デジタル教材普及計画と提言書を発表…DiTT成果発表会

 デジタル教科書教材協議会は4月25日、2010年度の成果発表会を開催し、デジタル教科書教材の普及に向けた計画や普及促進に関する提言を発表した。

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開会の挨拶をする中村伊知哉氏
  • 開会の挨拶をする中村伊知哉氏
  • デジタル化3つの目標と達成年度前倒し
  • ビジョン達成に向けたDiTT今年度の取組み
  • 左から、石戸奈々子氏、中村伊知哉氏、黒須正明氏、末澤光一氏、田原総一朗氏
  • 左から、土谷健太郎氏、藤原和博氏、ミシュラ・マニッシュ氏、三宅なほみ氏
  • パネルディスカッションの第1問「目標年次は5年前倒しするか?」の問いに対して、○×の札を上げるパネリスト
 デジタル教科書教材協議会(DiTT:ディット)は4月25日、2010年度の成果発表会を開催し、デジタル教科書教材の普及に向けた計画「DiTTビジョン」、および普及促進に関する提言「第一次提言書」を発表。発表会の様子は、ニコニコ生放送で配信された。

 DiTT(会長:小宮山氏宏 三菱総合研究所理事長/元東京大学総長、事務局長:中村伊知哉氏 慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授)は、すべての小中学生がデジタル教科書教材を持つ環境の実現に向け、2010年7月に設立された民間組織。教材メーカーを始め、出版社、放送局、ゲーム会社、端末メーカー、広告会社、シンクタンク等、115社(2010年3月末現在)が参加し、官庁や学校、有識者らと連携しながら活動を展開している。

◆2011年度は実験や検証に注力

 成果発表会ではまず、中村氏から開会の挨拶が行われた。2010年度の活動について、「教育の情報化という共通の目標のもと、コミュニティの形成を最重点とし、力強い歩み出しができた」と評価し、2011年度は実験や検証に力を入れていきたいと語った。また東関東大震災や原発事故についても触れ、63万冊の教科書や公務資料が流されたこと、避難場所の学校が情報拠点となっていること、ネットワークやソーシャルサービスの活用、流言蜚語等、様々な課題が浮かび上がったことを背景に、安全で安心できる社会を構築するために、DiTTがいよいよ活動を本格化していく必要があるとした。

 次にDiTT事務局次長の石戸奈々子氏(NPO法人CANVAS副理事長)より、2010年度の活動報告があった。活動のスタートは「未来モデル委員会」と「普及啓発委員会」の2つの委員会制度であったが、話し合うべき項目が多岐にわたることに対応して、6つのワーキンググループを加え、計8つのグループで計66回の討議を行ったこと、また、Webサイトやメールマガジンによる広報活動のほか、子供たちが集まるイベントにも積極的に参加し、「宙博2010」や「ワークショップコレクション」等を通じて延べ9万4千人の子供にアプローチしたこと等が報告された。

◆「創造・共有・効率」を整備

 続いて中村氏より「DiTTビジョン」が発表された。これは、昨年12月に発表した「DiTTアクションプラン」を基にまとめられたもので、まず「新たな学力に日本は対応できていない」「日本の国際競争力が低迷している」「日本の子どもたちの学習環境は恵まれていない」という現状を指摘。そして、これからの子どもたちに求められる能力について、実践例を紹介しながら提示したうえで、デジタル教育の3つのメリット「創造・共有・効率」を整備し、これからあるべき学びの環境を解説している。

 DiTTがデジタル化に向けて目標としているのは、「全教科のデジタル教科書教材開発」(コンテンツ)、「教室内の無線LAN整備率100%」(ネットワーク)、「全小中学生に情報端末を配布」(デバイス)の3つで、目標年は政府目標の2020年よりも5年早い2015年。DiTTとして、政府の方向性には全面的に賛同しつつも、環境面での普及を早めたい考えを明確にした。

◆政策提言・普及啓発・広報

 さらに今年度のDiTTの活動重点目標は、政策提言・普及啓発・広報の3つ。今年度のワーキンググループを、コンテンツ・ソフトWG、教育クラウドWG、21世紀型授業WG、アクセシビリティWG、広報WGの5つに設定し、全国の学校と提携しつつ、未来モデルを開発する授業プロジェクトを推進していくという。

 成果発表会の前半の締めくくりは、参加企業・団体を代表して、DiTT委員会リーダー会員の遠井和彦氏(東芝情報機器 PC事業部公共営業部長)より、「第一次提言書」が発表された。これは、各ワーキンググループからのアウトプットを基に策定された118ページの文書で、最終章には政策提言として、「目標の前倒し」「官民共同実証実験の拡大」「教育クラウドの早期導入」「教育情報化臨時措置法の制定」「政府予算の大幅増額」等の8つが示されている。なお、今年度のWGの活動を基に、今年度末には「第二次提言」が策定される。

 成果発表会の後半では、文部科学省、総務省それぞれの基調講演、有識者によるパネルディスカッションが行われた。

 文科省の齋藤晴加氏(同省生涯学習政策局参事官)からは、文科省がまもなく発表する「教育の情報化ビジョン」の内容や、今年度に実施される「学びのイノベーション事業」についての紹介があり、また総務省の安間敏雄氏(同省情報通信利用促進課課長)からは、昨年度から実施されているフューチャースクールの報告、および実証研究を踏まえて策定されたガイドラインについての紹介があった。

◆デジタル教科書 本音トーク

 そして最後に行われた、有識者7人による「デジタル教科書 本音トーク」と題したパネルディスカッションには、黒須正明氏(DiTTアドバイザー/放送大学教授/総合研究大学院大学 教授)、末澤光一氏(DiTT理事/DiTT委員会リーダー会員/東芝情報機器代表取締役社長)、田原総一朗氏(DiTTアドバイザー/ジャーナリスト)、土谷健太郎氏(DiTT理事/DiTT委員会リーダー会員/ピアソン桐原事業企画本部本部長)、藤原和博氏(DiTT副会長/東京学芸大学客員教授)、ミシュラ・マニッシュ氏(DiTT理事/DiTT委員会リーダー会員/日本マイクロソフト パブリックセンター・業務執行役員・文教ソリューション本部長)、三宅なほみ氏(DiTTアドバイザー/東京大学大学発教育支援コンソーシアム推進機構副機構長)が登壇。

 中村伊知哉氏(DiTT副会長・事務局長/慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授)と石戸奈々子氏(DiTT事務局次長/NPO法人CANVAS副理事長)進行のもと、DiTT事務局が用意した5つの問いに、○×の札を上げて意見を述べていくという方法で進められた。「目標年次は前倒しするか?」「学力は向上するか?」「授業は画一的になるのか?」「紙の教科書はなくなるのか?」「コストは税金でまかなうのか?」といった問いから、議論は様々に発展し、「デバイスのインターフェースは手書きなのか、キーボードなのか」「なぜiPadはそれほど売れてないのか」「何よりもまず教師像のプランニングだ」「コンテンツは民間主導で開発すべきた」等々、1時間強にわたり議論は白熱した。

◆DiTTビジョン・第一次提言書をWeb公開

 来場者の中には、耳が痛くなる話もあったようだが、様々な課題があぶりだされたこの成果発表会の情報を持ち帰って、それぞれがどのように教育のデジタル化に取り組んでいくのか。また、DiTTがどのように推進していくのか。今年度の活動が大いに注目される。なお、DiTTビジョンおよび第一次提言書は、DiTTのWebサイトからダウンロードして閲覧できる。
《柏木由美子》

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