Afterコロナの時代に何を重視し、いかなる成長を目指すのか。荒木校長、そして開校時より学校運営を支え続ける安居長敏副校長に話を伺った。

対面授業&オンライン「ブレンデッドラーニング」



--緊急事態宣言が解除され、学校も再開されました。貴校では、対面授業とオンライン学習を組み合わせた「ブレンデッドラーニング」を実現されています。具体的にはどのような内容になっていますか。

荒木校長:6月の最終週から学校を再開し、午前中の3時間が対面授業です。午後は自宅でのオンライン学習が中心です。中学入学後は、まず学びの基本姿勢を身に付けないといけないので、集団での対面授業はしっかりとやっていく必要があると考えています。

 一方で、ドルトンプランは「学習者中心主義」であり、生徒ひとりひとりが自分の立てた目標に向かって学習を進めていくやり方です。これはいわゆる「個別最適化」の学びであり、今後は学年が上がるにつれて、この部分は強化していきたいと思っています。

安居副校長:午後のオンライン学習では、ディスカッション中心の授業も活発に行われています。たとえば「オンライン・ビブリオバトル」では、参加した生徒たちと教員が順番に本を紹介しています。最近では『コンビニ人間』のくだりで、“普通”であるとはどういうことなのかを考えさせられたという話になり、そこから「“普通”って何?」と話が広がり、哲学的なディスカッションに発展して盛り上がりました。

 本校には定期テストがありません。その代わりに、こうした日々の授業や小テスト、課題などから、生徒ひとりひとりの学習活動を多面的にモニタリングし、評価しています。“テストのための勉強”ではなく、生涯自ら学び続けられる人になってほしい、学ぶことの楽しさを身に付けてほしいと思っているからです。

荒木校長:生徒たちの「自らの学びを深掘りしていく」という点での成長は思っていた以上に速く、目覚ましいものがあります。そのような探究の時間を捻出するという意味でも、生徒の多様な将来への道筋に応えるという意味でも、今後、特に高等部3年間での学びの「個別最適化」は避けられなくなるでしょう。この点では河合塾のリソースを存分に使い、ITの力を借りて生徒ひとりひとりの習熟度に合わせながら最大限に効率化できるよう、検討を始めています。

1期生が3名が「科学の甲子園ジュニア全国大会」出場



--1期生では、すでに素晴らしい実績をあげている生徒さんがいらっしゃいますね。

荒木校長:開校したばかりですが、早くも初年度に1期生の中学1年生3名が、東京都中学生科学コンテストで東京都代表に選ばれ、「科学の甲子園ジュニア全国大会」に出場しました。また、生物同好会の生徒が書いた記事が、海洋生物飼育に関する情報誌「マリンアクアリスト」に掲載されました。薬の開発に興味をもち、理科室で魚の病気の治療に取り組んできた生徒が書いた研究報告です。

安居副校長:彼らはしょっちゅう放課後、理科室に集っていましたね。海洋学の専門家や博士号をもっている教員がいるので、理科の授業からさらに興味を深掘りしたがるグループが自然発生的に生まれたようですが、「まさか東京都代表に選ばれるなんて!」という感じでした(笑)。本校の多くの授業では、すべてを平均的に満遍なく知っている、というところには価値を置いておらず、自分はここがすごく知りたいんだという興味を掘り下げる、メリハリのついた授業です。先生が自分の専門分野をドドーンと掘り下げてやっている。だからこそ生徒たちは夢中になるのだと思います。

 理科に限っていうと、今年からは1年かけて毎週1時間、データの取り方やレポートのまとめ方、ポスターを使った研究発表の様式など、理科を学ぶ基礎をきちんと教え、探究の土台をつくろうという取り組みを始めています。探究の経験者である教員がここをしっかり教えれば、理科に限らず他分野にも応用が効くと期待しています。

荒木校長:外出自粛期間中には、オンラインゲームでアジアトップ100に選ばれた生徒もいます。学校が休みであることを生かして、夜中にオンラインゲームに勤しみ(笑)、アジアトップ100に入るとはすごい偉業です。これも余裕のある時間を有意義に使ってくれたということで、高く評価しています。

ドルトン東京学園には自己効力感の高い生徒が集まる



--AI技術でより正確な適性検査を行える、IGS(Institution for a Global Society:代表取締役社長 福原正大氏)が開発した“Ai GROW”によると、ドルトン東京学園の生徒さんは「自分はやればできる」という自己効力感の高い生徒が非常に多いという結果が出ていますね。

自自己効力感の高さが顕著だったドルトン東京学園。(Institution for a Global Society 発表資料より)
自己効力感の高さが顕著だったドルトン東京学園。(Institution for a Global Society 発表資料より)

荒木校長:オンライン授業に対する生徒たちの対応を見ても、自学力と自己効力感の高さの相関関係は実感としてよくわかります。自分ができることをすすんで行える「自学力」がある子が多く、彼らの自己効力感は非常に高いので、オンライン学習に切り替わってもスムーズに対応できています。入試では4科目、2科目型を複数回に分けるほか、特色型入試も行い、入り口を多様化しているため、中学受験の熾烈な競争で消耗してしまう子があまりいないのも、その理由の1つかもしれません。

--昨年、開校半年ほどのタイミングで生徒さんたちを取材させて頂きました。半年前まで小学生だった彼らが「自分たちがこの新しい学校をつくっていく」という使命感を共有していたのが印象的でした。生徒さんたちに対する姿勢として、先生方が意識されていることは何でしょうか。

安居副校長:生徒たちが行動するまで、辛抱強く待つ、ということですね。新しい学校なので、足りないものがたくさんあるわけですが、それをあえて生徒たちが必要だと感じて、行動を起こすまで待ちます。待つのは確かに辛いです。我々が細かい指示を出し、教員が決めた枠組みの中で動いてもらうほど楽なことはないですから。

 たとえば、昨年末に立ち上がった生徒会(ドルトン・スチューデント・カウンシル:DSC)も、授業の環境を改善したいという子たちのグループが発端となったのですが、1学期の間はまだ誰もリーダーとして前に出てこない、混沌とした状態でした。一体どうなることかと心配でしたが、あえて口出しはせずに見守り続けていたところ、夏休みが明けると、リーダーにふさわしい子を周囲が説得し始めました。やがてリーダーが決まり、それをサポートする子たちも含めた中心メンバーが集まり、さらに彼らは教員の前で、自分たちの問題意識と課題解決策をプレゼンし、自分たちの言葉で、教員にも理解と協力を求めてきました。そして全校生徒に向けても、「こんな活動を始めますが、一緒にやりませんか」と声をかけ、2学期越しにようやく生徒会組織が誕生したのです。

「図書委員会」のようす
「図書委員会」のようす

 面白いのは、その組織は親世代の生徒会のイメージにありがちな上意下達のピラミッド構造ではなく、メンバーひとりひとりが目的に向かい、それぞれ自己決定を行う自律的な組織になっているところです。

 このような、今、社会でもっとも進化型といわれる組織のありかたを、13歳の生徒たちが誰にも教わることなく体現しているのには本当に驚きます。中学生だって、そうやって自律して行動すれば、自然とそのような理想型にたどり着く。子どもたちの力を低く見積もってはいけない、大人の常識を押し付けてはいけない、と改めて痛感します。

 ドルトンプランの教育は、自分で考え、自分で動ける。他人事にせず、自分事として捉えられる力を生徒たちに授けることです。彼らの未来はその先にある、と信じているからこそ、私たちがすべきことは、彼らを信じ、待つことなのです。

--生徒の主体性を重んじるというのは理想的ですが、実践するのはとても難しいと思います。どうしたらそうやって、生徒たちを信じ、任せることができるのでしょう。

荒木校長:一番に心がけているのは、生徒たちを子ども扱いしないことです。放っておかれたら、人間誰でも不安になります。けれどもその不安から、人は自分で考えて動き、一方で危険を察知して回避する力も身に付けるわけです。つまり、少々遠回りになるかもしれないけれど、「任せること、責任をもたせることこそ、成長につながる」という信念を教員が共有し、生徒ひとりひとりのことを信頼してやってくれているのだと思います。

 さらに、僕自身は校長として、先生方を信じ、任せています。先生方に対して大きなビジョンは掲げますが、細かなことまで口出しは一切しません。先生方が自由で、自分らしさを発揮できる環境だからこそ、生徒たちも自由でいられるからです。

子どもがやりたいと思うことを邪魔しない環境



--中学受験に向けて志望校を検討中のご家庭にメッセージをお願いします。

安居副校長:中高一貫校は高校受験がない分、中学の3年間を、じっくり内省したり、とことん探究を極めたり、他者との関わり合いの中で何かをつくり上げていくといった贅沢な使い方ができます。この「土を耕す期間」を精神面で贅沢に過ごさせることが、残りの高校3年間の勉強に向かう姿勢、学びの力強さに繋がっていくのだ、と僕は信じています。

 やりたいことを究めれば、ほかのものは自然とついてきますから、すべてのことを満遍なくやる、あるいは先取りしてやる必要はない。むしろ、この時期の成長は、1本柱が立ったら、自然と周囲も上がっていく吊り橋のようなものだと思えば良いのではないでしょうか。そうやって、自分で考え、行動できる範囲が広い学校を選ぶという点で、ドルトンの環境はベストだと思います。

荒木校長:僕は、中高という多感な時期こそ、子どもがやりたいと思うことを邪魔しない環境がとても大事だと思います。枠にはめられることなく、自然とのつながり、社会とのつながり、そして世界とのつながりを感じながら、多様な仲間と刺激をし合って成長していってほしい。

 ドルトンの周りは森で、狸が生徒の畑を狙いに来るくらい自然の宝庫ですし、アカデミアや企業、そしてドルトンプランを採用している世界中の400もの学校とのつながりもこれから開拓していきます。また、STEAM(サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、アート、数学)専用の複合施設を2年後に新たに竣工する予定です。

 教員も先鋭揃いで、今春入職した中には、高校英語教育のスーパーエース、布村奈緒子先生(前・都立両国高校教諭)もいます。布村先生は、東大が4技能の民間試験導入を見送った答申にいち早く異議を唱え、英語を使って意思疎通ができる力、英語を使わなければいけない場面で自由自在に操ることができる力が本当の英語力だと主張した方です。

 学校の内側だけの狭い世界にとどまらず、社会に開かれた環境で、生徒ひとりひとりの個性が存分に生かされるよう、全力でお手伝いしていきたいと思っています。

--ありがとうございました。

 ドルトンプランでの6年間で身に付ける「自律した学び」の姿勢は、生涯100年を学び続けることになる時代、間違いなく最強の武器になるだろう。

 「河合塾という看板から、旧来型の偏差値に依拠した進学準備を期待されることもありますが、そんな普通の学校になってしまったらこの学校は終わり。そこは校長のリーダーシップでしっかりと一線を引き、ドルトンプランの信念を曲げることなく、常にインディペンデントでありたい」(「恐れず進め」ドルトン東京学園 荒木校長・安居副校長に聞く2期目のスピリット<前編>

 この荒木校長の硬い決意を聞き、在校生がどんな学校をつくりあげていくのか。彼らの成長がますます楽しみになってきた。

加藤紀子(かとう のりこ)
1973年京都市生まれ。1996年東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、子どものメンタル、子どもの英語教育、海外大学進学、国際バカロレア等、教育分野を中心に「プレジデントFamily」「NewsPicks」「ダイヤモンド・オンライン」「ReseMom(リセマム)」などさまざまなメディアで旺盛な取材、執筆を続けている。一男一女の母。2020年6月発売の初著書「子育てベスト100」(ダイヤモンド社)は、2020年9月現在13万部発行のベストセラー本となり、教育関連の書籍では異例の大ヒット作に。(写真撮影:干川修)

《加藤紀子》

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