【中学受験2022】後半日程もかなりの激戦、偏差値以外の尺度で学校を選ぶ傾向に拍車…日能研

 2021年の動向を踏まえ2022年度入試はどう変わっていくのか。日能研本部 常務取締役 茂呂真理子氏と、日能研グループのみくに出版が発行する中学受験専門誌「進学レーダー」の井上修氏に話を聞いた。

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  • 日能研グループのみくに出版が発行する中学受験専門誌「進学レーダー」編集長の井上修氏(左)と、日能研本部 常務取締役 茂呂真理子氏(右)
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 コロナ禍での入試も2年目となる。2021年入試の状況や人気校、出題傾向をふまえて、2022年度入試はどう変わっていくのか。日能研グループのみくに出版が発行する中学受験専門誌「進学レーダー」編集長の井上修氏と、日能研本部 常務取締役 茂呂真理子氏に話を聞いた。

小6夏からスタートした家庭も



--今年の春(2021年度入試)を振り返り、志願の傾向・特徴を教えてください。

井上氏:まずは全体的な傾向からお話すると、今年の春の受験者総数は6万1,700人、受験率は前年度の20.2%より伸び、20.8%となりました。昨年の今頃は、コロナ禍による経済的な事情で中学受験生の実数が減少に転じるのではないかという予想もありましたが、もともと受験のために準備をしてきた家庭においては、コロナ禍を理由に受験を諦めることはほとんどなかったのだと思います。

 加えてコロナ休校時の対応における私学と公立の対応の格差が如実になったことで、公立の教育に不安を感じる保護者が増え、私学に目が向くようになったことも受験者が増えた大きな要因です。それまで公立中に行こうと考えていたものの、昨年の6月、7月頃から私立受験を考えるようになった家庭が増え、結果として受験生全体の増加につながったと考えられます。

--小6夏から受験を考えるというのは一般的に遅いスタートですよね。それでも受験に踏み切った家庭が多かったのでしょうか。

井上氏:その表れなのか、そこまで難易度が高くない中堅校の応募者数が伸びました。6年生から本格的に受験勉強を始めるわけですから、開成や麻布、桜陰といった学校はなかなか難しい。ですが、手が届く範囲の学校に頑張って入ろうと考える家庭が多くみられました。

 中堅校といわれている学校にも良い学校はたくさんあります。ICTの対応ひとつとってみても、難関校だから充実しているというわけでもありません。保護者の視点もここ数年多様化しつつあり、それぞれの視点で私学のいいところを評価し、偏差値ではない尺度で学校を選ぶ傾向に拍車がかかったように思います。

茂呂氏:私どもは受験校を検討する際に、2月3日をひとつのターニングポイントとして考えます。まずは3日までに合格をつくって後半日程に備えようと子供たちにも話しています。例年ですと4日、5日などの後半日程については出願をしたものの、すでに合格があるので受けないというケースも見られるため、後半の日程は受験者数が減っていくのですが、今年の春に関しては後半日程も受験者が減らなかったんです。それほど中堅校、および全体の志望者が増え、かなりの激戦となったようすが見てとれます。

日能研グループのみくに出版が発行する中学受験専門誌「進学レーダー」編集長の井上修氏(左)と、
日能研本部 常務取締役 茂呂真理子氏(右)

“大学付属”だけでは選ばれない時代に



--皆が少しでも高い偏差値を目指す、難関校を志望するといった中学受験のイメージも変わってきているのですね。学校選びの視点はどのように変化しているとお考えでしょうか。

井上氏:昨年度(2021年)は、この数年間続いていた大学付属校の人気に待ったをかける動きもありました。コロナ禍での大学の対応についても報道で身近に触れられるようになり、有名大学や難関大学だからコロナ対応をしっかりやってくれるのではない、ということがわかり、かつての「この大学に入れば安心」という考え方は崩れつつあります。付属校人気から進学校人気へと、トレンドもシフトしていくのではないでしょうか。

茂呂氏:大学付属校といっても、学校法人の体制によって変化への対応のスピードや柔軟性は異なりますから、保護者はそのあたりも感じ取っていると思います。

井上氏:そんななかでも注目されているのが日本大学(以下、日大)系列の付属校。併設の大学への進学もあれば、他大学を受験することもできるといった、「進学のハイブリッド化」が進んでいるのが人気の理由です。さらに、日大は学部学科数が多く、ほぼすべての分野の専門領域を持っていることに加え、付属校の中には、中高生に向けて各専門分野の先生が大学での学びとはどういったものか提示してくれる場合もあることにも大きな魅力を感じている家庭が多いようです。

茂呂氏:これも今の世相を反映しているといえます。コロナという未知の感染症と直面して、世界は一変し、「過去の延長」が通じない世の中になりました。解決が難しい問題が山積みの時代を生きていかなければならない子供たちに、どんな力を身に付けてほしいかと考えたときに、やはり自分で自分の道を切り拓いていける子になってほしいと保護者は願うのだと思います。

 そんな、自分自身を育てるチャンスや多様な価値観を与えてくれる豊かな教育環境を一貫教育に求めているのです。付属大学に行けるから付属校を選ぶといった意識が変化しているのだと思います。

井上氏:大学入試についても同様で、付属校に進めるからという理由や、難関大学だからといって目指すのではなく、「やりたいことをやるためにへ行く」という考え方に変わってきました。私たちも「学部学科で選ぼう」「自己実現ができる学校を選ぼう」と指導しますが、中高生のうちから大学の学びをつかむことができるメリットは大きいと思います。

--まず学びたいことがあって、進路を決める。本来の学びに立ち返ったということでしょうか。

井上氏:伝統校は元々この考え方が根付いていて、たとえば麻布や開成から東大を目指すにしても、「自分のやりたいことがあるから行く」というニュアンスがありました。それが他の多くの私学にも、この考え方がより広まったという感覚です。

教養系大学の付属校、寮のある学校に注目が



--人気が高まっている学校について教えてください。

井上氏:今年目立った動きとして、総じて成蹊、成城学園、獨協といった教養系大学の付属校の人気が高まっている傾向が見られます。大学も早慶や明治ほど規模は大きくないので先生との距離が近く、対話探究型の教育が進んでいること、コロナ時でも学生に対して誠実な対応をしてきたその私学の文化が、付属校の中高にもあり、結果として各校の人気にもつながっていると思われます。

茂呂氏:また、ここ1、2年は寮施設のある地方校も注目されています。本来学びというのは生きることの延長にあるもの。受験のためだけではなく、人生を切り拓いていくための学びを考えたときに、学校の理念に基づいた学びと生活とが分断されない寮という環境に魅力を感じるご家庭が増えているのでしょう。

井上氏:例えば、今年度の傾向ですと、早稲田佐賀、静岡聖光学院、静岡の不二聖心女子学院といった学校を志望する方が増えています。

--寮のある学校が注目されるようになった背景として、他にはどのようなことが考えられますか。

井上氏:昨今、急速に世の中の組織も変化していますよね。上司の指示に従って働くといった上意下達のやり方から、グループワークやシナジーワークで成果を出すというのが主流になっています。そのなかで大切なのは、物事を最後までやり遂げる力、仲間と支え合うといった「非認知スキル」だということを実感している保護者も多いはず。自分の子供にも、そういったスキルを身に付けてほしいと考えるなかで、自然と協調性などを培うことができる寮が選択肢となってくるのだと思います。

 通学するケースも同様、学校行事や生活体験、部活動に力を入れている学校は人気が出ています。コロナで行動が制限されたからこそ、実体験を大切にしてくれる学校を選びたいと考える保護者が増えたことがひとつ。オンラインでできることが広がった一方で、人と人とのリアルなやりとりのなかで生まれる学びの価値を再認識するようになったという声が、教育現場からも家庭からも聞こえてきています。

--ほかにも志望者を増やしている学校はありますか。

井上氏:人気が出る理由には複数の要因がありますが、立地もそのひとつ。山脇学園、日本大学豊山、獨協、実践女子学園といった、豊洲などの湾岸地域からのアクセスのいい学校が志望者を増やしています

 一方で、千葉埼玉の学校を1月に受験する流れはすでにデフォルト化しています。これまではお試し受験の意味合いも強かったのですが、栄東や開智など近年伸びている学校も多く、「合格したら通う」リアルな進学先として受けている傾向が強まっています。

 昨年度は、女子美術大学付属を志望する女子が増えたということも面白い傾向です。たとえばグループで物事を進めるときに、グループの中に美大出身の人がいるとユニークな発想が出たりしますよね。東大出身の人もいれば美大の人もいて、さまざまな対話が生まれることでおもしろいものが出来るということに社会が気付いてきたのだと思います。美大出身の方はプレゼンテーションが上手い方が多いので、企業からも求められる人材です。吉祥女子の美術専科コース、音楽大学を持つ洗足学園が人気なのも、芸術からの学びを通じて共感力や非認知スキルを高めてくれるという側面が評価につながっていると見ています。

 もうひとつ、東京大学附属の人気も高まっています。これからの世の中に必要とされる教育を考えたときに、机上の勉強だけでない対話探求型の学びは必須ですが、そうした学びへの取り組みは都内でもトップクラスです。通学90分圏内と通学区域が広いこと、偏差値がそこまで高くないことなどもあり、難化し過ぎている公立中高一貫校から東大附属といった国立の附属中学に人気がシフトしている傾向があります。

茂呂氏:コロナによって学び方もずいぶん変わってきました。これから先の未来、世の中で求められるのは、当たり前を疑えるクリティカルな思考力。ICT化が今よりも進み、自分で学ぼうと思えばいくらでも学ぶことができる環境において子供たちに必要なのは、自分の学びをどのように自分らしくデザインしていくか、自分自身を育てていく力です。そのため、自分で問いを立て、探求していく学びが実践されている学校の教育観や教育のカリキュラムに、保護者も安心感があるのかもしれません。


コロナ関連テーマを取り上げた出題も



--コロナ禍中での受験となった昨年度入試ですが、出題傾向などにも目立った変化はありましたか。

茂呂氏:世相や社会の動きを反映したような問題が出るというのが近年の傾向としてはありますが、やはり今年はコロナによって引き起こされた社会情勢などに関連する出題もみられました。ウイルスや感染症が歴史上、人類にどういう影響をもたらすのかといった感染症に関するものもあれば、複雑な問題をどのように解決することが大切だと思うかという本質的な部分に迫るような、人間の価値観が問われるような内容もありました。コロナや脱炭素社会、若者世代の貧困問題や生き物の多様性など、複数の要素と要因とが、複数の結果絡み合うような課題について、あなたはどう解決していきますかという問いかけを通じ、自分の考えを持ってほしいということなんです。

 未知の物事に向かってどう学び進んでいくかということ、世の中の問題をどういうふうに自分事として捉えて、解決していくかということ、それらを筋道立てて考え、自分の言葉で表現させるような出題の傾向は今後も強まっていくと思います。

--入試における注意点やアドバイスがありましたら教えてください。

井上氏:今年度(2022年)においても、出願や合格発表がWebで行うようになっている学校がほとんどだと思います。ですが、合格手続きの書類は窓口で受け取る学校も多いのです。

 手続き書類がメールで来ると思い込んでもらいに行くのを忘れてしまい、入学権利を失ってしまったケースが今年の春もありました。入学手続き金を振り込んでも、手続き書類の提出を忘れてしまったらすべてが水の泡になってしまうので、くれぐれも気を付けてほしいと思います。手続き方法や期日は学校によっても異なるので、もう一度入試要項をじっくり読むこと、学校からのアナウンスを確認してください。

子供が受験をするのは「当たり前」ではない



--これから受験日までラストスパートをかける受験生と保護者に向けて、メッセージをお願いいたします。

茂呂氏:今年度(2022年度)入試に向けて、どの学校も早々にコロナの状況を予測し、万が一の際の追試の実施を告知してくださっています。コロナ禍での初の入試となった昨年度を経て、会場の感染対策といった対応は万全に備えられているので、安心して試験会場に向かってほしいと思います。

 また昨年度は、私どもがこれまで何十年と続けてきた当日朝の校門前での入試応援を自粛せざるを得ませんでした。それでもどうにか受験生に声をかけて送り出したいという思いで、オンラインでの応援に切り替え、入試当日の朝6時からPCを立ち上げて、Zoomアプリをつかって待機をしていたんです。家を出る前にネットに繋いでくれる子もいれば、会場に向かう電車の中から繋いでくれた子、入試会場の校門の前で「今から行ってくるね」と意気込みを伝えてくれた子など、いろいろな子供の姿が見えました。そんな受験生たちを見ていて思ったことは、私たち大人が考えている以上に、子供ってたくましく自分を育てていくことができる。子供たちはどんな状況であっても前を向いて入試に向かっていくことができる、そして入試中も強くしなやかなに自分を育てることができるんだなということでした。

 今後、たとえ第6波が来たとしても、受験生たちはきっと自分の足で立って、しっかりと試験会場に向かっていけると思います。子供自身が中学受験をしようと決めて、行きたい学校を自分が決めて、そして迎えた受験本番。中学受験に挑むということは、まさに自分で将来を切り拓いていくということ。世界中が混乱に陥ったコロナ禍の中でも、受験することを自分で決めて、当日を迎えられたということは、それだけですごいことなんだと改めて思います。保護者の皆さんは、そんな子供の背中を温かく押してあげてほしいと思います。

--ありがとうございました。

 「子供たちに“毎日が第一志望校”という気持ちで試験本番に臨むように伝えています」と茂呂氏。それぞれの試験日の中でベストを尽くして、最終的に自分が幸せになる場所を決める。そんな12歳の挑戦と決断を心から応援したい。

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《吉野清美》

吉野清美

出版社、編集プロダクション勤務を経て、子育てとの両立を目指しフリーに。リセマムほかペット雑誌、不動産会報誌など幅広いジャンルで執筆中。受験や育児を通じて得る経験を記事に還元している。

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