【中学受験2023】引き続き受験者増、付属校・共学化校に注目集まる…首都圏模試センター

 首都圏模試センターで教育研究所長として、長きに渡り中学受験業界に携わっている北一成氏に、2023年度入試における志願傾向や注目すべきトピック、人気校の動向などについて詳しく聞いた。

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  • 首都圏模試センター教育研究所長の北一成氏
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  • 芝浦工大附属の2022年2月1日第1回入試のようす

 新型コロナを警戒しながら行われる中学入試も3年目を迎えようとしている。中学受験を目指す、幅広い偏差値帯の小5、6年生を対象に行われる「合判模試」を主宰するのが首都圏模試センターだ。

 教育研究所長として長きに渡り中学受験業界に携わっている北一成氏に、2023年度入試における志願傾向や注目すべきトピック、人気校の動向などについて詳しく聞いた。

受験者数は来年度も増加傾向に

--近年の中学入試全般について、現況をどのようにみていらっしゃいますか。

 昨年(2021年)秋の5年生時点での合判模試の受験者数、今年(2022年)4月と7月、9月に実施した受験者数を見る限り、やはり2023年度も、私立・国立中学受験者はこれまで以上に増えるのではないかと思います。ここ40年ぐらいのスパンで見ると、現在は3度目の中学受験ブームのピークです。1度目がバブルのときに受験者が5万人を超え、2度目は景気が上昇していたリーマンショックの前年。そして3度目の今回ですが、決して経済が上向いているとは言えない状況の中でも受験者が増えているというのは、長年業界に携わる私どももなかなか信じがたい状況です。

 受験者増加の背景として、2020年のコロナ流行による全国一斉休校時にスピーディにオンライン化を実行した私立と、遅れをとった公立との対応格差が一因ともいわれており、そうした不安感から保護者の私立志向が高まるという流れが今なお続いているという見方があります。また、休校中も生徒たちのつながりを絶やさず、メンタル面での配慮に尽力していた私学の対応が、保護者間の口コミで広がっていったことにも影響しているのではないでしょうか。

 2023年度入試についても、コロナの感染状況がどうなっていくかわからない中、さらに受験者増ということでさまざまな意味で厳しい入試が続くと予想されます。気持ちを引き締めて頑張っていただきたいところですね。

首都圏模試センター教育研究所長の北一成氏

受験層は二極化進む

--コロナ禍以降において、志願傾向にはどのような変化がありましたか。

 まず大きな傾向として、昨今の中学受験層全体が二極化しているという見方があります。一方は低学年のうちから塾に通い始めて難関校を狙う層。他方、5年6年といった比較的遅くから受験準備を始めて、入試までに駆け込みで間に合わせるといった、いわゆる「ライトな受験層」です。近年は後者が増えているというのは、いわゆる「新タイプ入試」の志願者増にも表れていますし、私どもの実感としてもあります。

 コロナ禍以降の顕著な傾向としては、最難関を狙う子供たちが若干減って準難関校を受けるなど、安全志向が高まったというのが1つ。それ以上に目立つのが、中堅校の志願者が増えたことです。ライトな受験者層が増えた結果、偏差値40~60に位置する学校で軒並み志望者数が増えるといった動きがみられます。

 また、大学付属校の人気は依然として高いですね。ただ早慶の付属は不動の人気を誇るものの、MARCHの付属校の志願者はトータルすると実はそんなに増えていません。目立って志願者が増えているのは、日大豊山や千葉日大といった日大系列の付属校、東洋大、東海大学や芝浦工大の付属校。これらも、中堅校を狙う受験層が増えている傾向と重なっているといえるでしょう。

 難関や有名大学である以上に、わが子の将来を考えたときに選択の広がる総合大学や「SGU(スーパーグローバル大学)」のタイプBに該当する大学などを選びたいという保護者の意識の変化が人気を底上げしていると思われます。起業ブームなどもあり、日大出身の社長の数などが広く知られるようになったことも、多くの保護者からの評価につながっているのではないのでしょうか。

新しい学力観、教育観に基づいた入試へ

--入試問題の傾向についても教えてください。

 中学入試においても、大学入試改革後をにらんだ思考力や表現力を問う問題が増えているのは大きな特徴ですね。さらには、4科をまたいだ総合型、公立中高一貫校と同様の問題で選抜する適性検査型の入試も増えています。たとえば、2つの立場のうちの一方を選んで、その選んだ理由を説明するといった記述形式であったり、答えが必ずしも1つではない問題について自分の考え方を明確にしたりといったような内容です。

 そういう点では、塾のカリキュラムに沿って学習すれば良いというわかりやすい対策がしづらくなってきています。逆に、机上ではなく日常で培う考える力や表現する力、身の回りの事象や社会の出来事について、自分に関係あるものとして考える力が大事になってきていると思います。

 知識や解法を身に付けていることが前提で、そのベースを使って答えを導くというのが従来の学力観だとしたら、昨今は課題ありきでそこから知的好奇心を巡らせて思考を組み立てるという学力観へ世の中がどんどん変わっている。私はそう感じています。

--英語入試や自己表現型の入試など、入試の形態(選抜方法)が多様化していると聞きます。

 「4教科のペーパーテストではないところで、子供の能力を試すような入試や新たな評価軸があって良い」そういった教育観が反映されているのが、中学入試でも広がりをみせている思考力入試やプレゼンテーション入試といった新タイプの入試だと捉えて良いでしょう。

 主だった学校でいうと、宝仙学園共学部理数インターや安田学園などが適性検査型(公立一貫型)入試や、その他の多様な入試を取り入れています。受験生の間口を広げる以上に、偏差値で測れない魅力をもった、今まで出会えなかった子供たちに会いたいという意味合いも大きいんですよね。実際、得意分野の入試やプレゼンテーション入試で入学した子は、自分のやってきたことを評価し合格をくれた学校に対するロイヤリティがとても高いと聞いています。行事や授業についても率先してやってくれて、クラスのリーダーとして活躍しているという評判をよく耳にします。

 新タイプ入試というと幅が広すぎて対策を立てにくいと思われるかもしれませんが、まずは学校が開催する入試体験会に参加してみて、そこでの学びが面白いなと思ったら受けに行くというパターンで良いと思います。偏差値だけではなく「うちの子の良いところを見てくれる学校はどこか」という視点で入試や学校を探せたら良いですね。

既存学校のリニューアルが相次ぐ

--2023年入試における注目校を教えてください。

 昨年は、文京区の村田女子が広尾学園小石川として共学化し、初年度はのべ3,000名以上の応募があったと話題になりましたが、その人気は今年も継続しています。

 今年度も、既存の学校がリニューアルするケースに注目が高まっています。男子校の日本学園高校が2026年から明治大学の系列校となり、明治大学附属世田谷として共学化することが発表されたことで、日本学園の志願者は目を見張る増加率に。中学の共学化はまだ公表されていませんが、来年入学した生徒が2029年の大学入試に向かう頃には推薦が適応されるという将来性が見込まれています。

 同様に急速に評判が上がっているのが、東京女子学園が共学化と校名変更でリニューアルして新しく開校する芝国際中学校です。田町という立地の良さに加え、建設中の新校舎にインターナショナルスクールを併設するなど、世界水準を目指した先進的な教育に注目が高まっています。学校の全貌がみえていない段階でも説明会が即満員になるなど、期待が高まっているといえるでしょう。

 また、注目のエリアとして大井町沿線にある学校の志望者が増えています。大井町は、人口が増加している武蔵小杉や豊洲から30分以内で通学できるという好立地。コロナ禍もあってあまり遠くへ通わせたくないという心理も働いた結果、青陵や品川翔英といった学校の志願者増が例年に続き見込まれるでしょう。

学校の公式SNSで最新情報をチェック

--コロナの収束が見えない状況下、思うような準備ができずに不安を抱えるお子さんや保護者もいると思われます。受験本番までの期間、どのようにこの状況に向き合うのが良いと思われますか。

 コロナ禍による行事などの縮小で、学校のことを知る機会が少なくなっているという保護者からの切実な声がたくさん届いています。学校説明会やオープンキャンパスにしても、予約申込が殺到してなかなか参加できないという状況です。弊社が主宰する保護者会や説明会イベントでも、学校側が人数を制限してるところがほとんどなので、希望者が全員入れないことも少なくありません。

 やはり学校に出向いて実際の雰囲気を知りたい、先生に対面で相談をしたいという思いも理解できますが、このご時世、少し見方を変えてみましょう。特に、学校が発信しているWeb動画やSNSはお子さんと一緒に楽しむことができますし、十分な情報収集やモチベーションアップにもつながると思います。

 2年前と比べて、学校側も情報発信について慣れてきて、オンライン上でいろいろな情報が得られるようになっています。保護者向けだけではなく、子供が見て楽しい動画や学校生活をイメージできるようなコンテンツを発信している学校もたくさんあります。興味のある学校のSNSをフォローしておくだけでも学校のようすを知ることができますし、説明会やイベントの情報をいち早くお知らせしてくれることもあるので、ぜひ積極的に活用してほしいですね。

過去問は6割取れればOK

--受験本番までの学習の進め方についてはいかがでしょうか。

 ほとんどの進学塾の教材は、6年生の夏休み前までに、必要な履修範囲が一通り終わるようになっています。秋以降は入試問題に近い実践的な演習をしている最中だと思いますが、9月の時点で追いついていない分野があったり、自信のない単元があったりしても心配する必要はありません。

 2学期の時点で、カリキュラムを100%吸収できている子はほとんどいないと思って良い。どの塾でも、12月、1月まで過去問演習などを通して3回4回と同じところをスパイラル的に学ぶことになると思います。ここから先の学習でもし途中でつまずくところがあったら、5年生のときのテキストに戻るなどして、少しずつ固めていけば良いのです。

 極論ですが、受験期までに「十分仕上がってます」と言える子はほんの2割以下。麻布や開成に受かる子でも、秋の時点で過去問の合格最低点を取れる子はほとんどいないのではないでしょうか。過去問演習を始めたころ、3割4割しか取れないところから頑張って、最終的に合格最低点までもっていくのです。現在の中学入試の合格最低点は平均すると60%程度ですので、入試問題を見たときに、8割ぐらいできそうだという問題があったらそこから手をつけていって、これは考えても無理という問題は潔く捨てる。手をつけた8割のうちの8割が正解できればそれで64%ですから、合格点は取れるということです。これを「全部正解しなきゃ、100点をとらなきゃ」と思うと親も子も辛くなるので、それは絶対にやめた方が良いです。

 12月ぐらいまでは解けない問題にも頑張って食らいつく必要がありますが、入試が近づけば近づくほど、苦手分野の補強より得意なところで点を取れるように塾の指導も変わっていくはずです。

「思考コード」を受験校選びの参考に

--模試の活用についてもアドバイスをいただけますでしょうか。

 誰しも模試の偏差値は上げたいと思うでしょうし、本番までの目安として気になりますよね。でも本来、模試の偏差値を上げることと、中学受験の成功とはまったく関係ありません。模試というのは、自分の相対的な位置を確かめることで、目標までの距離と課題を見定めていただくためにあります。親はどうしても偏差値の1ポイント、2ポイントに目がいきがちですが、そうではなく「ここが出来ていたらあと〇ポイントアップだったね。本番は気を付けようね」「ここまではわかっていたけど、こういうふうに間違えちゃったね」といった、お子さんの課題を確認する目的で利用してほしいと思います。

 また、首都圏模試では「思考コード」という指標を用いて成績を出しています。この思考コードを参照することで、知識力や理論的な思考力、創造力といったその子の学力特性が分析できるものになっています。たとえば「麻布や武蔵は論理的な記述力がある子が有利」といったように、お子さんにフィットする入試問題を探る目安にもなります。入試がその子に合っているということは、つまり学校の教育姿勢そのものもその子に合っているとも言い換えられます。ぜひ、思考コードを受験校や併願校選びの参考として活用してみてください。

芝浦工大附属の2022年2月1日第1回入試のようす 画像提供:首都圏模試センター

ラストスパート「子供は絶対にやります」

--最後に、これから本番を迎えるお子さんと親御さんへのメッセージをいただけますでしょうか。

 中学受験というのは、言ってみれば早熟な子に有利なんです。とくに、男子は女子に比べて1歳半くらい精神的に幼い。10月終わりになっても全然受験生ぽくないとか、本気なんだかどうかわからないと心配になる男の子のお母さんも多いと思います。

 でも、長年多くの子供たちを見てきてこれだけは言えるのですが、小学生はこれからの数か月でものすごく伸びるもの。仲の良い友達や、塾のクラスの雰囲気が変わってくると、急にちゃんとした受験生になっていきます。残りひと月、あるいは入試が始まって1月入試校の受験をした後など、むしろその期間に一番伸びる子もいるくらいです。

 それまでずっと心配していたお母さんたちも、最後の最後で「本当にうちの子、頼もしくなった」と感じることができるでしょう。いろいろ言いたくなる気持ちをぐっとこらえて、そこはお子さんのことを信じていただきたいと思います。

--直前のところで、もしコロナにかかってしまったらという不安も大きいと思います。

 よほど重症化してしまうケースは別ですが、隔離期間を過ぎれば外出できるようになります。もしどこかでコロナになってしまっても、一度スパッと休んで体力を回復しましょう。

 コロナが流行する前も、1月2月は常にインフルエンザの心配がありました。そういう背景もあって、難関校でも後半戦に2回目の入試を実施し、感染リスクに配慮しているところがあります。受験期の早めの段階でなんとかして決めたいという気持ちはあるとは思いますが、意外と後半戦に合格のチャンスがあることも知っておいてほしいですね。しっかり体力を回復して、後半戦に挑むという選択肢もあるということを覚えていてください。子供は親が感じている以上にたくましいもの。もし万が一のことがあっても、親がめげなければお子さんは絶対大丈夫です。

 今年の6年生は、3年近くコロナ禍の中で勉強を続けてきました。そして最後までくじけずに入試本番までたどり着いた、それだけで十分立派です。その時点でお子さんのこと、保護者ご自身のことを褒めてあげて良いと思います。心配は尽きないかと思いますが、頼もしく成長していくお子さんの姿を、ぜひ一緒になって応援してあげてください。

--ありがとうございました。

 未だ収まりきらないコロナ禍で入試本番を迎える子供たち。「過去には震災の中で入試を迎えた年もありました。大変だった年に受験を経験した子供たちは、そのぶんの強さを身に付けています」と最後に語った北氏。心強いエールをいただいた取材となった。

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《吉野清美》

吉野清美

出版社、編集プロダクション勤務を経て、子育てとの両立を目指しフリーに。リセマムほかペット雑誌、不動産会報誌など幅広いジャンルで執筆中。受験や育児を通じて得る経験を記事に還元している。

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