学力低下とゲームの関係…ゲーム規制条例を科学的に検証

国際的な研究を参考に香川県議会が主張するゲーム規制条例の科学的根拠を掘り下げていきます。

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“ゲーム障害”が国際疾病になったいま、ゲーム規制条例を科学的に見直してみる
  • “ゲーム障害”が国際疾病になったいま、ゲーム規制条例を科学的に見直してみる
  • “ゲーム障害”が国際疾病になったいま、ゲーム規制条例を科学的に見直してみる
  • 出典「Video-Games Do Not Negatively Impact Adolescent Academic Performance in Science, Mathematics or Reading」
  • 出典「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例に対する香川県弁護士会長声明に対する見解」
  • 出典「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例に対する香川県弁護士会長声明に対する見解」
  • 出典「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例に対する香川県弁護士会長声明に対する見解」
  • 出典「平成30年度香川県学習状況調査報告書」
  • “ゲーム障害”が国際疾病になったいま、ゲーム規制条例を科学的に見直してみる

県議会の主張には根本的な問題がある

県議会が提示した資料を見ていきましたが、ドラモンド教授らの論文内で挙げられた3点を全てクリアできたものは無く、その上でそれぞれが別の課題を抱えていることから県議会の「子供たちがこれらのゲームを長時間行い、過度に依存することは、知的好奇心とは逆の方向に働き、彼らの創造性・知的好奇心を失わせる可能性がある」という主張を科学的に裏付けるには程遠いものでした。そして最後に、県議会の主張には根本的な思い違いがあります。

県議会は、提出した各資料を通してゲームやスマートフォンの利用時間が延びるほど負の要素(例:学業成績の低下)が悪化していることを示そうとしていました。統計学上では、二つの要素間で一方が増加する際にもう一方が増加、または減少する関係のことを相関関係と呼びますが、仮にゲームやスマートフォンの利用時間と学業成績の低下等の間に相関関係があったとしても県議会の主張を裏付けることは出来ないのです。

県議会の主張は、「ゲームを長時間プレイする」と「創造性・知的好奇心を喪失する」でした。一見この主張は、県議会が各資料で示そうとしたものと同じに見えますが実はこれは相関関係ではなく因果関係と呼ばれるものです。

因果関係とは、二つの要素の間で一方が原因、もう一方が結果として起こる関係を言います。そして相関関係は、あくまで二つの要素間の相関を認めるだけでどちらが原因で結果かはわからないのです。この点を考慮すると、県議会の提出した資料は、ゲーム等の利用時間が増えた結果、学力が低くなったようにも見えますし、逆に学力が低くなった結果、ゲーム等の利用時間が増えたようにも見えるのです。

科学や統計学において、調査だけでは相関関係までしか証明できず、因果関係は実験でなければ証明できないとされています。つまり、県議会がどんなに調査を行ったところで、ゲームが子供に害を及ぼしていることを証明することはできません。

さらに、相関関係にはもう一つ大きな落とし穴があります。本来は全く関係ないもの同士でも、数値の増減のタイミングが重なっただけで相関が見つかってしまうことがあり、これを疑似相関と呼びます。例えば、ネット普及率が高い地域では平均寿命も高いことが見つかったとします。であればネットの普及と寿命延長に相関、つまりネットが普及すると人が長生きする、またはその逆が存在するのでしょうか?恐らく大半の人はノーと答えるでしょう。

では何故この相関が見つかってしまったのかと言うと、両者の間にまた別の要素(統計学的には潜在変数と呼ばれています)があるからなのです。具体的には、ネットの普及率が高い地域は経済的に豊かであり、経済的に豊かである地域は医療が充実しており、医療が充実している地域は平均寿命が高いと推測できます。このことから、ネットの普及率⇔経済、経済⇔医療体制、医療体制⇔平均寿命とネット普及率と平均寿命の間には別の要素が挟まっているのではと考えることも決しておかしな話ではないでしょう。

そしてこの疑似相関の可能性は、香川県におけるゲームの利用時間と生徒の成績低下の間にもあります。上記で言及した調査報告書には、「携帯電話やスマートフォン、ゲーム機などを使う場合、家の人と決めた使用ルールを守っていますか。」という項目があり、そこに掲載されている折れ線グラフを確認すると、「(ルールを)守っていない」と答えた生徒の平均正答率が他と比べ圧倒的に低いことが確認できます。この子供がルールを守らない背景としては、保護者が役目を果たせていない、つまり家庭環境に問題がある可能性も無視できません。

相関関係で考えると、成績低下⇔家庭環境の悪化、家庭環境の悪化⇔子供のルール無視、子供のルール無視⇔ゲームプレイ時間増加のように、複数の要素が挟まっていることが考慮できます。つまり、このデータは“そもそもゲームプレイと成績低下に直接的な関係はあったのか?”と疑問を投げかけており、まだこの件に関して結論を急ぐべきではないことを示唆しているともいえるでしょう。

さらに、“家庭のルールを守らない子供は成績が悪い傾向がある”というデータを考慮すると特に罰則の無い「家庭におけるルール作り」を推奨する条例は焼け石に水の可能性があり、効力を十分に発揮できるとは考えられません。以上のことからゲーム規制条例が科学(臨床)的正当性を主張するにはまだ証拠が不十分であると結論します。

※UPDATE(2022/01/10 5:49):アーロン・ドラモンド教授らの研究実施年について誤りがありましたので修正いたしました。


編集部では、いわゆる「ゲーム障害」について専門家や関係者に取材を重ねながら、どういった問題や課題があるのか、我々ゲーマーはどのように向き合うべきかを連載形式で深掘りしていきます。初回はネット・ゲーム依存についても積極的な発信を続けている井出草平氏にお話を伺う予定です。取材や企画についての意見や要望があればぜひコメント欄やお問い合わせからご連絡ください。

“ゲーム障害”が国際疾病になったいま、ゲーム規制条例を科学的に見直してみる

《ケシノ》

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