【中学受験】思考力・判断力・表現力重視…共通テストの影響が見られた2023年度入試を振り返る

 2023年度中学入試では、どのような出題があったのか。中学・高校入試問題集の出版社、声の教育社の常務取締役 後藤和浩氏に全体的な傾向と、今後の対策として留意しておきたい出題例(慶應、吉祥女子、早実、聖光学院など)を聞いた。

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 首都圏の中学受験者数は推定5万2,600人、受験率は17.86%(*)と過去最高となった2023年度の中学入試。年々厳しさを増す中、来年、再来年に向けて準備を進めるご家庭は、気になる学校の出題傾向を把握し、対策を考えておきたいところだろう。(*2023年3月4日 首都圏模試センター発表資料より)

 2023年度中学入試では、どのような出題があったのか。中学・高校入試問題集の出版社、声の教育社の常務取締役 後藤和浩氏に全体的な傾向と、今後の対策として留意しておきたい出題例を聞いた。

 後藤氏は塾講師を10年経験した後、同社に入社。編集者として大量の入試問題を自ら解き、解説を執筆・編集。現在は、講演会や動画授業の講師を務める他、YouTube「声教チャンネル」で受験情報を発信している。何千問もの入試問題を解いてきた後藤氏が感じる変化とは。

共通テストの影響を感じる出題が増加

 2023年度中学入試を振り返り、まず後藤氏は「思考力・判断力・表現力を発揮し解くことが求められる大学入学共通テストの影響を感じる出題が増加しました。適性検査を中止する私学も出てきていますが、これらの力を4科入試に落とし込む形になってきているように感じます」と指摘。

 「算数では『手を動かさせる・作業させる』出題が目に付きました。すぐに解答方針が思いつかなくても『表にまとめる』『示されたルールでちょっとやってみる』など『試行錯誤ができる生徒』を欲している学校の思いが見えてくる」という。

 社会科については、「暗記科目とされていますが、その場で与えられた資料から問題点を見出し、自分の言葉で答えるものが頻出しています。男子最難関の開成・麻布を比べてみると、知識題(暗記しておいて答えるもの)を開成は6割程度出していましたが、麻布は2割(解答記入箇所17のうち、知識題は3問のみ)も出ていませんでした。社会科の受験対策のあり方、塾のカリキュラムにも大きく影響してくるのではと思います」と分析。

 さらに国語の出典や社会科のテーマとして、現代社会が抱える課題が多く取り上げられていることも注意しておくべき点であるという。「ジェンダー、さまざまな差別、戦争など、これまで『子供だから』といって、あえて詳しく説明してこなかった事柄でも、保護者は避けて通らずに、子供に伝えたり、考える機会ををもったりすることが必要になってくるのではないでしょうか」

 常日ごろから親子で時事問題に興味をもち、子供であっても社会課題を自分事として捉えられるよう保護者がサポートしていくことが大切だと感じた。

知識・思考力・判断力・表現力…さまざまな力が試される出題

 後藤氏がピックアップした2023年度中学入試問題の一部を紹介する。

早稲田実業(算数)

 学習指導要領の改訂により、小学生の学習内容となった「データの活用(中央値、平均値、最頻値)」について、上位校でも出題されるようになっている。

田園調布学園(算数)

 算数一科目入試の最終題は、例年教科横断型で出されている。今回は理科との融合で、円周率を3と簡素化することで、計算力よりも思考力・表現力を試すもの。同校の特色である教科横断型授業は、入試から始まっている。

雙葉、慶應普通部、駒場東邦、栄東、女子学院など多数(国語)

 図や表が組み込まれた出典・解答形式が、多数の難関校の出題で見られた。

慶應湘南藤沢(国語)

 「甘いものは体に悪いので課税をするべき」という意見に反論させる出題があった。昨年度は、ソフトボールの監督だったら選手にどういう言葉をかけるかという出題があり、自分の考えを書く力が求められている。

田園調布学園(国語)・清泉女学院(AP)

 立場や意見の違いを考えさせる出題が見られた。

日本女子大(社会)

 20年以上前の求人広告を示し、この後の法整備(男女雇用機会均等法の改正)による求人方法の変化について、知識を実例に反映させる出題があった。

高輪(社会)

 八丈島行きの大型客船と航空機、島内の循環バスの時刻表から交通手段を考えさせる出題があった。時間のかかる船は、東京を夜に出れば翌朝に着くという、大人にとっては当たり前のような思考ができるかどうかが見られている。

吉祥女子(社会)

 「国会議員と歳費、旅費および手当等に関する法律」の改正前後を比較させる出題があった。共通テストでは出るとされながらまだ出題例のない「実用的な文章」が、中学入試ではすでに多くの学校で出題されている。

東邦東邦・開智(社会)

 本格的な「時刻表」の読み取りの出題があった。

開智(社会)

 水戸黄門の「正しさ」は、現在の日本の司法制度と比べるとの危険性があることを考察する出題があった。

香蘭女学校(社会)

 テレビとタブレットをケーブルでつないだときに画面に映らない場合、故障・不具合はどこにあるかを見抜くというデジタルツールの使い方に関する出題があった。

浦和実業(適性検査)

 「品字様(ひんじよう)」の創作漢字をつくり、読みと成り立ちを説明する「字」そのものを意識させる出題があった。

聖光学院(理科)

 太陽の動きと時刻についての出題のなかで、古典落語のひとつである「時そば」について考察させる出題があった。「不定時法」が使われていた江戸時代の、ある客とそば屋の主人のやりとりを滑稽に表現した演目で、国語(古典)と理科という科目横断型ともいえる特色ある出題だった。


 小学6年生が挑む内容なのかと驚く、高度な思考力を試すような問題も続出する中学入試問題。首都圏の中学入試過去問の2023年度版は声の教育社より2023年3月末より発売予定。2022年度以前の入試過去問題集も発売中だ。気になる学校が見つかったら、その学校がどのような生徒を待ち望んでいるのか、わが子に合う学校かどうかを、出題から感じ取ってみてはいかがだろうか。  

《編集部》

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