通知表はどう見る?夏休みこそチャンス、学ぶ力の育み方

 1か月以上ある夏休みの期間こそ「子供の学ぶ力」の土台を整えるチャンス。具体的に何をすれば良いのかと悩む保護者に向けて、リセマム編集長 加藤紀子のベストセラー『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)より、子供を伸ばす夏休みの過ごし方を編集部が厳選して紹介。

教育・受験 小学生
旅行の計画は、子供の興味に沿って、自分から進んで関われるテーマで行程を考えることがポイント
  • 旅行の計画は、子供の興味に沿って、自分から進んで関われるテーマで行程を考えることがポイント
  • 通知表の結果が良くても悪くても、「1学期、よく頑張ったね」と、その子なりに精一杯過ごしたことをねぎらう
  • その子に合ったスタイルを見つけ、学習習慣を身に付けることは、親が子供にしてあげられる最大のギフト
  • お手伝いは子供にとって「誰かの役に立つ」ことのできる貴重な機会
  • 「計画を立てる」力は、一生を通じて学び続けられる姿勢が身に付き、生涯の財産となる
  • リセマム編集長に就任した教育ジャーナリスト・加藤紀子

 新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが5類に引き下げられ、生活は従来の形に戻りつつある。2023年の夏休みは、久しぶりに遠出を検討するご家庭もあるのではないだろうか。普段は学校に習い事、塾…と忙しい子供たちも、夏休みとなると少し時間に余裕がある。1か月以上ある夏休みの期間こそ「子供の学ぶ力」の土台を整えるチャンスだ。しかし、具体的に何をすれば良いのかと悩む保護者も多いだろう。

 リセマム編集長に就任した教育ジャーナリスト・加藤紀子のベストセラー『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)より、子供を伸ばす夏休みの過ごし方を編集部が厳選して紹介する。

通知表より大事なこととは

 夏休み前の恒例と言えば「通知表」。2020年に学習指導要領が改訂され、通知表の評価基準が変わり、保護者世代が小学生だった時代と比べると「たいへん良い」に該当する最高評価は取りづらくなっている。それを知らずに我が子の通知表を見ると、「もう少しがんばろうか」などと言いたくなってしまうかもしれない。

 しかし、通知表はあくまでも“人が人を評価する”もの。先生も心を砕いて成績をつけてくれているものの、公平に評価するのは容易ではないだろう。ましてや評価基準は変わったばかり。今は評価が厳しくなっているということを頭の片隅に置きつつ、通知表の結果が良くても悪くても、「1学期、よく頑張ったね」と、その子なりに精一杯過ごしたことをねぎらうような声掛けをすると良い。結果ではなく、プロセスに注目する。そんな声掛けが、子供の自己肯定感を育むのだ。

通知表の結果が良くても悪くても、「1学期、よく頑張ったね」と、その子なりに精一杯過ごしたことをねぎらう

 塾や模試の成績表も、特に低学年のうちは結果を気にしないこと。どの分野が得意で、どの分野が苦手なのかを親が参考程度に把握するためのもので、子供を評価する手段にしないことが大切だ。成績がふるわないからといって「勉強しなさい」と叱ってしまうと、子供は先生や親から叱られたくないという外発的な動機で勉強するようになり、子供が本来もっている「もっと知りたい」「学ぶことは楽しい」という気持ちは遠のく一方になってしまう。それよりも、「どんなことをやっているの?」などと声を掛けながら、勉強しようとしている子供を横で見守り、苦手そうなところは「パパ(ママ)教えて」といった姿勢で、一緒に向き合ってあげてほしい。

 もちろん、成績が良いときには褒めてあげてほしい。しかし、褒めるときに何を褒めるのかは注意が必要だ。子供というのは、成績だけをほめられると、かえって学ぼうとする意欲が削がれるもの。東京大学高大連携推進部門の心理学者である白水始教授が言うように、「(点数などの)結果だけに注目するのではなく、取り組んでいる中身や、子供の取り組み方そのものに気を配ってあげること」が大切なのだ。

夏こそチャンス!自分で勉強できる子になるための基礎習慣をつけよう

 「親に言われずとも、自分から勉強できる子になってほしい」。そう願う保護者の方は多いだろう。しかし、多くのお子さんは急に自ら進んで勉強することはない。だからこそ「習慣づけ」がとても大切となる。

 実は、中高生になって勉強につまずくお子さんは、学習習慣が身に付くいていないケースが多いと言われている。小学校のころから、歯磨きや入浴と同じように、勉強を毎日の習慣に組み込むことができれば、それは大きな強みとなるのだ。最初は5分、10分で大丈夫。小学校入学後からそうやって少しずつ習慣化できれば、成長とともに自走して勉強できるようになるのだ。

 ただし、勉強の習慣化は、比較的スムーズに実現できる子と、そうでない子に分かれる。親は、手がかからずに勉強するお子さんと我が子を比べてしまうため、「うちの子は勉強が苦手」などとラベルを貼ってしまいがちなのだが、それは早計といえる。もしかしたら原因は、その子にとって「机に向かう」という学習スタイルが向いていないからかもしれない。

その子に合ったスタイルを見つけ、学習習慣を身に付けることは、親が子供にしてあげられる最大のギフト

 たとえば歌や音楽が好きな子は、音読したりリズムをつけたりしながら声に出すことで学習がうまくはこぶ場合がある。運動が好きな子は、椅子をバランスボールにするなど、体を動かしながら勉強するとはかどる。人と関わるのが好きな子は、誰かと一緒に作業したほうが頭に入りやすいため、隣に座って一緒に取り組んであげると学習が進むのだ。

 また、勉強はスタイルだけでなく、タイミングも重要だ。「勉強が終わってから、好きなことをやる」という順番が理想的と思われがちだがが、これも子供によって集中できるタイミングは異なり、一概に「先に勉強」が良いとはいえない。思い切り好きなことをして、満たされた後だと集中できるタイプの子も意外と多く、そのような場合は学校から帰宅したら先に自由時間、勉強は翌朝早く起きてやるという順番のほうがはかどるかもしれない。

 我が子がスムーズに学習に取り組めるスタイルがわかれば、潜在的にもっている力を大きく引き出してあげることができるだろう。「どうも勉強に集中できていない」と感じる場合には、このように視点を変え、今までとは違ったスタイルを試してみてはいかがだろうか。夏休みは、比較的子供に時間の余裕がある分、試行錯誤にぴったりの期間といえる。

 兄弟でも、合う学習スタイルが同じとは限らない。学習内容については、塾の先生などプロに任せることができるが、その子に合ったスタイルを見つけ、学習習慣を身に付けることは、親が子供にしてあげられる最大のギフトだといえるのではないだろうか。

夏休みの宿題は計画を立てる練習にぴったり

 自学できるようになるためのステップとして、最初にするべきは勉強習慣の定着と、子供に合った学習スタイルの確立だ。これらをベースに、さらに「計画を立てる」ことができるようになれば、一生を通じて学び続けられる姿勢が身に付き、その子にとっての生涯の財産となるだろう。

 ベネッセ教育研究所の「小中学生の学びに関する実態調査(2014)」の結果では、計画を立てて勉強する人には、そうでない人に比べると成績上位者が多いことがわかっている。「成長すれば誰でも計画を立てられるようになるだろう」と考える人もいるかもしれないが、この調査では小学4年生で約半分、中学生になっても4割の子供たちが計画を立てずに勉強しているという実態が浮き彫りになっている。計画を立てる練習は、夏休みが最適だ。1日をどう過ごすのか、学校から出る夏休みの宿題のスケジュールを親子で考えてみてほしい。ただし、子供が1人で実行可能な計画を立てることはまだ難しく、親の手助けは不可欠。けれどその際、すべてを親が決めてしまうのは子供のやる気を奪うことになり、勉強嫌いに拍車がかかってしまいかねない。

 大事なポイントは、子供に主導権を握らせて、自分で計画を立てたと思えるように演出することだ。子供の立てた予定が無理そうだとわかれば、「言うとおりにしなさい」という一方的な”You”メッセージではなく、「パパ(ママ)は~と思うけど、XXちゃんはどうかな?」といった”I”メッセージで問いかけながら、本人にできるかどうか考え直すことを促し、実行可能な計画になるよう助言してあげるとよいだろう。

「計画を立てる」力は、一生を通じて学び続けられる姿勢が身に付き、生涯の財産となる

 実行可能な計画にするコツは、まずは親が夏休みの宿題の総量を把握したうえで、大まかなスケジュールを想定すること。そのうえで、子供と一緒に計画を考える際、「スモールステップ」と「具体的な内容」に落とし込むことだ。たとえば「算数の宿題をする」というざっくりした予定の入れ方では、その日に何をどこまでやるのかが決められていないため、子供が学習に取り組みづらくなる。そうならないよう「7月28日は計算ドリルの1ページから3ページまで」といった具体的な内容にし、実行可能なスモールステップにして計画を立てるようにしてほしい。

 成功の秘訣は、子供の達成感。日々を振り返り、「予定どおりにできた」という小さな成功体験を積み重ねて、「自分はできる」という自信をもてるようにすることだ。自転車の補助輪を外すとき、少しずつ手を離していく感覚と同じ。最初は手を貸しつつ、徐々に子供に任せながら、親はあくまでも後ろから見守ってあげると良いといえる。

夏休みは「お手伝い」と「旅行」で子供の学ぶ力が伸びる

 習い事の塾に宿題……。学校がある日は忙しい子供たちも、夏休みは少し時間に余裕があるのでは。そんなときに始めてほしいのが「お手伝い」だ。子供の担当するお手伝いが決まっていない場合は、ぜひ夏の間に家族の一員として家事を任せてみてほしい。

 内閣府による『子供・若者白書』(令和元年版)の中で「日本の若者の自己肯定感の低さには、自分が役に立たないと感じる自己有用感の低さが関わっている」という分析結果が出ている。今の子供たちには「誰かの役に立つ」機会が少ないのかもしれない。共働き家庭が増え、親に余裕がない現代においては、子供に手伝わせるよりも自分でやったほうが早いと考えるのもやむをえないだろう。しかし、お手伝いは子供にとって「誰かの役に立つ」ことのできる貴重な機会。子供の自己肯定感を育むためと考えて、思い切って家事を子供に頼ってみてほしい。

お手伝いは子供にとって「誰かの役に立つ」ことのできる貴重な機会

 日々の家事の中で子供にできることは意外とたくさんある。たとえば、洗濯カゴのなかの下着や靴下をひっくり返したり、玄関で靴を揃えたり、カーテンの開け閉めをしたり。「名もなき家事」とよばれていることは子供のお手伝いにぴったり。どんな家事を任せるか、子供に希望を聞いてみてるとよいだろう。

 また、夏休みを利用して家族で旅行に行くこともお勧めだ。ご当地のおいしいものを食べたり、公共交通機関に乗ったり、訪問先で出会った人とお喋りしてみたりと、旅行は普段出会えない人や自然、歴史、文化などに触れる「越境」体験ができるところが大きな魅力といえる。「非日常」を体験することは、子供の視野を大きく広げる機会となるだろう。

 せっかくなので、旅行を計画するときは、ぜひお子さんと一緒に「どこに行こうか」「何をしようか」と考えてみてほしい。お城を見る、ローカル線に乗る、牧場で乳搾りをするなど、子供の興味に沿って、自分から進んで関われるテーマで行程を考えることがポイント。出かける先の地図やガイドブックを広げ、どんな旅行にしたいのかを話し合うのはとても楽しい親子の時間となるだろう。小学校高学年のお子さんであれば、丸1日分の計画を任せてみるのも手だ。観光スポットを調べたり、その移動方法や時間、予算を計算したりすることはまさに探究学習そのもの。家族みんなが関わって実現した旅行は、思い出に残るかけがえのない経験になるだろう。

旅行の計画は、子供の興味に沿って、自分から進んで関われるテーマで行程を考えることがポイント

 1か月以上ある夏休み。いつもは「時間がない」と諦めていることにも挑戦することで、充実した夏休みとなるだろう。


《田中真穂》

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