今秋のiOS 6はクルマとスマホにとって重要…神尾寿 アップルWWDCレポ

 アップルWWDC 2012において、新世代の「MacBook Pro」、「OS X Mountain Lion」、「iOS 6」の3つが新たに発表された。その中でも今回は、特に自動車業界との関わりも深いiOS 6について、現地からレポートしたい。

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アップルの開発者向けイベントWWDC 2012(Apple World Wide Developpers Conference 2012)の基調講演、iOS 6のプレゼンテーションの様子。
  • アップルの開発者向けイベントWWDC 2012(Apple World Wide Developpers Conference 2012)の基調講演、iOS 6のプレゼンテーションの様子。
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  • Eyes Freeとは、画面表示・画面操作なしでSiriを利用可能にするモードである
  • アップルの開発者向けイベントWWDC 2012(Apple World Wide Developpers Conference 2012)の基調講演、iOS 6のプレゼンテーションの様子。
  • WWDC 2012で発表されたのは、BMWやGM、メルセデスベンツ、ランドローバー、ジャガー、アウディ、トヨタ、クライスラー、ホンダの9社。Microsoftと『Sync』など音声認識サービスを展開しているフォードやフィアット、ヒュンダイは今回のリストにはなかった。そういえば日産、マツダ、三菱、スバルなど日本のブランド、VWのロゴもない。
6月11日(現地時間)、アメリカ・サンフランシスコのモスコーンセンターにおいて、アップルが「Apple World Wide Developpers Conference 2012」(WWDC 2012)を開催した。同イベントはアップルのiPhone / iPad向けOSである「iOS」と、Mac用OSの「OS Xの」ソフトウェア開発者を主な対象にしたもの。世界中から"アップル関連の開発者・パートナー企業"が集まることもあり、例年、新たな製品やOSが発表される場にもなっている。

このWWDC 2012において、新世代の「MacBook Pro」、「OS X Mountain Lion」、「iOS 6」の3つが新たに発表された。その中でも今回は、特に自動車業界との関わりも深いiOS 6について、現地からレポートしたい。


◆Androidを圧倒する「iOSのエコシステム」


WWDC 2012のキーノートは、アップルCEOのティム・クック氏を筆頭に、ワールドワイドマーケティング シニア・バイス・プレジデントのフィル・シラー氏、OS X ソフトウェア担当 バイス・プレジデントのクレイグ・フェデリギ氏、iOSソフトウェア担当バイス・プレジデントのスコット・フォーストール氏など上級幹部が次々と登壇するオールスターキャストであった。

その中でも、iOS 6を担当したのは、スコット・フォーストール氏である。同氏はまず、iOSを取りまくビジネス環境、いわゆる「エコシステム (経済的な生態系)」の現況について語った。

それによると、iOS端末の販売台数は3億6500万台。さらにそのうちの大半が最新のiOS 5を利用しており、それが「(最新版の)Android 4.0をインストールしている端末はごくわずか」(フォーストール氏)なAndroidプラットフォームに対する強みであるとした。Androidはメーカー / 端末ごとに仕様がバラバラであるだけでなく、OSバージョンの点でも深刻な分断(フラグメンテーション)状態となっているのである。

この"OSプラットフォームの単一性"はiOSにおける最大の武器になっている。例えば自動車メーカーが、Androidスマートフォンと連携しようとすると、メーカーごと・モデルごとに違う仕様や、OSバージョンの違いにあわせて開発・検証する必要がある。しかしアップルのiOSならば、ハードウェアの仕様はアップルによって絞り込まれており、iOSのバージョンも均一性がほぼ担保されている。さらにハードウェアとソフトウェアにおいて国・地域ごとの差異がないため、iPhone / iPad対応は"グローバルで統一的に行える"のだ。これがグローバル調達・開発が基本の自動車業界にとって、iOSが組みやすいOSプラットフォームであるゆえんだ。


◆コンシェルジュ型音声UI『Siri』との連携に自動車メーカーが参加


では、今回発表された「iOS 6」について具体的に見てみよう。

自動車業界の視座で見たとき、今回もっとも注目なのが「Siri」の高度化だろう。

周知のとおりSiriはコンシェルジュ型の音声UIとして開発されたもので、"自然言語で会話するように利用できる"ことが特長である。iOS 6ではこのSiriがさらに強化され、検索可能なコンテンツ領域型が拡大。最新のスポーツスコアの検索からレストランの予約まで、今まで以上にコンシェルジュ的な機能・サービスが内包されることになった。また、iOS 6ではiPhone 4Sに加えて新しいiPad(3世代目)でも利用可能になる。

しかし、今回のSiriで注目なのはそこではない。重要なのは、新たに実装される「Eyes Free」の部分だ。

Eyes Freeとは何か。これは端的にいえば、画面表示・画面操作なしでSiriを利用可能にするモードである。すでにSiriを使ったことのある人ならばわかると思うが、現在のSiriは高度な音声認識機能と会話型UIを実現しているが、補完的に画面の確認や操作が必要だ。Eyes Freeのモードではそれがなくなり、完全に"音声だけで操作できる"ようになる。

むろん、これは「クルマの運転中にSiriを使う」という利用シーンを想定しての新機能である。しかもアップルは、Eyes Freeの実装において自動車メーカーとの協業も行う。

WWDC 2012で発表されたのは、BMWやメルセデスベンツ、アウディ、GM、ランドローバーなど9社。この中には日本の自動車メーカーとして、トヨタとホンダも入っている。これらEyes Freeに対応する自動車メーカーでは、ハンドルの音声操作ボタンでEyes Freeを呼び出す連携機能を開発。今後12ヶ月以内に順次商用化していくという。

ここで少し蛇足になるが、筆者は「クルマの運転とSiriの相性のよさ」は常々感じており、実は現在のiOS 5でも市販のハンズフリーキットと組み合わせて運転中に使っていた。といっても、Eyes Freeが実装されていない現時点で画面操作を伴うような操作は安全運転上利用できず、もっぱら簡単なiMessageの作成・送信やカレンダー、リマインダーの確認といった用途でしか使っていないが、それでもSiriが運転中にとても便利な機能であることを実感している。Siriはアップルが独自開発した専用CPUに音声ノイズを除去する技術を実装しており、これが奏功してロードノイズがある運転中でも、高精度な音声認識・操作ができるのだ。その精度・認識率は、"走行中でもテキストメッセージの音声入力ができるほど"と言えば、すごさがわかるだろうか。

今回、Eyes Freeでアップルが自動車メーカーと提携し、「安全運転を阻害しない形で、Siriがきちんと連携する」ことは、新たな"クルマとスマートフォンの関係"を作る上で大きな可能性を秘めている。現状はSiriを通じてiPhone上の各種機能を使う用途だが、将来的には自動車メーカーが用意するアプリなどを通じて、車載情報システムとの高度な連携をしていくことも考えられるからだ。往年のSFテレビドラマ「ナイトライダー」に出てくるK.I.T.T.のように、ドライバーと"会話をして運転をサポートする"機能やサービスが、Siri連携の先に考えられるのだ。


◆iOS『Maps』カーナビの完成度は高い


そして、もうひとつ。iOS 6で注目なのが、地図機能の「Maps」の刷新だろう。

もともとiPhoneの地図機能は、GoogleのGoogle Mapsをもとに作られたベーシックなものだった。それを今回、アップルは独自のものに刷新。野心的な新機能を多数実装してきた。

まず、基本的な部分としては、地図データがベクターベースのものになり、拡大縮小などの操作が滑らかになったことがあげられる。地図の表示もより細かくなり、iPhone / iPadの高精細ディスプレイ(Retinaディスプレイ)にあわせて見やすくなった。そして、地図上の情報の充実にも力が注がれている。前出のフォーストール氏によると、その総数は約1億件になり、これらはSiriとも連携するという。加えて、Mapsでは交通渋滞情報などリアルタイム性の高いコンテンツも入り、その情報量は従来のMapsを大きく上まわる。

地図そのものの表現力もあがった。新たなMapsでは建物が立体的に表示される3D表示に対応するほか、従来の衛星写真に加えて、ヘリコプターで街を周遊するような「Flyover」の表示もできるようになる。キーノートではこのデモンストレーションも行われたが、高密度にレンダリングされる街の風景はとても美しく、実用性を抜きにしても楽しめそうだ。

こうした地図の基礎部分をしっかり構築した上で、アップルが"キラーサービス"として繰り出すのがカーナビゲーション機能である。同社はこれを「Turn-by-Turn Navigation」と名付けた。

しかし、写真を見てもらえばわかるとおり、ターン・バイ・ターンとは名前だけだ。その画面には進行方向だけでなく道路地図も描かれており、実用上は"普通のカーナビ"と大差ない。さらにTurn-by-Turn Navigationの動作中はスリープ状態になって画面が消えることもない。

Turn-by-Turn Navigationのデモンストレーションを見たところ、その動きはとてもスムーズであり、高解像度のRetinaディスプレイを搭載したiPhoneでは地図画面や進行方向表示もとても見やすい。また先述のとおり操作は通常のタッチパネル操作に加えてSiriに対応しており、高精度な自然言語・音声認識による簡単な操作が可能。カーナビで使用する施設情報などの各種コンテンツは、クラウドサービスを通じて常に最新なものが利用されることになる。

アップルのTurn-by-Turn Navigationが、日本でどの程度の精度・情報量になるかは今のところ不分明だが、今回WWDC 2012で公開された北米版を見るかぎり、そのカーナビとしての機能は凡庸な専用カーナビなら蹴散らしてしまうものになりそうだ。とりわけUIやナビゲーション画面のなめらかな動き、クラウド連携を背景にした情報量の多さ、Siriの高精度音声認識には大きなインパクトを感じた。

オーディオ連携といったAVN的な要素ではなく、"使いやすくて、いつも欲しい情報があるカーナビ"を求めるユーザー層には、アップルのTurn-by-Turn Navigationはとても魅力的な選択肢になるはずだ。しかも、この機能はiOS 6の基本機能なので、カーナビとしての追加料金がかかるわけではなく無料なのである。通信機能もiPhone内蔵のものを使うので、追加料金がかかるわけではない。

まだ実際に試していない段階では断定的なことは言えないが、アップルのTurn-by-Turn Navigationがカーナビ市場に激震をもたらすのは間違いない。少なくとも今後のカーナビ市場では、"通信機能を持たず、クラウドサービス連携で最新の地図や各種コンテンツ提供をしていないカーナビ専用機"は、かなり苦しい立ち位置に追い込まれるだろう。いちはやく通信対応とクラウド連携による競争力作りをしなければ、淘汰されていくシナリオすら考えられる。


◆今秋のiOS 6はクルマとスマホにとって重要


今回は"クルマ連携"や"自動車ビジネス"と密接に関わる部分を特にフォーカスしたが、今回発表されたiOS 6では、ほかにもFacebook機能の内蔵や電話・メール機能の刷新、ブラウザアプリ「Safari」の機能強化など、大小200もの新機能・機能強化がほどこれている。これらにより噂されているiPhoneの新機種はもとより、現行モデルでもAndroidに大きく差を付ける進化をすることは間違いない。iOS 6の登場予定は今秋だが、それは「クルマとスマートフォンとの連携」にとっても重要なイベントになるだろう。

また、アップルがiOSと、それを搭載するiPhoneを通じて、「クルマ連携」という形で今後も距離を縮めてくることは確実だろう。自動車メーカー各社もアップルとの関係構築には前向きであり、特にプレミアムブランドを中心に"iPhone対応"が広がりそうだ。クルマ好き、そして自動車業界関係者にとって、アップルはますます「気になる存在」になっていきそうだ。

【神尾寿 アップルWWDCレポ】カーナビ市場に激震をもたらす…iOS 6『Maps』+『Siri』

《神尾寿@レスポンス》

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